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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
17/35

S-7-2『ン・カイで眠るもの』

クトゥルフ邸


「………ー…!!」


給湯室にて、藍髪をポニーテールにした女性が、急須とにらめっこしていた


中身は緑茶だ


茶葉を大量使用していて、かなり濃い


それをこぼさないようにゆっくりと急須を揺らし、濃度を均一にしてから、湯飲みに緑茶を注ぎ入れる


湯飲みの底が見えない、抹茶もかくやという濃さの液体が出てきた



「お茶を……濁す……!!」















「いやそういう意味じゃないでしょーよ」


「何がだ?」


「あ……いや……」


その奇怪な行動に、思わず世界の法則を無視してツッコんでしまったシグルトである



エレンがお茶を濁している間に、一行はジャングル脱出まであと5km地点に到達していた


まぁ、文章の構成的に、読者視点では゛15kmほど瞬間移動した゛ようにしか見えないだろうが、それはそういうものだと割り切って頂くとして


「しかし、呆気なかったですね」


「んぁ?」


「サバイバルって言ったら、巨大ヘビと格闘とか水の確保とかやると思ってたんですが」


ジェラルド、アニメの見すぎだ


いや、この世界にテレビはまだ無い


言い直そう



ジェラルド、ラノベの読みすぎだ



「森の主と遭遇ってか?実際にいるとは思えねえけど」


「そりゃそうだ、そういうのはちょっとしたことが拡大解釈されて後世に伝わったものだからな」


例えば、ちょっとでかかっただけのウナギが巨大ウナギになるとか


「そうですよねぇー、ははははは」


「あはははははははははは」


と、全員(フィリーネ除く)で笑い飛ばす


ひとしきり笑った後


ネアがぽつりと呟いた


「…………いますよ?」


「……What?」




地鳴りがした


次いで、バキバキと木が倒れる音


「は……走れぇ!!!!」


言われるまでもなく走り出す



その後方で、轟音と共に樹木を薙ぎ倒し、20メートルはあろうかという巨大な生物が現れた


ヒキガエルのような顔。しかし体は茶色い毛で覆われ、背中には蝙蝠の翼



「なっっんじゃありゃぁぁぁぁぁ!!!?」


「ツァトゥグアーですよ。ほら、可愛らしい顔してるでしょ、あれツァトゥグアーの顔ですわ」


カエルもあんだけデカくなったら愛らしさなど微塵も無くなるだろうに


しかし、なるほど


トト〇に似てない事もないな


「どうもお腹が空いてるみたいですね」


「何食べんの!?アレ!!」


「肉なら何でも」


ネアだけやけに落ち着いてる理由がよくわかった


「とにかく!!広い場所まで出るぞ!!」


「了解った!!」















「……はっ…!」


あまりにも濃すぎるんで放置しておいた緑茶の湯飲みが、ひとりでに割れた


「っ……」


暇潰しにやっていた刺繍を止め、エレンはそれを見る


見事に真っ二つだ


焼き物のそれはからからと音を立てて転がり、中身が周囲にぶちまけられてしまっている


割れた湯飲みを手に取り、それを隅々まで見回してから


「…………お掃除お掃除~……」


雑巾を探し始めた















北の端にある町、の外れ


「…………」


赤い髪の少女は、荒れ地で1人、火を焚いて魚を焼いていた


「…………」


………………


「………………」


……………………


「……………………」


ちょっとあの、絵面的には面白いんだけどこれ小説だから。なんかアクション起こしてくれないかな


「…………?」


ああ振り向いた。うん、焼き上がる所から描写しなかった作者も悪いんだけどさ、じーっと火見つめてるだけじゃ色々と駄目な訳よ


「……(フイッ)」


ああっ!無視しないで!無視は立派ないじめです!


「~……(フリフリ)」


そんな"また後で"みたいに手振られても困るんですが


「…………!(パ~ン)」


上手に焼けました~。……モ〇ハンか!!



