第17話 逆転の始まり
俺が冒険者パーティーの元にたどり着いたとき……彼らは生きていた。
必死に魔物の攻撃に抵抗し、最後まで諦めることなく生きることを選択し続けたのだ。
【滅炎の矢】を3本、瞬時に放つ。
今使うことができる魔力は半分を切った。
ゆっくりと睡眠を取らない限り回復しないだろう。
脱力感に襲われながらも、確実に……3体の魔物を仕留めた。
「大丈夫ッ?!」
洞窟の中は暗く、地面が平らではない。
俺とともに走ってきた女冒険者は倒れそうになりながら、仲間たちの元へと向かう。
「来てくれると思ってたぜ……」
疲労で倒れこんだ彼らは肩で息をし、喜びと安堵を滲ませた顔でそう言った。
「フェイトさん……ありがとう、ございます」
「あぁ、間に合ってよかったよ。それよりも今は傷がひどすぎる、これを」
A級昇格もすれば村の冒険者たちに名前くらい覚えられるよな……と自分の名前が知られていることに一瞬意識が向いたが、今はそれどころではない。
彼らは全身にひどい傷を負っている。
傷口が悪化しないよう、俺は薬草から作られた塗り薬を渡した。
あとはあれも使っておくべきか……。
「『回復力支援』」
疲れている彼らにはあまり話しかけないほうが良いだろう。
俺は小声で3人に傷の治りが早くなる支援魔術をかけておいた。
すぐに治ることはないが、これで数時間後にはぴんぴんしているはずだ。
「他の魔物が出たら厄介だ。早くここを出よう」
ささやかな支援をした後、俺がそう声をかけ、5人で洞窟を出ることとなった。
「あれは……」
魔力の残量も多くないし、ギルドに寄った後は部屋に戻って眠るか!
夕暮れまでもまだまだな時間だが疲れたしな……と思いつつ、俺たちは距離を比較して西門を使って村に帰ることにした。
――そして
門から少し進んだ先――村内に戦場が広がっているのを見た。
屈強な男たちが顔なじみの村人たちと剣を交えている。
俺の対応は素早かった。
魔力が底を尽きると歩行する力も湧かず、行動不能に陥る。
体感でしかわからない魔力量。
余裕を持って使用したいが、今はギリギリを攻める――――
「【滅炎の矢】――ッ!!」
出現したのは4本。
間違えても村人を傷つけないよう、慎重に狙いすます。
飛んで行った矢は――4人の敵を倒した。
突然の外部からの攻撃に、衝撃が広がっているのが俺の元まで伝わってきた。
――今しかない!
駆け出し冒険者たちを残し、俺はなけなしの魔力を絞り出す。
頼む……持ち堪えてくれよッ!
「『俊敏性支援』!」
走りながら支援魔術を自分に向けて展開。
攻撃ができるほどの魔力はない。
剣戟の間を通り抜け、村人側につけるタイミングは今だけだ。
俺は全速力で――走り抜ける。
呆然と立ち尽くす村人と敵。
しかし中には攻撃の手を緩めぬ者たちもいた。
……そこにはニィナさんの姿も。
村人側の後方に回り込む。
「これは?!」
「帝国軍のようです! ルジェクトに援軍を求めていますが、耐えられるか……」
近くにいた村人に話を聞く。
帝国軍って、不可侵条約があるはずじゃ!?
それに条約を破って攻めてくるのがクーディアットとは……。
俺は剣技が優れているわけでもない。
魔力がない今、何ができる?
考えるが良い一手は思い浮かばない。
支援魔術もあと一つ使えるかどうかだ。
ここで倒れこむと命の危険があるので、プラスになることはない。
俺が必死に頭を回転させる間にも、戦闘が各地で再開する。
……どうしたらいいんだっ!?
「――――フェイトくん、これをッ!!」
後ろから名前を呼ばれ振り向くと、そこにいたのは……
「ニゲルさん!」
距離は遠い。
一刻を争う状況で、ニゲルさんが俺に向かって何かを投げてくる。
それは――皮製の水筒。
「魔力ポーションだ! 使うんだッ!!」
キャッチした中には液体が入っていた。
魔力ポーション――それは希少な薬草を大量に使用し、抽出した一滴一滴をさらに蒸留させてできるとても高価な液体。
飲むと使用可能魔力を回復することができる。
以前俺とニィナさんが受注した依頼で、薬草を採集したことがある。
ちょうどそれは……魔力ポーションの原材料となるものだった。
通常はすぐに都会に流通されるが、村にあったのか!
俺は水筒を開け、勢いよく飲み込む。
S級パーティーに所属していた時、特に高難易度の依頼を遂行するときは所持していたため、飲んだ経験はある。
だが……涙がにじむほど不味い。
「――クッ」
喉を通り、腹の中に液体が流れていく。
全身が熱くなり……魔力があふれるのを感じた。
もとから持っている魔力はほぼ回復した。
しかし、今日は『魔力増加支援』を使ってしまったため、【滅炎の矢】を放てるほどの魔力ではない。
ならば……俺の本業の出番だ。
「『攻撃力支援』」
村人たち20人に万遍なく支援魔術をかける。
戦況をみて、特に強そうな敵と戦う――ニィナさんなど一人一人に最も有効であろう支援魔術を10展開。
「『防御力支援』! 『俊敏性支援』! 『持久力支援』!」
村人たちの勢いが増す。
大丈夫だ。
これでもう……負ける気はしない。