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morning moon/evening sun  作者: 希望の魚雷
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S-1『This story is start here.By…』


魔術が当たり前のように存在する世界にて。砂漠だらけの国『ヴァラキア』は、隣国『クロスフロント』へ、長く戦争を仕掛けていた。すべては土地を手に入れ、飢えた民を救うために。戦況はヴァラキアの優性。追い詰められたクロスフロントは、独立遊撃部隊『サンセットグロウ』を編成、正規軍との連携での反撃に、最後の望みをかけた。そして、大陸の東方にある島国『アルメリア』も中立国ながらもゆっくりと動き始める







「は…!!ッ…!!」


土砂降りの雨だ


少女は傘もささず、許容量以上の水を吸ってぬかるんだ土の上を走っていた


はたから見れば、何かに追われているように見えたかもしれない


事実、少女は逃げていた


しかし、追っ手は最初から存在しない


人でも、他の動物でもない。一刻も早く、その"場所"から逃げたかった


「ぁ…ぐ…ッ!!」


水溜まりに左足を突っ込んだ直後、体の制御を失って転んでしまう


全身に泥が付着し、だが土砂降りの雨がすぐに洗い落とす


「……違う…」


両手と両膝で四つん這いになりながらも、少女は上体を上げた


「違う…!!」


そう、違う


自分が望んだ事はこんなことではない


右の手の平を開く


さっきから握り締めていたものが、視界に入った


地面に叩き付けてしまおうかと思う


やめよう、これ自体に罪は無い


直径5センチ程の、多面体の水晶のような塊だ


30分前は、透き通るような透明だった


今は、多数の絵の具を混ぜこんだように、黒に近く気色悪い色になっている


この変色は、雨のせいではないだろう


「………」


濁った空を見上げる


頬を伝ったのは雨水か、それとも


「…さ……」


何かを呟いたが雨音によって掻き消され


突発的な豪雨は、すべてを洗い流していった

























雨音に紛れて剣戟が聞こえる


少年は薄く目を開いた


どうやら気を失っていたらしい、水浸しの地面と、破壊し尽くされた家屋が目につく



自分が仰向けに倒れているのは理解できた



そこまで意識が覚醒すると、下半身の圧迫感が脳まで到達し、建築材の下敷きにされていることを伝えてくる


抜け出せるとは思えなかった


次いで、首を動かして、金属音のする方向へ


剣や自動小銃で武装した数十人の男が、何かを取り囲んで戦っていた


よく耳を澄ませば、剣戟の他に、火薬の爆発する音や、何か鎖が飛ぶような音も聞こえる


ドスッと、一人の男が背中から鋭いものを生やし、数メートル吹っ飛んで倒れた


生えたのは、鉄製の杭のようなものだ


それを皮切りに、男達は心臓か脊椎を杭によって貫かれ、急速に数を減らしていく



そこまで見て、頭が影に覆われた



影の本体は、大人の男だ


右手に、刃渡り90センチほどのロングソードを握っている


その凶器を、男は少年を見下ろしながら振り上げた



ああ、殺されるのかと、ぼんやりと思う



が、それが少年の胸を斬り裂くことは無かった



派手な金属音を鳴らして飛んできた鎖と杭が、その男の生命活動を停止させる


男の集団は、それで全滅


折り重なった死体の中心には、長髪の少女が残っていた


身長は150にも満たないだろう、髪は明るい紫色で、腰の下あたりまである


その右手には、自身の身長を軽く超える長さの大剣を握り、左手から伸びた鉄の鎖は、血まみれの杭へと繋がり、男の胸へ突き刺さっていた


第三者には悪魔に見えただろう


が、少年には天使に見えた


「………生きているのは、お前だけか?」


天使が口を開いた


そして、近付いてくる


倒れて、さらに瓦礫で視界を遮られているため、周囲の状況はよく掴めない


だから、返答はできなかった


「まだ何も知らんか」


ずぶりと、頭の真横に大剣が突き立てられる


幅約8センチ、それに見合わない長さを持った剣を見、それから少女を


雨が目に入ってよく見えなかったが、薄く笑っているのはわかった


「なら選べ。ここで潔く人生を終えるか、それとも、生きて絶望を知るか」


正解の無い選択肢


どう転んでも、待っているのは闇




なら、答えは決まっていた











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