K-5-2『始まりの歌と武士』
「……ふ、笛でいきましょ!」
このままだと戦えない。
そう考えたアカリはルカに話し掛ける。顔はまだ赤い。
「うん…なんかアカリ赤K「う、うるさい!さっさと笛を出しなさいよ!!」
慌てて横笛を取り出すルカ。
そして落ち着くために一度深呼吸する。
そして笛を構えた。
ルカが笛を構える直前、ルカとアカリのやり取りをただ見ていた一人の兵士が動き出していた。
兵士は銃を構える。もちろん銃口はルカに向いている。
引き金を引こうとした瞬間、高く、澄んだ音が戦場に響き渡った。
と同時に兵士は宙を舞っていた。
笛の音に合わせて戦場に強弱、方向の違う様々な風が吹いていた。
宙を舞い続ける兵士もいれば、壁や大型の武器にたたき付けられて倒れているのもいた。
「マーチ『酒神の冠』」
「マーチね」
ルカに続いてアカリが光球を作り出した。
そのの中に手を入れ、ルカのより少し大きい横笛を取り出した。
次に3対ある翼のうち2対を腕に変えた。
「こんぐらいないとね」
アカリはもう一度光球に手を入れて、今度は小太鼓とシンバルを取り出し、構えた。
「マズイな…一旦引くぞ」
風の弱い所で戦っていた3人は戦いのルカ達からさらに離れた。
「さぁいくわよ!!!」
アカリはルカの笛に合わせて自分の楽器を一気に奏で始めた。
笛の音だけだった戦場の音楽は一瞬で激しいものに変わった。
その瞬間、ルカの周りの人影は全て消えた。
ルカ達の合奏はさらに盛り上がっていく。
それにしたがって風の範囲が広がる。半数の敵兵は吹き飛ばされ、戦闘不能になっていた。
「…ここら辺もそろそろ危ないですね…」
「おい、ありゃいったい何なんだ?」
背中を預け合いながら戦うテラムとゼオン。
ゼオンは目の前の光景に驚いていた。
「隊長殿の契約魔です。まぁ『魔』というより『聖』ですがね……戦場跡でゼオン殿も見たでしょう?」
「あぁ、だが契約魔は武器での召喚だよな。ヨッ…ハァァ!!!……あの時はバイオリンだったが今は笛だぞ?さっきは指揮棒だったし…」
戦いながら会話する二人。じつに器用だ。
「私も詳しくは知りませんが、隊長殿は特別らしいです」
「ほぅ…やべぇ、範囲が近い。離れるぞ!」
曲が盛り上がりさらに広く激しくなる風からさらに遠ざかる二人。
その後も風とルカ達の音楽は激しさを増した。
やがて、曲の終焉ともに風は止んだ。
「ふぅ、なかなかよかっt「ルカ!!!」
ルカが演奏を終えて一息ついた直後、アカリに抱き着かれた。
「よかった!よかったわよルカ!!さすが私の未来のだん…!!!……だん…」
顔を真っ赤にして固まるアカリ。ルカはそんなアカリを見て首を傾げる。
「だん?だん…何?」
「だん…だ……ダ……ダンブル〇ア」
「え?……僕は魔法魔術学校の校長になる気はn「うるさい五月蝿い!!!また呼びなさいよ!!!」
ルカの言葉を遮って叫んだアカリは光の中に消えていった。
アカリの光球が消えるとゼオン達がルカのもとに駆け寄って来た
「とりあえず中に入って本部を叩くぞ。正面の入口に行こう」
ルカより隊長らしいゼオンだった。
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「こ…これは………」
陣本部のある建物の正面入口にやってきたルカ達は驚愕した。
人だったであろう肉塊と大量の血が辺りの一面に散らばっているのだ。
血生臭い死臭が酷く臭う。見たところ、相打ちのようだ。
「これは…ひどいですね」
「あぁ………ん?」
周囲を見渡していたゼオンがあるものを見つけた。
「いったい何が…」
「どうやらコレを使ったらしいな」
ゼオンが見付けたのは新型の機関銃。しかもかなりの台数配置されていた。
愕然とした空気の中、いち早くルカが動き始めた。
死体の山の中を歩き始めたのだ。歩くたびにびちゃびちゃと血を踏む音がする。
しばらく進むとルカは立ち止まった。
「……生存者を探しましょう。ゼオンさんは機関銃の処理をお願いします。壊しておいた方が…今後の犠牲者を減らせますから」
ゼオン達は直ぐに動き出した。
ゼオンは機関銃におもいっきり大斧を振り下ろす。
ルカ達は散らばって死体の山を探った。
僅かだが生存者という希望を持って…。
