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狂炎のヴェガ  作者: 勝燬 星桜
第1章『不死の街』
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第1章 4『銀髪と赤髪と捕虜の俺』★

 結果。


 凍え死ぬかと思いました。


 というか現在進行形でやばい。


「いや寒すぎね!? 夜になった瞬間寒すぎね!? ああああああああっ、焚き火にくべる枝を取るのすら寒い。俺の持つ防寒具は夏物のパーカーのみだぞ。今気が付いたけど寝る前から半袖の上に着てた長袖どこ行った。これは寝るしかねえ、寝るしかないけど寝たら火が消えて凍え死ぬんじゃ。いや夢か。夢だもんな。俺は寝る!」


 燃えない程度に火ににじり寄って体を丸めて目を瞑る。身に染みる外気に歯を鳴らしながら、次第に火の熱気とともにやってきた睡魔に身を委ねた。


 どれほど寝ただろうか。おそらく5分もたっていない。寒さに目を覚ます羽目になった。


「いや寒すぎるって!?」


 待て待て待て。このままでは本気で凍死してしまう。どうにもならない寒さに、家を燃やすことを考える。


「許されるこれ? 許されるよね。夢だもんね。俺の脳内だからね。じゃあちょっと住めなさそうな家に」


 焚き火から火のついた枝を取り出して、枯れた蔦に包まれた廃墟に恐る恐る火を付ける。乾燥していたのだろう、あっという間に燃え上がる。


「なんてことを……まあ廃墟だし夢だけど。俺は芹沢鴨かっ。しかし暖かいな。これでよく眠れる……」


 再び横になって、今度こそ眠ろうと目を瞑った。


 俺は夢の中でも楽しい異世界生活を送れないのか。俺の想像力の限界ってことか?夢の中で位楽に過ごしたい。それが野宿?虚しくなってくる。


 夢の中なのにと自分の不運を嘆きつつ、どっと疲れが襲ってきて、次第に意識が薄れる。


 5分後には眠っていた。


 そして夢を見た。


 自分が遠くから叫んでいる。


『ーーろ!』


 聞こえない。


『ーーを見ろ!』


 何か叫んでいる。聞き取りづらさに、なぜか動かない体を必死に傾け、自分の叫ぶ言葉を聞き取ろうとする。


『ーー実を見ろ!』


『現実を見ろ!』


 はっと目が覚める。


 辺りを見渡すと、まだ炎の燻る廃屋と、暁の空が紅く暗く広がっている。


 焚き火にくべられた薪は燃え尽きて消えてしまっていた。


 硬い地面で眠ったせいで身体中が痛い。


 どうやら認識を、夢の世界という認識を改めなければならない。寝ても覚めないこの現状、しっかりと痛みと温度を感じる体、空腹感。


「どうやら俺は本当に異世界に来たらしいな……」


 無慈悲にも何のヒントも無しにこの廃墟群に放り出されてしまった。このままでは確実に死ぬ。正直異世界なんて信じたくはなかった。もし仮に異世界に行ったのなら、楽が出来る能力や何かが手に入るのではないのか。放り出されて1日、既に餓死する未来が見えた。


 リュックサックを漁ってカロリーメイトを一欠片取り出す。噴水の水を舐めてみるが、変な味はしない。言ってみれば水の味だ。煮沸が面倒になって、もういいやとそのまま水筒に汲み入れた。


 惨めさに襲われて、カロリーメイトを齧りながら水を飲む。1日ぶりの食事に、胃がもっと食わせろと言っている。しかしここで温存できなければ餓死が近づくだろう。


「はぁ。今日は食糧を探さなくちゃな。こんな廃墟群に何かあんのか? 蜥蜴とか虫とか、そんなのしかいないんじゃねえか?」


 暁の空はまだ薄暗く、地平線上が紅く染まっているだけだ。


「俺を召喚した人とかいないのか? 出会ったら色々言ってやらないと。何かチートを寄越せって、あとこんなところに召喚して音沙汰もない理由とか。まあ音沙汰ないから聞けないんだけど」


 朝日が昇るのをせめて楽しもうと、両手を後ろに突いてぼんやりと空を眺めてしばらく。何やら遥か後ろから炎が燃えるような音が聞こえる。風に吹かれた蝋燭の火のような、布をはためかせるような音だ。


 次第にその音が近づいてくる。燃やした廃屋がまた燃え出したのかと大して気に留めず、チラッとそのまま上を向いた。


 空から火が降ってくるのが見える。サッカーボールほどの火球が何発も降り注いで来ていた。


「え」


 確実にこちらを狙って落ちて来る。


「まさか俺を召喚した神が俺を殺そうとしてる!?」


 カバンを掴んで慌てて立ち上がり、旋回するように駆ける。一瞬ののち、座っていた場所に強烈な炎が叩き込まれた。


 これは非常にまずい!


