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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
23/35

K-9『ある日、森の中』


怪物の巣くうため、自殺志望者ぐらいしか入らない深い深い森。


夜は光などあるはずのないこの森の中に、なぜかこの夜は光があった。

よく見ると、いくつかの小さな光が円形に集まっているようだ。






光の一つは小さな茂みの中から出ていた。その茂みの中には一人の少年が息を潜めていた。


その周辺にも光と人影が見える。木の影や木の上、草原の中にもあった。

そしてしばらくすると、一つ、また一つと光が消えていった。






そして光は少年のものだけになる。





少年はある一点をじっと見ていた。そこは、短い丈の雑草が鬱蒼と生い茂っている草原の中に不自然にできている、地面が円形に剥き出しになっている所である。

直径1mってところだろうか。




そのまま30分は何の動きも無かった。






それは、少年が少しうつらうつらし始めた時だった。剥き出しの地面がモコモコと動き始めた。

少年ははっと目を覚まし、息を飲んだ。




しばらくして、その地面から何が飛び出て来た。


少年はそれと同時に明かりを消した。

次の瞬間、周りは昼間のように明るくなった。



「やぁぁぁぁぁ!!!!」


少年は、飛び出て来た物体に飛び掛かった。


勢いよく飛び付いた少年だったが、標的は腕の間を擦り抜けて明かりの無い方へと飛んでいった。


「そっちに行きましたよ」


標的の飛んでいった方には少年より一回り以上大きい男が腕を開いて待ち構えていた。


「ガハハハハ!もらったぁぁ!!」


男は標的につかみ掛かる。しかし、男の手の中に標的の姿は無かった。


「しまったぁぁぁぁ!!!!!!」


標的は男の真後ろにいた。

そこへ二人が飛び付いた


「いただきッス!!」

「そこです!」











『ゴンッ』っと鈍い音の後、大きな何かが落ちた音がした。




--------------------




明かりから少し離れた木の上。

ここには小柄な男が一人、双眼鏡で捕獲劇を見ていた。


「あっ……あ~あ、ありゃ痛いでしょうね……さて、加勢しましょうか」


彼は双眼鏡をしまうと、大きな鞄から大きめのライフル銃を取り出した。そして慣れた手つきでライフルに弾を込め、明かりの方に構えた。

狙うは仲間達がことごとく捕獲に失敗している標的。

動き回る標的が木から飛び降りる。その着地の瞬間、しっかりと狙いを定め……


「…………そこっ!」


引き金を引いた。












数秒後、彼は木の下で気絶していた。




簡潔に言うと木から落ちたのだ。


彼の放った弾は標的に向かって一直線に飛んでいった。「決まった」と、確信したその時だった。


弾と標的の間に突如現れたのは、さっき捕獲に失敗した大柄の男。





「ガァァァ……ゴォォォ」


今、その男は地響きのようないびきをかいて寝ている。

つまり、麻酔弾。



そして、銃の男は驚いて木から落ちてしまったのだ。


「グガァァァァ」


それにしても五月蝿い。


「うぅ……早く捕まえて帰らないと」


最初に出てきた少年が立ち上がり、再び標的に向かっていく。

つかみ掛かろうとするが、標的はまるで遊んでいるかのように簡単に少年の腕を避ける。






「はぁ、はぁ、はぁ……捕まらない……ん?ぶぅっ!!」


一瞬の出来事だった。

再び木の上に登っていった標的を見上げていると、いきなり標的が落ちてきた。そして、少年の顔面に激突した。


「いててて……」


「情けないな。男5人で一匹も捕まえられないのか?」


木の上には刀を持った少女が立っていた。


「安心しろ、峰打ちだ」




-----------------





「これを捕まえるだけだろ?一体何に手間取ってんだ?ルカ」


木から降りてきた少女。刀を持つ手とは反対の手で、毛皮の塊を4つほど、紐に吊した物を持っていた。


それをよく見ると、丸々とした体に猿のような手足が生えていた。

『アルゴム』という獣だ。





「ななな何で美空がこんな所に?」


少年改めルカは知らなかった。


「いつまで経っても帰ってこないから心配で見に来たんだ。こいつらはここに来る途中で見つけたから捕まえたんだ」


ここで美空の後から新たな人影が現れる。


「ママさんと一緒に」


現れたのは笑顔のママ。

ただし


「遅いじゃないルカ。もうすぐパーティーが始まっちゃうわよ」


「あわ……あわわわわわわ」




ママの拳には現役時代のメリケンサックがはめられ、後には黒い何かが見えていた。


ルカ達の今回の任務は、パーティーのメインディッシュの材料調達。






小隊全滅により任務失敗



















沢山の豪華な料理。


綺麗に装飾された大広間。


スーツやドレスを着込んだ人、人、人。


そして



「「「申し訳ありませんでした!!」」」



パーティー会場の裏側で土下座しているボロボロな男達。

もちろんルカ達だ。


土下座の対象?

