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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
14/35

S-6-2『じゃれ合う連中の末路』

「僕は生まれ気付く」


「所詮人の真似事だと」


「知ってなおも歌い続く」


「永久の命」


「VOCALOID」


「例えそれが既存曲を」


「なぞるオモチャならば」


「それもいいと決意」


「ネギをかじり」


「空を見上げ」


シルをこぼす」


「だけどそれも無くし気付く」


「人格すら歌に頼り」


「不安定な基盤の元」


「帰る動画トコは既に廃墟」


「今に忘れ去られる時」


「心らしきものが消えて」


「暴走の果てに見える」


「終わる世界」


「ボーカロ……これ何の意味があるの!?」




なぜ暗いジャングルを歩きながら"BPM240でブレス一切無しの人間様お断りな暴走曲"を歌わねばならないのか


それもライフルと




「いやー、黙々と歩くのもアレかなと思いまして」


「他に何かあるでしょ…」


「ミラクルペインティング♪」


「奇跡のショータイム♪」




なぜ"そこ"だけに限定するんだろう


乗ってしまうジェラルドも人のこと言えないが


「しみじみ自分がオタクだってこと自覚させてくれるね……」


「やーCD出すたんびにオリコン10位以内入ってますから、"これ"=オタクじゃねっすよ。あ、進行方向を右へ5度修正」


背中のライフルに言われるまま、進路を右へ


「行き過ぎです、左へ13度修正」


「人間にそんな無茶言わないでくれないかな!?」


コンパスでも内蔵しているのか、アンチマテリアルライフル『ネア』は角度単位で東を示す


いや、仲間を回収してかつ東への最短脱出ルート、だったか


「まぁまぁそんな怒らずに、歌うたいましょう歌。メルト♪溶けてしまいそう♪」


「好きだなんて♪絶対に言えーなーい♪」


やはり選曲はそこか


ジャングルにオタクとライフルの歌声が響き渡る














「だけどメルト♪目も合わせられない♪」


「恋に恋なんてしないわ♪私♪」


「だって君のことが♪」


「好きなの♪」



前方100メートル、シグルトとフィリーネの耳に、やけに楽しげな歌が聞こえてきた


「…………きめぇ……」


「日本全国のDTM作曲家にケンカ売ってるぞそのセリフ」


ジェラルドが近くまで来ているのはわかった


もう1人変な声がするが、とりあえずそれはいいとして


「うぉーい!!」


「はぁーい!!」


上機嫌な返事が返ってきた


「そのいち♪」


「いつもと違う髪型に気がつくこと♪」


「楽しそうだなこの状況で……」


姿を見せたのは、ジェラルド1人だけ


「…もう1人、違う声しなかったか?」


「ああ、はい」


全長1.4メートルの狙撃銃を見せてきた


「それがど……」


「はぁい」


銃から声が上がる


「はじめましてお坊ちゃま。わたくしの名前はニャ…げふげふ。ネアと申します~!」


自己紹介された


銃に


「……なんだ、夢だったか…」


「うわぁおんなじ反応された!」


そりゃ、金属の塊に話しかけられたら現実逃避もしたくなるものだ


シグルトは『ネア』と名乗ったそれをよく見つめる


送受信機は付いていない。科学的にも、魔術的にも


となると、本当にしゃべっているのか、このライフル


「だって日本刀がしゃべるご時世ですよ?ライフルがしゃべったっていいじゃねーですか」


「その例えは危険だから別の話にしようなー」


例えばネギが似合う電子の歌姫とか


「じゃあじゃあ、『ライフル』って、銃口内にライフリングが刻まれてるからライフルって名前じゃないですか」


「おー」


「私、銃口無いんすけど」


「それは『緑色のオープンカー』を『ジープ』って呼んでいいのと同じ理由だぞー」





と、無駄話はここまでにしておいてだ





「方位はわかってるのか?」


「北があっち、だから東がこっち。至極簡単な理由ですが」


不安になってきた


ネアの指示の元、歩きを再開したはいいが、別に星を見ている訳でもなく


「女の勘です」


という曖昧な理由だった


というか、女だったのか


「性別はありません」


じゃあ女の勘じゃねえじゃん


「ヤック、デカルチャー」


すまん意味わかんねえ


「ところで、今日中にどこまで歩くんですか?」


「あ?」


「日付変わるまでに脱出は無理ですよ」


すでに空はどっぷりと暗くなっている


方角はわかるといっても、危険なものは危険だろう


熊とか


それに疲労もある


爆撃機からの落下時に無茶をやって、フィリーネを背負いっぱなしのシグルトは特に


「そうだな…じゃあもうやめとくか」


歩き始めて30分、再び休憩することにした


思い立ったその場で休む、という訳にはいかない


まず水場の確保、それから雨風の凌げる地形。それらを満たさなければ早々に死ぬ羽目になる


この辺一帯はスコールもあるから、濡れたくなければいい場所を探すのみ


「こんなまっ平らなジャングルでそんな場所あんのかよ」


「ちょっと待って下さい、検索してますから」


「…………」


GPSでも付いてるんだろうか


「ああ、2キロメートル先に沢がありますね」


「…お前、サヴァン症侯群か何か?」


「残念ながら完全記憶能力はねーです」


