第三話 見習い騎士
「お願いします、剣を作ってもらえませんか!!」
目の前で頭を下げる少年に困惑をする。先ほどまで注文されていた農具一式を作り終え、外で煙草をふかして一服しているところにいきなりこの少年が現れ頭を下げ始めたのだ。困惑するなと言う方が無理である。
「あー、ちゃんと説明をしてくれないか?」
「あっ、すみません。つい・・・。僕は、ラド・ブレイブと申します」
そうしてラド少年から説明を受けたのだが、どうやら来月に騎士学校に入学するので自分の剣をあつらえようとして色々な店を回ったが、売ってもらえなかったり法外な金額を要求されたり散々だったらしい。先日行われた入学試験で自分より位の高い貴族を打ち負かした関係で嫌がらせを受けているようだ。
そんなわけで王都中を探し回ってここを見つけ店先に居た俺を見つけて飛びついたということらしい。貴族も貴族だが職人も大概だな。俺自身胸を張って名乗れるほどの職人ではないが自分の仕事にはきちんと責任と誇りを持っている。最近の王都の職人の質が悪くなっているように感じ、腹立たしく思う。
「どんな剣を探しているんだ?」
「僕の身の丈に合った大きさの剣を探しています」
「で、予算は?」
「これだけあります」
そう言って見せられた金額はなかなかの金額で、見習いの剣を買うには十分すぎる金額だった。
「いいぜ、剣作ってやるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「三日後にまた来い。それまでには作り終えてるはずだ」
嬉しそうにしているラド少年にそう伝え背丈と骨格を確認し制作にかかる。普通の騎士剣より小さく軽め、それでいて頑丈で鋭い剣。自分の中でどの様な剣を作るかをしっかりと頭に思い浮かべ、刃の部分を作り始める。
使う素材は軽銀だ。軽くそれでいて変形しにくい、さらに魔力も比較的通しやすい素材だ。それをかまどに入れ、熱して取り出し特殊なハンマーに魔力を流しながら打ち付けていく。始めは鈍い音を響かせていたが、打ち付けていくたびに段々と澄んだ音が鍛冶場に響き始める。二日掛けて打ち付けた刃に、倉庫に保管してあった剣の柄の部分を慎重に取り付ける。軽く素振りをして、魔力が滞りなく通せるかを確認し、思い描いていた通りのものが完成したことに満足する。
見た目は飾り気のない無骨な騎士の剣だ。だが切れ味は抜群で魔力もしっかりと通すことができる。騎士が持つ分には少し頼りないかもしれないが、騎士学校に通うような見習いが持つには十分だろう。
「リードさーん、ラドくんがお見えですよー」
「今行く」
丁度確認し終えた時に来たようだ。剣を持って店頭に足を運んだ。
「あっ、こんにちはリードさん。もしかしてそれが?」
「ああ、お前の剣だ」
そう言ってラド少年に剣を渡す。嬉しそうに素振りをしていると次第にその顔は驚愕に変わって行った。
「リードさん、もしかしてこれ魔剣ですか?」
「ああ、魔剣だ。とはいっても純水に魔力しか流れんし、属性を持たすことはできねえから大したもんでもねえぞ」
「大したものですよ!!ただでさえ魔力を流せるだけでもすごいのに、こんなに魔力を流しやすい魔剣は初めてです」
「何だ?王都の鍛冶屋の連中はそんなに錆びきってやがるのか?」
この程度の剣で凄いだなんて本当にどうなってやがる。一度市場調査に出向くべきかもしれんな。そんな風に考えているとラド少年が剣を俺に返してきた。
「ん?どうした?」
「こんなに素晴らしい剣はいただけません。そもそもお金が払えません・・・」
「何言ってやがる、俺はこの間の金額をみてこいつを作ったんだぜ?」
「ですが…」
そう言ってうつむき考え始めたラド少年にため息をつく。今時珍しくしっかりとした少年だ。
「分かった。なら出世払いとしよう。お前が騎士となって働き始めたら返してくれ」
「でもそれだと僕が騎士になれなかった時は」
「そん時は、まあ俺の見る目が無かったってだけだ。それとも騎士になる自身がねえのか?」
挑発交じりにそう告げるとハッと顔をあげたラド少年は俺の目をしっかりと見据えて力強く答えた。
「いえ、僕は騎士になります。そしてこの剣にふさわしい使い手となりしっかりとお支払いします!!」
「ならその日を楽しみに待ってるぜ。手入れが必要になったら持ってこい。そいつも出世払いにしといてやるよ」
「・・・何から何まで、本当にありがとうございます!!」
感動気味に返された言葉に軽く手を振り返し、鍛冶場に戻る。意志のこもった力強い眼差しだった。彼なら良い騎士になるだろう。そう感慨にふけっているとふとある事に気付く。
「・・・なんか考えてることがおっさん臭いな」
思わぬところで自分が年を取ったのだと思い知らされ、少し凹むのだった。
魔剣
魔力を通す事の出来る剣を一般的に魔剣と呼ぶ。魔力を通すことにより、強度や切れ味が上がり、属性を持たせることもできる。ただし作るには特殊な技術が必要で、質も職人によって大きな差が出る。