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狂炎のヴェガ  作者: 勝燬 星桜
第1章『不死の街』
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第1章 1『夢』★

何かの夢を見ていた。起きるとそれは、手から水が零れ落ちるようにするりと流れて思い出せなくなる。覚えているのはただ、漠然とした眩しい光と誰かと一緒だったという事。起きれば何も無くて、またいつもの孤独で無意味な生活に戻るだけ。そんな夢を幾度となく見た。思い出さなくてはいけない、そこに行かなければ、そう思いつつ思い出せない、痒い所に手が届かないような気持ちになる。一体どうしたら思い出せるのか。その答えは、突然に訪れた。


ネットのとある掲示板に書いてあった。他にも自分の様な夢を見て思い出せない人がいる。それは、前世がどうとか生まれ変わりだとか、何かの使命があるとか。人によって意見は様々だったが、何かの理由があるらしい。


幾度となく記事や掲示板を漁っていたある日、落ち着いてみれば何のヒントにもならない書き込みに目が止まる。別に自分宛でもなければ、大したことは何一つ書いていないのだ。しかしこの日だけは、その掲示板の書き込みが目を引いたのだ。


掲示板に書き込んだハンドルネーム「旅する茶碗」は昔から、木とその下に立つ割れた石の夢を見たそうだ。ある日祖父の家の蔵の掃除中、割れた石が出てきた。これは何かと不思議に思った「旅する茶碗」は、石を持って祖父がかつて住んだ町を巡り、夢の木の場所を探し当てた。


綺麗な丘の上に木と石の片割れが立っている。祖父の石と見比べれば、その片割れである事は明白だった。よくよく見ればとても古い墓だ。手を合わせて家に帰り、祖父に話を聞いてみると、祖父は忘れていたが墓と聞いて思い出した。どうやら昔そこで出会った女性に、


「これを持って行ってください。いつか、あなたの子供やその子供がここに来てくれるのを楽しみにしています。幸せになってくださいね」


と。その女の人はすでに死んでいて、結ばれなかったそうだ。なんとも救いようのないお話である。女は存在すら忘れられ、結局何にもならない。


そんな書き込みの最後の一文、それが全てのきっかけだった。


『どんなに時間が過ぎても何も解決しないものは、必ず身近に答えがある』


「炎城 雅久」20歳、黒髪に鋭い目付き、割と高い身長。そんな俺には小さい頃の記憶が無い。小さい頃の記憶は靄がかかったようで、どうしても思い出せない。記憶喪失と言うやつだ。唯一覚えているのは、ヴェガという名前。どこの国の人間かすら分からないが、この名前だけ何故か頭に刻まれている。


ちゃっかりハンドルネームにしたりしてるけれど。


雅久という名前もまた覚えていた。自分の名前だからだろう。とにかく幼稚園から小学校にかけての記憶が曖昧なのだ。2歳3歳の記憶が思い出せないのとは訳が違う。誰か、誰かと談笑している、どこか田舎で遊んでいた、それだけは覚えているのだ。


今更という感覚もあるが、掲示板の「旅する茶碗」とやらの言い分を聞いて、身の回り、まずは持ち物から調べてみようと思ったのである。よくよく考えれば不思議なことを思い立ったものである。


大学のために一人暮らしをしている俺は、家から何か思い出の品を持ってきている、などと言うことはない。唯一何かあるとすれば、大学の研究に関係している考古学関連の資料か。昔から古いものを集めるのは好きだった。


家から何か持ってきているとすればそれくらいしかない。コレクションとは名ばかりの正体不明なものから、ある程度価値のあるものまである。貴重品は分別され、ガラクタ類は雑多に放り込まれている棚を開いた。


漁って行くうちに、変色した紙に包まれた何かを見つけた。


「なんだ、これ」


包みを開けると、古びた丸い何かが入っていた。石か?薄い円柱形で、側面に何か彫ってある。円を中心にして放射状に広がる棘、炎とも取れる縁、太陽か何かの意匠か?精密な意匠が刻まれている。


挿絵(By みてみん)


「しっかしこの文様は見たことねえな。太陽って言えばアステカ辺りだけど……アステカカレンダーでもない。あの辺は顔、髑髏が重要になってくるから関係はない。トルテカ……でもないな」


自分の専門分野に熱くなりつつ、よくよく観察するも、全く見覚えがない。記憶がない時に見つけたものか。


それに石自体もやけにぬるい。天然の石は独特の冷たさがあるが、この石にはそれが無い。むしろ少し暖かい気がして来る。


「この石、石か? 気持ちが悪いな。なんでぬるいんだ。意匠自体は珍しいし、教授に見せるか」


時計を見ると、丁度1時を回ったところだった。


もう1時か。最近ショートスリーパー気味になって来てるし寝てもいいだろ。


机に得体の知れないその石を置いて、その日は寝ることにした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その夜、いつもとは違う夢を見た。木漏れ日の中、誰かと話している。知らない女の子、小学校低学年程の少女だ。夢だという感覚はある。明晰夢というやつだろうか?