 次々と降り注ぐ火球に、逃げるより他になかった。直前にいた場所にピンポイントで火球が叩き込まれる。


 日常使わないレベルの全力疾走。火球をすんでのところで避け続ける。火球が命中した場所は漏れなく黒く焼かれているのだ。食らったらまず大怪我では済まないだろう。


 流石にキツくなってきた頃、ようやっと火球が止まった。ちょうど朝日が顔を覗かせる。眩しさに目を細めて朝日を見ると、それを遮るように2つの影がゆっくりと降りてくる。


 人間だった。


 いや、人間では無いのだろうか。太陽の光を背に浴びて、長い影を落とす人の背中には巨大な翼が、天使のような銀翼が、太陽光を浴びて燦然と輝いていた。


「て、天使……?」


 ついに異世界に間違えて送った俺を消しにきたのか。本気でそう考える。それほどその光景は美しくて、人為など無いものに思えたのだ。


 1人は背後に、1人は太陽を背に、人影が地上に降り立つ。朝日の輝きに縁取られて黒い影となっているその人の、背の翼だけが輝いていた。朝焼けの色だ。太陽の光が透き通って反射して、まるで美しい水晶のような翼だ。


挿絵(By みてみん)


 背中の羽は空に消えた。ガラスが砕けるような、繊細さと美しさ、儚さを兼ね備えたような消滅。


 目の前の1人が剣を抜いた。このまま襲ってくるのか。半歩下がると昨日拾った剣がコツンと足に触る。


 何が出来るかもわからないし、きっと空を飛んで火を放つ相手に勝てるわけはない。せいぜい護身用のつもりで剣を持った。


 正眼に構えようと、剣の切先を持ち上げる刹那、人影が掻き消えた。咄嗟のことに理解が追い付かず、そのまま上げた剣の切先が切り落とされたことにも気が付かない。


「君は?」


 背後から男の声。一瞬の後、首筋に冷たい鉄の感触と、背中に突き付けられた指の感触。


 掻き消えた人影、いや、今目の前で俺に剣を突き付けているーー


 ーー突き付けているのは、銀髪の少女だった。


「誰?」


挿絵(By みてみん)


 死ぬかもしれない。野宿の心配とは比べ物にならない、今すぐやられるかもしれない死の気配に、生唾を飲みこんだ。


「答えて。あなたは誰で、なぜここにいるの? 街のみんなとは違う。精神は……しっかりしていそうね。何が目的?」


「君、早く答えた方がいいよ。戦おうなんて思わない方がいい」


 背後の男の顔は見えないが、肌に静電気のような独特のオーラが伝わってくる。一方目の前の少女。剣を首筋に沿わせて見上げている。青い、澄んだ目をしていた。引き込まれるような、深い目だ。問いかけにハッとして、剣を捨てて両手を上げる。


「俺は怪しい人間じゃない」


 そう、いかにも怪しげなセリフを吐いた。


「魔力の反応があって来て見れば、見ず知らずの変な服を着た人間がいて、近くには燃やした家。剣を側に置いていれば怪しいのは当然でしょう」


「ま、まあそうかもしれん。ただ俺は本当に不審者じゃないんだ。俺は日本ーー」


 通じるわけはない。逆に怪しまれるのがオチだろう。


「ーー俺は道に迷ってここに来たんだ。嘘じゃない」


「どうだフィオナ? 嘘を言ってるか?」


 フィオナと呼ばれた少女が目を細める。


「……ううん。嘘はついて、ない。けど、普通の人とは違う。思考ははっきりしてるし、街のおかしくなった人とはわけが違うみたいね。でもクレシオンに迷い込むなんてことがあるの? いや、それは絶対にありえない。と言うことは街に残っていた正常な人間、が1番あり得る」


「親父さんが前に何か言ってたよな」


「お父さんのところに連れて行くしかないみたいね」


 勝手に話が進んでいる。ほとんど内容は理解できないが、どうやら街に迷い込む人は初めてではない、と言うことで良いのか?


「ちょ、ちょっと剣を退けてもらえると助かるんだが」


 忘れていたかのように、剣を鞘に収めて少女が姿勢を正す。


「君、名前は? 乱暴しちゃってごめんね。今は結構危ない時期だから、城の方で大きな魔力反応が出てきたから確認に来たの」


 ま、魔力なんてのがあるのか。流石異世界とでも言うべきか。それとも「魔力」ではない何か固有名詞だろうか。


「俺はどうすれば?」


「安全確認は取れたし、そうだなぁ……あれ、君、この本は?」


 勝手に鞄を漁っていた男を振り返って初めて見る。見た感じ同年代か?あまり判別がつかないが、その容姿、特に髪に目を惹かれる。赤の髪だが、赤毛のような茶色がベースではなく、本当に燃えるような赤の髪だ。人から好かれそうな、好感を持てる笑みを浮かべていた。


「あ、図書館から間違えて持って来てしまって。後で返そうとは思ったんだが、変なことが書いてあるから読もうかと思って」


「もしかして君もこの本が変な事に気づいたのかい?」


「なんだかよく分からないけど。不老がどうのとか掴みどころのない話が書いてあったが」


 本書いたやつはよっぽどの酔狂か研究のしすぎでおかしくなったんだろうと踏んでいるが、少し面白そうなので後で読みたいと思っているのだ。


「君もか! やっぱりな。気が付くやつは気が付くよな。そうだ、僕たちと一緒に来ないか?」

 

 一緒に来る?何処へ?何の話を。というより、


「お二人さんは誰ですか?」


「はぁ? いやさ、矛盾に気づいたんだろ?勿論、調査に決まってんだろうが」


「決まってんのか、ってこれ会話成立してなくね?」


「いいから2人とも、行くよ」


「ちなみに今の俺の立場は?」


「うーん、捕虜かな」


 少女が歩き出す。


 付いて行ってみるしか無い。先ほどの2人、勝てるはずがない。今逆らっても悪い方向に動くだけだ。


 俺の異世界転移スタートダッシュは、捕虜として始まった。

挿絵に時間がかかってしまいました。

全てカラーはこれからきつい気がするので、白黒のイラストとカラーが点在すると思います。


あらすじに、寒さに震えて一晩を野宿で過ごす雅久に遂に救いの手が!?とか書いてますけど捕虜ですw


ええ。寒さで死ぬことはないけど捕虜になりました。


狂炎のヴェガ、よろしくお願いします。


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[一言] フィオナさんのイラストが本物の天使に見えた
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