蛇神の体内地下深くにて
ぺろぺろと、なにか暖かいもので頬を舐められている。
そして、手のひら大の大きさのものでそっと体重をかけられる。
それでも反応がないと、何かはくぅんと寂しげに鳴いた。
「うぅん……」
しばらく何度かそれらの動作が繰り返されるうちに、アビゲイルは意識を覚醒させた。
「……あ!」
一瞬だけ呆けてはいたが、彼女は状況を思い出した。
地割れに落ちて、アーロに助けられ、リリの導きに従って横穴へと飛び込んだ。
アーロは急減速をかけたようだが一旦ついた速度はなかなか落とせず、横穴の壁に何度もぶつかり跳ねるようにして停止した。
まだ眩む視界に頭を振ってアビゲイルが起き上がると、脇にはケルクが心配げにお座りをして構えていた。先ほどから起こそうとしていたのはこの相棒だろう、と検討をつけた。
辺りを見回せば、同じく倒れているアーロの姿もある。
どれくらい倒れていたのだろうか? そしてここはどこだろうか?
相変わらず地下であるはずだが、今いる空間は横穴から少し進んだ開けた空洞で、天井には蛍石と思わしき光源を放つ小さな石が無数にあり、辺りを薄く照らしている。
陰りはあるが相手の表情まで読み取れる暗さ、そんな場所にアビゲイルはいた。
「……ケルク。よかった」
今までアビゲイルを起こそうとしていたのだろう。視界に入った相棒の無事を喜び声をかけてやると、ケルクもまた嬉しそうにわふっと鳴く。
その背にくっついたと思わしき小さな半透明の薄羽がぴこぴこと揺れるが、はてこれはどういう原理かとアビゲイルは首を捻る。
異世界の生物である妖精と犬精霊は近しい存在なのか、何かしら共通点となるものがあるのか、など推測はできるが、答えはすぐには分からない。
妖精たるリリに聞けばあるいは……まともな答えが返ってくるかは不明だ。
それに、今は思考をしている場合ではないと判断した。
「アーロっ!」
抱きかかえられていたはずだが、ぶつかった衝撃により投げ出されて体のあちこちをぶつけて転がったと思われ、体のあちこちが微かに痛む。
だが痛みを抑え込み、アビゲイルは未だ倒れたままのアーロへと駆け寄った。
壁にぶつかる際にアビゲイルを守ったせいか、着地の際に当たり所が悪かったのか。武器も携帯していたので転倒の際に体を傷つけたのかもしれない。現にアーロが身に着けていた鞄のようなものは紐が外れたのか離れた場所に転がっている。
「ん……。うわっとぉ! あっち行きなさい! しっしっ!」
同じく意識が戻ったのか、アーロの外套にくるまっていたリリが驚きの声を上げる。
それに追い散らされるようにして、辺りから小さな岩蛇や虫が逃げ去っていく。
この開けた空間は地下とはいえ小さな生き物が多数いるようであった。騒がしくした侵入者か、はたまた降って来た餌と見て様子を見にきたのだろうか。
「リリも無事?」
「アビィ! よかったぁ」
必死の形相で小さな生物を追い払ったリリは、近づくアビゲイルとケルクを眼にして安堵の声を上げる。
さらに倒れ伏したアーロへ近寄り揺さぶれば、わずかに身じろぎし呻き声を漏らしてうっすらと眼を開けた。
「……。生きてるか?」
「それはこっちが言いたいよ!」
いつもの調子で身を起こして無事を確認したアーロに対して、アビゲイルは思わず反論した。
本当ならば無事を喜び礼を言わなければいけないのに、ついいつもの調子に乗っかってしまう。
暗がりできらりと光るアーロの金色の左眼を見て、アビゲイルはとりあえず安堵する。
「お兄さん! 無事でよかったぁ!」
「おうおう。ありがとな」
だがリリは頬に頭をぶつけんばかりに喜びの意を示し、ケルクもすり寄ってくんくんと鳴いた。それに礼を述べながら微笑むアーロ。
