地を食う者
山岳世界ヨームガルド。
神の胆石から創られたと伝えられる世界。
そこには【岩食族】と名付けられた特異な生活を営む者たちが暮らしている。
特異な、とは食生活だ。読んで字の如く彼らは岩を食べる。
しかし口にするのはただの岩ではなく、とある鉱物、魔晶石と呼ばれる鉱物を食し、栄養素とするのだ。
そして彼らの生活する山岳世界は、見渡す限り山々が連なっている。周辺調査により川は見つかったが海は確認できず、連なる連峰はどれもが多種多様な鉱物資源を有する鉱山なのだという。
転移門を通ってやって来た異世界調査団がいるのもそんな鉱山のひとつである。事前に訪問を伝えてあったため、今回は出迎えつきだ。
落ち合う場所は鉱山の入口らしき山の広場。いくつかの丸太を組んで作られた家屋があり、遠くにはさらに多くの家々、朝陽に照らされる村が見えた。
「おっっっきい人ね!」
アーロの外套のフードに陣取った妖精であるリリが溜めを作ってまでそう表現する通り、集合予定地に現れた岩食族は大きかった。
「でかいな……俺より二回り上くらいか」
「厚みはもっとだよ。なに食べたらああなるのかな?」
アーロとウェインもそれぞれ感嘆したように表するのも無理はない。出迎えた岩食族は数人だが、そのどれもが大柄の男をさらに越える背丈と横幅の持ち主であったためだ。
上に高いのではなくずんぐりとした体格に、はち切れんばかりの筋肉を備える手足。金属製の籠手や鎧に身を固め、体や顔、髭の区別無くもじゃもじゃと大量の毛が生えている。
言い方は悪いが毛むくじゃらの鉄製の樽に手足が生えた。そんな体型である。
さらには岩食族は体の大きい狼のような犬を一匹ずつ、それぞれが連れていた。見た目とは裏腹におとなしいのか今は吠えもせず、みなごろりと横たわり尻尾を振ってくつろいでいる。
「やっぱ毛無族は小せぇんだなぁ」
「女子のようにつるつるだのう」
「ちゃんと物を食っとるのかの」
見下ろす形になる岩食族の面々もまた、異世界調査団の一行を眼にして驚いていた。
岩食族の男衆は見た目の通り体毛ふっさふさのずんぐりむっくりである。しかし反対に女衆の体格は小さく、さらに体毛も薄いという。
そんな彼らが男だが体毛の薄いアーロやウェイン、さらには女と比べてもかなり小さな妖精であるリリを見て驚くのも当然のことだろう。妖精は一種部外者ではあるが。
ちなみに石を食べるような姿から岩食族と名付けられた山岳世界の者たちは、神眼世界の者を毛無族と呼ぶ。女だけでなく男も体毛の薄い変わった種族、とのことである。見方が変われば呼び名も変わる。異世界交流の際のお約束だ。
「よく来たな。歓迎するぞ」
岩食族の集団のなかでも一際体格が良く、髭と言わず髪と言わずもじゃもじゃの男が巌のような手を差し出し、にこりともせずに口を開いた。
「ゲルナイルだ。皆には【親方】と呼ばれているが、好きに呼べ」
「アーロ・アマデウスだ。これから世話になる」
「ウェイン・ムラクモだよ。よろしくね」
「リリよ!」
ゲルナイルと名乗る無愛想な男の大きな手をアーロとウェインは苦労して握り、抱えあげてもらったリリは元気よく返答し、ちょんと指先と手のひらを合わせた。
「うむ。ではな」
「またのぉ。毛無しの」
「ゆっくりしていくといい」
「山では迷子にならんようにな」
挨拶が済めばゲルナイルは大きく頷き、男衆を連れてのっしのっしと歩き去っていく。犬たちも立ち上がり、わふわふとじゃれ合いながら同行する。向かう先は鉱山、大きな穴蔵だ。
鈍く光る鎧と担ぐ大斧や金鎚が触れ合いかちゃかちゃと音を立てるが、毛むくじゃらの大男たちが穴蔵に消えてからはその音も無くなった。
握手を交わしたばかりのアーロたちはあまりの自然な去り際にぽかんとした表情で顔を見合わせ、首を捻る。
「あれぇ?」
「なんか俺たち失礼があったか?」
「いや、そんなことはない、はずだけど……」
「気にしなくていいよ。男衆はみんなあんな調子だからさ」
男衆は挨拶もそこそこに穴蔵へと去っていったが、場に一人と一匹残された者がいた。
先ほどまではあまりに大きな男衆の体格に圧倒されて気が付かず、また実際に体の影に隠れて見えていなかったのだろう。
