第5話 大豪邸
「フェイトさーん! 間に合ってよかったです」
「どうかされましたか?」
冒険者の仕事は肉体的にも精神的にも疲れる。
それが死の一歩手前まで行ったとなれば、どれだけのことだろうか。
ニィナさんは帰宅して睡眠を取っている……と思っていたので、私服に着替えた彼女が目の前に現れ、驚いた。
ギルドに報告し来たのなら、首にかけてあるはずのギルド章がない。
ということは目的は――俺か。
「危険なところを助けていただいたと話すと、父がどうしてもフェイトさんにお会いしたいと言っておりまして……」
「いいですよ。この後は特に用事もありませんし」
ニィナさんの父親ということはこの村の村長か。
会いたがってくれているのなら、断る理由はどこにもない。
俺はニィナさんの家へと案内されることになった。
――それにしてもニィナさん、あんな事があった後なのに立ち直るのが早すぎないか?
良いか悪いかはともかく、彼女の冒険者としての今後が心配だ。
お節介にもほどがあるが、俺はそう思ってしまった。
「……って、すごいですね」
家の前に到着すると、俺はその大きさに圧倒された。
村長の家と言うより、どこぞの領主様の屋敷だと言われたほうが納得できるくらいの、歴史を感じさせる大豪邸だ。
守衛を一人置いた門を抜け、中に入る。
ニィナさんに連れられて来たのは、これまた豪華な応接間だった。
俺だけが室内に入ると、そこにはすでに一人の男性がいた。
「君がフェイトくんだね。会えてうれしいよ」
髭を生やした――筋骨隆々の壮年の男性が、太い声でそう言った。
この、さっきのギルド長よりもギルド長っぽい人が……ニィナさんの父親のようだ。
「フェイトです。よろしくお願いします」
フレンドリーに手を差し出してきたので、握手に応じる。
「よろしく。私はニィナの父でこの村の村長、ニゲルだ。本当に君には感謝してもしきれない……娘の命を救ってくれてありがとう」
ニゲル村長は俺の目をまっすぐと見てそう言い、深く頭を下げた。
椅子に座るよう勧められ……俺たちは向かい合う椅子に腰を下ろす。
「想像していたよりも若いな……」とニゲルさんが呟いていたが、想像と違ったのは俺も同じだった。
見た目の話ではなく、握手した際の手のことだ。
ごつごつとしていて皮の厚いその手は、確実に冒険者のものだったのだ。
気になって「剣を振ったりするのですか?」と尋ねると、彼は父親――先代の村長が亡くなるまでは冒険者をしていて、なんとB級にまで上り詰めるほどの腕前だったそうだ。
「だから娘さんも冒険者を?」
「そうだな……私がしていたもんだから、あの子もしたいと言って聞かなくてね。20になって見た目は大人になったんだが……なんというか、冒険者として生き抜く力が足りないようで不安だったんだよ。そんな時に今回のことがあったからね」
ニゲルさんは首を落とし、「はぁ」と深いため息をつく。
外見は見てなんとなくわかっていたが、ニィナさんは実際に俺よりも2つ年上だったらしい。
「フェイトくん……これからこの村に滞在すると聞いたが、正しいかい?」
「今のところは、そのつもりです」
現在の正直な気持ちを伝えた。
街並みも綺麗だし、ギルドにはそこそこ依頼もあった。
これ以上の新天地はなかなかないのでは、そう思えるほどだ。
質問の真意がわからなかったので、俺がニゲルさんの次の言葉を待っていると……何かを決めたように頷き、彼はこう言った。
「ならば、あの子を頼めないか? 君がいると冒険者をさせていても安心だ。何せあの鳳凰の子どもを一瞬で倒すほどの腕前だからね」
「あ、あの……申し訳ないですが俺――私は、ひとまずソロ冒険者として活動するつもりでして……」
「んー……そうか」
俺が断ると、残念そうな顔をしたニゲルさんは顎に手をやり、何やら考え込む。
正直まだソロでやっていくと決めたわけではない。
【魔術ガチャ】のポイントがパーティーを組まなければ手に入らないのだとしたら、仕方なくパーティーを組むだろう。
が……今は【滅炎の矢】の試したりと、一人でもできることを進んでやりたい。
そんな風に考えていた俺に……何かを思いついた様子のニゲルさんがニッと笑いかけた。
「そうだそうだ、今回の件の礼をしなければな」
ニゲルさんは一言「受け取りを断らないでくれよ」と付け足し、あちらの顔を立てなければならない状況を作ったうえで……
「部屋はたくさんある。フェイトくんがこの村にいる限り、衣食住のすべてを私が提供することにしよう」
と言った。
部屋はたくさんある?
つまりそれは……
力強く、そして苦笑で震えた声でニゲルさんは言い切る。
「この家に歓迎しよう。よって、ニィナが君について行ってもそれはパーティーではなく、たまたまにすぎん!」