先ほどまで命の危機に瀕していたにも関わらず、そして命を賭して助けに来たのにも関わらず全く気負いのない反応。
子や飼い犬と戯れる老人とも取れる様子にアビゲイルは毒気を抜かれた。
「あ、その、ボクも……ありがとう」
「おう。アビィも無事で何よりだ。正直、もう駄目かと思ったぜ」
「そんなこと。ボクだって何度も思ったよ」
歯切れ悪く礼を述べれば、軽く返されて頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
アビゲイルとしても正直もう駄目かと考えたのは二、三度あるが、今こうして生きている。落下死という危機は去り、とりあえずすぐ死ぬという危険はなくなった。
あははと軽く笑いながら立ち上がったアーロは、辺りを見回す。
「さ、てと。次は脱出することを考えるか。ここはどこだ?」
「……分からない。だいぶ深くまで落ちたけど、《蛇神の内腑》か、ひょっとするともっと深くの《蛇神の神髄》かも」
地下へと落ちたことは分かっているが、深さは分からない。そしてこの空間はいったい何なのか。
ただの空洞ならば出口は無く、途中で道は塞がっているだろう。天井も高く道幅もあるので坑道かとも思えるが、地下深くまで掘り進みさらに蛇神の体が再生しないよう維持するとなると限られた道しかない。
「よし、まずは様子見だな。歩いてみるか」
細かい計画を立てる前に現状把握を提案し、アーロは身に着けた装備を確かめていく。
腰帯に着けた水筒らしき筒。片手斧と戦鎚が外れていないことを確かめる。外套をひらひらと捲り、首元のスカーフに触れ、動きを止める。
「そのスカーフ……」
自らの短刀はすべて投擲しきっており、削岩機も放り出して失くしたためすることが無く、アーロの点検の様子を眺めていたアビゲイルはスカーフを見て物思いに耽る。
地割れに呑まれて落下し、助けに来てくれた際、アーロの背後には光の輪郭で人の形が見えていた。
風切り音に紛れて聞こえにくかったが小さく声を発し、アビゲイルに視線を向けて笑みをこぼしたような気さえする。
「これは……いや。考えるのは後だな」
背後にいたはずだが、見えていなかったのか、聞こえていなかったのだろうか? とアビゲイルは思案するが、アーロは頭を振って思考を止めた。
暗闇で光り輝くような現象は今はなく、ただの布製の赤いスカーフである。
首元や首筋をしきりに気にして手を当てるアーロの姿に何とも言えない心持ちになりつつ、アビゲイルは何も言わなかった。
「そういえば俺の[小鞄]は……?」
「鞄? それならあそこに……あっ」
アーロが身に着けていた鞄の所在を問われ、アビゲイルは先ほど見た場所を指さそうとして、呆気に取られた。地面に転がっていた鞄が、なかったのだ。
より正確に言うならば、先ほど見た場所に無かった。それどころか今もずりずりと移動していたのだ。
しかしその原因は、すぐに知れた。
「なんだありゃ?」
よく見れば、小さな鞄を持ち上げるようにして茶色の毛玉のような物体が二、三匹蠢いている。
「あれ……。地精霊」
茶色の毛玉の正体に検討がついたアビゲイルはぽつりと声を漏らす。
だが、すぐさま脇をすり抜けてケルクとリリが飛び出す。
「こらーっ! どこに持ってくの!」
リリが怒気を露わにし、ケルクはがうっ! と吠えて威嚇する。
その姿に恐れをなしたのか、茶色の毛玉たちは飛び上がるようにして速度を早め、岩の隙間へと逃げ込んでしまった。もちろん、[小鞄]を担いだまま。
ケルクが追いすがり岩の隙間に前足を突っ込むが、時既に遅し。しばらくがりがりと岩肌をひっかいたケルクはきゅーんと鳴いた。
同じく戻って来たリリもしゅんとうな垂れる。
「お兄さん。ごめん……」
「……いや。いい。それよりなんだあの毛玉は」
「あれはたぶん、地精霊だよ」
