第13話 サイド・ストーリー2
<side:元パーティーメンバー>
「くそっ! 何でこんなことになるんだよ!?」
「ニック、やっぱりよぉ……オレぁフェイトが――」
「――黙れジャン!」
「これはギルドが私たちを正当に評価していないだけです。きっと……そうに違いない!!」
部屋に集まったニックたちは、酒を片手に苦悶に満ちた顔をしていた。
卓上には一枚の紙。
そこには――――「パーティー階級:A級への降格を伝える」と書かれていた。
「あぁ……アルバートの言うとおりだ。早く僕たちの実力を見せつけてやらないと……」
「では明日にでも難易度Aを? いや、難易度Bも同時に受注しましょう。私達ならできるに決まっています!」
ジャンは2人を見ながら感じていた。
フェイトがいなくなりパーティーの総合力が明らかに低下したにも関わらず――それに気が付いていながらも――自分たちは頑なにその事実に目を向けないようにしていたのだと。
「よし……じゃあそれで決まりだ。あと、僕から少し話があるんだけど……」
ばつが悪そうにニックはそう切り出す。
「あの……お金を貸してくれないか? もちろんすぐに返す! S級に戻るまでのほんの一瞬でいいから」
その頼みにジャンとアルバートは顔を見合わせ……
「すまん、オレも手持ちが少ないんだ」
「私も結構厳しい状態で……」
気まずそうにそう答えた。
この時すでに、ニック達全員の金は底をつき始めていた。
もちろん理由はエリンに貢ぐため。
フェイトがいた頃とは異なり、依頼の達成率が著しく低下したため稼ぎが減っていたのだ。
だが……生活水準は下げられず、見栄を張ろうとエリンには高級品を贈る日々。
ニックに至っては借金をする始末で、街で他の男と遊びこの場所に居合わせていないエリンも「そろそろ潮時か」と考えていた。
今まではもともと支援術士のいないパーティーに入っていたが、ようやく入れたS級パーティーでは優秀な支援術士を追放してしまった。それによってパーティーの優秀さを損なわせてしまった。失敗だったな……とエリンは小賢しくも学習していた。
次の日、パーティー一行は『難易度A:ゴブリンロードの討伐』と『難易度B:ゴブリンの巣を破壊』、『難易度B:ゴブリンの巣から財宝の奪還』を受注した。
ギルド職員は一つの依頼だけにしておくべきだと提言したが、金と実績が必要な彼らは聞く耳を持たなかった。
エリンはこれを最後に、奪還した財宝をくすねてパーティーを去ろうと考えていた。
いくら落ちぶれても元S級パーティー。
支援職の自分は危なくなったら逃げることできるだろう……同時にそうとも思っていた。
これが、彼女の冒険者としての能力の欠如を体現していたことは言うまでもないだろう。
冒険者には生き残り続けると危機意識が薄れていく者が多く存在する。
そうなってしまえば生きるか死ぬかは運次第だ。
いつでも危険を察知しようと努める――フェイトのような人物は生存する可能性が高い。
しかし、ニック達はそうではなかった。
――――彼らを確認できたのは、これが最後であった。
だが……神は知っている。
目を逸らさずにじっくりと、半月の目で事の顛末を凝視していたから――。
◆
<side:騎士アメリア>
クーディアット村から最も近い都市・ルジェクト。
フェイトが移動の途中一泊したこの街で、張り詰めた表情を浮かべる騎士がいた。
美しい金色の輝きを放つ長髪と、男でも重く感じるであろう板金鎧。
領主の命により、ルジェクトの騎士――アメリアは戦場に赴くこととなった。
彼女は相棒である黒馬に跨り、前方を見据える。
「生きて……帰れるだろうか」
アメリアは首にかけた簡素なロケットペンダントを握りしめ、鎧の中に仕舞った。
突然の救援要請にかき集められた騎士は30を下回る。
平和な街の騎士たちに互角以上の戦いを期待することはできないであろう。
一団は後顧の憂いを断つことができぬまま、先にある森に沿って進み、山々に挟まれた村に馬を走らせた。
そして、アメリアたちの視界に飛び込んできたのは……
「なんだ……これは……」
予想を裏切る光景だった。