第15話 開戦
その日、クーディアット村は普段の賑わいを見せていなかった。
道を行く者の姿は少なく、静寂の中に心地よい風が吹く。
そんな、日差しが暖かい昼のことだった……
――――突然の襲撃を受けたのは。
「ん? 何だあれ?」
魔物対策用に新たに作られた防壁の上で、衛兵の職に就いていた男が呟いた。
村の警備のため設けられた当番制の仕事にすぎず、日頃警戒態勢を取っていたわけではない。
普段パン屋を営む男は、山間に伸びる道――ではなく、そこから少し外れた木々の間に複数の人影を見た。
初めは見間違いかと頭を傾げた男だったが……数度の末、人影は現実のものだと気が付く。
――なぜ、道を歩まない?
村を訪れる普通の人ならば、堂々と道を利用してくるはずだ。
それならば……。
村に向かってきている人影は帝国側から来ている。
まさか――
…………いやいや、王国と帝国は不可侵条約を結んだはずだ。
そんなことはないと信じたい。
人影の歩行速度は速いがまだ距離がある。
距離が近づき自分の目でしっかりと確認し、武器を装備していたらすぐに仲間たちに報告すればいいか……と、平和に慣れてしまった男は思考を放棄した。
しかし――――
視界に黒い点が現れたと思うと……男の額がナニかに貫かれた。
それは、一直線に飛んできた矢だ。
驚くべき飛距離を誇る一矢が華麗に死をもたらす。
自分がすでに死亡したことさえ理解できず、後方に倒れた男は血飛沫を上げながら落下する。
ドスンと鈍い音が響いた。
それから数秒後、
「――――ゃ……キャアアアアアアアア!!!!!!!!」
村には恐怖の叫びが響き渡る。
◆
<side:帝国軍>
「いよっしゃぁー! 決まったぜ!」
弓を引いていたアルムがゲームに勝ったかのような喜びを見せる。
だが、実際にしたのは人殺しだ。
ギースたちが得ていた情報では、クーディアット村に壁があるなどと聞かされていない。
「面倒だな……」
そうギースは独りごちたが、隊全体の興奮は最高潮まで達している。
壁を越えると満足いくまで人殺しができる。
今か今かと待ちわびた襲撃の時間が始まる――。
ギースたちが壁のそばまで駆け寄ったとき、門は閉じられていた。
襲撃に気が付かれてしまい、村人たちが弓矢をもって攻撃してくるが、さほど脅威ではない。
剣を使い、飛んできた矢を薙ぎ払う。
高い戦闘力を持つ隊員たちは、一人の命を落とすことなく、門を破壊しようと試み続けた。
何度目の衝撃を与えた頃だろうか……
「いくぞッ、お前らーーーーーッ!!!」
門は破壊され、隊員たちが村内になだれ込んだ。
一人でも多くの敵を倒そうと粘る村人たちに対し、ギースの一振りの剣で……数人が死した。
敵の実力を認識した村人たちの顔が青ざめる。
今――――絶望が始まった。