2話前編 『ボーイ・ミーツ・ガール、からのボス戦』
中間テストが終わり、教室内に渦巻いていた鷹の爪のようなピリピリ感がようやく無くなってきたこの頃。
クラス内の勢力図もある程度固まり、分断されていく中、新崎 曜は新たなる問題に直面していた。
中間テスト最終日の放課後。
神崎の紹介で琉蓮司 聡と出会った俺は彼女の恐るべき性格を知ってしまう。
彼女はあの日、俺たちを帝校近くの公園へと呼び出し、一旦、神崎を家に帰らせた。
どうやって帰らせたかは分からなかったが、なにやらヒソヒソ話をした直後、急いで帰ると神崎が言い出したので何か幼なじみ同士にしか分からない話があったんだろう……
まあ、つまりこれで俺と彼女の二人っきりになった訳だったんだが、ここからが問題だった。
そもそも、彼女は真っ白のワンピースに麦わら帽子という公園とはかなりミスマッチな服装をしていたにも関わらず、その整った容姿と美しいブロンドヘアでかき消せてしまうほどの美人だったので、二人っきりになるというのはそれはそれで問題だったのだが、もちろんそうではない。
それは彼女と目が合ってしまい、何となく話し始めなければいけないようなタイミングになってしまった時のこと。
「…………」
「…………」
「……………………?」
「……………………」
「…………???」
なんで喋らねぇの!!?
え、いや、君が呼んだんだよね!? 話して見たいって言って呼んだんだよね!? 全然喋らないじゃん! 何? 俺から行かなきゃ行けないの? そういうことなの!?
「……おい。何か用があって呼んだんじゃなかったのか?」
痺れを切らした俺が仕方なく沈黙を破ると、ようやく彼女も口を開く。
「随分粗暴な男ね。おい、だなんてはしたない……相手にものを訪ねる前にまず、名乗るのが常識でしょう?」
キリッとキメ顔で持ち前のブロンドヘアを華麗になびかせる。
はぁー? はぁー??? はぁーーー???
「どうしたの? まさか自分の名前も名乗れないの?」
イラッ♥︎
「新崎 曜。これでいいか?」
「はぁ……琉蓮司 聡よ」
もうお分かりの方も多いだろうがこいつ、典型的な高飛車お嬢様だったのだ。
傲岸不遜で自信過剰。
容姿はいいが性格はきついの代名詞だよほんと。
「それで? わざわざ神崎を帰してまで、俺に何の用だよ?」
「……あなたの話は裕翔からよく聞かされたわ。すごい人がいる、話してみたいって。それで、二年生になって友達になれた、とも聞いたわ」
だんだん言葉の節々にイラつきが見えてくる。
「でもまさか、こんなに野蛮で粗暴で……爽やかさの欠けらも無い男だとは思いませんでした!! はっきり言わせてもらいます! あなたに彼とこれ以上付き合う資格はありません!!」
「はぁ!? ……ん?」
付き合う資格? こいつもしかして……
「私と勝負なさい! あなたが負けたら以降、彼には近づかないで!」
「……はっ、ついていけないな。そもそも、こっちにメリットがねえんだよ。誰が受けるかそんな勝負」
「あら、怖いの?」
「ああ? 怖い? 何が?」
「負けること、決まってるじゃない。噂の嫉妬の天才さんは怖いのかしらねー負けるのがー」
「……負ける? 俺が? ははっ、面白い冗談だな。面白すぎてお口縫い付けたくなったよ、ん? バッテンマークのアップリケ付けてやろうか?」
「あらあら、面白い冗談だこと。一周回って面白さが皆無だわ」
「ケッ……いいさ、受けてやる。フルボッコにしてやんよ」
「何よフルボッコって……勝負は明後日、ここに朝9時に集合よ。いいわね?」
「ああ、分かった」
「あと、このこと、裕翔には言わないこと」
「……分かった」
「あと、勝負の内容についてだけど――」
「それはそっちが決めてくれて構わねえよ」
「あら、いいの?」
「ああ、二言はないさ」
俺が思ってるとおりなら問題ないんだよ、クックック。
「ならいいわ。後で泣きついてきたって、無駄よ。まあ、土下座ぐらいするなら……考えてあげなくもないけど」
「へいへい、せいぜい首洗って待ってろ。あ、そうだ。俺が勝ったらさ……なんでも言うことひとつ聞いてもらおっかなー」
「!!……分かったわ」
「ふーん。そっちこそ後で泣きついてきてもだめだからな」
「ふん! さっさと立ち去りなさい、石崎」
「石崎じゃなくて新崎だ!! ったく……」
新崎と別れ、送迎用の車の中で家に向かう途中、朧気に彼女は呟く。
「…………あなたに彼を渡すわけにはいかないのよ」
その声は誰の耳に届くこともなく、ただ、ぼんやりと照らす月の光のように形を保てず消えていくのだった――……
傲岸不遜のシソーラスってかっこよくないですか?