「地精霊?」
リリの頭と耳を垂らしたケルクを慰めるように撫でながら発されたアーロの疑問に答えるのはアビゲイルだ。
地精霊。
《地に住む者》とも呼ばれる小さな生物。
茶色の毛に覆われた体は拳大から大人の顔程度まで様々。地下深くに集団で住み、独自の生態系を形成する。
岩食族とは言葉は通じないが特に敵対関係ともならず、放置されている。
害にもならないため特に深く研究もされず、食性その他は不明。
そんなことを説明し、アビゲイルは今いる場所の検討をつける。
「地精霊がいるって事は、今ボクたちがいる場所は《蛇神の神髄》だよ。深くに行かないと地精霊の姿は見えないから」
「あー、つまり地精霊は山岳世界の不思議生物ってことだな」
「……まぁ。簡単に言えばそうかな」
こいつ説明聞いてたのかと疑り深い眼線を向けるアビゲイル。
どこの世界にも不思議生物はいるんだなぁとざっくりとした感想をつぶやくアーロはしかし、困ったように腕を組む。
「[小鞄]には食料が入ってるんだが、どうするか」
「あ! そうだよね! どうしよう……」
「しまったな。収納鞄が便利過ぎて全部入れちまってた」
今さら地精霊が逃げ込んでいった岩の隙間を見ても、隙間の穴はどこかに繋がっているのか一向に出てくる気配はない。ケルクが諦めたことからも匂いが離れていっていたのだろう。
ここは地下。それもおそらくかなりの深さ。抜け出すにしろ救助を待つにしろ、時間がかかることが予想される。
言葉の通り、アーロは特に食料を分けて持っているわけでは無いようであった。
アビゲイルは懐にいくつか魔晶石を仕込んでいるほか、その気になれば岩壁を掘ることで魔晶石や岩石芋、洞窟人参などを見つけることが出来るだろう。
だが。
「俺、魔晶石は食えないしな……」
「だよね……。岩石芋は――」
「硬すぎて噛めねぇ。というか消化できなさそうだ」
石と見紛うばかりの見た目通りの硬さを持つ岩石芋、たとえ胃に入れたとしても消化できるかは挑戦が必要だろう。苦いだけの洞窟人参は食えるが、数の確保は難しいし栄養価も不明である。
地下で一人餓死か、と冷や汗を垂らすアーロと、どうしようかと思案するアビゲイル。
「はいはい! 大丈夫よ! 私に任せて!」
だがその思考は、リリがはいはいと手を上げたことで遮られる。
飛び上がったリリは胸を張り、自信満々で任せろと口にする。
「ねぇアーロ。この子に任せて大丈夫?」
「うーん。まぁ……今まで嘘は言ってないしなぁ」
「二人とも失礼ね! ばっちり大丈夫よ!」
確かに、飛べるということで二人と二匹が重量過多で飛べなかったという前例はあるが、リリは嘘は言っていない
そういう点では信用できるというアーロだが、アビゲイルとしてはどこか間が抜けているという印象であった。
二人の答えに憤慨するリリ。だが気を取り直して飛び、薄暗い道の先へ行こうと促す。
「こっちよ。行けば分かるわ。というか、お兄さんは薄々気がついてるんじゃないかしら?」
「アーロには?」
「……あぁ。まぁ、なんとなくは」
どういうこと? と目線で問うが、アーロは答えずに歩き出す。首筋を気にしつつ、体をぶつけたせいかふらりとよろめきながらだ。
その背を追ってケルクが歩き、アビゲイルも取り残されないように続く。
リリの自信満々の先導によって、二人と二匹は薄暗い洞穴の道を進む。
「さぁ。問題よお兄さん。ここはどこだと思う?」
「地下……。《蛇神の神髄》だろ」
「ぶぶー。当たってはいるけど外れよ」
「ねぇアーロ、この子さっきから何言ってるの?」
「気にするな。妖精が変な事を言うのは珍しくない。……いつも、そうだな」
「ほんっと失礼よね。でも、これもヒントよ」
「あー。分かったような気がする」
「……もう、なんなのさ」
