K-12-2『百戦百勝は善の善なる者にあらず』
なんか足りないと思ったら書いたのに公開してないものが奥のほうから少々
一生分の情報を一気に叩き付けられた気がした
「ッ!?」
「ぷぎゃ!!!!」
衝撃に耐え兼ねて飛び起き、額を何かにぶつけ再度衝撃、硬さで勝利したらしく、腹の上に乗っていた何かが吹っ飛んでいく
「いったぁーーーーっ!!」
勝ったはいいがそんな石頭だった覚えも無し、ベッドにリターンしてしばらく悶絶
「どうしたぁ!?」
やがて部屋のドアが勢いよく開き、ヤクザが入ってきた。スキンヘッドの大男だ、一目見た瞬間に危険を察知
「ひっ…だだだ誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「間違えるな!!私はカタギの人間だ!!」
よく叫ばれるらしい、速攻で訂正された
「はひはひはひ……」
「落ち着いたか…ともかく、無事に目を覚ましてよか……」
ドッゴォォォォン!!!!
「まぁぁたテメェは人様の娘に手ぇ出しやがってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
「ちっ違ううううううううううううう!!!!」
ヤクザが主婦に吹っ飛ばされて退場していく
「…………」
何だったんだ今のは
「まったく何回やれば気が済むんだか」
「え…?」
入れ代わり、少年が入ってきた
「人間の脳は想像以上に脆く、また再生能力の高い物です。少しつついただけで傷付きますが、多少の損傷では機能停止にはなりえません。記憶障害にはなりますがね」
「は…はぁ…」
「とりあえずおはようございます。そして地獄へようこそ」
「は…?」
「すべての生物は生きている間、常にストレスに晒されるのです。これを地獄と呼ばず何と呼びましょう」
「はぁ…」
「…ってかそれはどうでもいいんです、重要なのはあなたの脳だ」
明るい茶色、栗毛というやつだろうか、白いコート着た童顔。なぜか指し棒を持っている。ぱっと見の年齢は16くらい、だが学校には行ってなさそうだ
「事前報告では頭に毒が回ったとのことでしたが、まぁ神経毒の何かでしょう。種類によっては細胞破壊が急速に起こるものもあるんで、今からちょっとテストしますね。はい鏡」
こちらから見て左を指され、巨大な全身鏡を視界に入れる
銀色の短髪で、ベッドに下半身を埋めている少女が目に入った
「まずあなたの名前を教えてください」
「あ…はい。ええと……あれ…?」
「はい次、月曜日と水曜日の間は?」
「わ……か、火曜日…」
「孔子の言葉『益者三友』とは?」
「正直な人、誠実な人、賢い人は友人とするべき。です」
「偶像崇拝の意味する所は?」
「無意味な祈り」
「家族構成は?」
「…うぅ……」
「これは?」
「床」
「これは?」
「気絶した子供」
「じゃあこれは?」
「たんこぶ」
「たんこぶは何故できた?」
「いや、私石頭じゃないですよ?」
スープが出てきた
「典型的な記憶喪失、しかし軽度です。DHCでも摂取しながら普通に生活しててください」
子供を代わりにベッドへ寝かせ応接間らしき場所まで移動。あの子の名前は『レミア』というらしい、残念ながら記憶に無かった
「俺はウィズ・アルハザード。ああ初対面だからご心配なく」
シャンデリア、家具、壁、どれを取っても高級品だ、きっと大富豪の家なんだろう。なぜこんな屋敷にいるのかまったく検討もつかない
「火之内美海さん、あなたは戦場で毒をくらってここに担ぎ込まれました。妹が1人いるんですが、今は出払ってまして」
「はぁ…」
「オルネイズという家名に聞き覚えは?」
「…すみません……」
