第6話 サイド・ストーリー
<side:元パーティーメンバー>
フェイトがパーティーを追放された3日後。
ニック達は新たな依頼を受け、都の北にある岩山を訪れていた。
「ふふ~んふんふふ~ん」
鼻歌を歌いながら前を歩くのはエリンだ。
彼女は昨日ニックから指輪、ジャンからネックレス、アルバートからイヤリングを買ってもらい上機嫌な様子を見せている。
もちろんそれも――「本当にかわいいなぁ」と後方で惚気ている男たち3人に、今後も貢がせるための演技なのだが。
そんなことはつゆ知らず、支援術士を入れ替えたパーティーは目的地に向け進む。
「エリン、支援魔術を頼む!」
「はいは~い! 『防御力支援』っ!」
今回の討伐目標である一角猿を発見したパーティー一行は、岩陰でエリンに支援魔術をかけてもらっていた。
俊敏性に優れ、多段攻撃を繰り出す一角猿の体長は約3メートル。
S級パーティーからすると何の心配も必要ない魔物だが、今日は新体制での最初の仕事だ。
一発一発の攻撃が重いことを考慮すると、一応の注意は必要だ。
「……あれ、一つだけですか?」
エリンの実力を確認したことがあるのはパーティーでニックだけである。
フェイトの魔力では最大で30の支援魔術を使えるため、いつもは一戦で一人につき3つ、計9つの支援魔術が展開されていた。
それが当たり前になっていたため、アルバートが不思議そうに首をかしげる。
「えへへ……アタシの精一杯、これなんだ……ホント、ダメだよね」
エリンは悲しげな上目遣いでアルバートを見た。
すると……顔を赤くしたアルバートが視線を外し、頬を掻きながら「いえいえそんなことないですよ!」と早口でフォローする。
「そうだな。オレたちならこれで十分だ!」
「あぁ、みんな頑張ろう!」
ジャンとニックがそれに同意すると、エリンは表情を明るくした。
「みんな、ありがと!」
エリンの笑顔を見てニック達は思う。
――カッコいいところを見せよう、と。
戦闘に意気込んでいる彼らを見てエリンは思う。
――チョロすぎる、と。
結果、この日の依頼は……達成することができた。苦労の末のことだったが。
もちろん一人一人の基礎能力が高いため、怪我人すら出なかった。
ニック達にとっては満足のいく結果だったはずだ。
しかし……帰路に就いた一行の顔は曇っている。
その原因は、あまりにも長かった戦闘時間。
『攻撃力支援』がなかったため、たった一戦が長時間に及び、消費体力が大幅に増加したのだ。
使用できる支援魔術の数、そして質……エリンがフェイトに劣っているのはもはや明白だった。
「……まぁ、このメンバーでは初めてのことだ。成功を祝って、美味しいものでも食べに行かないかい?」
「んぁー、オレは今日パスで」
ニックの誘いを、疲労をにじませたジャンが断る。
アルバートに至っては返事をする元気さえないようで、首を振って応えた。
「そうか……」
残念そうなニックが最後に視線を向けたのは、端から興味がない様子のエリン。
支援術士は直接戦わないので、他のメンバーに比べると元気なはずだが……歩き疲れたエリンはご機嫌斜めの様子だった。
下手に尋ねて嫌われてしまったら大変なので、ニックは空気を読み、エリンは参加しないだろうと判断する。
「じゃあまた今度にしよう……『ルテッシア』に行くのは」
ニックのその一言に、エリンが反応する。
「あっ、アタシ行く行くぅ~。行きたいっ!」
「……じゃあやっぱオレも」
「私も……行きます」
街で有名な高級料理店。
名前を聞いた瞬間に目の色が変わったエリンと、彼女が行くとなったらもちろん付いて行くジャンとアルバート。
今日一日の報酬よりも高くつくが、まぁいいか……と彼らは料理店へ向かうことになった。
冒険者としての死が先か、女による内部分裂が先か。
彼らの行き着く先はまだ誰にもわからない……。
◆
<side:???>
ここはとある森の中。
2人の人物が話をしていた。
「ちっ、死んでんじゃねぇーか」
「まったく……いつまで経っても報告に来ないと思ったら」
「どうするよ? 僕たちであの嬢ちゃんを捕まえちまうか?」
「……いや、やめておこう。我々が勝手な行動をしたばかりに作戦が露見するかもしれん。命令にないことはするな」
彼らは冒険者らしき3人の遺体――死亡から数日が経っているのか、小蠅が飛んでいる――を見下ろしそう言うと……周囲に漂う異臭を気にする様子もなく、その場から去っていく。
――物語が、交錯する。
それはまだ少し、先のこと。