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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
7/35

S-4『休息時間』











かくして夜


「……」


シグルトは自室にて一人、ベランダへと繋がる扉を凝視していた


どこにでもあるような賃貸マンションに住んでいる以上、ベランダが他の場所と繋がっているのは仕方の無いことで


「さて……どう塞ぐか」


「ぐぉらぁっ!!!!」


「ひぃい!!!?」


ドバス!!と、幽霊女よろしく銀髪少女がガラスに張り付いた


「開けれ、今すぐ」


「わ…わかった…わかったから顔を押し付けるな、絵面的によろしくないから……」








---------------









「鍵かけるなんて無粋なマネを。窓から侵入してくるヒロインの素晴らしさがわからないの?」


「いやまぁそのヒロインが"お前以外"だったら喜んで開けっ放しにするんだがな」


防犯グッズを大量使用してついでにセコムしようとしてたのは内緒にしておく


「それで、今日は何しに?お嬢様」


「ん」


フィリーネは布製の袋を持ち上げる


中身は、恐らく食物



『夕飯作ってやる』ではない



『夕飯作らせろ』だ



最近になって料理を始めたらしいのだが、自室は半ゴミ屋敷と化していてシンクが埋没しているとのこと


それが嫌になって自炊の道を切り開こうと


それ自体は喜ばしいことなのだが、かといって部屋を掃除する気には繋がらないらしく



よって厳密には『台所を貸せ』



さらにそこには『実験台になれ』という意味を含んでいる



「ああ…そう…」


「安心なさい、今日こそは人間が食べれるものを」


「それ昨日も聞いたんだがな」


「…………」


睨まれた


「……料理本でも買ったらどうだ?」


「却下」


下手な創作料理を食わされる身にもなって欲しい


反論する時間も与えず、フィリーネは銀髪を一つにまとめて台所へ立った


「うわ似合わねえ…」


「あ゛あん!?」


「……ゴメンナサイ…」


包丁が飛んでくる前に部屋の隅で縮こまっとくことにする


「すっかりカカア天下だな。まあこうなる事は最初から予想していたが、……ああ、安心しろ、胃薬は買ってきた」


「そして、何故あんたがいる……」


気付けば、隣にクトゥルフがいた


「気にするな、序盤のキャラ付けというやつだ」


「左様で……」


フローリングにカーペットを敷いた床で、クトゥルフがニヤケ顔を貼付けながら体育座りしている


公称身長141センチ。精神年齢は相当高いが、その格好はやはり見た目相応というか



ぶっちゃけ、子供っぽいというか



「突き殺すぞファッキンクズ野郎」


「うぇ!?」


「ふはっ!」


そうして思考を読まれる


「それについては自覚しているが、何だ、お前にも直せない癖の百や二百はあろう?」


「そんなは無い……」


ポテトフライにケチャップ付けるとかお茶にはジュースとか、そういうのをすべて数えたらそんな数字になってしまったんだろう


この分では好き嫌いも多そうだ


「ちなみにだ、物心ついてから今日まで、抱き枕は手放した事が無い」


また知りたくも無かったことを


1年ほど前、アルメリアの片田舎で死にかけているのを拾われて以来、我が子同然の扱いをして貰っている訳だが


もしやどこかで別人と入れ代わっているのではないだろうか


大雨降りしきる廃墟の中、大剣と杭付き鎖を以って敵を圧倒した残虐な天使はいずこへ行かれ申されたのか


「また失礼な事を考えているな」


「…………(・ω・;)」


きっと超能力者だ、この嘲笑少女


「反抗期か?母は悲しいぞ」


「そんなもんとうの昔に捨て去ったよ母さん」


「……貞操もか?」


「帰れ」


そこまで話して、台所へ目を移す


仕事の相方フィリーネ嬢が、じゃがいもの芽と格闘なされていた


「…………」


「フィーたん萌え〜」


「あんたちょっとそこの窓から飛び降りろよ」


じゃがの芽は包丁の角を使い、くるっと回すようにえぐり取る


形はできていた


しかし、はたから見てる分には相当危なっかしい手つきな訳で


「あっ痛…!」


やはりやった


ぶっきらぼうなくせに、こういう"お約束"はきちんとこなす奴だ


「行け!あの白魚のような指を舐め回して吸ってこい!」


「黙っとれ!!」


シグルトは救急箱を持ち出す


30秒足らずの早業に、当のフィリーネは何か気に入らなかったらしく


「…………」


すげえ睨まれた


「いや…わかりきってたし…さ」


「うるさい」


やはり不機嫌


しかし絆創膏は素直に受け取る


「刃の先に左手は置かないようにな」


「うるさいうるさいうるさい!!」


色々とギリギリなセリフである







---------------








かくしてお嬢様特製スタンダードカレーは出来上がった



作り方

野菜と肉を切る

炒める

水をぶち込む

ルーをほうり込む

完成



ぶっきらぼうここに極まれり


アク?もちろん取ってないさ、それどころか水の計量すらしていない


「おー……」


もはや才能なのではないだろうか、カレーをここまでまずそうに作るとは


「あじ…いや毒味は…?」


「なんでわざわざ言い直すの」


ひょいと、肩越しにスプーンが伸びてきた


それはカレー(と思われるもの)を一口分すくい、そのままクトゥルフの口へ


「……」


明紫髪の少女は無言無表情のまま



早足で出口へ



「せめてなんか言えーーーッ!!!!」


「心配するな。少し、吐いてくるだけだ」


「心配するわ!!ダブルの意味で!!」


バタン、と、本当に出ていった


「…………」


そんな顔しないでくれお嬢様。こういう展開になったら、主人公たる自分は完食せねばならないのだ


「はぁ……」


溜息を吐き出し、(外見上は)カレーの後始末を始めるシグルトであった

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