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中庭のお茶会

 中庭のなかを進めば、咲き誇る花や草木を見渡せる開けた場所に、ベンチと日除け、小さなテーブルが設けられていた。

 そこには先客がおり、貴族向けの上品な、しかし動きやすそうな服に膝丈のスカート、背は低く金糸のような輝く金髪という出で立ちの少女がいた。

 歳の頃十歳前後のちびっ子である。座っていたベンチから立ち上がり両手を広げ、何やら尊大な様子でアーロを出迎えている。


「やぁ。こんにちは。俺はアーロっていうんだ。君は?」

「え? いやいや。ちょっと待つのじゃ。何をふつうに挨拶をしておる。おぬし、何か感じないか? 我が誰か分からんか? このタイミングじゃぞ? 分からんのであればおぬしは相当にポンコツじゃの」

「……む」


 ずけずけと物を言われ、さすがに閉口するアーロ。

 言われて再度眼の前の背の低い少女を観察するが、特にこれといった不思議な点はない。

 左眼もまた、何も感じない。


「特に、何も」

「マジでか」

「マジマジ」

「なんと……」


 がっくりと肩を落とす少女。

 見た目も何の変哲もない、と異世界帰りのアーロは判断する。耳が長かったり小さくて羽が生えていたりと変わった者は見慣れているが、眼の前の少女は身分が高そう、ということ以外何も読み取れなかった。


「はぁ……。やはりこの姿はいかんかの……。だがまぁ、それでも先に名乗った事は誉めて遣わす。挨拶は人付き合いの基本じゃからな」


 気を取り直して腕組みをした少女は、やれやれと首を振り、アーロの顔をまっすぐ見つめた。


「ふはは。分からんのならば仕方ない。我も名乗ろうではないか」


 そして偉そうにふんぞり返る少女。その身から突如として金色の光が溢れだす。


「ぐっ!」


 溢れた光に反応して左眼が熱を発し、思わず身を折り眼を押さえるアーロ。

 否、熱だけではない。その左眼からは白い炎が立ち上ぼり、しかし火傷もせず視界は正常である。


 奇跡。または神秘の出来事。

 それが起こるのは、彼の者の前でしか有り得ない。


「──我の名は、アガレア。神眼世界を統べる者(アガレア・ルーラー)


 溢れた光に包まれて、少女は姿を変えていた。

 すらりとした長身に煌めく金髪。面立ちは大人びた女性のものであり、身に纏う服は薄い羽衣のような物に変わっている。そしてその張り出した胸の前で腕を組み、堂々と仁王立ちする。


