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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合短編シリーズ

純情ギャルとオタク女子 ―橋から恋に落ちるまで―

<1>


 カレシにフラられた。死にてぇー……。


 アタシ、渋谷(しぶや)ひかりは○×高校の二年生。十一月のある日、通学路にある夕暮れの人気(ひとけ)ない橋の上で途方に暮れていた。


 何が不満だったってんだよ。結局よくわかんないまま別れ話切り出されたし。生きてるのつれー。もういっそ、下の川に飛び込んで死んでやる!


 手すりに足をかけて、その上に乗る。風つっよ、なんかキューに怖くなってきたけど、やってやろうじゃん!


「ダメです!!」


 飛び降りようとしたそのとき、いきなり後ろから手を引っ張られて仰向けにこけた!


「いってぇ~」


 って、不思議と痛みはない……と思ったら、誰か下敷きになってるジャン!?


「悪り、だいじょぶ?」


 慌てて立ち上がると、下敷きになってた人も起き上がる。うちの制服を着た、ひし形ボブと黒縁メガネのすっぴん女子だ。ネクタイの色的に同じ二年生? ってゆーか、どっかで見たことあるよーなないよーな……?


「私は大丈夫です。渋谷さんこそ大丈夫ですか?」


 ずれたメガネを直しながら答えてくる。あれ? 向こうはアタシんこと知ってんの?


「アタシも大丈夫だけどさ。えーと、知り合いだっけ?」


「原です! 同じクラスの原秋葉(はら・あきは)!」


 そだそだ、いたなー。クラスの隅っこでぼっちしてるそんなコだったわ。


「悪りー、悪りー。アタシモノ覚えるの苦手だからさー」


 右手で拝みつつ、毛先をアッシュに染めた、ふわミディの頭を掻きながら言い訳する。


「私のことはともかく、死ぬなんて考えちゃダメです! そんなことしたら悲しむ人がいますので!」


 いかにもなセーロンだけど、フシギとイヤ味がない。なんでだろ?


「悪かったよ……。すっげー落ち込むことがあってさ。なんか、もう一度飛び降りる気とかもなくなったし、帰るわ」


 手をひらひら振って別れを告げて家に向かう。


 その夜、なかなか寝ることが出来なかった。元カレとかもう頭からどっか行ってて、原の顔ばかり頭に浮かぶ。


 なんでだろ、なんかアイツ気になってしょーがない……。




<2>


「ひかー、何見てんだよ?」


 翌日、休み時間に教室でぼーっとしてると、ダチのミキに肩を突付かれた。気づけば、窓辺の角席で本を読んでる原をずっと見てたみたいだ。


「えー、なんでもねーよ」


 慌てて手を振る。


「今日さ、ガッコー終わったらカラオケ行かね? サチはおっけーだって」


 スマホをいじりながらミキが提案してくる。


「あのさ、変なこと言うカンジだけどさ、アイツ誘ってみてもいいかな?」


 原を指差す。


「えー、アイツオタクじゃん。あたしらとは異次元の生き物っしょ。ぜってー盛り下がるって」


「ほら、でもモノは試しってゆーじゃん? 誘おうぜ」


 なんでこんな提案してるんだろ。そっか、今気づいた。アイツと仲良くなりたいんだ。


「あたしは止めたからな?」


 ミキの言葉を無視して、原に近づく。


「なーなー、アタシらガッコー終わったらカラオケ行くんだけどさ、一緒に付き合わね?」


 唐突な提案に目をぱちくりさせる原。やべーな、小動物みたいでちょっとかわいくね?


「でも、私なんかが一緒だと盛り下がるだけだと思うので……」


 再び本に目を落としてしまう。


「つれねーこと言うなよー。な? このとーり!」


 手を合わせて拝むと、ため息を吐いて「一度だけなら」とOKしてくれた。やったぜ!




<3>


「あの、これどうやって入力すればいいんですか? カラオケって初めてなので」


 カラオケボッスでミキとサチがデュオで盛り上がってる中、原がリモコンの使い方がわからないらしくて、隣に座ってたアタシに使い方を尋ねてきた。カラオケしたことないとかレアキャラすぎね?