一人はアーロの胸ほどの小さな背丈に、肩口で揃えられた暗い藍色の髪。 顔全体を覆うようなゴーグルとマスクを被っているせいか、やや籠ったような声だ。 だぼだぼの革製作業繋ぎに身を包み、足元には何らかの機材の入った布袋が置かれている。
そして一匹は狼のような犬だ。腹巻きのような荷物運搬用の装備を着けているが重さをなんとも感じていないのか、尻尾を振りながらはっはっと息を吐き見慣れぬ者たちを興味深そうに見つめている。
「君は……?」
アーロが問えば、小さな者はゴーグルを上げマスクを外してその素顔を晒す。
隠されていたのは、髭のないつるつるの素肌。目鼻立ちは整っているが、綺麗というよりも可愛らしいと評されるだろう。
その背丈も相まってあどけない少女のように見える者は名乗り、革手袋を外して右手を差し出した。
「ボクの名前はアビゲイル。君たち異世界人の案内役さ」
見た目とは裏腹にしっかりとした喋り方。
理知的な光を瞳に宿す岩食族の小さな女性、アビゲイルはにっぱりと笑った。
◆◆◆◆◆
お互いの自己紹介が済んだ後のことである。
「ダメよ! 反対! お兄さん帰るわよ!」
岩食族のアビゲイル。彼女が語るところによると本来は皆の信頼が厚い【親方】ことゲルナイルが案内を担当するはずだったが、急な用事のためにその娘である自分が案内役を任されたのだという。
それを聞き、真っ先に反対したのはリリである。
「来てすぐに帰れるわけないだろ。失礼にあたるぞ」
「そうだよ。さっき使ったから、しばらく転移門は起動しないよ」
「でもでも! ダメよ!」
急にどうしたと訝しむアーロとウェインだが、リリはとにかくダメの一点張りだ。
それどころか、岩食族のアビゲイルを敵視するような眼で睨んではきゃいきゃいと喚いている。
「ボク、小さい子に嫌われちゃったかな……?」
「いやいや待ってくれ。こいつは気まぐれなんだよ。ウェイン、ちょっと頼む」
「はいはーい」
少しだけ傷ついたようにリリの様子を窺うアビゲイルに対して、アーロは待ったをかけてウェインへ対応を任せ、少しだけ距離を取る。
いきなり帰るなどと言い出したら応対してくれた岩食族へは悪印象を与えるため、リリの話を聞き説得する心づもりである。
「どうしたリリ? お前にしては珍しい」
「なによぉ! デレデレしちゃって!」
「デレデレってなぁ。まだ会って挨拶したところだろ」
「ふんっだ! お兄さんの魂胆は分かってるんだから! 相手が女の子だから嬉しいんでしょ!」
ぷんすかと怒りを示して耳元で叫ぶリリから責めるように言われ、アーロは眼をぱちくりとさせる。
「まぁ、確かにむさいおっさんよりは嬉しいが……」
「ほらやっぱり! お兄さんってばルナより小っちゃいあの女にうつを抜かして……小さい?」
当たり前のようにむさいおっさん連中よりは可憐な美少女に案内してもらった方が嬉しいではないか、と答えるアーロ。
ほれ見たことかと糾弾を強めようとしたリリは、しかし自らの言葉に何か気が付いたかのように動きを止め、ふむと考え込みだした。
「そうね。小さいわ。小さい方が嬉しい、そういうことね。うん。それならまぁ、今回は特別に許してあげるわ!」
「確かにアビゲイルは小さいな、背丈は俺の胸くらいか?」
「私はもっと小さいわよ! ねぇねぇ!」
「あぁ、わかったわかった。とにかくいいんだな?」
外套のフードから精一杯身を乗り出してなにやら自己アピールをし始めたリリを軽くあしらい、アーロはとりあえず許可を得たと適当になだめすかす。
指先でリリの頭をぐりぐりと撫でながら戻れば、岩食族のアビゲイルはやや不安げに待っていた。
「待たせてすまない。話はついた」
「ごめんなさいね!」
「んん? なんだったの?」
「アーロっちもいろいろと、苦労してるんだよ……」
先ほどとはうって変わって機嫌よさげに謝罪するリリを見て、アビゲイルは首を傾げる。
なんとなく事情を察したウェインがぽつりとこぼすその言葉を聞いているのかいないのか、アーロはよく分からんと肩をすくめた。
余談であるが今回の山岳世界行きを決めたのはアーロである。その選考基準は至極まっとうなもので、嫁がいる身として男が外交官として登録されている世界を選んではいた。当初の予定では先ほどのゲルナイルが案内役となる手筈であったのだ。