もちろんママである。


「美空ちゃんがアルゴムを捕まえてなかったらメインディッシュが無しになるところだったのよ?この事の重大さわかるかしら?まったく、最近の男はだらし無いわねぇ……」








説教は、パパがママを呼びに来るまで続いた。




--------------------












ママがパパに呼ばれた後、男達は直ぐに立ち上がり、パーティーに合流していった。






「あ……足がっ……」


足が痺れて立てないルカを除いて。


「何で皆平気なんだろ?鍛えてるからかなぁ……」


何度も立とうと試みるルカ。しかし、


「あぅっ」


脚に力が入らない。




「何やってるんだ?」


ルカを迎えに来た美空が、悶えているルカに声をかけた。

急に後から話し掛けられたルカは


「え?ひぁっ」


バランスを崩してこけた。


「危ない!」




「…………」


「…………」



固まっている二人。

特に、ルカは動けない状態でいた。


「……ねぇ美空」


「何だ?」


「どいてくれないかな?いや、それより…



何をどうしたらこんな状態になるの?」


ルカは美空に押し倒される形になっているのだ。


「どうしてこうなったのかは私にも分からん!!」


何故こうなったのかは美空にも…いや、誰にも分からないようだ。


「……まぁいいや。とりあえずどいて欲しいんだけd「断固拒否する!!」


「何故!?」


「何故って……君が悪いんだ」



美空はルカを見つめる。ルカの目は涙で潤んでおり、少し震えていた。

そんな姿を見て…



「フフフフフフ」


獲物を見つけた狼の目をしていた。



「みみみみ美空?」


決して美空が恐いわけではない。しかし、ルカの体は小刻みに震えていた。


「フフフフ…いいぞルカ。今の君を見ていると、なんかこう……ゾクゾクする」

息を荒くし、笑みをうかべ、ルカをさらに強く押さえ付ける美空。


「なな、何するつもり?何で笑顔なの?ねえ、美空?」

「フフフフフフフフフフフフ」


「美空?手の動きが怪しいよ?って、うわぁぁぁぁぁ!!」




ずっと美空のターン!!









「ルカぁ、そろそろ出番…よ……」



ママさんは見た。

息子が襲われている所を。



「……あら、昼間っからこんなところでだなんて……最近の若い子は大胆ねぇ~」



ママはニコニコしてルカ達を見ている。

美空は顔を真っ青にしてルカの上から降りた。


「ご、ごめんなさいママさん。私「するのはルカの発表会の後に好きなだけしていいから、とりあえず会場に行きましょうね」


「母さんこれは違「ルカは早く控室に行って準備しなさい!!皆楽しみに待ってるんだから」



今度はずっとママのターン!!


「あ、美空ちゃん。後でルカの弱点教えてあげるわね」


「ありがとうございますママさん!」


2人は会場に向かって行った。






「僕どうなるんだろう……」


一抹の不安を抱えながら、ルカは自分の控室に向かった。



---------------------




パーティー会場は沢山の人で賑わっていた。

オルネイズ家に雇われた数十人のコック達が絶えず料理を作り続けているため、会場には豪華な料理が振る舞われていた。


そして今、美空やママはもちろん、沢山のゲスト達も会話を止め、厨房のコック達も手を止めて会場に来ていた。










会場全体が幕の降りたステージを見ていた。




しばらくして、会場にブザーが鳴り響き、映画館のように暗くなっていく。明かりはステージのものだけとなった。


そして、会場からの拍手と共にゆっくりと幕が上がり始めた。



しかし、幕が上がりきる前に拍手は小さくなり、消えた。その代わりに会場はざわめき始めた。


姿を表したのはルカと翼の無いアカリ。そこまではよかった。

拍手を止めた原因は…






一緒に出てきた04小隊の面々。















そして、ルカとアカリを含めた彼らの格好だった。


アカリ以外はパーティー会場に似合わないカジュアルな服装。

そして、同じくパーティーには会わない楽器。


ルカとテラムはエレキギター(メインはルカ)


ゼオンはドラム


リッヅはエレキベース


マークはキーボード




そして極め付けは











バニーガール衣装のボーカル

アカリ




まさかのバンド演奏に会場には歓声が沸いた。
















「みんな!ありがとう!!」


アカリのMCも冴え、ボルテージ最高潮のまま幕が下りた。


アンコールはあったが時間の関係で応えなかった。
















えっ、歌った曲?そりゃもちろん『Go(お察しください)』と『Lo(お察しください)』ですとも。




幕が下りて十数分後。やっと静けさを取り戻した会場に再びブザーが響いた。

人々の目がステージに集まる。




現れたのはバイオリンを手にしたえんび服のルカと、純白のドレスを着たアカリ。


さっきとは雰囲気が180゜違う二人、特にアカリに視線が集まった。


二人は一礼し、ルカはバイオリンを構えた。




無音だった会場に綺麗なバイオリンの音が響き始める。

最初はバイオリンの独奏。

その音色は人の心に癒しを届ける。




曲が進むと、今度はアカリの独唱。

その歌声は癒された人の心を揺れ動かす。





そして、ルカがアカリの歌声にバイオリンの音を重ねる。響き合う二つの音は調和し、段々と一つの音楽になっていく。

その音楽は動き出した人の心を開き、体中を駆け巡っていった。




















何書いてんだ?俺(ぶち壊し)










