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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
9/35

S-5-1『↓』

午前3時


「ほれ引っ張れ!!」


「よおおおおっ!!」


深夜とも早朝とも取れぬ時間


クトゥルフ邸(別荘)裏の倉庫にて、ジェラルドは洋服タンスにロープを回して全体重をかけていた


ちなみに、本邸の命名は『ルルイエ』だった


ここは太平洋か


で、何をしているのかというと


「……ジェラルド、喜べ」


「ええ…!?」


「動けなくなった」


「喜べませんて!!!!」


そっとタンスから力を抜き、反対側へ


「うわ……」


家主が壁の間に挟まっていた


「だっ誰かー!!使用人さーーん!!」


「喜べ、そんなもの雇っていない」


「だっから喜べません!!!!」


どうやら目当てのものは掴んだようだ


身動き取れなくなったクトゥルフは、左手にくそ長い棒を持っていた


「できれば救出を急いで貰えるか?圧迫されてこのままだといらんエロが付属する」


「は…?……あ…話飛びますね!!」


「未成年の分際でその結論にたどり着くな!!」


器用に手首を回して、ジェラルドの顔面にその棒を突き刺す


「目がーーーッ!!!!!!」


「ほれこれが新しい相方だ。……そう言うな、腕は確かだ」


「ぐぇ…?何も言ってませんけど…?」


「気にするな」


それは銃だった


全長140センチ、アンチマテリアルの部類に入る大威力狙撃銃である


軽く眺めていると、トリガーの上あたりに『NEA』という刻印を発見


「ネア…?」


「おい、そろそろ本格的に救出を…」


「あ…あああ…」


騒いでいる場合ではない


少し考え、タンスの中身を出してから引きずる事にした


「へ…ああああ!!」


「む…?」


モノが洋服タンスなのを忘れていた


どう考えても使わないのを詰め込んであるのだろう


例えば、


「じ…自分には刺激が!!!!」


描写前にしまい直した


「じぃ…」


「はっ!」


気付けば、入口からエレンがその光景を覗いている


「軽食作ったけど食べる?」


「いや空気読んで!!結構シャレになってないから!!」



二人がかりで動かしました






-------------






「で?手に入ったのがそれと」


それから約2時間後、ジェラルド他2名は鉄の箱に詰め込まれ、前線へとかっ飛んでいた


「手に入ったというか押し付けられたというか…」


黒光りする物体の向こう側にいるであろうジェラルドが、アンチマテリアルライフルを握り直す


その黒い物体に邪魔されて、下半身しか見えなかったが


「作戦開始5分前ー!」


遠くの方で誰かが叫んだ


「よし、役割分担の確認をするぞ」


言いながら、シグルトが腰のベルトを締め直す


吹っ飛ばれてはたまらない


「フィリーネが先頭、俺はそれの援護で、目的は敵陣指揮所の制圧と」


わかりきっている事だからか、フィリーネは反応せず


本人は聞いていると言っているので、そのまま次へ


「ジェラルドは安全域から狙撃。いいな?」


「大丈夫です」


「3分前ー!」


さて、今のうちに腹をくくろう


ゆっくり深呼吸して、靴のかかとで床をゴンゴン叩く


「装備だけは落とすなよ」


「あー…ちょっと心配ですね」


「1分前ー!」


胸が苦しくなってきた


緊張しているのが自分でもわかる


適度の緊張ならよかったが、残念ながらそんなものはとうに振り切っていた


「さっきから口数少ないが、もしかして怖いのか?」


「…………」


ああ、駄目だ、フィリーネ嬢はガッチガチに固まっていらっしゃる


「10秒前!、9、8、7…」


「……シグ」


「ん?」


捻り出したらしい極小の声で、フィリーネは要求した


「先に到着して受け止めてくれるならお姫様抱っこを希望する」


「…いや……」


ヴィィィン、と、足元でモーターが駆動する


「3、2、1、投下!」




操縦士がレバーを思いっきり引っ張り


床が消失した




場所は、最前線の上空1000メートル


俗に言う空挺作戦、パラシュート降下だ




「無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!!!!!」


さっきまで乗っていた大型爆撃機があっという間に小さくなっていく


少し遠くでは戦闘機同士による空戦が行われていて、どさくさに紛れて落とされた感じだ


「き∵〓∧(=ω=)※ぁ~~~ッ!!!!!!!!」


「パラシュート!!パラシュート開けっ!!」


対空砲はまだ沈黙してくれている


危険性を低くするならギリギリまで待った方がいいのだが、どうもそんな余裕はなさそうだ


フィリーネのパラシュートが開き、一気に速度差がついて離れていった


「それじゃ!!」


ジェラルドは意図的に離れていく


アンチマテリアルライフルの射程は1kmを越えるから、できるだけ離れておきたいのだろう


高度500メートル


胸の輪っかをを引っ張る


落下に急制動がかかった



目標の拠点までは2、3kmほど


さっきの爆撃機は、上空から爆弾をぶちまけていた



「よっ!」


着地


同時にパラシュートを切り離し、近くの茂みに隠れる


そのうち敵が群れてくるだろう


「で…だ」


うちのお嬢様はどこに落ちたやら















クトゥルフ邸


事務所的な部屋


「始まったな」


「そうですねー」


小型の時計を手の平で転がしながら、クトゥルフはエレンへ話しかけた


