K-5-1『始まりの歌と武士』
ついに数時間後が初陣である、といっても見張り役から承っていたため任務自体はとっくに始まっていたが。まぁ、とにもかくにも戦闘はまだ未発生だ
「やはり人数いますねぇ、トーチカひとつあたり20人、それが17個。本隊は大隊単位でいるでしょう」
サイビア近くの林内、木の上からテラムが敵陣を偵察する。他2名は真下にテントを張って待機している訳だが、枝葉を被せてカモフラージュしている都合上下手に動けず、情報源はテラムに頼るしかない
「弱点とかはありそうですか?」
「正面から攻める分にはどうやっても十字砲火ですが…そうですね…空挺作戦でどれだけ混乱を誘えるかどうか」
今回の作戦は通常攻撃とパラシュート降下と爆撃で構成される、複数合わせて攻め立てれば押し切れるだろとかそんなわかりやすい作戦だ。物量とパワーの戦争、富裕国家の特権である
「少し早いですが攻撃開始位置まで移動しましょう、ゼオンさんテントの撤去を」
「おう」
緑のテントをしまって、代わりに黄色のマントを取り出す、これは砂漠用だ、ゆっくり歩けばまずバレる事はない
人間の目なんてそんなもんなのである
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「…そろそろですね」
「ああ」
作戦決行数分前。
ルカ達は味方の降下部隊と爆撃を待っていた。
これから攻め入る目標はサイビアの街から北に3㎞ほどにある
ヴァラキア軍サイビア防御陣地
ルカ達はその周りに存在するセメント作りの防衛陣の近くまで来ていた。
作戦開始とともにここを突破し、目標に向かう予定だ。
「見張りは…入口に4、周囲に8です」
双眼鏡で見渡すテラム。
「皆さん無理はなさらないようにしてくださいね」
「お前こそ味方の爆撃に巻き込まれるなよ」
ガハハと笑うゼオン。
ルカ達は初陣の隊には見えない落ち着きを見せていた。
作戦開始直前、テラムは時計を見ていた。
「………作戦開始まで5、4、s
ドゴォォォォン
……」
かっこよく決めたかったテラム、テンションはがた落ちだ。
降下部隊が降り始め、爆撃でヴァラキア軍が蜘蛛の子散らした状態になっている。
ルカ達はさっきよりも防衛陣に近付いていた。
「…では行きましょう。皆さん…よろしくお願いします!!!」
「「「「おう!!!!」」」」
サンセットグロウ第04私兵小隊
始動。
「おらぁ!!どきやがれ雑魚共がぁ!」
張り切るゼオンを先頭に防衛陣に奇襲をかけるルカ達。
敵は爆撃、降下部隊、地上奇襲に反応できず、簡単に侵入できた。
「退け退けぇ!真っ二つになりてぇのか!?」
大斧を振り回し、陣に備えられていた武器を破壊していくゼオン。あまりの迫力に敵兵は逃げていく。
陣の中は台風が過ぎたかのようにめちゃめちゃだ。
変わって陣の出入口、外に出られずに立ち往生する敵兵がいた。出て行った瞬間に狙撃されるのだ
十数分後
「よし、終わり!」
陣の敵を殲滅(殆どは動けなくしただけ)したゼオン。
「うーん……あっ、終わりましたか。お疲れ様です」
ルカは木の陰で戦いを見ていた。
実はルカは戦場に来たのは初めて(戦場跡なら何度も来ている)で本当の戦いを知らない。なので今回はゼオン達の戦いを見学していたのだ。
「ゼオンの戦いは安心して見てられました。私の出番無しですね」
テラムが讃える。
「僕も…頑張ります」
ルカ達はさらに進む。
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「ここか…」
ルカ達は最前線、ヴァラキア軍サイビア防御陣地の間近まで来ていた。
何度か戦闘を繰り返して来たがそこは割愛しよう。
ここではすでに戦闘が始まっているようだ。
緊張が走るなか一人、動きが変な男がいた。
「うーん…ここって確か…」
考え込んだと思うといきなり立ち上がり、辺りを見回すルカだ。
「あっ!そうk」
ドゴォォォォ
なにかを確信したその瞬間入口付近で爆発が起きた。
「入口での爆発で敵が減ったみたいだ。突入するなら今だぞ」
ゼオンが爆発があった方を見ながら言った。
「え!?…あ…はい。じゃあ突入しましょう」
なんか活気のない突入命令でルカ達は目標に突入した。
「敵多いな」
陣地の中は見渡すかぎり敵、敵 、敵…とはいかないが、そこら中ぞろぞろいる。
「これは…思った以上に居ますね」
中の様子を物影から見ているのだが、このまま突撃する気には流石にならなかった。
「僕たちだけじゃ無理そうですね…様子を見ましょう」
ルカが珍しく隊長としてまともな事を言った。
「懸命な判断だ。なかなか隊長らしくなってきたな」
「そ、そうですか!?…えへへ」
照れ笑いするルカ。
中性的なその笑顔は誰がどうみても『可愛い』と言うであろう。
ただし、BLに進む事は無い。
絶対に無い。
「無いったら無いんですからね!!」
「な、なんだ?いきなり」
数分後、状況はいきなり変わる。
パァァァァン
「「「うぉぉぉ!!!」」」
銃声と共に十数人のクロスフロント兵が多勢な敵兵達に突っ込んでいった。
「バカか!?戦力に差がありすぎる!!死ぬぞ」
「死ぬ…」
ゼオンの言葉を聞いてルカが立ち上がる。
「見殺しにはできません!僕たちも行きましょう。どうせ此処に長居はできませんから」
「仕方ねえなぁまったく」
「援護します」
ルカ達は戦いの中に飛び込んでいった。
「おらおらおらぁ!!」
「はぁぁぁぁ!!」
ゼオンが先陣をきり、敵と交戦し始める。
「クロスフロント独立部隊『サンセットグロウ』第04私兵小隊。加勢します!」
ついにルカの戦いが始まる。
ルカはバイオリンケースからバイオリン…と見せかけて指揮棒を取り出した。
「いくよアカリ」
ルカが呟くとルカの頭上に光の球が現れる。そして、その中から純白の天使が降臨した。
戦場に居る誰もが舞い降りた天使に注目する。
「……呼ぶのが遅い!何時まで待たせるのよバカルカ!!………寂しかったじゃない…バカぁ…」
現れていきなりルカの腕に抱き着くツンデレアカリ。しかしここは戦場。動けないルカは物凄い危ない状態だ。
「アカリ、離してくれないか?僕死んじゃ「ルカが死ぬ!?そんなのダメよ!」
ルカの腕から離れ、周りの兵士を睨み付ける。
ルカを撃とうとしていた兵士もいたが怯んで撃てない。
「なら力を貸して?『破滅の真珠-ルインズスピカ-』」
「わかったわ」
ルカの指揮棒が光り、レイピアに形を変えた。
「やぁぁぁ!!」
ルカは近くの敵に突きを放った。しかし…
「……あれ?」
何故か敵から5mも離れた地点で空振りしていた。
当然攻撃は届くわけない。
「ルカ…何してんの?」
アカリが不思議そうにレイピアを見ているルカに話しかけた。
「これって先が伸びる武器じゃなかったっけ???」
戦場で物凄い素ボケをかますルカ。
楽器以外はからっきしダメダメなルカ。
「???」
未だに「何故?」って顔をしている。
「はぁ…ッ~」
頭の上にハテナを浮かべるルカ。男なのだが印象は『可愛い』だ。
ため息をついたアカリはそんなルカを見て顔を赤くしていた。