K-11『心は金じゃ買えないってんでしょ?わかってるわかってる』
ルカ達がシルヴァの隊に合流してから一週間が経った。
戦闘回数4回。内、こちらからしかけた戦闘は最初の1回のみ、しかもその戦いで大きな損害を受けてしまっていた。
つまり返り討ちにされたのだ。
それからの戦いは攻めこんでくる敵軍をギリギリで往なし、なんとかやり過ごしてきた。
そして、隊の中枢であるシルヴァの周りは慌ただしく動いていた。
「弾薬の残量はあとどのくらいだ!?」
「医療兵はどこだ!?次はB棟を頼む」
「偵察からの連絡はまだか!?」
指令室では指示や確認の声が飛び交う。
しかし
「あぁ!シルヴァ様はどこだぁぁぁぁ!!」
そこに肝心の司令官の姿が無かった。
慌ただしい基地の中、ルカ達も手分けをしてシルヴァを探していた。
「まったく、あの坊っちゃんはどこに行っちまったんだ?」
「分かりません……あ、あの人は」
基地の奥を探していたルカとゼオンはシルヴァの居場所を知っていそうな人物を見つけた。
「ダンさん!!」
ルカの声に振り向いたダンだたったが、その表情はMK5そのものだった。
「ったく、あのクソ坊っちゃんは黙ってどこに消えやがった!!」
3秒だった。
手がかりは無いかに思われた。
「あ、あの人なら……」
その頃、シルヴァ達が使っていた居住スペース内を探していた美空とリッヅがその人物と会っていた。
「貴方なら知ってますよね?……クロノスさん」
ルカ達がここへ来て初めて会った人物。シルヴァの執事だ。
「はい、もちろんです……もうそろそろお見えになるかと」
十数分後
集まったルカ達とダンはクロノスと共に基地の裏口に来ていた。
すると、戦場には似合わない高級そうな車がやって来た。
そして、後部座席から降りてきたのは派手な赤のスーツに身を包んだシルヴァだった。
「ん?随分と出迎えが多いじゃないか……まぁいい、ご苦ろ「なにも言わずに何処に行っておられたのですか?」
一歩前に出て問いたてるダン。
その問いにシルヴァはため息混じりに答えた。
「 ……パーティーだよ。パパが毎年この時期にやってるんだ……まさかこの作戦が こんなに長引くとは思ってなかったからね。参加は決まってたんだ」
シルヴァに睨み付けるような視線を向けてダンはさらに問う
「……何故私にすら言わなかったので?」
「ふんっ、お前に言ったら止められるに決まっているか「このクソ野郎!!」
この瞬間、シルヴァは後方に吹き飛んだ。
一瞬にして固まる空気。
吹き飛んだシルヴァは駆け寄ってきたクロノスの支えで起き上がる。
「うぅ……殴ったな!パパにも殴られたこと無いの「黙れ!!」
ダンの睨みにシルヴァだけでなく、いつの間にか駆け付けていた彼の親衛隊すらも足を震わせていた。
「 もう堪忍袋の緒が切れたわ!!劣勢な状況の自分の部隊を放っておいて自分はパ ーティーだと?……確かに貴族である貴様の本業はそれかもしれない。だがしか し!指揮官自らが兵士達に不安と混乱をもたらすなど言語道断!!」
ダンはシルヴァに近寄ると、胸ぐらを掴み上げる。
「最初に貴族の身でありながら戦場に興味をもって自ら戦おうとした貴方を尊敬しようとした私が馬鹿みたいだ……クソッ!」
ダンの目には涙が浮かんでいたように見えたのは気のせいだろうか……
静まり返る裏口。
そんな中に兵士が一人飛び込んできた。
「大変です!ここより東約3㎞から敵本隊が接近中!」
それを聞いたダンはシルヴァから手を離し、基地内へと駆け出そうとした。
シルヴァは我に返ったように叫ぶ。
「し、至急先撃部隊を向かわせろ!!……ダン、貴様はこの戦いが終わってからグランリエの名の元に罰する!覚悟しておけ!」
