第8話 護衛
鍛冶屋は村の中央、店が集まった場所――ではなく、少し外れた場所にあった。
近くに行くとキンキンと金属を叩く音が聞こえてくる。
店主のおじさんに受注証明書を確認してもらい、俺たちは村を出る。
何十分か歩き、到着したのは小規模な洞窟。
中に入るとF級の蝙蝠系魔物が数匹現れたが、【滅炎の矢】で対処し収納袋に回収した。
「こりゃたまげたな……こんなに強いと安心だ」
おじさんが嬉しそうにそう言ってくれたので良かった。
さらに奥に進むと一匹だけまた同じ魔物が現れたので、今度はニィナさんに任せてみることにした。
簡単な仕事とはいえ、何もせずただついてくるだけだと彼女も退屈だろう。
俺が『攻撃力支援』と『俊敏性支援』、一応『防御力支援』もかけてあげると……
「す、すごいです! 体が動かしやすい!」
ニィナさんは支援魔術をかけられるのは初めてらしく、とても良い反応をしてくれる。
彼女は飛んできた魔物を……細剣で一突き。
「……え」
俺はその剣技に目を見張った。
今まで見たことのあるどれよりも正確で、速かったからだ。
「やりました! これなら私、どんな敵でも倒せる気がします」
興奮した様子で駆け寄ってくるニィナさんに、俺は一つ聞きたいことがあった。
「ニィナさんって何級の冒険者なんですか?」
「……え、C級ですよ?」
何故今そんなことを、と不思議がる彼女は首にかけたギルド章を胸元から取り出し見せてくれる。
ニィナさんは……俺よりも上級の冒険者だった。
俺がD級だと伝えると、ニィナさんはめちゃくちゃ驚いていた。ついでに鍛冶屋のおじさんも。
勝手に俺がニィナさんを駆け出し冒険者だと勘違いしていただけで、思い返せば一度も階級を確認したことがなかったな……と先輩面していたことを内心反省する。
「フェイトさんは鳳凰を倒したことですし、すぐにでもB級……いや、A級に昇格されると思います!」
ニィナさんはそう言ってくれたが、俺は無理に気を使わせてしまったかもしれない。
「鳳凰!?」と鍛冶屋のおじさんは仰天したり、ニィナさんのことを不思議そうに見て首を傾げたりしていたが、まぁ放っておいた。
なんせ今回の目的である鉱石がすでに目の前にあったからだ。
おじさんがツルハシを振り上げ、採集を開始した。
一応警戒していたが特に魔物が現れることもなく、スムーズに作業は進んでいく。
俺はその間にこの――クーデン鉱石のことをニィナさんに教えてもらった。
この周辺だけで取れるクーデン鉱石から取り出される金属――クーデンは、加工がしやすく硬度が高いため、矢尻や槍の穂先として重宝されているのだとか。
魔物だけではなく金属も、この地域は面白いものがたくさんあるな……。
しばらくしておじさんが作業を終えたと声をかけてきたので見てみると、背負い籠一杯に鉱石が入れられている。
「あ、そうだ……俺のこれ、収納袋なんですけど使われますか?」
籠を背負って歩くのも大変だろうし、収納袋ならまだまだ回収できる……と思って俺が提案すると、おじさんは是非お願いしたいということだった。
その後数十分、彼が満足いくまで鉱石を集め……俺たちは村に帰ることになった。
洞窟の外に出たのは、日が傾き始めた頃。
来るときに危険なことはなかったし、あとは安全だろう……そう思っていたときだった――
『ウキッウキキッ!!』
俺たちの前に一角猿が現れたのは。
「な、なんで……討伐依頼は出ていましたが、このあたりには生息しないはずじゃ!?」
「ひ、ひぃ」
ニィナさんが混乱し、おじさんが腰を抜かして倒れる。
この状態で逃げることはできない。
俺は冷静に自分を含めた全員に『防御力支援』をかけ……【滅炎の矢】を放った。
さすがに一発では無理か、と思ったがそれは杞憂に終わる。
矢がスパンッと一角猿の体を貫き、しばらくした後……ヤツは膝から崩れ落ちるように倒れた。
「嘘……一角猿って、A級魔物ですよ。それをフェイトさんあなた、ソロで!?」
ニィナさんの俺を見る目が尊敬ではなく、畏敬になった瞬間だった。
ここまで凄い攻撃魔法だと敵の数が多いか、S級じゃなかったら安心だな……。
俺は収納袋に一角猿を回収し、2人を連れて村に帰った。
ギルドにて。
「あっ、お疲れ様です。受注証明書の依頼達成サインを確認いたしますね」
赤髪の受付嬢に鍛冶屋のおじさんのサインが入った紙を渡す。
「ありがとうございます……えっと、報酬は3倍!?」
「はい、ご厚意で」
そう、おじさんはあの後、感謝のしるしとして報酬を3倍にもしてくれたのだ。
本人は「3回分の鉱石を回収できたうえ、一角猿から守ってくれたのだからこれでも足りない」と言っていたが、十分すぎる。
「魔物を討伐したので買取もお願いします」
そう言って、俺たちは魔物買取所に行く。
「えっと、では……」
俺は収納袋から蝙蝠系を8匹。
そして―――― 一角猿を取り出した。
「……た、大変! まただ……またですーッ!!」
予想はできていた。
受付嬢は前と同じように外へ駆けていく。