「まぁそんな開けっ広げに伝わってるものでもないのでいいんですが、ここはそんな屋敷だって覚えといてください。ちなみに私兵部隊総司令と参謀とルカ・オルネイズ専属講師その他諸々は俺が務めてるんで、何かあれば俺に」
そこまで言われた所で応接間のドアが開き、ミイラが1体入ってきた。いや、包帯ぐるぐる巻きなだけだが
「先程は驚かせてすまなかったな。私がこの家の当主、気軽にパパと呼んでくれ」
何かと思えばさっきのヤクザだった、顔が隠れている今は優しい印象が強く、大男な件を除けばかなり理性的だ。まぁ何であれ、顔がすべてを台なしにしている
「そんなんだから生傷が絶えないってわっかんないかなぁ」
「そこ、うるさいぞ」
ミイラがソファに座る、ミシリと不協和音が鳴った
「色々とあってだな、今はうちで面倒を見させて貰っている。構わんか?」
「構わない、と言われても……」
何のこっちゃわからない、記憶に霧がかかっている、というか、棚の鍵をなくしてしまったようだ。一部分だけがどうしても引き出せない
「話が早過ぎるよ、せめて1週間は様子見ないと」
「む…記憶喪失とやらは軽度じゃなかったのか?」
「回復する可能性が高いから軽度って意味」
ってか、度合いからして記憶障害が出るはずないんだけどなぁ…、などとウィズが呟き、その後スープを冷めないうちにどうぞと奨められる。ぶっちゃけ、臭いが生魚と同じスープなど飲みたくないのだが
「……これ…何入れました?」
「婦人が捌いたクロマグロから目玉を少々」
「……」
「…………」
「なぜ2人してそんな目をするのかな」
一度は持ち上げたカップをそっとテーブルに戻す。その動作によって異臭がパパさんの方まで流れたらしく、僅かに呻いた後、食事を用意させるよう使用人に伝えた
「ええと…ウィッグさん」
「ウィズです、そりゃ付け毛ですね」
「す、すみません……レズ…さん」
「女性同士が愛し合う事です」
「ああぅ……クズさん…」
「(´〜`;)」
言い間違いは続く
勝った、なんかもうありえないくらい圧倒的な差で勝った。敵部隊は撤退済、死傷者数は100に満たず、別動隊に至っては完全に無傷。戦場に残っているのは敵兵の死屍累々たる有様のみで、敵前衛部隊が全滅した事は間違いなさそうだ。推定500名、敵はどこまで撤退しただろうか
「まぁ…あいつらに頼んだ割にはかなり少ない方か……」
「え…?」
「おとぎ話とかファンタジー小説とかでよく怪物に立ち向かってる人間がいるけど、現実はこの通りよ。人間は怪物に勝てない、絶対に」
奴らに立ち向かうには人間やめる必要がある。隣にいるアカリが言い、その後ポケットから何か取り出した。手の平サイズの水晶、いや何らかの結晶体だ。研磨されておらず、ダイヤの原石と見えなくもない
「私はしばらく休むわ、なんか珍妙なのが接触してくると思うからこれ渡しといて」
「これは…何?」
「実体化できるほど凝縮された魔力の塊、暴発したら町ひとつ消し飛ぶから気をつけてね。それから…たぶん大丈夫…ていうか無駄…だとは思うけど背中には気をつけること」
危険すぎる代物とセリフを残し、アカリは帰っていった
「……とりあえず移動しないか?血生臭くてたまらん」
「そ、そうだね…」
戦闘の終わった今、正規軍は本部へと引き上げていた、残っているのは掃除部隊と04小隊のみ
塹壕の反対側まで移動したら死体がひとつも無くなった、それほど一方的だったということだ
「隊長、この後どうするんだ?」
「危機を脱するまで協力するよう言われてたんですが…もう脱しちゃいましたしね…」
「じゃあ帰ってトレーニングだな、ガハハ!」
さすがゼオン、まったく動じていない
「それで、怪物とやらはどこにいるんだ?」