謎の問答を続けるアーロとリリ。
それについて行けず、アビゲイルはなんとなく疎外感を感じた。
「リリ、質問してもいいか?」
「問題の答えじゃなければいいわよ」
「おう。お前、さっき落ちているとき、何と話していた?」
「ふふっ。さすがね」
上機嫌に笑ったリリは先導しつつくるりと振り返り、薄羽をはためかせて器用に滞空する。
「正確に言うと会話じゃないわ。呼ばれた、というのが正しいかしら」
「何にだ?」
「それを言っちゃうと答えに繋がるから駄目よ。と、分かれ道ね。お兄さん、どっち?」
「……こっちだ」
歩みを進めるうちに道は二股に分かれている。
どちらに進むかと問われたアーロは左眼を微かにしかめ、左側を指さした。
「リリが先導するんじゃないの?」
「いや、分かれ道は俺だ」
「何か、意味があるんだね?」
「あぁ。まだ確信は出来ないが、ある」
「……そう」
アーロ自身もまだ確信してはいないが、何かを掴んではいるようだと感じたアビゲイルは、もはや黙ってついて行くことに決めた。
会話の内容も不明であれば、完全に感覚派のやり取りであったためだ。
「さて、分かったかしら?」
「まだだな。あの外套とスカーフ。リリ、お前いつからそんなに物知りになった?」
「ふふん。いつも、と言いたいところだけど、地割れが起きてからよ」
「それまでは知らなかったのか?」
「まぁね」
「正確に言うと。知っていたが忘れていた、だろ?」
「……そうよ」
もう分かったみたいね、とリリは面白そうにつぶやいて、洞穴の先へとひゅーんと飛んでいく。
それを追ってアーロとアビゲイル、ケルクがたどり着いたのは、先ほどと同じく大きく開けた空間。
だが決定的に違うのは、部屋だ。
石製らしき背もたれのない丸椅子に削り出しの机に、同じく石製のベッドのような寝台。
天井のど真ん中、取り付けられたような位置には大きな蛍石があり、部屋を照らしている。
「ここは……なに?」
「さぁ。ここがどこか、お兄さんなら分かるんじゃないかしら? ね?」
呆気に取られるアビゲイルをよそに、リリはにこりと微笑み、再度アーロへと問うた。
「《蛇神の神髄》の中にある、神域。森林世界の森の宮殿と同じ、神の住まう場所。そうだろ?」
暗がりに輝く金色の左眼、幻や偽りを暴く真実を見通す眼を煌かせながら、アーロは断言した。
ここは神域。神の住まう場所、と。
「大正解! さすがはお兄さん!」
そして神域へと入り妖精本来の賢さを取り戻したリリが、大正解だと嬉しそうに手を叩き、笑った。
◆◆◆◆◆
アビゲイルは混乱の極みであった。
突如として現れた地下とは思えない生活空間。ここまで案内してみせた異世界の妖精であるリリ。さらには言葉尻からはこの場所について知っているようであった。
さらにアーロは少しの問答だけで場所を断言してみせた。その問答の内容も分からないことだらけだ。
「ちょっと、ボクにちゃんと説明してよ!」
思わずアビゲイルは説明を求めた。ケルクも追従するようにわふっと鳴く。
アビゲイルは自分の世界、そして憧れていた鉱山の内部について自分以上に知っている様子のアーロとリリに対しての疑念や少しだけの嫉妬もあった。
「うーんとねぇ。一から説明すると長いんだけどね。お兄さんの眼っていうのが――」
「待ってくれアビィ。それより、ベッドに行こう」
「はぁ? 休むのは後で、それより説明してよ」
リリの説明を遮り、アーロは急にベッド、部屋にある石製の寝台へ行こうと促す。
それよりも説明が先だとアビゲイルは体を押しとどめようとするが、アーロは止まらない。
「アビィ。頼む……」
「ちょ、っと。押さないでってば、うわっ!」
しまいには抑えきれず押し倒されるような形になり、二人の体は折り重なる。
