第14話 駆け出し冒険者を救え!
着工から一日半、昼を前に村を守る壁は完成した。
高さは3メートルほどでなかなか立派なものになった。
これならば魔物が襲撃してきた際の心配が格段に減っただろう。
肉体労働に勤しんだ者たちは、完成を喜ぶと大半が家に帰り休息をとることになった。
「少し疲れましたので……」とニィナさんも家に帰った。
……一方、俺はというと疲れた体に鞭を打ってギルドに足を運んでいた。
工事の期間中も、一部の冒険者たちは魔物の調査をしたり、普段通りの活動をしていた。
そのため、新たに入った情報がないか、聞きに来たのだ。
ギルド内に入るといつもの受付嬢がカウンターに突っ伏してぐったりとしていた。
普段は冒険者が集まる酒場にも、数人の職員が常駐しているカウンターにも人影が極端に少ない。
「――お疲れ様です。あの……少しよろしいですか?」
「…………あ、お疲れ様です」
受付嬢も工事の手伝いに参加していた。
今にも眠ってしまいそうな彼女が手伝っていたチームでは、働く人々のためにご飯を作ってくれていたのだ。
たったの十人ほどで忙しなく料理をし続けていたので、お疲れの様子だ。
休ませてあげたい気持ちもあるが、わざわざギルドに来たのだから俺は目的の情報がないか訊いた。
すると……
「んー……やっぱり魔物の縄張り争いは激しくなっているようです。でも、今のところ村周辺に強力な魔物が住み着いたっていう情報は入ってきていませんねぇ……」
「なるほど……有難うございます。ひとまずは安心して過ごせるといいんですが……。では、今日はこれで」
「工事お疲れさまでし――あっ! そういえば!! 聞きましたよ、収納袋と支援魔術で大活躍だったそうで。本当に凄いですね!」
帰ろうとした瞬間、受付嬢が元気を取り戻したように立ち上がりそう言ってきた。
「あ、ありがとうございます」
「あの……ご迷惑かもしれませんが一度だけ私も支援魔術を体験できませんか!?」
評判の支援魔術を試してみたい。
ようやく言えた、といった感じで受付嬢は目を輝かせている。
疲れているんだけど……魔力は余裕があるしいいか、と俺は答えようとした。
――その時。
「――――た、助けてくださいッ!!」
ギルドにそんな声が響いた。
ひどく慌て、恐怖を内包した声だ。
俺は入り口付近から発せられた声の主の方を向く。
そこには……大爪で引き裂かれたような服に身を包んだ、傷と土汚れだらけの女性冒険者がいた。
彼女は涙を溜めた瞳で俺を見つけると、今にも倒れそうになりながら必死に近づいてくる。
「あ……あの! な、仲間たちが……」
俺は、自分よりも3つほど若いであろう駆け出し冒険者の彼女を以前から知っていた。
初めてクーディアット村の冒険者ギルドを訪れた際、酒場で楽しそうに騒いでいたパーティーのメンバーの一人だからだ。
彼女が語ったのは一つの悲劇。
俺に求めたのは救助の要請だった。
過呼吸気味に話す少女に耳を傾け、俺はギルドを出る。
現在の魔力では【滅炎の矢】が9発くらい使えるはずだが、やはり一度家に行ってニィナさんを呼ぶべきだったか?
いやそれでも一刻を争う事態だし……。
誰の命も失われないように願ってただ走る。
彼女たち4人パーティーは、いつもとある洞窟で弱い魔物を狩っているらしい。
昨日は壁建設を手伝ったが、今日は自分たちにできることがない……ということで今朝からは冒険者活動を再開した。
往くのはもちろん慣れ親しんだ洞窟。
しかし、洞窟について普段のように魔物に遭遇することがない。
完全に洞窟内の地形を記憶している彼女たちは、特に不安に思うこともなく奥に進んだそうだ。
そうして――悲劇に見舞われた。
突然現れた狼系魔物。
その数……3体。
C級の魔物だが、駆け出し彼女らには十分に危険すぎる存在。
救けを呼ぶため、3人の仲間は彼女を逃がした……。
残った3人のうち2人がD級、1人がE級だそうだ。
逃げ切ることはできなくても、この時間は持ちこたえていてくれ!
俺はそう強く望んだ。
「ここですっ!」
女冒険者の先導でついた洞窟。
俺は足を緩めることなく、中に走って入る。
◆
フェイトが駆け出し冒険者を助けに村を出た頃――――帝国軍がクーディアットの地に攻め入った。
同日、防壁が完成していたという幸運。
工事により村人たちが疲労していたという不運。
戦は天秤を揺らしながら唐突に始まった。