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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
26/35

S-10-3『夢幻、疾駆、海戦』










"現場で待機している時のヒマ"を潰すために買った文庫本は、"そもそもお呼びでないというヒマ"によって無用の長物と化した


「うーん……」


戦場に行きたいという訳ではないと思う、部隊登録されている時点で給料は貰えるし



では仲間を助けたいとか?



それもあるだろうが、非武装の輸送機でしゃしゃり出てもアレだし、ぶっちゃけ正規軍の爆撃機に任せた方が遥かに安全だ


非武装では防衛手段が無い


非武装



結局はその一言に尽きる訳である



「…………」


と、そんな事を考えながら、サンセットグロウ第666小隊輸送機操縦士、メイ・F・リヒトホーフェンは街中をぶらついていた


いや目的地はちゃんとある


問題を解決するには新しい機体を用意すればいい、極めて明白だ


だがそうすると人員不足という問題が更に発生する訳で


航路設定は1人でなんとかなるから、機銃手数名と副操縦士


で、運航中はフィリーネとかジェラルドとかがいるから機銃はなんとかなる


よって必要なのは副操縦士1名


クトゥルフに申し出ればどこかから調達してくれるだろう、後で言ってみる事にする


自分みたいな女性操縦士は極めて稀だから、来るとすれば男


「……ショタっ子がいいな…」


激しく関係無い要望である




「ねえそこのおねーさん、ちょっと時間いいかな」


「うん?」


決心がついた所で声をかけられた


ナンパか。無視していいかな


無視していいよね




いや、待て




「聞きたい事があるんだけどさ、海岸までってどう…行く…………」


そこまで行って、向こうもようやく気付いたらしい


ナンパしてきた男の特徴を挙げると、クリーム色のロン毛で、体格はそこそこ良く、雰囲気からしてバカ丸出しな


立ち止まり、微笑む


「行き方なんて言わず連れて行ってあげてもいいけど、ハスター?」


「は…はは…………」





































ドッボォォォン!!と、さっきまで乗っていたジープが吹っ飛んでいった


「どうにかしろよ発案者!!!!」


「無理!!!!」


「このバカーーーッ!!!!!!!!」




まずそこらで敵軍のロケットランチャーを拝借し、見つからないように戦車へ寄って行った


見つかった


集中砲火を喰らった




それでも囮という役割は果たしているらしい、今までに友軍の迫撃砲で1両が擱座し、海上の空母から飛んできた艦上爆撃機が2両を吹っ飛ばした


あと5両


航空爆撃はもう期待できそうに無い、敵艦隊がやってきて海戦を始めてしまっている。それが片付くまで付きっきりだろう


あくまで海軍の話であって、要請すれば陸軍航空隊が飛んでくるが、時間がかかる


「中戦車ごとき、こいつ当てれば一発だってのに…!!」


物影に隠れながら、ロケラン担いでるフィリーネが呟いた


ヨグソトホートに匹敵する長さの筒、先端に菱形の弾頭がくっついている


目測で全長150センチ


対しフィリーネの身長、154センチ


あまりにも不釣り合いである



ついでに服装


緑と茶色の迷彩服を上着代わりにし、その中はTシャツ。下はなぜか迷彩ではなくジーパン



「位置が悪い……移動するわよ」


「…………」


「ちょっと?」


「……ああ…すまん、萌えてた」


「何に!?」


ロケットランチャーに?


「お前ちょっとこれ持ってみ?」


「な…が…っ!!状況を考えろ!!!!」


「戦ヴァルっ!!!!」


ヨグソトホートを渡そうとしたら思いっきり蹴り上げられた


どこを、とはあえて言わない事にする


「orzッ……!!」


「あぁもう早く立つ!!移動するわよ!!」


「じゃあもっと別の所蹴ってくれよ…!!」





キャタピラ音が近付いてきた



「まず…!!」


恐らく2両、まだ気付かれてはいないが、隠れ場所を変えるにも姿を晒す羽目になる


見つかり様にロケランをぶっ放して1両はどうにかなるとして


もう片方はジェラルドになんとかして貰うしかない


この状況でまだ撃っていないあたり、射線が確保できていないのか


「このバカ!!!!」


苦し紛れに言い放ち、フィリーネが走り出す


方向は戦車の進路と反対。突っ込む形になった



要はあれだ、機銃が発砲開始する前に後ろへ回り込んで撃破するという突撃戦法である


敵にとってはほぼ奇襲だし、乗員の安全対策か機銃座に人影は無く、歩の悪い賭けではない、と思う



残りはジェラルドが狙撃するかシグルトが突っ込めばなんとか




ガッゴォォォォン!!




