K-8『章タイトルを3日間考えて結果これ…』
「えーと…………無いなぁ……」
日の光は天井に達するぐらい高い棚に遮られ、部屋の中は薄暗い。その高い棚には大量の書物が積まれている。
そんな中、小柄な少年が何かを探していた。
「ん~……ん!?あった、これだ」
頭上の棚にお目当ての物があったようだ。
しかし、いくら少年が必死に腕をのばしてもそれには手が届かなかった。
「うぅ~……あっ」
「これだな」
そんな少年の背中に柔らかい何かが当たった。それと同時に、すっとのびた細い腕が、少年の取ろうとしていた物を棚から取り出した。
「…………」
「ん?どうしたルカ?」
少し不機嫌な表情になる少年ことルカ・オルネイズ。ルカが振り返ると、自分より背の高い綺麗な少女が一冊のファイルを持って立っていた。
「……なんでもないよ。美空」
二人は椅子と机とのあるスペースにやってきて、持っていたファイルを開いた。
そしてページをめくっていく。
「…………」
「…………あ、あった。これだ」
ルカはあるページを指差した。指の先に書かれていたのは…
「ラミエラ!?」
ラミエラ
それは国民には全く知らされていなかった一部の者しか知らない軍の極秘機密。東倭でも表ざたにはされなかった事件。
事件はクロスフロントの南西に位置する軍司都市『ラミエラ』で起きた。
この頃、南西の戦いが激化し始めていた。
その地で数人の兵士と一人の技術者が異国より来ていた軍司を殺害、ヴァラキアへと逃亡した。
その後の調査で、逃亡者とヴァラキア軍との繋がりが判明した。
「えーと……あった」
ルカはページをめくり、ある一行を指差した。
「死者一名、火之内 和一(他国軍司)」
「父上だ!」
美空は立ち上がって大きな声を出した。
「逃亡者は……ダイ・ラジミーロ、ガルア・ラーク、ガービン・ロイゾ、そして首謀者の…………ジェス・フランシカ……」
「ジェス・フランシスカ……こいつが父上の敵」
拳を握り、その名をじっと睨んでいた。
「美空……一つ言っておかないといけない事があるんだ……」
数分間続いた沈黙を破り、ルカが真剣な顔つきで言った。
美空は顔を上げ、ルカの方を向いた。
「この事件、東倭でも表ざたにならなかっただろ?」
「ああ、いくら政府に話しても取り合ってくれなかったんだ」
「それは、クロスフロントが東倭に口止めしていたからなんだ」
「なんだと!それはどうゆう事だ!?」
ルカに詰め寄り、問いただす。
その後、美空を落ち着かせるのに10分かかった……。
美空が落ち着きを取り戻した後、ルカはゆっくり話し始めた。
「美空がこの国に来た目的を話してくれた夜に、父さんに協力してもらうために話したんだ」
「そうか。で、お父上は何と?」
「協力してくれる……むしろ、させてくれと言っていたよ」
「本当か!?それはありがたい」
それを聞いて笑顔になる美空。
「ただ……一つだけ条件がある。
ジェス・フランシスカはクロスフロント……いや、オルネイズ家で裁かせてほしいんだ」
美空の笑顔が消えた。
「どうゆうつもりだ!!?まさかとは思うが奴を助けるつもりじゃないだろうな!!?」
「そんなつもりは無い!!」
二人の大声は広い書物庫に響く。
「父さん曰、
『奴は死刑確定のうりゃっ……裏切り者……
オルネイズ家最悪の汚点だ』
……だって」
大事な場面で舌を噛んだハパの台詞をそのまま伝えるルカ。
「オルネイズ家の……ってことはまさか!」
美空が理解したルカの言葉の意味。そう…
「ジェス・フランシスカの名は書類上の偽名。奴の本当の名はジェイス・オルネイズ
父さん実子。僕の義理の兄だそうだ」
美空の頭には、今の話しだけでいろいろな疑問が浮かぶ。オルネイズ家が事件に関係している事も気になったが、そのまえにこっちの疑問が声に出た。
「実子?義理の兄?……もしかして君は……」
「そう、僕はオルネイズ家に助けられ、拾われた……
養子なんだ」
複雑なオルネイズ家の家庭内事情は一言では説明しきれない。
「それで……僕たちの協力は必要?」
ルカは暗い表情で美空に問い掛ける。
問われた美空は迷っていた。
ルカ達は父親の仇の一族。仇は裏切り者とはいってもオルネイズ家の実子。
はたして、完全に信じていいものか……。
しばらく無言な時間が続いた。
そして美空は口を開く。
「君は……ルカはいいのか?義理とはいえ兄を殺されても」
少し黙るルカ。しかし、すぐに話し出す。
「かわまないよ。兄とはいっても、僕がオルネイズ家に拾われたのはこの事件の後だし……会ったこともないからね。それに……美空の敵であるジェスを兄と認めたくない!!」