探し始めて10分。機関銃を破壊し終えたゼオンも加わり、生存者を探し続けていた。
「これじゃぁ…いないのかな…」
諦めかけていたその時…
「……け………」
ルカの耳に微かだが人の声が聞こえた。
「……!!!どこ!?」
耳を澄まし、回りを見渡すルカ。
「た……て……」
「!!見つけた!」
死体の山の中、僅かだが手が動いているのが見えた。
「生存者発見です!」
ルカはそう叫ぶと、急いで手の方に駆け寄った。
ルカが手の出ている所に駆け寄り、そこの死体を退けるとそこには…
「た…グスッ助け…て…」
泣きじゃくって手を上げている少女と、腹を撃たれ虫の息の少女が倒れていた。
「お願いだ…グスッ…姉上を助けてくれ…」
泣いている彼女も肩を撃たれているようだが、姉をたすけるために必死で叫んでいた。
「わかった。もう大丈夫だから泣かないで…」
ルカは笑顔で彼女の涙を拭ってあげる。
彼女の顔が赤くなっているのはお約束だ。
拭い終わるとルカは直ぐにバイオリンを取り出し、弾き始めた。
「ほぇ…って、必要なのは音楽じゃない!!、早く医者か僧侶を呼ん「お願い、アカリ…早く!」
いつもより倍早くアカリが出てきた。いきなり現れた天使を見て少女は呆然としている。
出てきたアカリは重態な姉を見た。
「これは…毒を使われてるわ。まずいわね…ルカ、『聖歌』を使うわ。7番よろしく」
ゆったりとしたルカの前奏の後、アカリが優しくも明るい歌声を響かせ始める。
「だから今必要なのは医者か僧侶……なっ」
驚いた彼女が見たのは光に包まれた姉と塞がっていく傷口。
光はアカリの歌声と連動して七色に輝いている。
彼女の姉は少しずつ血色も良くなっているようだ。
みるみる怪我の治っていく姉の姿を見て驚きの表情を浮かべた。
「すごい…これが魔法、か……」
レイヤ達の歌が終わった時には傷は完全に消えていた。
「聖歌『七星』」
「ふぅ、これで君のお姉さんは大丈夫「じゃないわ」
歌い終えて息を切らしているアカリがルカの言葉を遮った。
「まだ…安心はできないの。毒のせいで脳にダメージがあったみたい」
血の気が引いて不安げな表情になる彼女。
「とりあえずルカの家に運びましょう。貴女の傷も治したいけど…私の体力が限界だからごめんなさい。」
アカリが光の球を作りだし、いつかのようにルカの屋敷に繋げた。
アカリは
「今日は疲れたわ。ルカ!後で私を癒しなさい!!」
と言い残して消えた。
ゼオン達は先に屋敷に担架を取りに向かった。
残ったのはルカと姉妹だけ。
「…………」
「…………名前」
彼女は頬を赤く染めてルカに話しかけてきた。
「え?」
「名前を教えてくれ。恩人の名前くらい知っておきたいではないか」
「あ、うん。僕はルカ。クロスフロント独立部隊『サンセットグロウ』第04私兵小隊隊長、ルカ・オルネイズ」
「ルカか。私はクロスフロント第75部隊隊員、火之内 美空だ。姉上は美海という」
火之内姉妹の外見だが、美空は黒髪に黒い瞳。凛々しい顔立ち。長身で流れるような曲線美、つまり『ボン・キュッ・ボン』ってやつだ。
姉の美海は銀色の髪に白い肌。幼なげな顔立ち。小さくて見事な直線美、つまり『幼児体型』ってやつだ。
そして二人の腰には刀が携えられていた。
「ヒノウチ?変わった名前だね」
「いや、すまない、名が美空だ。私の母国では名が後なんだ」
「へぇ、火之内さんはどの国の人?」
「東倭の国だ。それと私のことは名前で呼んでくれ。あと、さん付けも無しで頼む」
「わかったよ…美空」
美空の顔は真っ赤になって俯いてしまった。
「それで何故わざわざ遠いこの国に?」
東倭の国はヴァラキアやクロスフロントのあるこの大陸から遥か北に位置する島国だ。長く他国との関係を絶っていて、独自の文化を持った国である。
「それは……わた「おーい、担架持ってきたぞ」
絶妙なタイミングでゼオン達が戻ってきた。
「ん?早く帰ろうぜ。作戦も終わったみたいだしな」
本部には既にクロスフロントの旗が掲げられていた。
「わかりました。帰還しましょう。」
ルカ達が後から聞いた話では、両軍の殆どは壊滅。出だしの爆撃があんま効果無かったらしく6対4で辛勝だったようだ。
「酷い話ですね」
「ガハハ、無傷なのは奇跡だな」