「!!!?」


なんとかなるはずだった


別に戦車が3両だったとかいきなり撃たれたとかではない


ジェラルドがフライングした


突っ込もうとした戦車の天蓋からネアの弾丸が内部に侵入し、榴弾でも使ったのか、派手に爆発する


「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


飛び出すタイミングを失った


急停止し草むらに伏せてから、様子を見る


半砲撃を受けた戦車は沈黙し、黒煙を噴き出していた


そのせいで反対側がよく見えない


せいぜい、"戦車の砲身みたいなでかい筒"が転がっているくらいで


…………砲身?


大破した戦車にはちゃんと84mm砲が付いている


じゃああれは何だろう



考えている間に、これまた"戦車の駆動輪みたいな輪っか"が吹っ飛んでいった



「……?」


そろーっと起き上がり、反対側を覗いてみる



ちょうど、シグルトが戦車の砲塔を両断している所だった



「!!!?」


実際は、ヨグソトホートの能力で刃の当たった所だけを飛ばし、斬っているように見せ掛けているだけだろう


確かにあれなら多少無理しても魔力は喰わない


「これでよしと」


乗組員は失神している


殴ったか、現実逃避したか


周囲に敵がいないのを確認してから、フィリーネに近付いてきた


「余裕が出た所でもう一度言うぞ」


「え…?」




「これ持って」


「それはもういいッ!!」
















-------------------



電力供給低下により一切の照明が沈黙していたが、駆動系統及び通信機器は健在で、戦闘には問題無いレベルに留まってくれていた


目下の問題はアムルタート正面に展開する敵艦隊と航空機だ


戦艦1隻と駆逐艦が数隻。後方に空母を置いてあるのか、陸上と合わせて2方向から航空機が飛んできている






とどがつまり、対艦戦闘と対空戦闘を同時にやっている訳で






「艦長は彼女とかいるんですかーーー!!!?」


「何だって!!!?まったく聞こえねえ!!!!」



100門を超える対空機銃が一斉に天を仰いで撃ちまくっている


第7波か8波目くらいの敵航空隊がアムルタート上空に現れ、味方戦闘機が殺到していく


赤い曳航弾の網に何割かを絡め取られ、それを突破した残りが今度は艦隊弾幕に突入


ドガガガガガガガガ!!!!という壮絶な発砲音が鳴り響き、爆撃機をスクラップに変えていくが、すべては落とし切れず



数秒後、アムルタート艦上で爆炎が舞った



「艦長は!!彼女いるんですか!!!?」


「聞こえねーー!!!!ってうわっち!!!!」


主翼のもぎれた爆撃機が第2砲塔付近に墜落する


爆弾抱えたまま落ちたらしい、派手に爆発し、燃えるガソリンをぶちまけた


まだ戦闘に支障無し。この程度で怯んでいて何が第1艦隊旗艦か


「かーんーちょーはーカノジョいるんでーすーかー!!!!!?」


「彼女ーーー!!!?」



ゴスッ!!