そこで女性が案内役になるのはちょっとした事故、不可抗力である。
そして幸か不幸か、異世界調査団に送り込まれた小さな監視役は、とてもちょろいのだ。
◆◆◆◆◆
神の胆石を核として創られた世界。
かつてこの世界には、巨大な蛇がいた。
大蛇神 ワールグランズ
この世界を統べる者、一級神ヨームガルドの庇護を受けた配下、二級神である。
この大蛇神はたいそう大食いで、一級神から与えられる物、さらに眼につく物は何でも食べた。生まれた当初の姿はとても小さかったが、食物を食べるにつれてその姿は大きく長く成長し、やがて世界の上にとぐろを巻いて君臨し、さらに腹を満たすため大地を喰らうまでとなっても成長を続けた。
天に届くほど大きく、そして強く成長したワールグランズだが、ある時山岳世界には喰らうものが無くなってしまった。
二級神ワールグランズによって世界は尽く喰い尽くされ、全ての生き物はその長い腹へと収まったのだ。
そんな暴食の振るまいにも一級神ヨームガルドは寛容であった。手塩にかけて育て、世界を喰らうほどに成長した配下を誇らしく思ってさえいたという。
しかし、二級神ワールグランズは満足しなかった。
尽きぬ飢餓感。果てぬ食欲に支配された大蛇神は、あろうことか主、一級神ヨームガルドへと食らいついたのだ。
これには寛容だった一級神も激怒した。
手塩にかけて育てた配下の反逆。従属に手を噛まれるという屈辱は堪えがたいものだったのであろう。
大蛇神ワールグランズの噛みつきを容易く受け止め、怒りに任せて顎を引き裂いてもなおその感情の爆発は静まることがなかった。
ヨームガルドは頭部を失ったとしても未だのたうつ二級神ワールグランズの長い体を踏みつけ、ずたずたに引き裂き、七日七晩暴れまわった。
一級神の脚により踏み固められた事で何もなくなった世界の底が固まり、引き裂かれた体からは肉や内臓が飛び散り、積み重なって再び大地となった。
ヨームガルドが流した汗は川となり、発した怒声は空となり、さらにばらばらになって放り投げられたワールグランズの長い体は山となり、今の世界が創られた。
さんざんに暴れまわった後、心を落ち着かせた一級神ヨームガルドは悔やんだ。己に牙を剥いたとはいえ配下を自ら手にかけたことを悲しみ、世界から姿を消した。
一級神のいない世界。大地が創られただけの空っぽな世界。何の生き物もいない寂しい世界であったが、しばらくして朽ちたワールグランズの鱗が剥がれ落ち、やがてそこから大蛇神の巨体と比べると小さな小さな人が生まれた。
生まれたのは人だけではない。世界を食らった大蛇神の体からは様々な生き物が姿を表し、再び世界に満ちた。その後長い年月をかけて多様な生物が暮らす生態系が形作られたのだ。
大蛇神の鱗より生まれた人々は次第にまとまり、文明を築き、技術を発展させる。特に発達したのは工業だ。なかでも鉱業や鋼業といった山を削り鋼を鍛える技が生まれ、磨かれていった。
かつて世界全てを喰らい尽くした大蛇神ワールグランズの体が元になった大地だ。その腹に蓄えた鉱物資源はかき混ぜられ、世界中に鉱床として姿を表していた。
人々は技術を磨き、鋼を鍛え、山を堀り、今なお豊富な鉱物資源に支えられて生活を続けている。
それが山岳世界。それがヨームガルドである。
「じゃあ、でっかい人たちはでっかい蛇の子孫なの?」
「うーん……。どうだろうね。言い伝えによるとボクたちは大蛇神の朽ちた体から生まれた人だから、大蛇神がいたという頃を知らないはずなんだ。神話だからね、本当の所は誰も分からないよ」
「え? ほんとの話じゃないの?」
「……ええと」
「すまん。アビゲイルさん、リリは冗談が通じないんだ」
「この子って純粋かつお馬鹿なんだよねー」
転移門のある鉱山から繋がる坑道らしき広い道をしばらく進みながら、その壁に描かれた壁画や彫刻を眺めつつアーロたちは山岳世界の成り立ちを話して聞かされていた。
語り部のアビゲイルからの話をお馬鹿なリリはいつも通り真に受けており、壁画や彫刻を眺めつつ終始わくわくしながら聞いていたのだ。終わりにそれが神話の類い、おとぎ話だと言われてもピンとこないようであった。
