第二話 包丁
鍛冶場で依頼を受けた農具の調整を行っていると店へと繋がる扉が開き、そこから女の子が入ってきた。
「リードさん、ラクレットさんから包丁研ぎの注文が入りましたよー」
「あいよ」
そういって俺は彼女から包丁を受け取った。彼女はリリー、この店で働いている女性だ。主に店番と受付をしてもらっている。先代の頃から働いていて長い付き合いになる。残念ながら既婚者だ。
「すぐに終わるからお茶でも出しといてあげて」
「いつも通りですね、了解しました」
そういってお茶の準備をするために戻って行った。さて、さっさと終わらせるか。先ほど受け取った包丁を持って砥石が置いてあるところまで持っていく。そして包丁と砥石に魔力を込めながら研ぎ始める。
この包丁は先代である俺の親父が作ったもので切れ味が抜群でかなりの代物だ。その代わり手入れの仕方が少し特殊で、普通に研ぐだけでは何の意味もなさず、下手をすれば包丁が傷むか砥石が傷むことになる。以前ラクレットさんが友人の鍛冶師に手入れを頼んだらボロボロになって帰って来たと言いながら手入れをお願いされた事もあった。
普通は見れば普通の包丁か特殊な包丁か分かるはずなので、そいつは相当腕が悪かったか見習いだったのだろう。そんなことを思い出しながら研ぎ終わった包丁を確認して、刃を布でくるんで店へと足を運ぶ。
「できたよ、ラクレットさん」
「ありがとう、リー坊。あなた日に日に親方さんに似てくるわね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
あんな頑固親父に見た目が似てきたと言われてもあまり嬉しくないもんだな。そう思いながら先ほど行っていた農具の調整を再開させるのだった。
特殊な包丁
魔力を纏っており刃こぼれしにくい。普通は見ただけで分からず、〈鑑定〉を行うなどしないと分からない。そもそも包丁に特殊な加工がしてあること自体が珍しい。