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メダル女王の殺意⑴

【登場人物】


シュピー……探偵系冒険者、主人公

キアラ……メダル女王、被害者

イメル……バッジ女王、キアラとは犬猿の仲

スライムA……メダル女王の家来、ただのスライム

スライムB……メダル女王の家来、ただのスライム

スライムC……メダル女王の家来、ただのスライム



……




【事件の第一報】


 20××年8月25日、小さなメダルを集めることに人生を懸けていた別名「メダル女王」ことキアラが何者かに殺された。


 場所は、キアラが居住していたメダル城の地下室。

 そこは宝物庫となっており、キアラが命よりも大切にしていた小さなメダル数千枚が、木箱に入った状態で保管されていた。


 第一発見者は、スライムA。

 メダル城にて起臥する彼は、地下室に行ったまま数時間戻らなかったキアラを心配し、地下室へと向かったところ、刃物で胸など数カ所を刺されて倒れているキアラを発見。


 彼女はすでに息絶えていた。



 そして、地下室では、保管されていたはずの小さなメダルが、丸ごと箱ごとなくなっていた。

 キアラを殺した犯人が盗んだに違いなかった。




 誰がキアラを殺したのか、というのは大きな謎である。



 しかし、この事件における最大の謎はそこではない。



 犯人はなぜ小さなメダルを盗んだのか、である。



 小さなメダルは、一体それが何のために存在し、何の役に立つのか分からないものである。

 端的に言うと、ガラクタだ。

 小さなメダルを欲しがる者など、(殺されたキアラを除き、)この世界には誰もいない。



 では、一体なぜ犯人は、キアラを殺してまで、そして、なぜ重たい箱を担いでまで小さなメダルを盗んだのだろうか。



 考えれば考えるほど、謎が深まる難事件である。




……




【本編】


 一通りの捜査を終えたシュピーは、事件関係者を一箇所に集め、「例のアレ」を始めることにした。


 シュピーが声を掛けた事件関係者は、スライムA、スライムB、スライムC、そして、「バッジ女王」ことイメルである。


 事件現場は、孤島に聳えるメダル城である。

 「例のアレ」を行う場所としては、メダル城が鉄板である。

 しかし、シュピーが事件関係者を集めた場所は、バッジ城だった。


 バッジ城は、メダル城があるのとは別の孤島に存在する。

 事件関係者のうちの4分の3のホームはメダル城であることを考えても、シュピーがバッジ城を集合場所に選んだのは異例である。


 その判断の裏側には、女王様であるイメルにご足労はかけられないという配慮のほかに、シュピーの()()()()があった。



 バッジ城の謁見室に集められた4人(なお、スライムは「人」ではないが、本作では「人」という表現を使う。便宜上の表現なので、何かトリックと関係があるのではないかと怪しまないように)は、みな不満げだった。


 それをもっとも露骨に態度に示していたのは、イメルだった。



「探偵さん、これはどういうおつもりでしょうか?」


「どういうつもりと言いますと?」


「どうしてメダル城のスライム達をここにお呼びになられたのかしら?」


 あまりにも愚問である。


 シュピーは呆れて物も言えなくなる一歩手前だったが、仕方なく説明をすることにした。



「僕は探偵系冒険者です。探偵が事件関係者を一堂に集めてすることなんて『例のアレ』くらいしかありませんよ」


「……『例のアレ』とおっしゃりますと?」


 イメルはそのようなことすら知らないのか。

 温室育ちの常識知らずにも程がある。


 野暮なことは説明したくないので、是非とも「ワトスン役」に説明を頼みたいところだったが、あいにくシュピーは一匹狼である。


 渋々話してあげることとする。



「『例のアレ』とは、推理の披露のことです。僕がみなさんの前でズバリ犯人が誰かを指摘するんです」


 猿でも分かる説明をしたつもりだったが、イメルは腑に落ちないという顔をする。



「犯人とおっしゃられているのは、キアラを殺した犯人ということですよね?」


「ええ。もちろんです」


「それならば、どうして私がいる必要があるのでしょうか?」


「事件の関係者だからです」


「……何をおっしゃられているのか分かりません」


 それはこちらの台詞である。



「イメルさん、あなたは間違いなくこの事件の関係者です」


「どうしてでしょうか? メダル城でキアラが殺された時、私はバッジ城におりました。メダル城とバッジ城との間を移動するには、船で半日ほどかかります。私に犯行は不可能です」


