最終話 英雄誕生
<side:騎士アメリア>
「なんだ……これは……」
ルジェクトの騎士・アメリアはクーディアット村に辿り着き。
そして──愕然とした。
帝国部隊による突然の侵攻。
救援を求められ、アメリアたち騎士団は馬を走らせたのだ。
命を落とすかもしれない。
大切な人とはもう会えないかもしれない。
いくら己の命を剣に誓った騎士とて、考えないわけにはいかなかった。
だが────
現在目前にあるクーディアットには。
勝利の雄叫びが……
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
高らかに響いている。
それは、虐殺を重ねた侵攻軍のものではない。
護るべきものを持ち……命を張った男たちの人間賛歌だ。
息を呑んだ。
騎士たちは身震いし、鳥肌が立つのを感じた。
辺境の村。
帝国軍。
予想していた未来は、その目に入るであろう景色は。
ルジェクトを発つ前、すべての騎士が頭に描いていたそれらは。
──破壊された。
盤面がひっくり返される。
世界が反転し、希望は奇跡を介して現実に。
援軍として駆けつけた騎士だったが、自分の命の心配をしていた。
何故なら、クーディアット村に惨劇が広がっていると思っていたから。
村人たちが屍となり、帝国軍が女を犯す。そんな地獄を想像していたから。
しかし、現実はどうだ。
結果としてもたらされた現在はどうだ。
辺境の村。
世界のとある一点。
その片隅で、彼らは勝利を収めた。
騎士たちの緊張は霧散し、呆気にとられる。
命をかけて戦う?
なんだその覚悟は。
村人たちは我々を必要とせず、己の手で危機を乗り越えたではないか。
救いに来た?
なんだその言い方は。
死を恐れた自分たちは──救われた側ではないか。
何もせず、何もできず。
騎士たちは光を見ていた。
そんな中、アメリアは……。
騎士としては村人の生存を喜ぶべきだったのかもしれない。
だが、何よりもまず先に。
自分が明日を生きれることに安堵していた。
恥ずべきことではない。
彼女もまた──人間だ。
◆
<side:クーディアット村>
ニゲルがバルコニーに現れ……
「──クーディアットの地に生きる者たちよッ! 先の侵攻によって、我々は多くの犠牲を出した。それは決して目を逸らしてはいけぬ、悲劇に違いない。悲しみに暮れる日々は続くだろう。怒りは消えぬだろう……。まずは、初めに。
ここに今は亡き彼らに祈りを捧げる──黙祷ッ!」
集まった民衆。
たくさんの村人たちに向かってそう語った。
あれから数日が経ち、援軍としてやって来た騎士団は村を去った。
バルコニーの下に見える人々はみな目を閉じ、祈る。
ひと時の静寂が流れる。
「……我々には、生きる義務がある。人生には様々な危険が潜んでいるはずだ。
だがっ!!
いま隣にいる友や家族、仲間たちと手を取り合い、前に進んでいこう。果てしない旅は続くのだ!!」
ニゲルは力強く叫ぶ。
それに呼応し、拳を握った村人たちは咆哮をあげた。
村を挟む山の木々から、鳥たちが一斉に空に飛びたった。
「そして此度、彼の存在がなければ今はないッ!
──その名は皆の胸に深く刻まれているはずだ!」
聴衆は思い浮かべる。
突然この村に現れ、冒険者と活躍し。
優しく、人のために動くことができる。
帝国軍の絶望を打ち破った1人の青年を。
「誇れッ! 英雄の誕生を!!」
「誇れッ! 大いなる瞬間を!!」
「名を──────フェイト。
彼の功績をここに讃えるッ!!!」
ニゲルの後ろ、バルコニーにいたフェイト。
その姿を見つけ、聴衆の叫びに地面が揺れた。
村に英雄が誕生した。
だがしかし、これは語り継がれる伝説の一部に過ぎない。
村の英雄は国の英雄に。
そして……
多くの者が知るこの瞬間を語る一文。
それはこれであろう。
『後に大陸を統一する、史上最も偉大な英雄が歴史に姿を現した』
【あとがき】
ここまでお読みいただきありがとうございます。
人生で初めて、物語というものを完結させることができました。
読者の皆様に最大の感謝を!
さて、この結末。
私としては「最後までよくやりきった」と「不甲斐ない」という気持ちが横並びにある状態です。
少し走り気味で書いたため、文字数はかなり少ないものになりました。
更新頻度が遅く、作品を書く感覚が鈍ってしまいました。
『この先』を想定して登場させたキャラたちを、うまく活かすことができませんでした。
でも!!
とにかくやりきったんだから胸を張ろう!
自分にそう言い聞かせます(笑)。
皆様、本当にありがとうございました。
また、何処かでお会いしましょう。
それでは、また!!
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