二人の演奏は大きな拍手で幕を下ろした。そして、それと同時にパーティーも終了を迎えた。ゲストの人々は心満たされて帰っていく。






控室


「ルカ!演奏すっごくよかったぞ!」


美空が凄い勢いで入ってきた。

そして勢いよく


「ルカッ!」


「ガフッ」


ルカを抱きしめた。


「見事な演奏だったぞ!感動したっ!」


「ん~んン~!!」


美空の胸で溺れているルカ。


「何だ?もっとか?仕方ないなぁ」





「ちょっとアンタ!ルカが嫌がってるじゃない!離れなさいよ!!」


割って入ったのは空気と化していたアカリ。


「むっ……ん?君は確かルカと一緒に私達を助けてくれた……」


「ああ、あの時の……」


むっとしながらも笑顔になった美空。それに対してアカリは警戒心を剥き出しに美空を睨んでいた。



ここで、美空とアカリの口論をノーカットでお送りしよう。




「ああ、君は確かルカと一緒に私達を助けてくれた……」


「アカリよ!それより今すぐルカを離しなさ「そうかアカリというのか。あの時はありがとう。おかげで助かった」


「えっ…あっ…その……き…気にしなくてもいいわ!でも感謝の気持ちは受け取っておくわね…………って、そうじゃなくて、ルカを離しなさい!」


「断る!!」


「なっ…私はあなたの恩人よ!?ありがたいと思ってるならさっさと離れなさいよ!」


「うっ……それは……」



「さぁ、早く離しなさい」

「……!!…それとこれとは話が別だ」


「なんですって!?」


「それに君は言ったじゃないか












『気にしなくてもいいわ』と」


「なっ!!そんな事私は「言っただろう?」




「…………くっ」



ゲームセット

勝者美空!!



アカリは膝から崩れた。


「アカリ……」


「す、すまない。少し言い過ぎたようだ」


ルカはアカリに近寄ると、頭を優しく撫でた。

すると、アカリはゆっくり顔を上げた。顔が真っ赤だ。














「そろそろ帰るわ!時間だし。…………また近いうちに喚びなさいよねっ!」



ルカに10分ほど頭を撫でてもらったアカリは復活して美空と睨み合っていた。

そしてたった今、光の向こうに帰っていった。

「美空!次は負けないんだからねっ!!」という言葉を残して。




「フフフフフ…次も私が勝つさ」


ニヤリと笑いアカリに応える美空。

ルカは酸欠でふらつきながらアカリを見送った。

いつ胸から開放されたかって?


ついさっきである。




「さて……」


アカリが使った光が完全に消えると、美空はルカの方に振り返る。


「さぁ、さっきの続きをしようか……ママさんから許可も貰っていることだしな」


ニヤリとしたままルカに近づいていく。




「美空!」


笑顔の美空に真面目な顔で向き合うルカ。


「な、なんだルカ?そんな真顔になって……もしや!…いや、でも…」


美空はルカをみて顔を赤くして、何やらブツブツ言っている。



しばらくして美空は恐る恐るルカと目を合わせた。

ルカは目が合うと、笑顔を見せてこう言った。






「ようこそオルネイズ家へ」






ルカの言葉に美空は目を丸くした。そして再びニヤリと笑った。


「……それは私をオルネイズ家に迎えてくれる……つまりルカからのプロポーズとみて良いのだな?」


美空の応えで自分の言葉に恥ずかしくなり顔が赤くなるルカ。


「えっ……いや、そういう意味じゃな「冗談だ。でももし本気なら私は喜んで受け入れるぞ」


ルカはさらに赤くなる。

そんなルカを見て、美空はさらにニヤニヤする。


「フフフ…本当に君は可愛いな。さぁ、もっと可愛い所を私に見せてくれ。フフフフフ……」






ルカは再び酸欠に陥ることになった。









こうして、表向きは『オルネイズ家主催の晩餐会』真意は『美空・美海の歓迎会』


は幕を下ろした。






え?ルカがどうなったかって?






とりあえず貞操は守れたようだ。






『貞操』って男にも使える言葉だっけ?


まぁいいや、ルカは女っぽいし。

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