こちらを見てその子が言った。


『準備は出来た?』


森が騒めく。首筋を撫でるように怪しげな風が通り過ぎる。全身の毛が逆立つ。夢だとわかっているのに、体の自由が効かない。勝手に口が動いた。


『おう! いこうぜ!』


駄目だ。行っちゃ駄目だ。


確信を持って言える。何故かは分からない。しかし確かな確信を持った。この子たちが行こうとしているのはよくない場所だ。やめろ。そこに行ったらーー


刹那、誰かと自分が掻き消えた。目を開けると朽ち果てた神殿に立っている。ひんやりとした空気が肌を刺し、黒々とした穴が口を開きこちらを出迎えようとしている。穴は髑髏の“口”だった。


誰かが言った。


『なんかさ、凄くない? まるでお伽話の世界みたいね! 早く中に行きましょ!』


やめろ。


絶対に後悔することになる。


「楽しそうじゃん。遠出した甲斐があったよな。大人たちが俺たちにここを隠してる理由が気になるけど、見ればわかるか!」


ひとりでに喋る自分の口に恐怖を抱く。


しかしやはり確信を持てる。そこには行かない方がいい。


「早く行こーよ!」


そんな事言うな、そこに入るな、早く森に引き返せ。空気が、全身が、本能がそう叫ぶ。目の前に星が飛び、白く光る。誰かが叫んだ。


吹き上がる暴風に、ワンピースの裾がはためいている。砂と埃を舞い上げて、どこからともなく噴き上げる暴風が目の前を塞ごうとしていた。


女の子が何かを掴む。途端に辺りは閃光に包まれる。咄嗟にその手からその何かを引ったくった。


『ーーーーー!』


頭の中から高く響く音がする。五月蝿くて何も聞こえない。なんて言ったんだ?聞こえないじゃねえか!!聞かなくちゃならないはずだ。聞かなくちゃいけないのに聞こえない!


口から言葉が溢れ出る。


『絶対にもう一度お前をーーーーー!』


自分の声も聞こえない。


暴風と閃光に、さらに浮遊感が加わった。女の子は地面にへたり込んで泣きじゃくっている。


何かを掴もうと伸ばした手は、虚しく空を掴んだ。片手には何かを握りしめて。胃がひっくり返るみたいだ。浮遊感はどんどん増して、浮かんでいるんじゃないかと思う程。


閃光はどんどん強くなって、目を開けるのもキツイ。


泣いている女の子はこちらを見上げてーー


『もう時間だ。戻ってこい』


違う、これはそこにいる子供の声じゃない。耳元で囁くような、いや、頭の中から響く、何重にも増幅された嫌な声だ。声は言った。


『時間だ』


閃光は一瞬にして暗闇になり、辺りは真っ暗になった。ぐんぐん落ちていく。声にならない声が落ちていく自分の口から吐き出される。肺から空気が絞り出され、何かに叩きつけられ、激痛が全身を襲う。


「うぁぁぁあぁぁあああああああ!」


「ーーゲホッ、くっ、はぁ、はぁ」


全身が痛い。大量の冷や汗が噴き出ている。


飛び起きると、自宅のベッドの上。夢だった。


今度はしっかりと覚えている。あの時渡されたのはあの石だ。机の上に置かれたそれは、窓から差し込む陽の光を反射して淡く輝いている。


「なんなんだよ、あの夢」


脳裏に映像が浮かぶ。木漏れ日、森、神殿、誰かの笑い声、それから……誰かの声。


「呼ばれて、いるのか……?」


何がどうなっているのかなんて分からない。ただ、自分の全てが、そうだと言っている。


机に置かれた石に触れる。


「ーーっ!」


火傷しそうなほど熱くなっている。差し込む光のせいとも思えない。太陽に背を向けて光を遮り、石を確認するも、石は強烈な光を発している。


熱を持った石を手に取る。外はもう朝だ。眩しい。窓を見て咄嗟に目を瞬く。何かが足に引っかかって、自室の中で体が傾いた。咄嗟に掴んだのは、机に置かれた貰い物の一度も履いていないスニーカー。当然支えにならず、床が目の前に迫って来る。


床と激突するまで1秒もない。


俺は顔面と全身に来る衝撃を覚悟して目を瞑った。


ああ、鼻血が出るとなかなか止まらないタイプだから嫌なんだが。


呟かれた『声』が届くことは無かった。


『私のために来るが良い』

長編の連載を始めました。1年以上前から構想は練っていて、ようやっとここまで来れました。これからよろしくお願いします!


↓にある ☆☆☆☆☆ を ★★★★★にしていただけると嬉しい限りです!感想などもお待ちしておりますです。

よろしくお願いします!

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[良い点] 僕も円城君みたいに考古学に興味を持っている人間ですが、こういう何かに秘められた石が欲しいです [気になる点] 石にはどういう力が宿っているのか 又、どこへ導くのか
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