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第12話 防壁

 今年度最初の税金の使い道は、村を囲う壁を建設すること……とニゲルさんが決定した。

 現在は木の柵が設置されているだけであり、「村の守りを強固にしよう」という意見が村人から出たのだ。


 美しい景観を損なってしまうのではないか、そんな反対意見もあった。

 だが……どんな魔術や魔法でさえも、一度失われた命を蘇らさせることはできない。

 既にクーディアット村の危険は、以前よりも増している。


 ――何故、一角猿が自分の縄張りの外にいたのか。


 冒険者による調査により、その理由が判明した。

 それが……今回の事の発端だ。



「……んー、なるほど」


 ニゲルさんが顎に手を当て、対面に座るギルド長を見た。


 ギルドは基本政治に関与しないが、今回ギルド長は一村人として情報を提供しに来た。

 対価を求めずに行動を取れるその姿勢からは、村を大切にする思いだけではなく、ニゲルさんへの信頼も窺えた。


「鳳凰が討伐され、縄張りを拡大しようとする魔物が出てきたか……。ギルド長、壁の建設を冒険者たちに手伝ってもらえないだろうか。もちろん報酬は支払う」


「そうですな……村のためとなるとあいつらも必死に働くでしょうし、問題はありますまい。いつ頃から開始する予定で?」


「早ければ早いほうが良い。山に囲まれた地形を利用したとしても、数週間はかかるだろうからな」


「では、今日中に依頼を発行します」


「それは助かるな……よろしく頼む」


 俺が鳳凰の子どもを倒してしたことにより、村周辺の魔物の生態系が変化してしまった。

 新たに縄張りを広げようと、魔物たちが活性化している。

 一角猿が山を下ってきていたのもそのためだったのだ。


 一連の出来事の当事者として、俺はニゲルさんとギルド長の会話を隣で聞いていた。


「それでは失礼します」


 今後の方針が定まり、ギルド長が帰宅する。

 最後に俺の方に顔を向けたと思うと……


「あんまり気にするなよ? お前は人助けをしたんだ」


 そう言い残した。


 俺が良かれと思ってしたことで、村に問題をもたらしてしまった。

 でも、ニィナさんを助けるためだったんだ。

 大丈夫、変に自責の念に駆られたりはしない。


 そう考えていたが、やはり心にしこりが残ったままだったらしい。

 少し肩が軽くなる。


 部屋には俺とニゲルさんの2人になった。


「フェイト君、彼の言うとおりだ。君はニィナを救ってくれた……その優しさに、胸を張っておくれ」


 ニゲルさんまで、そう声をかけてくれた。


「ありがとうございます。俺も精一杯、建設に力添えします」


「あぁよろしく。勿論依頼を受けた冒険者としてね」


 無償の恩返しができるのはいつになるのか……俺はまたしても機会を失ってしまった。



 壁の建設には大工と村にいるほとんどの冒険者たち、さらには有志の村人たちもが参加することになった。

 その数――300以上。


 近くの森から木を伐採し、加工、そして壁を建設する。

 村一丸となった大事業だ。


 俺にできることは何だろう……そう考えた末、【支援魔術】と収納袋を使うことにした。

 まずは大工たちに声をかける。


「支援魔術をかけてもいいですか? 作業が捗ると思うので」


「おぉあんたか。噂には聞いてるよ、凄腕の支援術士が来たってな。もちろん頼むぜ!」


 俺の問いに、棟梁と思われる人が答えた。

 ……それにしても俺、噂になっているか?


「では失礼します。『集中力支援』『持久力支援』」


 10人の大工に、どちらも名前通りの効果がある2つの支援魔術をかける。

 すると……。


「ん? なんだこれ。すげー頭が冴えるな! サンキュー支援術士のあんちゃん。よっしゃお前ら、早速作業始めんぞ!」


 大工たちは威勢良く仕事を開始した。


 よし次は……と俺は木の伐採をしている森に向かう。


「ニィナさん、お待たせしました。じゃあ始めますね」


 森に到着すると、昨夜頼んでいた通りニィナさんが村人たちと待機してくれていた。

 いくつものに分かれた伐採グループは木を運ばず、切り倒された木が今も放置されたままになっている。


 村人たちは何が起こるのか不安そうにしているが……俺は収納袋の口を大きく広げ、そこに木を押し込む。


「うわぁ!? あれって収納袋じゃないか?!」


 村人たちがざわめく。

 名前と効果は有名でも、領主様でも簡単に買えるものじゃないもんな……と珍しい収納袋を見た反応に納得しつつ、俺は数十本の木を続けて収納した。


「――いったんこれくらいかな。では、続きもよろしくお願いします」


 ニィナさんに伐採再開の指示をお願いし、俺は木を運ぶ。

 これならばニゲルさんの予定よりもだいぶ早くに壁ができるだろう。



 ……そうは思っていたが、まさか大工たちがあそこまで有能だったとは。


 壁は僅か―――― 一日半で完成したのだった。

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