「あー、アタシが代わりにやったげる。何歌うの?」


「『電脳イルカの恋』をお願いします」


 ナニソレ? 聞いたことねー……。えっと、あったあった。


 そして、アタシの歌も終わって原の出番。


 タンバリンとマラカスで場を盛り上げようとするけど、やっぱり知らない歌で、上手いのか下手なのかもわかんなくてビミョーな空気。ミキが「ほら、こうなったじゃん」と目で抗議してくる。


「ごめんなさい。私、やっぱり来なければよかったみたい」


 原が歌が終わる前にマイクを置いて部屋から飛び出す。


「ちょ、待てよ! 悪り、お金後で返すから代わりに払っといて!」


 急いで後を追う。




<4>


「なあ、待ってよ!」


 互いに全速力の追いかけっこで、何とかやっと手を掴むことができた。振り向いた原は目に涙を浮かべていた。


「ごめんなさい、私ほんとにその、オタクなので」


「ちげーよ、悪いのはアタシ! 嫌がってたのに、無理に誘ってマジ悪かった!」


 手を合わせて拝む。


「あ、そうだ。お金払わないと……いくらです?」


 涙を拭いながら財布を取り出す原。


「いーよ。アタシが全面的に悪いから、アンタの分も後で払っとく」


 アタシがなんでカレにフラれたか、今わかった。アタシ、自分の気持ち優先し過ぎで人のこと振り回してばっかだからだ。


「あのさ、ごめんついでにアタシなりのケジメ? てゆーかツグナイ? ってことで、アンタの好きなもん何でも付き合う!」


「私の好きなものってアニメとかだけど、渋谷さん興味ないでしょ?」


「全然オッケー! ほんと、何でも付き合うから! このとーり!」


 再び拝み倒す。あー、アタシ拝んでばっかり。我ながら安っぽい拝みだなー。


「わかりました、そこまで言うなら。うちに来てください。お気に入りを見せるので……」


 おー、なんだかスゲー展開になってきたぞ!




<5>


「アンタの部屋ってこんなカンジなんだー」


 所狭しと並べられたフィギュアやポスター。でも、それらはもれなく美少女のモノ。あれ? オタクの世界ってよくわかんないけど、こういうのってフツー美少年とかじゃないの?


「やっぱり、私の趣味変ですよね」


「ちげーって! なんてーの? キョーミ深いっつーか、そーゆーカンジ!! それより、早くオススメ見せてよ!」


 慌てて両手を振って取り繕う。


「そうですか? ならいいですけど……」


 彼女がちょっと迷いながらチョイスしたのは、スタジオリブジの有名アニメ映画。あーこれ見たことあるわ。


 とりあえず一緒に最後まで見て、面白かったけど……うーん? 彼女の反応もイマイチ薄い気がすんなー。


「あのさ、これアンタのほんとに一番好きな作品?」


「えっと……。その、ごめんなさい。とりあえず、無難かなって思ったので」


「えー!? それじゃイミねーし! アンタの一番好きなの出してよ!」


「わかりました。とっておきを出すので、引かないでくださいね」


 そう言って彼女が取り出したのは……女の子同士が抱き合ってるジャケット。え、ナニ? そーゆー系?


「やっぱりダメですよね、こういうの」


「だいじょーぶだって! ほら、早くかけなよ!」


 いけね、顔に出てたみたい。アタシ、すーぐ顔に出るからなー。




<6>


「ぶえええええ! やべえ、チョー泣ける! アメリアとクロエ、すっげーカワイソーじゃん! あんな悲しい別れ方ってねーよ!」


 作品を見終わった後、ガン泣き状態。っていうか、後半からもう泣きっぱなし。ハンカチで拭いても拭いても涙が出てくる。


 アメリアとクロエっていう二人の愛し合う女の子が戦争で愛を引き裂かれる話で、なんてゆーかバッドエンドなんだけど、それがもうすげー泣けるの。うまくまとめらんねー。アタシ、マジボキャブラリーねーな。


「やっべ、ほんとやべーよこれ。サイコーだった!」


「ありがとう。ほんといいお話ですよね」


 彼女も涙を拭う。


「決めた! アタシ、アンタとダチになる! ダメかな?」


「この作品を見て泣ける人とは波長が合うと思うので、私なんかで良ければ」


「あんがと! アタシのことはひかりって呼んでよ。アタシは秋葉って呼ぶ」


 手を差し出す。


「はい、よろしくお願いします」


「そーゆーケイゴみたいのもナシナシ! な?」


「……うん。よろしく、ひかり」


 こうして、アタシは秋葉とトモダチになった。




<7>


「よーっす。なー、最近付き合い悪くね?」


 あれから数週間後の夜、映画館でアニメを見た帰りにクマドナドルで食事してると、ミキから電話がかかってきてこんな話を切り出された。


「悪りー! この埋め合わせはゼッタイすっから!」


 開いてる右手で拝む。


「いーっていーって。あたしとあのコどっちを選ぶのー!? みたいなクソ重てーコト言わないからさ。気が向いたらまた遊ぼーぜ」


「あんがと。悪り、今ちょっと手が離せねーから終わったらかけ直すわ」


 通話を終えてスマホをポケットにしまう。


「誰?」


 対面の秋葉がポテトをつまみながら尋ねてくる。彼女はアタシの影響で化粧するようになって、すごく可愛くなった。


「ミキ。ほら、あのとき一緒にカラオケに行ったときのダチ」


「そうなんだ」


 ちょっと暗い表情になる秋葉。


「悪り、ヤなこと思い出させたな」


「ううん。でも、今は私に集中してほしかったので」


 そりゃそだな。スマホをもう一度取り出して電源を切る。


「私とひかり、他の人にはどう見えてるかな」


「どうって……ちょっと変わった取り合わせだなーってカンジ?」


 ギャルとオタクだもんな。あー、コーラうめー。


「恋人同士に、見えたりしないかなって」


 むせて、口に含んだコーラを吹き出しそうになる。


「大丈夫!?」


「だ、だいじょぶ……」


 左手で拝みながら、咳き込んで呼吸を整える。


 てか、恋人!? ええ、恋人!?


