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第2話 「……特殊能力課……あの?」

「―――ッ、いい加減にしろ!!何が特殊能力課だ!こっちはガキの戯言ざれごとに付き合ってる暇はないんだ!」

 一瞬、目の前のしかも高校生の子供に気圧けおされた自分を誤魔化すように、鹿島は叫んだ。いや、今もなおこちらを見据える紅の瞳に、訳もわからず背筋が震えてならない。

 樹はそんな鹿島に半眼になった。心持ち馬鹿にしたような雰囲気をわざとらしく出して、

「はあ、長年刑事をやって、これが偽物だと思うんなら警察やめたほうがいいんじゃねえの、おっさん」

 そう言って、警察手帳を示した。

 鹿島とて彼らが提示した警察手帳が偽物だとは思っていない。どう見ても本物だ。ずっと自分と共にあった相棒の一つを間違うわけがない。

 しかし、どうしたって認められるわけがない。彼らは誰が見たって子供だ―――ましてや一人は小学生の女の子だ。それに特殊能力課なんてそれこそ長く警察組織にいるが、噂にしか聞いたことがない。

「……特殊能力課……あの?」

 誰に聞かせるでもなく呟いたのは、鹿島の隣にいた馬場だ。

 馬場も噂を知っているのだろう。

 噂どおりなら、彼らは凄腕の警察官になる。


 警視庁特殊能力課。

 名のとおり、特殊能力者が起こす犯罪を受け持つ部署だ。近年、増え続ける特殊能力者に対抗するべく所属する者たちは、いずれも相応の特殊能力を持っているとのことだ。警察官になる条件は特殊能力がEランク以下―――ただしむやみに特殊能力が使えないよう制御装置を付けてである―――もしくは特殊能力がない者と基本、定められているなか、異例の部署だ。

 いや、その部署が異例なのはそれだけじゃない。彼らが受け持った事件は、必ず解決しているということだった。

 もちろんこれらの全ては噂でしかなく、誰も特殊能力課なんて存在は信じていない。いわゆる都市伝説のようなものだ。もしそんな課が警視庁内にあるのなら誰かしら、所属する当人たちを見てもいいはずだ。

 何より常識的に考えて、こんな子供が警察組織に所属できるわけがない。


「まあ、あんたらが信じる信じないはどうでもいいけどな。―――花!」

 警察手帳を仕舞ったその手で、樹は自身の頭をガシっと掻くと少女の名を呼んだ。

 花は樹の意図することを理解して、面倒そうに唇を尖らせたが、言葉にせず首を縦に振ることで応え、瞼を閉じた。そして一呼吸置いた瞬間―――。


 ―――バサアアアアアアアァァァァァっっっ


 ここが血なまぐさい殺人現場だと忘れてしまうほど、それは美しく幻想的な光景だった。

 少女の小さな背中から、漆黒しっこくの大きな羽根が現れ、少女を中心に一陣の風が吹き、その風に乗るように、舞い散る黒い羽が一枚また一枚と淡く黒光りし、廃墟にいる者たちの頭上から身体の中に消えていく。

 すると羽を体内に受け入れた鹿島以外の者たちが次々に虚ろな瞳を浮かべ、覚束無おぼつかない足どりで廃墟の出入り口に向かっていった。

「おっおい!?馬場ッ!?」

 それは鹿島の隣にいた馬場も同様だった。鹿島はゾンビのような動きをして出口に向かう馬場の肩を背後から掴んで止めようとしたが、この細い身体のどこにそんな力があったのか、馬場は鹿島を引きずりながら、前へと進んでいく。

