第2話 魔術ガチャ
ポイントを入手する。
夢にまで見たその瞬間は、先程までの悲しみを何処かへやってしまった。
初めは困惑した俺だったが、獲得ポイント:103万という値がガチャ1回分を超えると気が付き、喜びのままに「ガチャを回したい」という欲にかられた。
しかし……俺は5歳の時の過ちを悔い続けてきたのだ。
深呼吸を一つして、ポイントに関する情報をできるだけ多く得ようと考察する。
パーティーを組んでいた期間……そしてその間の魔物討伐数が、解消を機にポイントになったのだろうか。他に表記されていない要素はあるのだろうか。
考えられることはたくさんある。
答えは得られないが、ようやく見つけた糸口を見失わないように俺は頭を回し続けた。
何十分かが過ぎ、今後検証したいことを紙にまとめ俺は気がつく。
――まだ一度も試していないことが多すぎる。
子どもに可能な範囲内でしか検証せず、ニック達と冒険者として活動を始めた俺は、自ら【魔術ガチャ】に対する興味を失っていた……のかもしれない。
あんな事をされたばかりで、当分は誰かとパーティーを組む気にはなれない。
一度もソロ冒険者として活動したことがないので、それでポイントが稼げる可能性も十分ある。
もしそうだったら、ソロもいいかもな……。
そんなことを考えながら、俺は『回す』のボタンに指を伸ばす。
緊張のせいなのか手が震え、喉が鳴った。
「……よし」
覚悟を決めボタンを押すとポォンと音が鳴る。
背景が変わった画面中央に『瓶』が現れたと思うと、所有ポイント:103万が急激に減少。
それに合わせるように瓶に虹色の液体が溜まっていく。
100万ポイント分の液体で瓶が満たされると……『TAP』という表示が出た。
そういえば13年前もこんな感じだったな。
あまりに昔のことで記憶が薄れていたが、今はっきりと思い出した。
前回はポイントが必要なかったので対価なしに瓶が満たされたが、それ以外に変わったところはない。
あともう一度画面に触れると、俺は新たなスキルを手に入れられる……。
ソロでやっていくとしたら、攻撃系の魔術・魔法が必要不可欠だ。手に入るといいのだが。
「どうか、頼む!」
勢いに任せて画面に触ると、ゴゴゴッと音を立て下から口を開けた龍の石像が出現し、傾いた瓶からその口に液体が注がれる。
像に亀裂が入った。
ここからのことは一度も忘れたことがない。
解らないながらも最も興奮した……得られるスキルの希少度を決めると思われる演出だからだ。
あの時、龍が銅銀金……そしてミスリルからオリハルコンに変化し、最上位スキル【支援魔術】を入手した。
できるならば、今回も最上位スキルが欲しいところだ。
石像は順調に銅銀金と変化する。
しかし――ミスリルに変わるのに時間がかかった。
何度も何度も金からミスリルに変化しかけるが、金に戻ってしまう。
これは厳しいかもしれない……と俺が諦めかけた瞬間、画面上が光に包まれ……。
光が収まると、そこにはミスリルの龍がいた。
全身に入っていた力が抜ける。
オリハルコンが最上位だとすると、ミスリルは上位だろう。
俺が望んだ最高の結果とまではいかなかったが……上々だ。
どんなスキルなのか、その名称が出るのを待っていた。その時だった。
ミスリルの龍がうねるように動き出したのだ。
「っ!?」
龍はなおも動き続け、「グルァアアアッ!」と声を上げたと思うとその身が、
――――オリハルコンの輝きを放つ。
「……」
呆然とする俺をよそに画面は切り替わり、文字が出る。
『最上位スキル【滅炎の矢】』
それは、歴史上もっとも偉大な魔術師グルータス=ルートが使用されたと語り継がれる超高威力攻撃魔法スキル。
通常であれば一つのスキルでそれに系統する様々な魔術や魔法、剣技や武術を使えるが、これは違う。
ただ一つ。
そのスキル名と同じ【滅炎の矢】という魔法を、莫大な魔力を消費して放てるのだ。
必殺の魔法……ただし、一点を打ち抜く狭域。
そのため、たとえこのスキルを持つ人物が現れても最高で一発しか放てず、多発できない限り決して有用できないとされてきた。
もしも、人智を超える魔力をその身に秘めているか、またはその状態を作ることができないのなら。
だからこそ俺は……拳をつくり口角を上げた。
「いける……」
支援術士の俺はなかなかの魔力を所有するうえ、さらに後者――人智を超える魔力を持つ状態を作れる。
可能性を感じた俺は、力強くつぶやいた。
「俺ならこのスキル、使いこなせる」