「私は……迷っている。オルネイズ家を信じてもいいものかと……」
「そっか……」
再び沈黙が訪れる。
そしてしばらく後、ルカは美空と視線を合わせ、口を開いた。
「美空!」
「な、なんだ?」
真剣な目で見つめられて、こんなシリアスな雰囲気だというのに、美空は顔を赤く染めた。
ルカは何かを決意し、美空を見つめたまま話し始めた。
「僕は……僕の事も信じられない?」
「いや、君は私の恩人だし、さっきの言葉に嘘は見られなかった。」
美空の言葉を聞いたルカの視線はさらに強くなった。
「それなら、オルネイズ家を信じきれないなら……僕を……僕個人を信じて欲しい!!」
「えっ!?」
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「…………はぁ……」
白いシーツの上に寝転がりため息をつくルカ。
書物庫から出てきてから小1時間、ずっとこうしてため息をつき続けているいる。
ルカの寝転がったいるダブル……いや、トリプルベッドの周りには、色々な種類の楽器が置かれていた。
そう、ここはルカの部屋である。
広々とした部屋の面積の半分は楽器の為のスペースになっついる。部屋の中の物は綺麗に整えられ、ゴミ一つ落ちていない。
荷物が散らかり、洗濯物が取り込みっぱなしになっている、男一人暮らしの6畳部屋とは月とスッポンの差が……
失礼しました。
『すまない』
書物庫での美空の言葉が頭の中を廻る。
『君を信じたい。……信じたいのだが、やはり信じ切れない自分がいるんだ。……ごめん』
美空はこう言って、ルカを残して書物庫を出て行った。
美空とルカはまだ知り合ったばかり。しかもルカは美空の敵の弟だ。
そんな簡単に信じてもらえるわけがないことをルカだって分かっていた。
しかし
「分かってるんだ。分かってるんだけど……なんでこんなに悲しいんだろう。なんで……」
こんなに苦しいんだろう……。
その訳は今のルカには分からなかった。
「はぁ……」
考えても考えてもため息しか出てこない。かれこれ1時間はこうしているルカ。
[楽器でも弾いて気を紛らわそう。こうゆうときはこれが一番さ]
ルカはベッドから降りて近くにあったバイオリンを手に取った。
「……そうだ。アカリ出て来て」
ルカがそう呟くと、部屋の中心が輝きだした。そして、翼の生えた少女が姿を表した。
「あああああ、アカリ?」
出てきたアカリはものすごく恐い表情で……
「…………ルカのバカァァァ!!!」
「ブファァ!!!」
ルカをビンタで吹き飛ばした。
「喚ぶの遅すぎよバカルカ!……昔は毎日でも喚んでくれたのに……五日間も音沙汰無しなんて寂しいじゃないのよバカァァ!!」
フンッと顔を逸らすアカリ。吹き飛ばされ、倒れていたルカが立ち上がろうとしたその時、ルカの部屋の扉が開いた。
「お兄ちゃん、よるごはんの時間だよぉ」
オルネイズ家のアイドル、レミアだ。
「あぁ!!アカリお姉ちゃん!久しぶりぃ~」
「本っ当にひ・さ・し・ぶ・り・レミアちゃん」
アカリは「久しぶり」の部分を強調するときルカを睨んでいた。
あまりの迫力に震えるルカ。
[そうとう怒ってるなぁアカリ]
「ゴメンなアカリ。でも、これから御飯だからまたあt「アカリお姉ちゃんもごはん食べていくぅ?」
可愛い天使が天使に言った悪魔の言葉。
ルカにはそう思えた。
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「アカリお姉ちゃん残念だったねぇ」
「あ…うん、そうだね」
あの後、アカリは晩御飯の誘いを断って帰って行った。天使の食事は人間とは違う為だ。
現在、食前。
リビングで全員集合!ってな感じ。
「母様~今日のごはんなぁにぃ~?」
「牛肉と人肉どっちがいいかしら?」
「父さんまた食卓で仕事の話したんですか?」
「いや、パパさんは…」
「『パパ』って言ってくれるからって美空ちゃんに抱き着こうとしたから……ちょっとね」
「パパって呼んでくれぇ~!!」
美空が加わり、オルネイズ家の食卓は賑やかさを増していた。
その後、キッチンの奥から断末魔の叫びが聞こえたとかないとか……とりあえず、食べ始めた時にパパは居なかったのは……うん、知らない。食卓に出された肉も牛肉……のはずだ。
「あの……ルカ」
食事を始めて数分、美空がルカに話しかけた。
「何?」
「あの……その……さっきはすまなかった。あの話……前向きに考えようと思うんだが…いいか?」
箸を止め、美空を見つめるルカ。
朱く頬を染める美空。
「……もちろん。待ってるからね美空」
ルカは笑顔で答えた。