「はぁ……」


男が1人、溜息を吐きながら近付いてきた


黄色混じりの白っぽい髪をロン毛にした、ヴァラキアの軍服男である


身長は170センチと少し。平均よりかは高い方だ


「…………」


その男は少女に気付かず正面を通過しようとし


焚火に右足を突っ込んだ


「ぅ熱っっつぁぁぁっ!!!?」


燃え盛る右足を消火するべく、近くの川にダイブをかます


現在気温、16℃


「冷たっ!!!!寒!!さっむ!!!!」


「…………バカ…?」


1人でハシャいでいるバ男をひとしきり眺めた後、何事も無かったように焼き魚を食し始めた


脂が乗ってておいしい


「あ゛ー……。ちょ…ちょっと当たらせてくんね?」


バ男が再び近付いてきてそう言う


「…………」


無言で、どうぞとジェスチャーを送った


「すみませんねぃ…」


ついさっき自分の体を焦がした火に当たる



バカだ



「こんな所で何してんの?」


「……魚焼いてた」


「いやそりゃ見ればわかるけど」


むしろお前がこんな所で何してるんだ


ここはクロスフロント領で、しかも前線からほど遠い


着崩しているとはいえ、ヴァラキアの制式軍服を完全装備だ


「あ、俺はハスターな。ハスター・ブルグトム」


「…っ……」


少女は僅かに反応


ハスターさんに視線を送り



きっと無害



そう結論を出すと、魚肉の咀嚼に戻った


「お名前は?」


「…………テルノア…」




まぁ、偽名だけど




「1人?」


「…………」


ナンパか


それとも何も考えていないのか


きっとバカだからだろう


軽くあしらってみる



「私に惚れると火傷する、べいべー」


「は?」















ドガガガガ!!と、大木を薙ぎ倒しながら、ツァトゥグアーは草原へ踊り出た


「いや出ちゃ駄目だろ森の主!!!!」


「住んでるってだけでしょ!?」


まずクトゥルフがナタ片手に突っ込み


その少し後ろ、ジェラルドはネアを脇に挟み、左側からグリップを引き出して抱え撃ち体勢を整えている


さらに後方に、シグルトとフィリーネ


「降ろすぞ」


草の上にフィリーネを座らせる


「ちょっと待ってろ、片付けてくる」


「ぁ……」


何か言いたそうな顔をしていたが、気付かず


ヨグソトホートを握って駆け出した


ジェラルドの真横を抜ける


「へっ!?」




バッゴォォォォン!!!!