「アタシたち、女同士じゃん!」


「今どき、そういうのも珍しくないかなって。うちの学校、そういう子たち多いし」


 彼女の微笑みが、なんだか色っぽく見える。ちょっとドキッとしてしまう。


 てか、これアレ? 遠回しに告白されてる?


 秋葉は好きだけど、恋愛的にって言われるとどーなんだろ?


「秋葉、ちょっと手ぇ握ってくれる?」


 テーブルの上に手を出すと、彼女が赤面しつつそっと握ってくる。


 やべ、すっげードキドキする。アタシこれ、秋葉にマジ恋してるわ。


 そっか、アタシあの橋のときから恋に落ちてたんだ。


「アタシも秋葉のこととっくに愛してたみたい。あのさ、秋葉はアタシのこといつから気になってた?」


「同じクラスになったときから。すごく華やかで、明るくて。私とは真逆だな、ステキだなって」


 左手で頬杖ついて見つめてくる『カノジョ』。うまく表現できねーけど、すごくイイ表情。色っぽいって言ったらいいのかな。


「そっか。アタシも、もっと早く秋葉の魅力に気付いてたらなー」


「いいよ。こうして相思相愛になれたもの。今日、泊まっていかない?」


 やべ、お泊りとかコーフンしちゃうんだけど!? 秋葉、ずいぶんダイタンになったなー。


「もちろん、喜んでおっけー!」


「じゃあ、これ食べ終わったら一緒に帰ろう」


 食事を終えたアタシたちは、恋人繋ぎで手を繋ぎながら駅へと向かう。


「ひかり、キスしていい?」


「え、ええー? 街中だぜ?」


「嫌?」


「嫌なわけねーじゃん……んっ」


 秋葉が唇を重ねてくる。柔らかい感触にとろけそー。へへ、元カレともしなかったファーストキスしちゃった。通行人がジロジロ見てるけど知るもんか。


 今、サイコーに幸せ! 運命の橋、サンキューな!!

<制作秘話>


 今回も無駄話いってみましょう。


 本作のテーマは、タイトル通り「純情ギャル×オタク女子」。この組み合わせ、いかがでしたでしょうか。


 物語というのは変化とその過程を描くものですが、ひかりは自己内省とオタク趣味と同性愛に目覚め、秋葉はおしゃれと大胆さに目覚めていく展開にしています。


 前作 (https://ncode.syosetu.com/n4902gd/)がビターエンドだったからか全然ぱっとしない評価だったので、今回は逆に砂糖を大量に注いだようなダダ甘エンドにしてみました。


 ひかりが声優イベントに行ったりする展開も考えていたのですが、物語のテンポが悪くなるのでカットしています。


 では、いつものようにキャラ誕生話を。



・渋谷ひかり


 ギャルだから渋谷! という脊髄反射レベルの連想ゲームで名字が決まり、続いて渋谷関連要素のうち「渋谷ヒカリエ」から下の名前が決まりました。


 彼女は拙作には珍しい、というか初のバイセクシャルです。「男女がいる状態で女が女を選ぶのが尊い」という要素を、とことん推し進めたらこうなりました。


 なにぶんギャルとは無縁の人生を送ってきたもので、言動や描写がギャルとして正しいのかどうかいまいち自信がないのですが、いかがでしたでしょうか。


 彼女の拝み癖は、書いてたらなんか自然に生えてきました。こういうちょっとした癖は、キャラを立てる際とても役に立ちますね。



・原秋葉


 これまた、オタクだから秋葉原! という脊髄反射で命名。女性のオタクということで「池袋乙女」 (池袋乙女ロード)という名前も思いついたのですが、彼女が腐女子や夢女子ではなく百合女子なのと、なにより語感がよくなかったので原秋葉のままにしました。


 ひかりに比べると若干キャラが弱いかなーと感じていますが、彼女のキャラや魅力は立っていたでしょうか。


 秋葉は、オタクの境遇や造形としてはちょっとレトロなキャラになってしまいました。今どきは、渋谷でリア充カップルがラ○ライブの話してたりするんですけどね。


 彼女の特徴的な語尾「~ので」は、「街」というゲームの「青ムシ」というオタクキャラに影響を受けています。

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