「おい!これはどうなってんだ!?」

 馬場から手を離し顔だけ振り返り、この原因を作った少女を見た。

 花は首を左右に傾げ、

「一時的に脳内の行動系統と記憶系統を弄っただけなので、心配ないのです。ここを出て、警視庁内に戻れば、元に戻るです。それよりおっさんなのですよ!」

 両手を腰に当て、プクっと頬を膨らませる花。

「……花、そいつ《ない》のか?」

 樹が横から、口を挟む。

 花は鹿島に向けていた視線を樹に移して、こくんと一つ頷いた。

「うん。まったく《ない》のですよ」

「ふ~ん。いまどきこんな場所で珍しいな。まあ、どうでもいいか。おっさん、あんたも邪魔だからさっさと出ていけ」

「ふざけるなッ!!俺はこの現場の指揮官だ!」

 鹿島は激昂するが、樹は面倒そうに頭を掻き、ため息をついた。

 花はその様子を傍目に一度、背中の漆黒の羽を大きくバタつかせる。そしてゆっくり瞼を閉じた。

「………樹、時間がないのですよ……」

 樹を促すような花の言葉に、再び樹はため息をついた。

「ああ、もう判った。無理やり追い出してもいいけど面倒くせぇ。おっさん、そこにいることは許可してやるが、そこを一歩も動くなよ。動いたら、邪魔と見做みなして―――」

 鮮紅の瞳で、真っ直ぐに鹿島の漆黒の瞳を見据える。

 途中で言葉を止めたが、続く言葉はその瞳を見れば判る。彼―――樹と呼ばれる目の前の青年は、鹿島が樹の言葉に従わなかったら、間違いなく樹は鹿島を排除するだろう。

 今更ながら鹿島は全身に脂汗を浮かべ、自分の愚かさを理解した。いま、この場での鹿島の生殺与奪せいさつよだつを握っているのは彼だ。

 鹿島のそんな姿に樹は興味を失ったように、花の隣に移動した。

「大地はそこのおっさんを見張ってろ。花、始めていいぞ」

 そう言って、樹は壁に背を預け、腕を組む。

 樹の指示に大地は樹と入れ替わるように鹿島の傍に行き、花は閉じていた瞼を開いた。

「もう判っていると思いますが、動かないでくださいっす。もしもの時は僕でも命の保障はできないっすよ」

 大地は鹿島に小声で呟いて、彼も花に視線を向けた。


 花の能力で四人になった凄惨な現場は、いつの間にか静謐せいひつな空間で支配されている。

 そんななか花はゆったりとした動作で左腕を胸前まであげた。すると一つまた一つと淡い光を放つ黒色の珠が少女の周囲に現れ、上げた左腕を彼女がバッと空気を切るように横に振ると、黒い珠は一斉に床に倒れている遺体に飛んでいく。そして先ほど馬場たちの体内に羽根が吸収されたように、黒い珠も遺体の中に吸い込まれていった。

 その直後、遺体が一瞬だけ強い黒い光を放つと、そこからおそらく生前の姿だと思われる半透明の人の形をした亡霊のようなものが浮き出てきた。

「うわぁッ!?何なんだこれは!?」

 遺体の数だけ出現した幽霊のような薄気味悪い存在に、鹿島は思わず声を上げた。

「思念みたいなものっす。もっとも脳みそがない状態だったので、思念より体の記憶を呼び起こしたみたいっすね」

「そんなこと出来る能力者なんて存在するわけないだろう!!そんな存在がいるとすれば………」

「ええ。花ちゃんはSランクの能力者っす」

 驚愕する鹿島を尻目に、大地は淡々と言い放った。

 その言葉に鹿島は絶句し、目を見開いた。

 鹿島の驚きも無理はないと大地は思った。



 Sランクの特殊能力者―――特殊能力者の最高ランクにして、頂点に立つ存在。彼らがその気になれば、国一つ滅ぼすことなど容易(たやすいと言われるほどの能力を持つとされている。が、現在日本はおろか世界でもSランクの能力者は確認されていないはずだからだ。

 そんな存在が目の前に現れれば、誰だって鹿島のような反応をするだろう―――もしくはその存在に恐怖と畏怖を抱き、現実を拒絶する者もいるかもしれないが………少なくとも鹿島は前者だったらしい。


 さっさとこの場を離れているか、さもなくば気絶や現実逃避していればこんな思いもしなかっただろうにと、そんなことを思いながら大地は若干、鹿島に同情した。もっとも大半は鹿島の自業自得なのだが。

 そんなことを思いながら、大地は視線を花に戻す。


 そこはすでに花の能力で呼び起こした遺体の思念体が、各々の記憶を辿たどるようにうごめき出していた。

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