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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
20/35

S-8『SAN値の急降下にご注意ください』

「なんか、Sで破壊してKで治すっていう態勢が完成されつつないですか?」


「何の話をしてるんだお前は」


「pixivって掘り出し物の宝庫ですよね」


「なんで画像投稿サイトに話が飛ぶんだよ」


「時々思うんですけど、『ゼロの発見』ってそんな騒ぎ立てるような偉業でもなくないですか?」


「インド人に謝れ」




いつも通り出勤時間に会社(クトゥルフ邸)に向かったら、テーブルにアンチマテリアルライフルが放置されているだけで、今日の仕事は無しと知ったシグルトである


まぁ、遭難状態から生還した直後にまたどっか行けとか言われたら、あのライトパープルの髪をばっさり切り取ってリボンを結びバルサミコ酢でも持たせた所だったが



そして現在、シグルトはネアを担ぎ、市街を歩いていた


いや、本当ならこんなバカでかいライフルを持ってくるつもりは無かったのだ


あまりに暇だ暇だと連呼するので仕方なく連れてきた次第である


どうせなら1人でまったりしたかったのに


「つれないですねぇ、熱い抱擁を交わした仲じゃねーですか」


「あんな冷たくてゴツゴツしたものを抱擁とは認めん」


まさしく無駄としか言いようの無い無駄話をしながら、1人と1丁は商店街に入る



まずは、消耗品各種の買い足し



店に入ってきた凶器持ちの男に雑貨屋店主は絶句したが、戦時中にそんなシチュエーションは付き物である。すぐに落ち着きを取り戻した


とりあえず、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー


「どんだけ紙好きなんですかあんた」


「うるせ」


いきなり別の声がしたためまた店主が妙に首を振り回していたが、まさかライフルが喋っているとは思わなかったらしい。在庫確認の作業に戻った


一通りの品を抱え、レジまで持って行く


店主はすぐに寄ってきて勘定を開始




と、近くの棚に絆創膏ばんそうこうを見付けた


またお嬢様が大雑波料理を作って手を切るだろうから、買っておこうと手を伸ばす


「……ん?」


花柄の装飾が入ったカラフルなやつを発見


珍しい、傷口に貼るだけのテープにこんな趣向を凝らすとは


相手は年頃の女性だし、こういう物の方がいいかもしれない


紙袋に詰められていたそれを掴み、勘定に足してもらった


「……似合いますかねぇ…」


背中から何か聞こえたが、無視


会計を済ませ、袋を抱えて外に出る


「おや…?」


茶色の短髪に黒いカチューシャを装備した、ないすばでぃなお姉さんと遭遇した


「一緒にいないっていうのも珍しいね」


「え?」



何が一緒にいないんだろう


シグルトは周囲を見回す


ああ、フィリーネがいない


確かにずっといたはずだ、少なくとも読者感覚では


「そりゃ四六時中一緒にいる訳じゃないですよ」


「そうかい?」


同じく買い出し中だったのだろう、メイ・F・リヒトホーフェンはシグルトと似たような紙袋を抱えていた


中身は、本のようだ


暇な時にでも読むのだろう


「遭難事故ってのはさすがに疲れましたから、今日くらいはあのお嬢に振り回されるのは勘弁願いたいですね」


「ふぅん…………あぁ…」


何か閃いたように声を出し、メイの表情が微笑みに。いや元から微笑んでいたが、今は輪をかけてにっこりしている


「まぁ、努力は感じたんだけどね。とりあえず胃薬は用意しておいた方がいいと思うよ」


「は?」


何の脈絡も無いものが出てきた


なぜ、胃薬


宴会後の胃もたれをすっきり消し去りたいのだろうか

「めーちゃんめーちゃん」


とか意味不明な事を考えていると、背中のライフルが声を上げた


「めーちゃん…?」


「うん?」


小学生がつけたようなあだ名である


「最近…ボカロネタ多くないか…?」


「大丈夫、そのうち飽きるから」


「誰が…?」


そこまで話してから、メイは距離を詰める


1メートルほどだろうか、会話にまったく支障が無くなるまで近付いてきた


「今日は何を?」


「少し機体の整備をね。要約すればただの買い出しなんだけど……あぁ、丁度いい、少し手伝ってくれるかな」


「ですって」


「俺かよ」


手足の無いライフルに言うはずがないので最初からわかってはいたが、とりあえず言っておく


「見くびらないでください。私はあと2つ、変身の可能性を残しているんです」


「どこのラスボスだお前は」
























「…………」


商店街


八百屋やら精肉店やらがずらーっと並んでいて、3丁目の夕陽的な光景である


そこで主婦とかおばぁちゃんとかがバッグ片手に練り歩き、目当ての品を探し回っていた


とある中規模な洋館で家事全般を担当しているエレンも例外ではない



が、イレギュラーが2人



「カニはどうだカニ」


「んー……」


クトゥルフは自身の顔より巨大な甲羅を引っつかみ、それを見てフィリーネが呻いている


その他購入したものの例を上げると、牛肉の塊、マグロのブロック、高そうな米、高そうな野菜、高そうな高い食材



「…………」


出費はすべてクトゥルフ持ちなので文句は無いが


もう少し最終到達目標をはっきりさせたらどうなんだろう


まぁ、後が面白そうなので放置しておくエレンである


「…………腹黒?」


なんじゃねーの?



