そのエレンは奥の給湯室で紅い液体をコポコポ言わせている


「しかしアレだな、始まった途端に私らが空気に成り果てるというのはどうにかならんのか」


「耐えねばならんのですよ」


ティーカップが運ばれてきた


赤く透明な中身は、どう見ても紅茶だろう


デスクに置かれたそれを、クトゥルフが持ち上げ口へ


「ふむ…」


「何だかわかります?」


軽く舌の上で転がす


一口で十分らしい、カップをデスクへ戻し


言った




「食紅だな」


「正解です」




エレンはカップを回収して再度給湯室へ


代わりにジュースでも持ってくるのだろう


「何の罰ゲームだこれは…」


割と本気で頭を抱えた















「…………」


「……何か言い訳は?」


フィリーネは宙にぶら下がっていた


パラシュートが木に引っ掛かってしまったらしい


高さ約5メートル


「普通でしょ、この高さは、確実に骨折れるじゃない」


「まあそうなんだがな…」


コンバットナイフを取り出し、上へ投げる


フィリーネが受け取った


「ほら、受け止めてやるから」


望み通りのお姫様抱っこで


真下で待機して両腕を広げる


「……」


が、宙ぶらりんしているフィリーネは、ケースから刃を出したものの、重力に抵抗しているロープを切ろうとはせず


「……1000メートルから落ちてきたばっかだろ」


「ばっ…怖い訳じゃないんだから!!勘違いしないでよね!!」


「ツンデレ発言ありがとうございます」


きっとわざとだ


現実逃避しても降りれはしないというのに


「仕方ないな」


「え……」


「これで…」


ヨグソトホートを構える


途端にコンバットナイフが仕事し始めた


大剣でぶった切られるよりかはマシと思ったのだろう


「うおっ待て待て!!」


剣を手放して受け止め体勢を整える


ぶちんという音がした


「親方ぁ!!空から女の子が!!」


「小ネタ挟んでんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「ぐぼげばっ!!!!」


せっかく受け止めてやろうとしたのに


脳天に拳が落ちてきた


「すい…ませんでした……」


「まったく……」


敵地で思いっきりハシャいでしまうとは


巡回の兵士がいたら人生が終わってしまう


「お……」


「あ゛……」


終わった


人数は1人、たいしたことはない


が、その手は既に無線機へ伸びていた


「えっ…Hきゅ…」


指揮所に通報、するつもりだろう


バッコーーン!!と盛大に音を立てて、無線機が砕け散らなければ


「HQ…」


理由


1km先からの狙撃


さっきまで無線機があった場所を、歩哨兵はまじまじと見つめ


「ヒィハァーーッ!!」


怖がってるのか喜んでるのかよくわからない叫び声をあげて逃げ出した


「……GJ」


1km彼方にいるであろうジェラルドへ呟いた















クトゥルフ邸事務所


「あ、お茶菓子いります?いいのが手に入ったんですよ」


「ほう?」


四角形の茶色い物体が、皿に盛られて運ばれてきた


グラニュー糖がちりばめられていたり、2色だったりと種類がある


「アルメリア製のが偶然買えまして、懐かしい味だと思うんですけど」


「ふむ…」


甘味は嫌いでない。というか、好きだ


クトゥルフはその一つを持ち上げ、そのまま口へ



ガツッ




「……アルメリア製の紙粘土か」


「はい!」




エレンが皿を回収する


本物のクッキーと交換するのだろう


「本当に何なんだこれは……」


かなり真剣に頭を抱えた















「右から2人!!突っ込んでくる!!」


ちょっとした紆余曲折の後、シグルトとフィリーネは攻撃目標の拠点まで到着した


セメントで手っ取り早く建築した、小さめの防御陣地である


こういうのは、頻繁に所有陣営が変わるものだ


実際、数週間前までクロスフロントが使っていた


「だぁちくしょう!!」


そこから出てきた敵兵二人を、アトラクナクアの光弾が薙ぎ倒す


「おい左からも来たぞ!!」


「自分でなんとかしろ!!」


「無理!!!!」


突っ込んでしまったため、四方八方から攻撃を受けている


防御陣地の入口まではあと50メートル


現在、爆撃によって生じた縦穴に隠れ、トーチカからのマシンガン乱射を受けながら、敵兵をじりじり削っていた


こういう場合、シグルトのような剣兵はてんで役に立たない


「ああもう!!」


光弾が2人を貫いた


あと2人


うち片方は、超遠距離から飛んできたエネルギー弾が吹っ飛ばす


吹っ飛ばす、というよりは、引きちぎるという感じだった


アンチマテリアルライフル、本来は人間を撃つためのものではない。故にパワーが高すぎる


「うへ……」


しかし気にかけている暇は無い


戦争とはそういうものだ


フィリーネが最後の1人を片付けている間に、腰から丸っこいボールを取り出す


小さい凹凸のついた手の平サイズのそれは、例えるならば『パイナップル』


とどがつまり、手榴弾だ


「せい!!」


殺さずに済むのなら、でき得る限りは手加減しよう


だがこれは無理である


マシンガンを乱射し続けるトーチカへそれは投げこまれ


ズドン!!という振動と共に、銃撃はぱたりと止んだ


「……お?」


途端に、草むらから数人、防御陣地へ向け飛び出していくのを見る


遊撃部隊サンセットグロウ所属の小隊だろう


制圧するのは早い者勝ち


「現金な奴ら……」









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