第4話 鳳凰ジュニア
なぜ村に向かっているのか、どこから来たのか、とニィナさんに質問されたので――あくまで軽くだが――パーティー追放の件を話すと、彼女は自分のことのように悲しみ、そして怒ってくれた。
感傷的になってしまったので、「村に住むつもりだ」と話題を変える。
すると今度はぱっと表情が明るくなり、とても喜んでくれた。
優しい人なんだな……と彼女の人となりが分かってきたところで、俺たちは村に到着した。
村の名前はクーディアット。
険しい山々の間を流れる川の畔できたこの村は、奥に細長い形をしている。
その歴史は古く、辺境の一村にしてはなかなか栄えている……とニィナさんに教えてもらった。
確かに建築物が多く、良い意味で俺の持っていた『田舎の村』のイメージを裏切られた。
街路にはかなりの賑わいが見て取れる。
「俺はこれから冒険者ギルドに行きますが……ニィナさんはどうします?」
討伐依頼が出ていないと報酬は得られないが、魔物の皮や肉はギルドで買い取ってもらえる。
街を散策する前に、俺は先ほど倒した魔物を売却するつもりだった。
が……ニィナさんは森であんな目に遭ったばかりだ。
本来ならまずギルドに行って報告すべきだが、一度家に帰って心を落ち着かせたいだろう……と思って聞くと、彼女は何かを思い出したように急に顔を赤らめた。
「あの……家に帰ります。下、履いてないので」
「そういえばそうだった」と気まずくなった後に思い出し、ひとまず俺とニィナさんと別れることになった。
一見凛としてみえる美女は恥じらいながら去っていった。
「あっギルドの場所、訊き忘れたな……」
◆
冒険者ギルドは道をまっすぐ進んだ先にあったので、なんとか迷わずに済んだ。
都市部にあるギルドに比べると見劣りするが、なかなか大きな建物だ。
中に入ると隣接された酒場で、仕事終わりの冒険者たちが酒を飲んでいる。
冒険者の数は少なくない。
その中には楽しそうに騒いでいるパーティーの姿も……。
ダメだ、もう忘れよう。
散々悲しんだのだし、彼らのことを思い出しても飯は食えない。
俺はしっかりと金を稼ぎ、自らが望んだ冒険を楽しむのだ。
そう決意を新たにし、俺はカウンターに向かう前に依頼掲示板を確認する。
もしここにあの魔物の討伐依頼が出ていたら報酬も手に入るし……と思って来たが、そういえば魔物の名前を知らないんだった。
なんだかんだ言って気持ちが切り替えられていないし、思考が鈍っている。
「馬鹿だなぁ」
思わず苦笑を浮かべてしまう。
あんまり気負わず、やってくか。
「魔物の買い取りをお願いします」
少し軽くなった気分で俺がカウンターに行くと、赤いショートボブの受付嬢が対応してくれた。
「わかりました。こちらへどうぞ」
案内されたのはギルドの裏手にある通称「魔物買取所」。
室内で魔物の死体を出すのはさすがにちょっと、ということで作られた場所だ。
「えっと……小型の魔物ですね。ではこちらにどうぞ」
通常、大型の魔物の場合は荷台に乗せてここに運んでくる。
だからだろう。俺は袋を一つ持っているだけなので、小型の魔物を持ち込んだのだと勘違いされたらしい。
受付嬢は机の上を差しながらそう言った。
「あの、なかなかの大物で……」
受付嬢が「何を言っているんだ?」といった顔で見てくるが――俺は収納袋から名称不明の鳥系魔物を、地面に3体取り出した。
それを見て受付嬢があんぐり口を開けたと思うと……
「こ、これですか?」
カクカクした動きでこちらに顔を向け、そう聞いてきた。
その顔は明らかに青ざめている。
何かやばい魔物なのか? と不安になっていると――
「た、大変です! ……大変だぁあああ!!」
受付嬢は叫びながら全速力で何処かへ行ってしまった。
数分後、俺は……数人のギルド職員に囲まれていた。
受付嬢が呼んだのはギルド長だけだが、野次馬で同僚が集まったらしい。
ギルド長は俺にこの魔物がクーディアット付近にだけ生息するS級魔物・鳳凰――の子どもだと教えてくれた。
数は少ないらしく、固有種のため遠くから来た俺が知らないのも当然だった。
子どもとは言え、ギルドではB級に指定されているそうだ。
それを一人で3体も倒してきたとなれば、大変なことだろう。
職員たちもニィナさんのように俺を凄腕冒険者かと思ったらしいが、首から下げているギルド章を見せるとめちゃくちゃ驚かれた。
なんせS級パーティーに所属していたとはいえ、俺は支援術士。
F、E、Dと下から三番目のD級冒険者だからな。
珍しい魔物のため買取金額は今すぐ出せないそうで、また明日来てくれと頼まれたが……残金も少ないし、さてどうしたものか。
冒険者ギルドを出て安宿を探すぞ! と意気込んでいると、俺の方に駆けてくる人影が目に入った。
ニィナさんだ。