2話 4月3日
あの騒動から1週間が過ぎた。
「春?ご飯食べる?いつでもいいから」
いつもはうるさい母親がこんなにも、優しくするのは当然だ。親に迷惑かけてるのは分かってる。
でもさ、立ち直れないよ・・・
太一は僕の憧れだった。幼稚園の時、僕はいじめられてて、何度も何度も、太一が助けてくれた。それからは僕も太一のために何でもする覚悟で、常に一緒にいた。頑張って太一と同じ高校に入るために今までで一番勉強もした。
親には良い高校に入れてすごく感謝された。これも、全て太一のおかげだ。
太一、ごめん。あの時、早く気づけていたら、僕が身代わりになってあげれたのに・・・
僕は1週間、そんなことを考えては泣き、また、考えては泣くのを繰り返していた。
「あぁ、戻りたい・・・あの時に」
小林がそう言葉にしたとき、急に今まで感じたことのない激しい頭痛が彼を襲った。
(え?痛い・・・苦しい・・・視界が・・・)
(・・・はっ!ここは・・・僕んちのリビング?)
「あんた、いい加減、自分で起きれるようになりなさいよ!ったく、もう。」
目を開けると、紛れもない小林自身の母親がいた。
なんか、この光景見覚えがある・・・まさか。カレンダーは、ちょうど、1週間前。
(太一が死んだあの日だ!)
「ちょっと、聞いてるの?もう、大体あんたはね!」
「分かったよ、母さん、気を付けるからさ。」
そう言って、小林は外へ出る。
(どうしよう。状況が全くつかめていない。要するに僕は、1週間にタイムスリップしたってことか?それは、現実にあり得るのだろうか?でも、今こうして起こってるし。)
しばらくすると、後ろから、男性が近づいてきた。
「はーると!」
「・・・・・太一?・・・太一!!!!!」
「なんだよ笑 久しぶりの再開みたいな感じだしやがって。
って、お前、なんで泣いてんの?笑」
そっか、そうだよな。時が戻ってるとしたら、太一は普通の日常を過ごしてるだけなんだ。
「あー、ごめん。ちょっとさ、目にゴミがな」
「なんだよ、それ笑」
ということは本当に、タイムスリップしたみたいだな・・・
「なぁ。春斗、俺らそろそろ進路決めた方がいいんじゃね?二年だしさ。」
あっ!この話の途中で太一が女の子を助けにいくんだ。
・・・それを僕がやれば、太一を助けることができる。
「なぁ、聞いてる?春斗、って、おい、信号赤だぞ!」
これでいいんだ・・・これで今までの借りは返せたかな。
本当に感謝してる。いじめられてて臆病だった僕が。まさか、トラックに引かれることをわかってて飛び込むなんてね。
流暢に心の中で喋っていたが次第に小林の意識はなくなっていく。
小林は目が覚めた。
周りを見渡すと、暮らしていた世界ではないとすぐに分かるような神々しい物がたくさんある。
「あれ、僕、死んだはずだよな?」
あっ、あれか。信じてはいなかったが天国ってやつか。
そして小林の目の前には、白く一つ一つの毛先が光り輝く翼を生やした女性が立っていた。
「すいません。ここはどこで、あなたは誰ですか?」
「ここは、詳しいことはいえないのですけれど、あなたの世界の言葉でいうと、異世界ですね。
そして、私は、アンファン。この世界の管理人をしております。」
「なぜ、僕はここに?」
「それはですね、あなたが、"異能力対象者"に選ばれたからです。」
「"異能力対象者"?」
「はい。異能力対象者とは、"神の力"を与えられる権利を得た人間のことです。
もちろん、断ることも可能ですが、どうしますか?」
「もし、断ったらどうなるんですか?」
「はい、あなたの場合ですと、人間界で一度死んでいるの で、そのまま、死んでしまいます。
ちなみに、異能力対象者になるのであれば、人間界に戻ることができます。」
「そうなのですか。それは、ありがたいな。
それで、なぜ、異能力対象者なんか選ぶんですか?」
「それは、我々の長が言うには、"楽しいから"とのこと。あとですね、異能力対象者はあなたの他にも50余り存在します。」
「そんなにいるんですか。それで、僕は、対象者になって人間界に戻ったら、何をすればいいんですか?」
「はい。何をしても構いません。なかには、犯罪や殺人に手を染める人もいます。そこのところは気を付けてください。」
「分かりました。対象者にならせてください。」
僕はとても変な話だったが不思議と落ち着いていた。
「分かりました。契約完了です。頑張ってくださいね。
詳しいことは、テレパシーを使い、人間界でお話しします。」
管理人がそういうと、小林の周りには魔法陣のようなものが現れ、発光した。
それと同時に小林の意識は段々と遠くなっていく。
「春!!!!!!心配させやがって!」
「春!ほんと、よかった!」
「春斗、”おかえり”!」
目を覚ますとそこには、父親と母親と太一の姿があった。
本当に、戻ってきた。本当に、よかった。
「・・・・・ああ。ただいま!」
少しだけ違和感を感じたが、そんなことは今はどうでもいいくらい心地良かった。
今回も読んでくださりありがとうございます。
一人でも楽しんでくれる方がいたなら、ありがたいです!
これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!