アビゲイルが見上げるアーロの顔は蛍石の明かりに照らされてもなお、どこか赤く、呼吸もはぁはぁと荒い。
さらにどことなく眼は虚ろで、その手は何かを確かめるかのように、まさぐるかのように地面を掻いていた。
「アビィ……」
「え、待って待って! ボクらそういうんじゃないでしょ!」
「お兄さん何やってんの!」
自分でもよく分からない否定をしつつ、アビゲイルはアーロを自分の上からどかそうと試みる。顔が近い。
リリも慌ててアーロの外套を掴んで引き離そうとしているが、体格差がありすぎて無理であった。
ケルクも焦ったようにアーロの外套を咥えて引っ張るが、まさか噛み千切るわけにもいかず力が弱い。
地下で男と女が二人。男は食糧難で生還の望みが薄い。たどり着いた安全と思わしき場所には寝台。
そんな状況から導き出されることは、アビゲイルには心当たりがあった。
まさか。いやあり得る。しかし。そもそもそんな関係では。いやいや自暴自棄ということもあって。
そんな思考がぐるぐると頭を回り、アビゲイルは焦った。
「そんな、ボクなんて。でもどうしてもって言うなら。ほら助けに来てくれたし? お返しということもなくはないのかなって?」
そしてよく分からないことを言いながら覚悟を固めた。
相手はアーロ。命を懸けて助けに来てくれた恩人である。今ここで生きているのもアーロがいてこそだとアビゲイルは考えた。というか、言い訳を作り出した。
だがしかし、アビゲイルの頭脳で導き出された考えは盛大に的外れであった。
「すまん。後を頼んだ……」
「うん、ボクに任せて……。え?」
顔を上げていることすらできなくなったのか、アーロはだらんと手足を伸ばし、アビゲイルの上に倒れ伏した。
様子がおかしいとその頬に触れれば、顔の赤い原因は知れた。アーロの体は熱を持っている。それもかなり高温の。
「お兄さん?」
「すごい熱。これってまさか!」
高熱、そしてここは地下。鉱山についての知識は幼いころから詰め込んでいる。今のこの症状についてもアビゲイルは心当たりがあった。
「ケルク、体を支えて!」
わふ! と鳴いたケルクはアビゲイルとアーロの体の隙間に鼻づらを突っ込み、そのまま頭部をねじ込んで体を持ち上げる。
アビゲイルはその隙に体をずらして抜け出し、アーロの手足など肌の露出した部分をくまなく探す。
しかし、目当ての物は見つからない。
「ケルク、そのまま。どこだ、きっとどこかに。あ!」
あることに思い至ったアビゲイルはアーロの首元のスカーフを動かし、首筋をさらけ出す。
蛍石の光源の下でもはっきり見える。首筋には微かに血の滲む、小さな穴が二つ。
リリもその穴を見て気がついたのだろう、そしてアビゲイルは息を呑む。
「アビィ。それってまさか――」
「うん……」
いつかは不明だ。待避所で矢面に立って戦った時か、落ちている間に同じく上部から落ちて来たものにやられたか。
可能性としては皆の意識がなく倒れ伏していた時だ。そういえばリリが小さな個体を追い散らしていた。その前に、潜り込んでいたやつにやられたのかもしれない。
思えばアーロは道中には首筋をやたらと気にして、微かに体を引きずるように歩いていた。物思いでも痛みでもないとすれば、その時既に症状が現れていたのだ。
アビゲイルはごくりと唾を飲む。救助の見込みの少ないこの状況では、絶望的だ。
「岩蛇に噛まれてる……。どうしよう。解毒薬を見つけないと!」
アーロは岩蛇に噛まれ、麻痺と高熱を生み出す神経毒に侵されていた。
<命懸けの救出>イベントが発生しました。
アビゲイルの好感度が3上がりました。
<蛇神の洗礼>イベントが発生しました。
アーロは状態異常:神経毒を負いました。
雑感
リリ、賢者モード。
アーロ、ピンチ。
アビゲイル、いろいろと焦る。