「あなたが犯人だなんて、まだ誰も言っていませんが?」


「……そうですか。では、探偵さんは、私が何だと疑っているのでしょうか?」


「ですから、事件関係者です。疑っているとかそういう問題ではありません。イメルさんは一般教養として推理小説を読んだことはありませんか? 事件関係者は、犯人であることもあれば、全然無関係な人であることもあります。要するに、探偵の推理を最後まで聞かないと分からないんです」


 シュピーはさっさと本題の推理に入りたかったのだが、イメルはまだ噛み付いてきた。



「だとしたら、私に関しては、探偵さんの推理を聞くまでもありませんわ。だって、私は明らかに無関係ですもの。被害者のキアラとは赤の他人です。事件に関わりようがありません」


「僕はそうは思いませんね。イメルさん、今回の事件でもっとも大切なのは『動機』です。犯人はなぜキアラさんを殺害し、なぜ小さなメダルを盗んだのか。つまり、ワイダニットこそが本件の核心なのです。この点、あなたにはキアラさんを殺す動機があります」


「動機? 一体何かしら?」


 まだとぼけるのか。



「イメルさん、キアラさんとあなたは犬猿の仲なんです。片や世界中に散らばっている『小さなメダル』を集めるメダル女王であり、片や世界中に散らばっている『大きなバッジ』を集めるバッジ女王。僕から言わせてもらえば2人とも変わった趣味のコレクターという同じ穴の狢なのですが、2人はずっと反駁し合っていました。互いに互いの集めているものを『ガラクタ』と罵り合い、互いに互いを『変態』と蔑み合っていたのです」


「だって悪趣味ではありませんか? 貨幣価値すらないただのメダルなんですよ? 探偵さん、あなたはそんなもの欲しいですか?」


「もちろん要りません。ただ、あなたの集めている『大きなバッジ』も同様に要りません」


「失敬な!! よく分からない陳腐なメダルと一緒にしないでください!! バッジというのは、一枚一枚デザインが違っていて、そこに職人の魂が込められているんです!! 抽象画のようなシンプルなデザインもあれば、細部まで丁寧に描かれた……」


「すみません。その辺りでストップしてください。ヲタクに熱く語られたところで、興味がないものには興味がないんです。別にあなたの趣味を否定するつもりはありませんが、それを僕に押し付けられても困ります」


 不服そうに頬を膨らますイメルを尻目に、「そんなことより」とシュピーは続ける。



「今この場で大切なのは、どんな理由があれ、イメルさんがキアラさんを嫌っていたということなんです。いや、正確に言うと、今回の推理において大切なのは、イメルさんとキアラさんが『同族嫌悪』をする背景にある『とある事実』です」


「とある事実、とおっしゃりますと?」


()()()()()()()という事実です。趣味や立場が、という意味ではありません。()が似ているんです」


「無礼者!! 何をおっしゃられるかと思いきや!!」


 イメルが声を荒らげる。



「イメルさん、別に、僕が主観的にそう思っている、というだけではありませんよ。市井の者は、2人が姉妹なのではないかと噂しています」


「馬鹿げた噂です。私とキアラは全く似ておりません」


「たしかにそっくりさんとまでは言えませんね。まずもって体型が全く違います。あなたはふくよかであるのに対して、キアラさんは細身です」


 目の前にいる女性は、小太りで、樽のような体型をしている。

 他方、キアラは、手足がポキッと折れてしまうのではないかと心配になるくらいに痩せていた。死体だけではなく、写真でも確認したので間違いない。



「一見して似ている、というわけでは決してありません。ただ、よくよく見ると、目元や鼻筋などが似ているのです。年齢も近いように見えますし、『姉妹』と言われればたしかにそんな気がします」


「馬鹿げたことを……」


 シュピーは別にここでイメルと言い争う気はなかった。


 水掛け論は探偵がもっとも嫌うところである。


 シュピーが最後まで推理を披露すればいいだけの話だ。


 そうすれば、何が真実なのかは自ずと全て明らかになるのである。



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