しかしそれも仕方のないことだろう。なにせ道すがら眼にした壁画はどれも色鮮やかに描かれてそれぞれの場面や出来事を事細かに伝えているし、随所に散りばめられた彫刻は神や蛇の姿、世界の縮図を芸術的に表していたからだ。
芸術に関しては疎いアーロの眼から見ても素晴らしい出来映えの一言であった。永き時を経ても色褪せぬ壁画や彫刻でこれだ。岩食族は工業だけでなく芸術への造形も深いことが伺えた。
ちなみに今は蛍石をはめ込んだランタンを三人がぶら下げている。驚くことに山岳世界でも神眼世界と同様に蛍石が産出する。岩食族は暗闇でも眼が効くらしいが、洞窟や鉱山の穴蔵の中、完全な暗闇では少しだけ明かりが必要とのことだ。
「ボクたちは今でこそ木の家に住んでいるけど、ずっと昔はこうやって山に穴を掘って住んでいたみたい。世界中の人が穴蔵を掘ってたから、あちこちが繋がってるんだ。迷子にならないようにね」
「あいよ。リリ、俺から離れるなよ」
「わかったわ! えへ」
「即答だよ……」
「その、毛無族の人も男は大きくて女は小さいの?」
今も外套のフードの中に陣取ったリリがにへらっと笑い服の襟を握れば、アビゲイルが興味津々といった様子でその様子を見つめていた。
「いや。こいつは妖精。異世界の不思議生命体だ」
「よろしくね! おっきい人たちの中でちっちゃい人!」
「なにその呼び方……。ボクの事はアビィでいいよ。妖精さん」
「呼びやすくなって助かるな。俺はアーロでいい」
「僕もウェインでいいよー」
「リリよ! アビィ!」
「あはは。改めてよろしくね」
「おう。それで君は小さいが、岩食族は男女で体の大きさがずいぶんと違うんだな?」
アーロは少々無遠慮かと思ったが、アビゲイルの体をまじまじと観察した。相手を知るにはまず観察が必要である。
アビゲイルの体格は小さい。背丈はアーロと比べると胸ほど、ウェインと比べても肩ほどの小柄である。先程の男衆、なかでも【親方】と呼ばれたゲルナイルと比べると背丈は半分以下である。そしてだぼだぼの作業繋ぎに隠されて気が付きにくいが、その胸元はささやかながら膨らんでいた。
アーロが観察として胸元や細い手首や首筋を眺めていると、共に歩んでいた狼のような犬がぐるると唸りだす。
分厚い毛に覆われた体に違わぬ大きな口、そこに並んだ牙を見てアーロは諸手を上げた。
「……すまんな。降参だ」
「あはは。この子はケルク。人の考えが分かるから気をつけてね」
アビゲイルが笑いながらその背を撫でてやると、ケルクは途端に尻尾を振って喜びを示す。
「賢いのね! この毛むくじゃら!」
「毛むくじゃらって……。妖精さんは犬精霊を知らないの?」
「犬精霊?」
「犬妖じゃなくて?」
「くーしー?」
アビゲイルの発した聞きなれぬ言葉に、アーロだけでなくウェインも首を傾げる。
アガレアには猫妖がいるように、犬妖も生息する。彼らは見た目は何の変哲もない犬のような種族だが、言葉を解して草原や高山地帯にて文化的な生活を送っている。社会に馴染んだおとなしい種族である。
しかし犬精霊というのは聞いたことがない。恐らくは妖精のような、山岳世界固有の生物であろうとアーロはあたりをつけた。
「犬精霊も大蛇神ワールグランズの体から生まれたと言われてる種族だよ。賢く、よく働き、石を好んで食べる。ボクらの相棒さ」
解説しつつアビゲイルがその小さな手で喉元を撫でてやれば、ケルクは尻尾を千切れんばかりに振り振りして喜びを表した。その体が伸び上がれば体長は小さなアビゲイルをゆうに越えるだろう。
おぉー! と感嘆の声を上げたリリをアーロが摘まんでケルクの背に乗せてやると一度見つめ合い、わふっと一声鳴くと乗せたまま歩き出した。
「わぁ! すごいわこの毛! ふかふかよ!」
「ケルク、落とさないようにね。で、岩食族の話だっけ。ボクたちは男と女で完全に役割が別れてるんだ。男は鉱山仕事、女は鍛冶仕事さ」
「かじ? 炊事や掃除か?」
「アーロっち、きっと鍛造とかの鍛冶だよ」
「そうそう。女衆は家で防具や採掘装備を鍛え、それで以って男衆が鉱山で大地を掘り返す。それを基に鍛冶をして……。の繰り返しさ」