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」


鼓膜が破れるかと思った



「耳栓無しで対物狙撃銃に近付くなバカーーー!!!!」



背後でフィリーネが叫んでいる


そんなもん知りませんよ、剣兵風情は


「侮様ですよおにーさん」


「……まったくその通りだな…」


倒れていたのを、耳を押さえて立ち上がる


クトゥルフが毛むくじゃらヒキガエルと格闘していた


武器はナタ1本


なぜそうリアルな物を好むのか


「早く行って下さいよ撃てねーんですから!!」


「ああああ……」


とりあえず走った


近くで見るとさらにでかい


いいんだろうか、こんなもんが存在して


「本来の生態系とは無関係だな、宇宙人だとでも思えばいい」


クトゥルフはシグルトの横に着地し、右手に持つナタを確かめる


これでは倒すのは無理


「少し耐えていろ」


それだけ言って離れていった


「……え…?」


やけに長い腕が降ってくる


「うおおっ!?」


草原が破壊された


体長20メートル、体重もそれなりにあるだろう


まだぺしゃんこにはなりたくない


「この…!!」


その腕にヨグソトホートを叩き付ける


遠心力を使った165センチの斬撃は、ツァトゥグアーの表皮を破って血を滲ませた


「本当に生物か!?」


「生きているのだから生物だろう。もっと珍妙なのがそこにいるしな」



後ろから「うるせーですよー」とかいう声が聞こえてくる



一旦下がってフィリーネのアトラクナクアを引っつかみ、クトゥルフは戻ってきた


小さな左手1本でグリップを握っている


一応、部類は自動小銃アサルトライフルで、全長は80センチと少しあるのだが


拳銃と同じ扱いだ


「それの力は使うなよ、後が面倒になる」


「へーい」


さっきの腕が再び上がり、落ちてきた


それぞれ左右に飛んで避ける


「ファイアーー!!」


高威力エネルギー弾が飛んできて、ツァトゥグアーの胸に直撃した


大穴が開き、血が流れてくる。ついでに呼吸が辛そうだ


「ふッ!!」


毛むくじゃらの腕にナタを引っかけ、クトゥルフが登っていく


「じゃあ俺は足か!!」


少しでも機動性を奪っておこう


腹の下に潜る


ネアの第2射が頭に当たって、何か鈍い音がした


考えない事にして、ヨグソトホートを右足に突き刺す


肉が異常に硬い


食ってもまずそうだ



「避けて!!!!」



後ろでジェラルドが叫んだ


「……ん…?」




カエルの後ろ足はすごく強い


そしてすごく速い


「ひゃっほう!!!!」


蹴りが頭を掠めた


「トドメはこちらで刺す!!囮をやっていろ!!」


クトゥルフが叫んでいる


「はっ…!ひっ…!!」



心臓がバクバク言って返事できなかった











「楽しそうだな……」


下でハシャいでいるシグルトを眺めつつ、クトゥルフはツァトゥグアーの肩まで到達した


さっきネアの弾が命中し、上あごの一部がちぎれている


そのネアは現在、味方が張り付いた事もあって射撃を停止中


当たり前の判断だ。クトゥルフだって流れ弾で上半身ポーンとかされたくない


「まずは……」


首筋にナタを突き立てる


皮が少し破れただけだった


「ッ…!!」


ツァトゥグアーが暴れ出す


背中の体毛を掴み、衝撃に対処


下を見ると、シグルトは離れている


囮に飛びついた訳では無いようだ


「そうかそうか、ここが弱いか」


暴れが収まり、激しくSな顔をしながらナタを捨てる


ガシャンと、アトラクナクアのスライドを往復させた



「加減は、せんぞ?」




ラピットショットという技を知っているだろうか


ショットガンで用いられる技法で、トリガーを引いたまま、スライドレバーをガシャコンガシャコンガシャコン!!と動かしまくることによって散弾をぶちまける、凶悪な射撃法だ




それをクトゥルフは、ツァトゥグアーの肩に陣取り、ほぼ真下に向けて実行した


「ふふはははははははッ!!!!」


ドン!ボン!バヅ!と、破壊音が続く


6発撃ちきって、弾を音速で補給し再度ラピットショット


8発目あたりから、何か液体をぶちまけるような音が混ざり出した


「ジェラルド」


「は…はいぃ!?」


いきなり名前を呼ばれて声が裏返る


残弾ゼロになったアトラクナクアが宙を舞い、ジェラルドの手元に落ちてきた



「それ(ネア)を投げろ」



更に高威力をお求めのようだ


「え…!?ちょま…!!嫌ですよ……なんで投擲フォーム取ってんですか!!!?」


「ごめん……抵抗したら後が酷いんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」


綺麗な放物線を描いて飛翔したネアは、クトゥルフの左手に収まって1回転し、先端を下に向けられる



「終わりだ」




ドッボォォォォォン!!!!










局所的に雨が降ってきた



「…………」


生きる為に餌を探していた結果、生きる事を諦める羽目になったツァトゥグアーは、首の骨が無惨なまでに粉砕されたからか、バランスを失ってシグルトの方向へ倒れてくる




ドッボォォォォォン!!!!




オーバーキルにも程がある。まだ撃った


「ふッ!」


クトゥルフが草の上に着地する


倒れてピクリとも動かなくなったツァトゥグアーは、今いる世界にさよなら、もしくはバイバイ長い夢していた



「片付いたか。丁度良い、昼食にしよう。……どうした?何を黙っている」


そこにいる全員が硬直している


三点リーダーを出す気力さえ無い


「うぅ…ひっぐ……」


ああいや


ネアだけ嗚咽を漏らして泣いていた


いかんせん声だけなので、泣いているかどうかは微妙な所だが


「ふむ……」


状況を考えてから、確実に『Nice boat.』しつつあるツァトゥグアーを見



「少し、やり過ぎたか…?」



ようやくそこに辿りついた


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