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第3話 偉大な魔法

 次の日、俺は早速街を発つことにした。

 ニック達と偶然会うなんてことを避けたかったのもあるが、彼らとの思い出があちこちにある街にいたくなかった、というのが主な理由だった。


 早朝に馬車停留所に行き、最も遠い都市に向かう馬車に乗り込む。

 辺境はそれほど栄えていないだろう。しかしそんな場所で生活してみるのも悪くない。

 心機一転新たな生活を始めるために、出来るだけ遠い所に行くことにした。


 馬車で3日間移動し、街で一泊。

 さらに俺は、徒歩で1日かけて近くにある村を目指した。


 魔物に遭遇することも盗賊に襲われることもなく、道中は平和だったが、あと数十分で村に到着するだろうというところで……


「誰かッ! 誰か、助けてッ!!」


 女性の叫び声が森の奥から聞こえてきた。

 周囲に俺以外の人影はない。

 どこまでできるかわからないが……可能ならば助けたい。


 警戒しつつ森に入ると目に入ったのは――壊滅した冒険者パーティーと大型の鳥系魔物3体だった。

 見たことがない魔物だ。このあたりの固有種だろうか。


 4人の冒険者のうち、生きているのは先ほど叫び声をあげた女性一人だけ。

 その彼女も大きく空を旋回し襲い掛かる魔物たちにとどめの一撃をくらいそうになっていた。


「『魔力増加支援』」


 俺は小さな声で自分(・・)に支援魔術をかける。


 ――魔力増加支援。

 一日一度にだけ、対象者の魔力を数倍に膨れ上げさせる支援魔術だ。

 ちなみに……魔力を使い切るか、日が変わると効果は消える。


 つまりだ。


「【滅炎の矢】ッ!」


 木々の間から空を飛ぶ魔物に向け、3発の炎の矢を放つ。

 こんなことができるようになる。



 空中に現れた3本の黒炎の矢は、魔物に向かって一直線に飛んで行き……感知される間もなく胸から頭を貫いた。

 瞬きをしていたら見逃してしまう早さで絶命した魔物たちが落下する。


 すごい威力だ……今まで見たどんな魔法よりも。

 落下地点から土煙が上がるのを見ながらそんな風に思っていると、僅かな脱力感――魔力消費に伴う現象――に襲われた。

 これなら、あと十発はいけそうだな。


 満足感を覚えた俺が視線を向けると、女冒険者は地面に座り込み口をぱくぱくとさせている。


「……あ、え……あ」


 俺の金髪とは違い珍しい黒絹の髪を腰あたりまで伸ばし、露出の多い装備の間からは白珠の肌が顔を覗かせている。

 近くに落ちている細剣(レイピア)を最大限に活用するための格好なのだろうが、正直目のやりどころに困る。


「あの、大丈夫ですか?」


 呆然とする彼女に近づき、出来るだけ警戒されないように声をかけた。


「は、はい。あの、い、今のは……あなたが?」


 女性が戸惑いながらもそんな質問をしてきたので、俺は頷く。


 近くで見て気がついたが、女性の顔立ちははっきりとしていてとても美しく、背丈は俺と同じくらいありそうだ。

 肢体はすらりと伸び、豊かな双丘が服の下から激しく自己主張している。


 そんな彼女は魔物の恐怖から救われ安心したのか、目じりには涙を溜め……さらに、彼女を中心にした水溜まりをつくった。


「きゃあっ、申し訳ありません! こんな醜態を……」


 事後になってそれに気が付いた女性に謝罪されたが、死の淵に立った冒険者が同じようになったところを何度か見たことがある。


「気にしないでください。これ、どうぞ」


 俺は収納袋から大きめの布を取り出し差し出した。

 この収納袋は特殊な魔法がかけられていて、通常の容量よりも多くの物を入れられる便利な品だ。

 しかし非常に高価なため、滅多に持っている人を見ない。


 腰が抜けていて立ち上がれないようなので手を貸し、俺が後ろを向くと衣擦れの音が聞こえてくる。


 ……少し経ち、俺は布を腰に巻いた女性と話し始めた。

 濡れてしまったズボンは綺麗にたたまれ、地面に置かれている。


(わたくし)、ニィナと申します。この度はお救い頂き……なんと感謝を申し上げればよいのか」


「俺はフェイトです。気になさらないでください、それよりもお仲間を救えず……すみません。俺がもう少し早く来ていたら……」


「あっいえ、彼らはその……仲間ではないのです」


 そう言ってニィナと名乗った女性は事のいきさつを語りだした。


 彼女は今までソロで活動していたらしく、彼ら男3人に声をかけられ初めてパーティーを組んだらしい。

 そして初仕事でこの森へ訪れた今日。

 突然男たちの目が変わり、襲われかけたのだそうだ。


 しかし――幸か不幸か、魔物の襲撃を受け事態は一変。

 唯一空を飛ぶ敵を倒せる弓使いが最初に倒され、為す術もなく防戦一方になってしまったらしい。


 そうして最後に残ったニィナさんも死を覚悟したとき、俺が現れた。


 生き延びることができほっとしたのか、一時とはいえ信じた男たちが悪漢だったことにショックを受けたのか、彼女はとても複雑な表情を浮かべていた。


「なるほど……そうだったんですね。じゃあ、ニィナさんだけでも無事でよかった。そう喜ぶことにします」


 冒険者としてはいささか危機管理能力が足りないと思うが、この経験をもとに成長してくれると期待しよう。


 それにしてもさっきから気になっていたが……上級冒険者が使うような上等な武器に丁寧な口調。

 どこか良家の出なのだろうか。


 そう気になって話を聞くと、なんと彼女は俺が向かっている村の村長の娘らしい。

 定住するとなると長い付き合いになったりして……などと考えつつ、俺は討伐した魔物を収納袋に回収した。


「収納袋だったのですか!? 先ほどの魔法も凄かったですし、フェイトさんは一体……」


 すると……なぜかニィナさんに羨望の眼差しを向けられてしまった。


 俺たちは森を後にし、村へ向かう。

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