【地獄編】邂逅
「可哀想にのぉ…」
僕は白髪のおじいちゃんにそんな事を言われた。
「良き人間が悪しき人間に命を奪われるところはいつ見ても胸が痛くなる。」
あのー。もしもし、ちょっといいですか?
「お!何じゃ良き人間よ!」
もしかして僕死んじゃったんですか?
「左様。実に嫌な事件じゃった」
当て逃げした軽自動車がパトカーに追われていたところ、運悪く僕は軽自動車の前を横断していたらしい。
運転手は真っ昼間から泥酔状態だったらしく、僕を轢いてそのまま直進したところ横から走ってきたトレーラーに衝突し即死したようだ。
おう。大事故やないか。
思わずエセ関西弁が出てしまった。
何はともあれ被害者は即死した僕と軽傷で済んだトレーラーの運転手と当て逃げされたこれまた軽傷のサラリーマンだけだったらしい。
うん。全然ともあれじゃないね。
でも、死んだのが僕一人で良かった。残した妹の事が気掛かりだけど、頭の良くて可愛い妹の事だ。ちゃんと善野家の血は継いでくれるだろう。
「お主超が付くほどお人好しじゃのう。」
いえいえそれ程でも
「褒めとらんわい!じゃが、余りにも境遇的にも人間的にもお主が不憫でならん。――そこで、ひとつ提案があるんじゃが」
はいなんでしょう?
「通常、生前重い罪などを犯していないものには転生、善人には天国へと導いておるのじゃが特別に選ばせてやろう。」
でしたら、事故が起こる前の自分に転生したいです!
「うぐ、すまんのお…時間を遡る転生は儂には出来んのじゃ」
凄く申し訳なさそうなおじいちゃん。妹の事が気掛かりだけど、無理なら仕方ない。
「その代わりと言ってはなんじゃが、別世界の人間に転生させることは出来るぞ!そういうの日本人好きじゃろ?」
でた。異世界転生。
正直、いつか家族に会えそうなら天国でも良いかなーなんて思ったけど、憧れの世界に行けるとなると気持ちが揺らぐ。
「大丈夫じゃよ生死流転。世界は違えどいつかまた家族に会えるわい!家族の絆はそれだけ強い。」
その言葉を信じた。心置き無く異世界転生といこう!
「承知した。では、日本人の好きな剣と魔法の世界【エトワール】へ行くがよい!」
急に目の前が真っ暗になった。