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第7話 初仕事

「はぁ……なんでこんなことに」


 大きなベッドに腰を掛けた俺は、頭を抱えていた。


 結局あの後、ニゲルさんに押し切られる形で部屋に案内されてしまい、当分の間はここでお世話になることになった。

 いくら娘の命を救ったお礼といっても、これはやりすぎじゃないか?

 警戒心が薄すぎてこっちが心配になってしまう。


 出会ったばかりの男をこんなに信用されても……と思っていると、「命を懸けて人を救う人間が悪人なわけないじゃないか」とニゲルさんに笑ってしまわれた。

 う~ん、彼にも何か他に考えがあるのだろうか。わからない。


 俺としてはクーディアット村に住むつもりだったので、生活費がかからなくなったのはとてもありがたい。

 ニィナさんも俺が家に住むと聞くと喜んでくれていたし、もし彼女が仕事についてきても比較的安全な依頼なら危険は少ないだろう。

 だから、その点は別に問題ないが……。


 俺が頭を抱えている理由。

 それは――【魔術ガチャ】のポイントについてだった。



 夕食を食べた後、部屋で俺はガチャ画面を表示させた。

 そうしてそこに現れたのは……



『魔物討伐により、報酬を支払います

 魔物討伐数:3

 獲得ポイント:2万4千』



 早速、俺はポイントを獲得してしまったのだ。


 このことから考えられたのは、ソロの状態で魔物を倒すとすぐにポイントが得られるということ。

 ポイント数を決めるのが魔物の強さなのか希少性なのか不明だが……これは、ソロで活動すべきかもしれない。


「他にも試したいこと、あるもんな……」


 ポケットに仕舞っていた紙を取り出し、リストアップした検証すべき項目を再確認する。

 パーティーは基本口約束のため、ニィナさんが俺について来るのを【魔術ガチャ】がどう判断するか。それによって話が変わってくる。


 明日が楽しみだ、良い結果が待っていますように……俺はそう願って眠ることにした。



   ◆



「フェイトさん、お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


 朝食後、一度自分の部屋に戻って着替えを済ませると……トントンと扉を叩く音のあとに、ニィナさんの声が聞こえた。

 「どうぞ」と俺は応え、冒険者服を身に纏ったニィナさんが部屋に入ってくる。


「あの……ご迷惑じゃないですか? 本当について行ってしまって」


 俺はパーティーを追放され、ソロでやっていきたいと言ったばかりだ。

 それを気遣ってだろう、ニィナさんは申し訳なさそうに俺の様子を窺っている。


 でもな……彼女が俺の仕事に同行できると知った時、とても喜んでくれているのを見てしまったのだ。

 ニゲルさん曰く、ニィナさんは一人での冒険者活動がなかなかうまくいかず悩んでいたらしい。


 パーティーを組みたい、だけど仲間を見つけるのにはどうしたらいいのだろう。


 そんなとき、声をかけてくれた冒険者たち。

 結局彼らには騙されてしまったけど……。


「まぁ、偶然行き先が同じということで」


「ッ! ありがとうございますっ!」


「え、ちょ、ニィナさん!」


 俺が冗談めかして言うと、ニィナさんに抱きつかれてしまった。


 人の心変わりはいつ起きるかわからない。

 だが……優しい彼女を前に、この人なら信じてもいいかもな。とふと思ってしまう。


 俺は急いで【魔術ガチャ】にアピールするべく――そんなことに意味があるのかはわからないが――心の中で「パーティーじゃないパーティーじゃない」と繰り返し叫んだ。




 冒険者ギルドに到着すると、まずは昨日の魔物の買取金を受け取りに行く。

 カウンターで対応してくれたのは、昨日と同じく赤髪の受付嬢。


「あっ、おはようございます! 対応が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。買取金は……こちらですね」


 渡された袋を持つと、思っていたよりも軽い。

 B級3体のはずじゃ……と中を確認する。


「え、こんなに!?」


 コインの種類を確認し、俺は驚いた。

 そこにあったのは金貨3枚――つまり3千万トリスだったのだ。


「子どもとはいえ鳳凰の羽やお肉は高級品ですから」


 横からニィナさんが教えてくれたが、驚きは消えない。

 だって――


「3千万トリスもあれば数か月は生きていけますよ!?」


 思わぬ収入に喜ぶより先に、こんなにもらっていいのか……と心配になった。



 収納袋に金を入れ、依頼掲示板の前に行く。

 ニィナさんは隣で興味ありげに掲示されている紙を眺めているが、あくまで俺に偶然ついていく(てい)で進めるつもりのようだ。


 安全そうなものは……と端からすべての依頼書に目を通し、俺は一枚の紙を破り取るとカウンターに向う。


「この依頼を受けます」


「『クーデン鉱石採集の護衛』ですね。難易度はE。では、こちらの受注証明書をお持ちになってファクトン鍛冶屋までお行きください」


 知らない鉱石だが、最も安全そうな護衛系の依頼。

 初めはこれくらいがいいだろう。


 受付嬢に鍛冶屋までの道のりを訊こうかと思ったが、ニィナさんが「お力になります!」と胸を張って申し出てくれたのでお言葉に甘えることにした。

 さぁ、クーディアット村での初仕事だ!




   ◆




「今の方って、ニィナ様でした……?」


「あっ、やっぱりそうよね! 対応しててそうかなって思ったんだけど、いつもと様子が違い過ぎて」


「もっとツンとしているっていうか、無表情っていうか、そんな感じですもんね!」


「そうそう! あの男性の前ではニコニコしていたけど……鳳凰を倒すって、あの人も何者なのかしら……」

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