第0話 「あのさ…贈り物…な…に……?」
遥か昔、突如この地に現れた魔神により人類は滅亡の危機に瀕していた。
彼の魔神はその圧倒的な力により、地球上の半数の生命は失われ、誰もが絶望と悲しみのなかにいた。力なき人類に魔神は容赦なく殺戮と暴虐を繰り返し、彼のものが通り過ぎた場所は草木のひとつさえ残ることなく、その地には死骸さえも残らなかった。
人々はただただ殺されるのを怯え、待つしかなかった。
そんな時、空から神々が舞い降りた。神々は魔神の前に降り立つと、地球上の生命のためにその力のすべてを奮った。が、魔神の力は凄まじく、争いは気が遠くなるほどの時間が過ぎていった。
両者の力は拮抗していたが、やがて魔神は神々の手によって倒され、長年の争いに幕が降りた。
平穏と希望を齎した神は、長い時間を絶望に染めた人類に一つの贈り物を授けると、魔神による戦いで疲弊した身体を休めるために眠りについたと云う。
―――これはこの世界の誰もが子供のころに一度は聴かされる童話のうちの一つ―――。
「じゃあさ、神様たちは今もどこかで……眠っている……の?」
ベッドの掛け布団からちょこんと顔を出し、まだ6歳くらいの幼い少年は隣に座る母親に眠そうな口調で声を掛けた。
母親は横になる少年の頭を撫でながら、
「さあ、どうかしらね。でもきっと眠っていても起きていても、私たちを見守って下さっているわ」
「……ふ~ん…。あのさ…贈り物…な…に……?」
「神様からの贈り物が気になるのね。それはね……ってあら?」
母親は健やかな寝息をたてて、眠りに付き始めた息子を見て微笑み、掛け布団を掛けなおすと、ベッド脇にある照明を消して、立ち上がる。
「おやすみ」
小さく呟くと、部屋を後にした。