「おー……」


到着したのは機械屋だった


いや、工房だった


むしろもう工場だった


というか、間違う事無き大工場だった


海岸に隣接したバカでかい工場を見上げ、それからシグルトは隣のこれまたバカでかい広場に視線を移す


戦闘機爆撃機雷撃機偵察機輸送機油槽機艦戦艦爆艦攻艦偵水上機飛行艇エトセトラ


軍用に区別されるすべての航空機が、できたてほやほや状態で整然と並んでいた


普通は種類別で工場を分けて生産するものだが、数ヶ月前に陸軍の工場が壊滅したため、海軍用のこっちを増築した結果、こんな巨大工場が完成した次第である


ここも爆撃を受けたらどうするつもりなんだろう


詳しく話すと土地不足とか海軍が発言権を欲した結果とか細かい話になってくるので割愛するが、とりあえず工場はシグルトの目の前に存在していた


「ここで…何を…?」


「うん、ちょっとパーツを買って運んでもらうだけだから、変な想像しなくていいよ」


「パーツ……エンジンとか…?」


「人力で運べるのかな、それ」


例によって消耗品らしい


防塵フィルターとか、潤滑油とか


「ま、車までなんだけどね」


言って、メイが入口へ歩いていく


常連のようで、従業員に挨拶されていた


あくまでここは工場で、店ではないのだが


「買うっつーか横流しでしょーよ、送られてきた部品を組み立てるだけな訳ですし、ここでは」


「あぁまぁ…確かにな…」


新品を作るための物をわけて貰う感じである


政府承認なので、"極めて合法的"な横流しだ


「見学します?」


「いや…やめとこう」


暴走しそうな気がする、主に作者が



「おーい」



既に目的を達成したのだろう、台車2台分に何かよくわからないものを目一杯積み、シグルトへ手を振っている


「それじゃ、お願いするよ」


台車1台が渡された


「へーい」


駐車場までなのでそう遠くはないが


「つーか、よく金尽きないな、こんな量ドカドカ作って」


「土地が肥えてるからね。地下資源も豊富だし、まぁいつかは尽きるんだろうけど」


1ヶ月で500機は作るだろうか、この工場


兵器をどれだけ作っても人がいなければどうしようもないのだが、この生産力は第二次大戦時のアメリカに匹敵している


この不利な戦況下でクロスフロントが未だに踏ん張っているのはこれのおかげだろう


同時に、敵が息切れした直後に形勢がひっくり返ると、そういう意味だ


「そもそも戦争なんかしなけりゃいいのに」


「そうだねぇ、全人類が君みたいな万能人かつ楽観主義者だったらこんなものは必要無いんだろうけど」


「褒めてんですかけなしてんですか」



微妙な所だ















「……あのぅ…」


「む…?」


放っておくつもりだったが、そろそろツッコまねばなるまい


このままでは、エレンの領域である台所が大変な事になる


「何を作ろうとしてるの…2人共…」


「料理」


なんでも刻んで焼けば料理になると思うなよ


というか、今クトゥルフの腕に抱かれているドリアンは、どう考えても料理には必要無い


「……まず目的をはっきりさせましょう。具体的には何を作りたいの?」


「何、と言われても……」


明紫髪と銀髪は揃って首を傾げた


怒りが込み上げて来たが、我慢して話を続ける


「じゃあまずメインを決めましょう。いい牛肉があるからこれでいいとして、サイドメニュー…も揃ってるね。もう買うもの無いじゃない」


「ちょっと待てもっと詳しく話せ素人がついていけない」


買うもん買ったから帰ろうと言ってるだけなのだが


本当に、なんで喋り方と戦闘能力以外は小学生並なんだろう、このご主人様は


「とにかく、食材はいいから練習しようって意味です」


「ほう。だそうだがどうする?」


と、フィリーネに振る


主婦(的な感じ)の言う事には従っておこうと思ったのだろう、頷いた


「では帰るか。……ああ、その前に最終手段を手に入れなければ」


「何ですか?」


「エロゲー。……おごっ!!!!!!!!」















迷子の子猫がいる


「…………」


相対するのは赤髪のニート


まだ右と左もわからないような年齢だからか、野良猫にしてはやけに人懐っこく、なー、とか鳴きながらテルノアに寄ってきた


子猫の前にしゃがみ込み、頭をつついてみる


逃げない


「……マクシミリアン・テルミドール」


即座に命名し、抱き上げた















「水没しそうな名前だなオイ」


「何がっすか?」


「いやなんでも」


なんやかんや買って家に荷物を置き、クトゥルフ邸まで戻ってきたシグルトである


気付けばAMがPMに変わる直前で、今頃は藍髪でちょい腹黒な家政婦さんが昼食を作っているはず




なのだが




「あ……」


エレンは何かする訳でもなく、廊下で右往左往していた


相当困った顔でシグルトを見つけるなり、まずったとばかりに寄ってくる


「どうかしまし……」


「にっ…逃げてぇ!!」


「何故!!!?」


強制的にUターンさせられ押されていく


「本当に何!?」


「家事担当としてこれ以上の犠牲者はっ!!」


犠牲者って何の犠牲者だろう


GKBRでも出たんだろうか





「無理!!無理ですって!!!!ただの炭化した肉じゃないですか!!!!」


「ええい大の男がうだうだと文句ばかり言いおって潔く口に入れろ!!」


「まず自分で味見してくださいよ!!」


「無理だ!!!!」


「じゃあ人に勧めないでーーーッ!!!!!!!!」



そんな口論が聞こえてきた



「……外食を…」


「…………そうします」




頑張れ、ジェラルド

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