「どうでもいいわ!!!!!!!!」


アホな副艦長は置いといて、敵艦隊を睨み付ける


距離約20km、こちらと同じく爆撃の雨に晒されていた


「主砲照準!!弾種徹甲!!」


対空防御でいっぱいいっぱいだが、だからといってほっといていいものではない


「10時方向!!魚雷接近!!」


「ち…取舵!!」


主砲射手には負担をかけるが、魚雷は駄目だ


しかも左舷前方、さっき列車砲に大穴を開けられた箇所である


艦体が軋み、アムルタートは頭を左へ向けていく


同時に機銃が海に弾をぶちまけ始める


魚雷の先端にある信管に当たれば万々歳な訳だが、そうそう当たるものでもなく



無数の水飛沫をくぐり抜け、魚雷はアムルタートのどてっ腹を貫いた


「づ…ッ!!」


巨体が震える


「左舷さらに浸水!!隔壁損傷!!」


「各室閉鎖!!ダメージコントロール!!」


通称ダメコン。といっても、『左舷にある重い物を右舷に移動する』という人力作業だが



さて、重傷とはいかないまでもそれなりに傷は深い


恐らく向こうも同じような状況だろう、そろそろ撤退を考えている頃合いのはず


既に陸上では勝敗が決し、ノーフォークはクロスフロントの制圧下に置かれている


向こうが留まる理由が無い



「ただこんだけやったんですから少しくらいは成果が欲しいですよねー」


シズが耳元で呟いた



まったくその通りである



「いくら出せる?」


「現状では21ノット。時速だと38キロ程度」


「航空隊は?」


「戦闘機18、爆撃機31、雷撃機8。なお飛行甲板は使用可能」


やはり単機の性能が悪いからか。戦闘前は合計で100機あったのだが



だがまだ行ける



「オーケー、じゃあ総攻撃だ。機関全速!!」


アムルタートが加速していく



空母の護衛に水雷戦隊12隻を残し、ついて来たのは重巡洋艦2隻


爆撃を喰らい続け、派手に黒煙を噴き出しながらの進軍である


特攻してきたとでも思ったのか、敵戦艦が慌てて発砲し出した


「撃ち返せ!!」


前部砲塔2基が咆哮する


数十秒で両者の弾が到達し、アムルタート周辺に水柱が立ち上がった


こちらも命中無し。だが目標は散布界内に入っている


「味方機第5波接近!!」


「こっちも上げろ!!横取りされんじゃねえぞ!!」


100機近い航空機が群がってくる。全力でハイエナしにきたのか、対地戦主体の大型爆撃機まで混ざっていた


というか、そればっかりだ





「ぬおっ!!!?」


艦橋付け根に爆弾が落ちた


「射撃指揮所に直撃弾!!同所沈黙!!」


「なん…!!だぁもう!!シズ!!」


「アイサー!!」


部屋の端に積まれていた予備の通信機を広げ始める


指揮系統を修復するまで主砲を撃てなくなった



その間に爆撃隊が到着



「イッツアショーターイム!!!!」


「いいから黙って仕事しろ!!!!」


まぁ、何か叫びたくなる気持ちはわかる


弾数1000発を軽く超える絨毯爆撃のスコールが目の前で展開されたのだ


無数の水柱が敵艦隊を覆い尽くし


一拍遅れて轟音


「のぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


鼓膜に大ダメージが伝わる


10km以上離れていてこれでは、敵艦の乗組員は大丈夫なんだろうか。殺し合いしてる最中なのに心配になった


「ぁー……っ結果報告!!」


「全艦に命中弾!目下大破炎上中!」



いくら爆弾を喰らおうと、軍艦は沈まないようにできている


弾薬室か燃料類に直撃すれば別だが、船体に傷が付かない限り、上部構造物がどうなろうと浮力は維持される


が、少なくとも、戦闘能力は根こそぎ持って行かれたようだ


せわしなく動き回っていた駆逐艦が一斉に沈黙した


「重巡へ魚雷発射命令!!」


今なら当て放題だ


次の航空隊が来る前に手早く頂いてしまおう


重巡洋艦2隻が前に出て、それから横を向いた


「主砲は!?」


「3分間待ってくれ!!」


こっちが待つのかよ


敵戦艦も燃えながら停止しているが、あの程度で沈黙していたら戦艦ではない、すぐにまた動き出す



その間に重巡洋艦から魚雷12本が発射された


反転、反対側を向けてさらに12本


「急げ急げ急げ!!」


「艦長、東の国にこんな言葉があります」


「あ?」




「急がば回れ」


「この状況で回るなボケ!!!!!!!!いいから指揮回復しろ!!!!!!!!」


「実はもう終わってるんですが」


「ばかやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!」



と、ツッコんでる場合ではない


罰則は後でぶん殴るとして、主砲が使用可能なら待っている必要も無い


