S-3『好きな女性のタイプは何ですか』
「うぇっ?……まぁツンデレブームは過ぎ去ったし、情勢を考えると妹か幼なじみなんだろうけど、でも友達は『生意気なロリ』を推しているということなので……」
「くぉら」
「あだぁっ!!」
あるはずの無いカメラにむかって何やら呟いていた、『ジェラルド・フレフェルス』という名の少年は、後ろから蹴り倒された
「誰が好きな二次元属性を答えろと言った。しかも何だ?生意気ロリ?まんま私じゃないか」
「あだだだだだ!!生意気とドSは違いますって!!」
肩甲骨の下あたりに靴が食い込む
ライトパープルの髪を腰の下まで伸ばした、145センチ足らずの少女だった
顔には言うまでもなく嘲笑が張り付いている
「ん?こっちの方がいいか?」
「いやいやいやいやいや!!尻はまずい!!まずいって!!」
と
部屋に入ってきたフィリーネがまず見たのはそれだった
「ど…どうした?」
ぱたりと静かに扉を閉めたフィリーネに、シグルトが聞く
「個人の趣味って、それこそ人の数ほどある訳じゃない?」
「それは、そうだが……」
「その膨大な種類の中で、少数派が『普通じゃない』として虐げられていくのよ」
「あ…あの…?」
「そう、つまり偏見。それさえ無ければアレは『ただの趣味』であって嫌悪感を抱くのは場違いでありついては行動の自由を阻害するものであり…」
「もしもーし…?一体何を許容しようとしてるんだー?」
扉に手をかけたままブツブツ言い続けるフィリーネだが、そこを開けて給料を貰わねばならず
「……開けるぞ?」
「どうぞ……」
木製のドアを押し開ける
「おお、帰ってきたか」
何事も無かったかのように、少女は事務用デスクのセット椅子に腰掛けて肘を突いていた
その後方ではジェラルドが眉を寄せて尻を撫でていたのだが、見なかった事にする
「……あんた、年齢いくつだよ」
「ノーコメントだ」
明紫髪の少女はデスクの引き出しを開け、封筒を2つ取り出す
「ほれ、報酬」
「ああどうも」
「と、次の仕事」
「はい…?」
受け取る直前、別の書類を差し込まれた
『戦術作戦下令書』
差出、クロスフロント軍部
宛先、SG第666小隊(代表、クトゥルフ・リトル・リトル)
本文
他3個小隊と共に以下の拠点を奪還すること
作戦時間
0600から1100まで
随伴部隊…
なんだこの簡潔すぎる指令書は、わかりやす過ぎて泣けてくる
「……早すぎやありませんか、隊長殿」
「仕方なかろう、戦況は限りなく不利なのだからな」
サンセットグロウ第666小隊代表、クトゥルフ・L・リトルは軽く笑いながら肩を竦めた
「侵略による兵員確保の高難度化、爆撃でまともに兵器も作れんし、さらにそれが士気の低下を招く。正規軍はこういう悪循環に悩まされているし、なら我々傭兵の方が小回りも効いて役立つだろう?」
確かに
さすがに国土全域の制空権を奪われるほど負けてはいないが、迎撃し損ねた爆撃機はよく飛んでいる
軍隊が行動を起こすとどうしても目立つし、補給線も必要となり
その点傭兵は現地集合、現地解散、武器も自主確保、命令出しとけばとりあえず行動してくれる
「ま、あまり無理せず頑張ってくれ。今回はそこのそれも付ける」
「えっ…?」
未だに尻をさすり続けるジェラルドを指差した
「いらない」
「まあそう言うな」
「使い道無いし」
「ナメるな、盾くらいなら使える」
「な…なんでセールスマンと主婦の会話みたいになってんの…?あと盾ってそれ人間じゃなくても大丈夫ですよね?」
フィリーネとクトゥルフが言い合っている間に、シグルトは現金入りと思われる封筒の改めを始める
さっきから気になっていたのだが、やけに重い
開封
かくして出てきたのは札束だった
「な…なんじゃこりゃあ…?」
傭兵の資本は命だ
当然、見返りもそれ相応のものになるのだが
「各300万だって」
「……何だ?うちの得意先はいつそんな豪快に…」
「ただし単位はジンバブエ・ドル」
「ただの紙切れじゃねえか!!!!」
日本円に換算したら涙が出てくるような価値になる300万を、床へ叩きつける
「はい本物」
妥当な厚みを持った封筒が差し出された
「はぁ……」
それを受け取る
苦笑いしている女性と目が合った
「お帰りなさい」
「あ、うん、ただいま」
身長150後半あたり、雰囲気は丁寧、というか、優しいというか、なんかポカポカしてくるというか
髪は青、いや藍色。それをポニーテールにしている
エレン・アーミティジという名前だ
「いちにーさん……いつも通りか」
それでも十何万という荒稼ぎであるが
戦時の傭兵はリッチなのだ
「1日8万のクーラー取り付け業者もびっくりだよね」
「……え…?今なんか明らかに個人の事を言ってなかった?」
「何が?」
違和感を感じたが、あまり気にせず視線を横へ
フィリーネとクトゥルフの押し問答はまだ続いていた
バリエーション豊かだが、簡潔に表せば『やる』と『いらん』の繰り返しである
もう子犬の里親探しに近い
「ジルくんジルくん」
「は…はい…?」
(あまりの言われように)泣きそうになっていたジェラルドへ、エレンが話しかけ
「お決まりのセリフがあるよ」
そう言った
既に頭に浮かんでいたらしい。後押しを受けたジェラルドは息を吸い込み
言い放つ
「ぼっ…僕のために争うのはやめてぇ!!!!」
「「キモオタは黙ってろ!!!!!!!!」」
「くとぅぐあっ!!!!!!!!」
ストレートパンチと回し蹴りが叩き込まれた
「あらら」
「…………」
絶対に腹黒だ、この人