美空はさっきの話に興味があるらしい、しきりにあたりを見回している。部隊は撤収しているため目立つ人間はおらず、本当にいるのならすぐわかるはずだが
「ああ、もし襲ってきたとしてもルカは私が守るからな」
「人じゃ勝てないっていうのは…」
「知ったことか」
頼もしいが、どこか心配になった
「怪物なら人の形はしてないでしょう、例えばドラゴンとか」
「見かけによらずファンタジックな事言いますねテラムさん」
「でかいカメとかどうだ」
「それは特撮ですよゼオンさん」
「いや右手に包帯巻いてる奴に決まってるだろ」
「美空…美空…?」
「その線で行くなら顔のないスフィンクスが妥当ですかね、まぁ基本的になんでもありですが」
「スフィンクスから顔を取ったらただの猫科でしょ…………誰!?」
聞き慣れない声と同時にずしりと肩に乗ってくる、感じからして女性、視界にちらついてるオレンジ色は頭髪だろうか。振り返ると間近に人がいて、やはり女性、眩しい笑顔でルカの両肩に手を乗せていた
「だ…誰…うわ!!!?」
今度は下から刃物が登場し、眼前数センチを通り抜けていく。そこには橙髪の女の子がいたはずだが刃物は空を切り、ルカを驚かせるに留まる
橙髪はいつの間にか数メートル後退して、変わらず笑顔を振り撒いていた、いつ移動したのか
「美空!!」
「まず言っておくが別に嫉妬で斬りかかった訳じゃないぞ!!」
キチリと太刀を鳴らし間に割り込んでくる、ルカを守るように背を向け、切っ先を橙髪へ
「え…そんな、なんで…」
「よくわからない!!よくわからないが、こいつ人間じゃない!!」
刃を突き付けられても笑顔を絶やさぬ少女は、まったく脅威を感じてなさそうながらも両手をひらひら振って非武装であることをアピールし2、3歩後退、改めてこちらのメンツを一瞥する
「あー、もしかして見えてました?」
「一瞬、視界の端でな」
それはお見苦しい所を、などと言っているうちにゼオンに引っ張られでかい背中が視界を覆う。どうも完全に臨戦体勢らしい
「……どうする?とりあえず理性的ではありそうだが、オーラが渦々しすぎるぞ」
「魔術の才能はねえからオーラはわからん、断言できるのは敵意が無いってことだけだ。それに味方って話だろ」
「こんなのが味方にいたら私は敵軍方向へ逃げ出す自信があるぞ」
「それには同意するが、とにかく刀は下ろしとけ、先制されても文句言えん」
ゼオンに言われ、ようやく太刀を鞘に納める、それでも抜刀姿勢は崩していないが
などとやっている間中、件の橙髪はにこにこしながら待っていてくれた。一段落したことがわかると再度こちらへ歩み寄ってくる
「よろしいですか?」
「あ、はい」
確かアカリから預かったものを渡せばいいんだったか。ポケットに入れていた結晶体を取り出し、橙髪へ手渡…す前、美空がそれを奪い取って放り投げた
「はい、毎度ありがとうございます」
受け止めて、右手で包み込む、見せ付けるように指を開いた時には手品のように消失していた
とりあえずこれで取引は完了
「……それでお前は何なんだ?」
「それは捉え方にもよりますけど、アカリ氏とは真逆に位置する同類、って所でしょうか。まぁ基本的に化け物で通りますけど」
何というかよくわからない説明だ、アカリと同じだが真逆とは、例えばカエルと毒カエルみたいな理解でいいんだろうか
となると目の前にいる少女は
「それじゃあ、お邪魔みたいなので今日はこれで失礼します。また会う事もあるでしょうから、その時はN・E・A、ネアとお呼びください」
ではこれにて、と、こちらへ背中を向ける
「……できれば、会いたくないな」
「呼び出す必要がないよう頑張ればいいんだろ」
瞬時に消え去る訳でもなく、普通に歩いて去っていく
ただ、背中を向ける直前
僅かに、笑顔が不敵さを帯びたような気がした