「取舵!!主砲及び副砲照準!!」


戦艦はまだ停止している


できれば今のうちに全門斉射を叩き込みたい


406mm主砲8門と、140mm副砲の片舷10門



発射準備を整えている内に、空母から発艦した雷撃機が飛んでいった


陸に続いて空でも大局が決し、制空権はクロスフロントが握っている


気付けば轟音も鳴り止んでいた



「体勢完了!!」


「撃てぇ-ーッ!!!!」


合計18門が一気に吠えた


爆音、爆煙、振動。反動で艦が反対側に傾く


「魚雷到達!!」


海水が噴き上がり、命中した艦が海上からいなくなる


魚雷はほとんどが命中。雷撃機の追加弾で戦果は順次増えていた



と、それを見たあたりで、砲弾が到達



「直撃!!」


ガッゴォォン!!という音が僅かに聞こえた


分厚い装甲を貫いた徹甲弾は内部に深く侵入し、爆発する


一際派手に炎を上げたかと思うと、中心から船体が裂け、そのままずぶずぶと沈んでいった


「制海権も確保、か?」


「おそらく」


勝ったらしい、陸海空で全勝



数十分で航空隊が小さい獲物を駆逐し、敵艦隊は全滅した



「じゃ、早めに帰るぞ」


アムルタートが沈む前に






























東側海岸、スーデントール


なかなかいい砂浜だとは思うのだが、周囲を工場に囲まれているし、軍艦用ドッグのある景観はあまりウケないようだ、レジャースポットとしての機能は無い


竿釣り用の小型ボートが置いてある程度のさびれた場所である


「それで?こんな所に何の用かな?」


「あー、まぁ色々と」


そこを軽く見渡してから、ハスターは砂を踏んだ


じゃりじゃりした感触が靴越しに伝わってくる


「ここ数日の深夜あたりかな、騒音苦情とか出てないか?」


「うん?いや特には」



『道路を滑走路代わりに使うな』とか『爆音がうるさい』とかならひっきりなしにきているが


少なくとも深夜は飛んでいないので、出るはずがない


「無法者な知り合いでも探してたり?」


「違げぇよ」


話しながら砂浜中央まで歩き、下を見て立ち止まる


砂の茶色に紛れて金色があった


「……薬莢」


出てきたのは真鍮製の筒


口径は9mmから12mm、拳銃弾だろう、かなり新しい


少し深く砂を掘ってみる。もうひとつ出てきた



「……と、血?」


赤く固まった塊


ペンキとかいうオチではないだろう



戦争中という事を考えれば、別段珍しいものではない


が、ここは国内では最前線から最も遠い部類に入る


訓練中の事故で産まれた産物としても、陸軍の駐屯地は遥か西



「んー……ん?」


周囲を見渡すと、釣りに使われるような小型ボートを見つけた


うちほとんどは錆だらけの民間用


問題は端の1つだ


「ここの住民は軍用の上陸用舟艇を釣りに使うのか?」


「おや?」


よくよく考えたらおかしすぎる光景だった


近付いてみると、側面に『almeria navy』と記述がある


軍艦から発進して砂浜に上陸するだけのボートにも関わらず1000km超えの航続力と簡易トイレを備えるというアルメリアの制式変態ボートだ


船酔い対策ばっちりなのは理解するが、やはりあの国はよくわからない


「いや、前来た時は無かったけど」


言いながら、メイがそれに乗り込んだ


先客はアリが1匹のみ


「また薬莢……」


やはり拳銃弾、しかしさっきのとは種類が違う



数日以内にここで上陸戦があったのは明白



「一応もっかい確認しとくけど、騒音苦情とか小規模な戦闘とかは無いんだよな?」


「ああ、路地裏に未成年らしき少女がいるというのはあるがな」


「正規軍とかお前らが対上陸訓練やったとか」


「何故そんなものをやる必要がある」


「じゃあ"その道の人達"が一悶着起こしたり」


「こんなあからさまな証拠を残す筈がなかろう阿呆が」


「アホとはなん…!!だ……」




極至近距離にクトゥルフがいた




「……コンニチハ…」


「死ね♪」


会話になっていない


恐らく全力で突いてきたであろう杭を吹っ飛んで回避し砂浜にダイブする


「終わったそうだ、迎えに行ってやれ」


「あ、うん」


給料分の仕事は済ませたという事だろう


戦車2両。本来なら勲章ものである


「貴様も用が終わったのなら今すぐ帰れ」


「ふぁい……」


それだけ言ってクトゥルフはいなくなった


「…………大丈夫なのかよ、あんなのと一緒で」


「いやあ?少なくとも凶器を突きつけられた事はないけど」


「この扱いの差は何だ……」


「まぁ…」


メイは僅かに微笑み、倒れたままのハスターに手を伸ばす




「妹と弟の違いじゃないかな」

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