それを聞いて立ち止まるダン。
そこで、黙っていたルカが一歩前へ出た。
「なら、僕がダンさんをオルネイズの名の元でその罰から解放します……行ってくださいダンさん」
ルカの言葉にダンは再び駆け出した。
一方で、シルヴァがルカをにらんでいた。
「……どうゆうつもりだ?あいつは僕を殴り、説教までたれやがったんだぞ?不問になんてさせるものか!」
「彼は有能な戦士です。そんなことで罰せられるべきではない」
「僕を殴ったことをそんなこと…だと?」
「そんなことです」
睨み合うルカとシルヴァ。
そんな二人の間に入るのはマークとテラムの二人。
「シルヴァ殿、今は指揮を執るのが先なのではないでしょうか?」
「若旦那も、この事は後にして行きましょう」
二人は睨み合いを止め、それぞれの持ち場へと向かうのだった。
「…………どう思うよ?あの坊主」
戦場へ向かう準備をする中、ゼオンはメンバーに問う。
「シルヴァ司令っスか?ありゃマズイっスね」
槍を持って答えるリッヅ。
「……既に手遅れではないかと」
と、冷静に答えるマーク。
「私も同意見です」
と、ライフルをメンテしながらテラム。
そして、黙っていたルカも口を開く。
「僕もそう思います。そして彼は――――」
20分後
パーティーの服装から軍服に着替えたシルヴァは司令室へとやって来た。
室内の兵士たちはざわめくが、何事もないかのように 自分達の役割をこなす。
そんな中、司令部の中でも軍よりの数人が、席についたシルヴァの前に立ちふさがった。
「……何のつもりだ?」
「私達はもう貴方に着いていくことはできません」
「ど…どうゆうつもりだ!さっさと配置に着けよ駒共がぁ!!」
静まり返る司令室。シルヴァの目の前にいた数人は振り返ると持ち場に戻った。
それを見てシルヴァは椅子に座る。
「……フンッ……現状報告!」
声をあげるシルヴァ。
[こんどこそ僕の手で返り討ちにしてやる]
意気込むシルヴァ。
実は、今回のパーティーで自分が招いた現在の不利な状況の事を親から心配された。
怒られたわけではない。ただ、親は『危険だから自分から諦めて戻ってこい』と言いたそうにしているのは分かっていた。
[引くわけにはいけない……僕は勝つんだ!]
「…………」
しかし、部下からの返事が戻ってこなかった。
「どうした……現状報告はどうした!? 貴様ら……どうゆうつも……何だその目は?」
室内の兵達からシルヴァに向けられる視線。それはとても冷たい視線だった。
「な……貴様らぁっ!そんな事をしてどうなるか分かって「分からなくていいと思うぞ?その感情は人として当たり前だ」
突然表れた美空の声に振り向くシルヴァ。
「貴方には失望しましたよ。まさかそこまで腐ってるとはね……同じ貴族として残念です」
そして、美空の後からルカは真剣な表情で表れた。
もちろん、他の部隊のメンバーも一緒だ。特に
「フゥー……フゥー」
戦士気質の強いゼオンは爆発寸前だった。
視線にこもった怒りの感情はシルヴァを恐怖で震えさせるほどだ。
「ななな何だよ!僕は貴族だ。僕の本業はあっちなんだから向こうを優先するのは当たり前だろ?」
「…フゥー……ふぅ……ならば、この戦いは貴様にとっては副業だというのか?」
怯え声で話すシルヴァに、怒りを抑えてゼオンが問う。
「…………まぁそうだね。こっちの事で向こうに悪い影響を出すわけにはいかないのさ
だからこの戦いでも勝たないわけにはいかないんだよ」
シルヴァのこの言葉にゼオンはキレた。
「お前に兵士達の上に立つ資格なんて有るものか!!」
そこから先の展開は簡単
ぶん投げられて、積んであった物資の山に埋もれた