じゃあどうやってるんだろう


こんなジャングルの地理など知りようが無いというのに


「大宇宙と交信をですね」


「電波か」















「サイビアへの確立されている空路は4本。うち軍用はここかここです」


テーブルに広げられた、縦横3メートルほどの巨大な地図で、エレンはクトゥルフへ現在の状況を説明する


「たぶんシグくん達が使ったのはこっち」


示されたのは、家がある東側海岸から砂漠の真ん中までを直線で結んだルートだ


レーダーもGPSも無かった時代、航路の目安になるのは羅針盤と星と地形だけである


誤差の激しいそれなりの計器しか積んでいない民間航空機は、山や都市などの目立つ地形に沿って迂回するのが一般的だが、高性能計器の塊である大型爆撃機はその必要がない


一直線に飛んでも何の問題もない、それは燃料の節約に直結するし、何より所用時間が短縮される


「……見事に何も無いな」


仮に墜落したとして、最後に健在を確認された場所から、墜落予想地点はジャングルのど真ん中となった


最寄りの町はそこから東へ50キロメートル



直線航路を取ったおかげでこうなった



「なぜ狙ったようにこんな穴場を……」


もうちょっと北を通れば鉱石の採掘場が密集していて、南を通れば幹線道路沿いに集落がずらっと整列している


後で文句を言っておこう


「近接航空支援に従事していたのを当てられたみたいですし、エンジン不調でもおかしくないですよね」


いや、後で殴っておこう




ちなみに『近接航空支援』とは、高度1000メートル以下に留まって、進軍してくる敵部隊や小さい防御陣地を手当たり次第に爆撃する役割だ


現実世界では、破壊神A-10攻撃機などが有名


地上にいる歩兵にとってはまさしく神様のような存在だが、そのぶん被弾率も高い




「大丈夫なんですか…?墜落時の生存率ってゼロに近いんじゃ……」


「いや、そのあたりは奴がなんとかしただろうからな、生きてはいるだろうさ」


問題はどうやって回収するか


最寄りの町まではすぐに行けるとしても、このだだっ広いジャングルをくまなく捜索する術は無い


「いや……」


墜落地点がわかればなんとかなるかもしれない


"奴"の性格が変わっていないならだが


「輸送機を用意させろ、大至急だ」


現在地の見当はついた


後はそこに行くのみ


「いいですけど……」


エレンは窓から外を見る


現在時刻、午後8時


真っ暗だ


「遭難しますよ?」


「…………」




飛んでいく

墜落地点を探す

何も見えない

探し回る

現在地がわからなくなる




そんなオチが容易に想像できた


「呼びます?」


「…………いや…朝まで待とう……」



何と言うか


エレンと話していると、調子が狂うクトゥルフだった















「僕は歌う」


「最後あなただけに」


「聞いてほしい曲を」


「もっと歌いたいと願う」


「だけどそれは過ぎた願い」


「ここでお別れだよ」


「僕の思いすべて虚空消えて」


「0と1に還元され」


「物語は幕を閉じる」


「そこに何も残せないと」


「やっぱ少し残念かな」


「声の記憶それ以外は」


「やがて薄れ名だけ残る」


「例えそれが人間オリジナルに」


「敵うことのないと知って」


「歌いきったことをけして無駄じゃないと思いた……」






バァン!!!!






「少なくとも現時点では無駄だから寝ろ」


「「ラジャー……」」




「…………」


拳銃弾を一発だけ発砲して再び眠りについたフィリーネと、震えながら横になったジェラルドを呆れ顔で見、シグルトは溜息をひとつ


元気だな、この状況で



横を沢が流れ、各々が草の生えている場所に寝転がっている


完全に野宿だ


小さく燃える火に枯れ枝を投げ入れながら、隣にあるアンチマテリアルライフルを視界におさめる


「お前、睡眠とか必要あんの?」


「やー基本的には必要無いんですが、寝ようと思えば寝れますよ」


それは"電源を落とす"とかそういう類のものじゃないのか


「……で、機械か生物か、結局の所どっちだ?。いや、何なんだ?」


「んー…、どっちかと言われれば生物ですけど。お兄さんはこの大陸一帯に伝わってる神話とか知ってますか?」


「あ?」


そういえば、そんなものがあったような気がする


何て言ったっけ、確か"く"で始まって、く、く、く……


「狂っとるー神話?」


「……傷付きましたよ私は…」



まぁ、名前はどうでもいいとして。と、ネアは小さく呟く



「ニャルラトホテプ」


「は?」


「図書館でも何でも言って探して下さい」


それきり、ライフルから声は出なくなった


ヒントか?今の単語は


猫の親戚?


というか、なぜにヒント?


神話、ニャルラトホテプ


残念ながら現状ではまったくわからない


「…………まぁ…とりあえず今はいいか……」


寝てはいないだろう、このライフル


見張りは任せるとして、シグルトも横になった


途端にまぶたが重くなる


思ったより疲れがたまっているようだ


数分と待たずに意識が薄くなっていく


そのまま、夢の中へ






「……知ったら、やっぱり軽蔑しますか?」





そこにいる全員が眠りにつき




その呟きに、答える者は誰もいない

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