「なるほどな。しかし、君は女の子だろ? なんで鉱山にいる」
「う……。それは……」
アーロが疑問に思うのも当然だろう。
先に異世界調査団を出迎えたのはみな屈強な男どもだ。鉱山を仕事場とするのも頷ける。しかしアビゲイルは小さい。まだ若い男子かとも思えるが、体型からするに女性である。
そんな彼女がなぜ、今こうして鉱山の案内をしているのか。
「い、いいじゃん別に。ボク、石が好きなんだ……」
言葉に詰まった彼女は、少しだけ照れ臭そうにもじもじとつぶやいた。
「石……」
「そうだよ。石とか、鉱石。つるつるのとか、ときときのとか、どれも形が違う。しかも色や特性まで違うんだよ。こんなおもしろいもの他にないよね?」
「あぁ。まぁな」
「うんうん、分かるよ」
暗闇を照らす蛍石の輝きに照らされたのだろうか、アビゲイルは瞳をきらきらと輝かせて力説した。
それに対してアーロもウェインも分からなくはない、と反応を返す。
誰しも子供の頃、石を宝物にしたことがあるだろう。男子ならばなおさらだ。珍しい色、形、何となく手にしたもの、旅先から持ち帰ったものなど。その種類は千差万別だが、どれもが石である。
石が好き過ぎて石に取りつかれた者。石があるから鉱山を仕事場にしたいと考えている。アビゲイルもまた、そんな業の深い者たちの一人なのだろう。
「好きを仕事に、ってやつだな」
「そういうこと。家族は反対みたいだし、父親からは『ではお前を男として扱う』とか言われてほぼ絶縁状態だけど……」
少しだけ眼を伏せ、もの悲し気な表情をするアビゲイル。
なにやら複雑な家庭環境の一片を吐露されたアーロ達は、何とも言えずに頷くしかなかった。
「ボクのことは置いといて、キミたちも好きを仕事にしてるのは同じじゃないの? 異世界から来て滞在するなんて、なかなかできないよ」
「そうか? 冒険しつつの旅行みたいなもんだが」
「仕事だからね。僕はなんでもするよ」
「ふぅん……。すごいね」
謙遜に捉えたのだろうか、アビゲイルはひとまず納得し小さく称賛をつぶやいた。
「しかし、女が鍛冶か。神眼世界じゃ鍛冶は男の仕事だな」
「鍛治場は神聖視されてて女人禁制も珍しくないんだけど、異世界だからか常識も違うんだねー」
「そうなんだぁ。ボクも普段は鍛冶仕事の手伝いだよ。たまに自分で鉱物採集もするけど。あとで採掘場とかも案内するね」
採掘場は久しぶりなんだ。凄いところだよ。とうきうきしながら話すアビゲイルに対し、アーロは苦笑した。
彼女の全身から、楽しみで仕方がないという雰囲気が迸っていたためだ。
「そういえば、岩食族はどうして鉱山に関わる技術が発展したの?」
「さっきのおとぎ話の続きだね。ボクたちは山を削り、地中を掘り進む。あたかも山や岩を食べるように。かつての大蛇神ワールグランズが大地を喰らうように、ね」
ふと疑問を発したウェインの言にアビゲイルはもったいぶって言葉を溜め、やがて道の行き止まり、奥まった小部屋の壁に掘られた彫刻を指して口を開く。
蛍石の明かりに照らされた壁の彫刻。
そこには大蛇神ワールグランズがとぐろを巻く雄大な姿が象られていた。
「ボクらの間では、大蛇神ワールグランズはまだ完全に死んではいないって信じられている。ばらばらにされて世界に飛び散った体、山や地下のなかに埋もれた大蛇神の心臓を探すことこそボクら……地を食う者の永きに渡る悲願さ」
宝石でもはめ込まれているのであろう、大蛇神のぎらりと照り返る瞳を前にして、アビゲイルは邪気のない笑みを浮かべた。
アビゲイルと顔見知りになりました。
好感度が[興味]へ上がります。
<岩食族の文化見学>イベントをこなしました。
アビゲイルの好感度が1上がります。
【岩食族】
自らを地を食う者と称する特異な種族。
鉱山とともに生活しており、工業や鋼業、芸術に富む。
登場人物紹介
アビゲイル
【岩食族】の女性。
体格は小さく、140センチ程度のボクっ娘ロリボディ。
鍛冶を生業とする岩食族の女性でありながら、石、特に宝石よりも鉱石を好む変わり者である。
雑感
毛無族とか言うとボルザがキレそう。
体毛が薄い濃いって話で、髪の毛は別です。