「ようこそ、我が子よ。歓迎しようではないか」


 少女は一瞬で、神へと転じた。

 その美しいかんばせにニヤリと笑みを浮かべる。獲物を前にした猛禽類を思わせる、強気の笑みだ。


「神の御前であるぞ。頭が高い!」


 一喝。

 アーロは知らず、膝を着き頭を地面につけていた。

 その左眼は神秘の炎を宿し、右眼からは止めどなく涙が流れる。

 幼き頃から崇め敬い、祈りを捧げてきた神との邂逅。その事実を認識し、自然と体が動いたのだ。


「うむ、そのままの姿勢でよい」


 少女から転じた女神は満足そうに頷くと、羽衣から出た素足を跪いたアーロの背にがっすと乗せる。


「やはりこの姿だと分かるようだの。あの小さな姿は省エネモードでな、神秘も少なければ維持も楽なのじゃ」

「は……!」


 うんともはいとも言えず。ただ反応のための声を発するアーロ。

 今も金色の光のような神威がアガレアからは発せられており、風のように吹き付けられている。当てられて心臓が震え、気を抜くと意識を失いそうであった。


「ふはは! まぁそうかしこまるでない。分からんのも仕方のないことじゃ。我は不出来な子を叱ったりせぬから安心するがよい」

「はっ!」

「だが、おぬしは嘘つきじゃ。既に罰は与えておるが、それでも我は嘘つきは嫌いじゃ。分かるな?」

「はっ!」

「よい。我は寛大じゃ。おぬしには期待もしておるゆえ、二度と嘘を口にするでないぞ」


 そう言って、女神アガレアは足をどける。

 体から溢れる光は徐々におさまり、アーロの左眼の炎は小さくなり、やがて霧散した。

 冷や汗を垂らしながら顔を上げたアーロが眼にしたのは、羽衣の女神ではなく、貴族風の服装をした少女だ。


「さて、ずっとおぬしを足蹴にしていたいが、残念ながら時間は有限じゃ! 話をしようではないか! はよう座るのじゃ!」


 ちびっ子へと姿を戻した女神、アガレアはベンチに腰掛け、自らの横をバンと叩いてみせる。

 跪いた姿勢から立ち上がったアーロは、ズボンに付着した土を払う。

 司教イグナティが言っていたどうせ汚れる、とはこのことだろう。嘘を言わず、さりとて真実も伝えないとは、話をはぐらかすのが上手い御仁だ、と軽く笑う。


 気を取り直し、アーロはベンチへ腰かける。左眼の炎はおさまり、右眼の涙は既に止まっている。

 神と同席とは気が引けるが、招かれているので応えぬわけにもいかない。さらに神との邂逅自体が既に二度目である。

 失礼にさえ当たらなければ大概の事は許されるだろう、という変な自信と思惑があった。物怖じせず順応力がやたらと高いのが元冒険者たる彼の長所である。


「隣、失礼します」

「うむ! これ以上失礼のないようにな! 我は気さくな神で通っておるからの、気兼ねなく話すのじゃ」

「毎度毎度軽すぎだろ神様」


 さっきは跪け敬え的なことを言っていたが、足蹴にして威厳を示したことで満足したのだろうか。天真爛漫で子供のような口調になるアガレア。

 ふつうは上位者として敬え褒め称えよというものだとアーロは考えていたが、神とは気さくで話好きなのかもしれない。

 森林世界の神エールバニアしかり、アガレアしかりだ。


「おぬしも一瞬で適応しすぎじゃ。何か飲むかの?」

「頼めるんで?」

「オレンジジュースしかないのじゃ!」

「じゃあなんで聞くんだよ……」

「飲むか飲まんかはっきりせい! 我は飲む!」

「飲みますよ」

「うむ。ではさっそく絞るのじゃ! 手はちゃんと拭くのじゃぞ!」


 ほれほれ、と濡れたおしぼりとオレンジをいくつか手渡される。ちびっ子女神の身長でどうやって実を採ってきたのだろうか。

 おそらくは広場の樹に成っている、司教イグナティが味を見てくれと頼んだオレンジだろう。実は大きく皮は張りがあり、剥いてみると瑞々しい果肉が顔を出した。

 それをテーブルに用意された絞り器を用いて、生絞りオレンジジュースを作成していく。

 先にコップ一杯分のジュースを作り渡すと、アガレアはそれを嬉しそうに飲み干した。


「んむ。んむ。ぷっはぁー! やっぱオレンジジュースは美味いのう! 褒めてつかわす!」

「どうも……。ここの司教のオレンジですが」

「では司教も褒めてつかわそう。む、そういえばおぬしを呼んだのも用があるのじゃった」


 ジュースを飲んで落ち着いたのか、アガレアは本来の用事を思い出したようである。

 決して人を足蹴にするために呼んだ訳では無いようだ。


「おぬし。転移門が開いてからは活躍しておるようではないか。我も最近は暇なゆえ、よく見ておるぞ」

「まぁ。それほどでもないですよ」

「謙遜するでない。我は行動で示す者は好きじゃ。あの堅物かたぶつのエールバニアから気に入られ、さらには世界同士を繋げるとは大儀じゃよ」


 森林世界を総べる者エールバニア・ルーラー。一級神エールバニア。

 その名をぽんと出し、さらには親し気に呼称するとは、神同士はやはり繋がりがあるのだろう。


「そういえばエールバニアから、よろしく伝えてくれと言われてたな」

「うむ。奴め。律儀にも菓子折り持って挨拶に来おったわ」

「神にもあるのか、菓子折り」


 馬鹿もん。比喩じゃ比喩。ときゃらきゃら笑うアガレア。


「あやつの世界の物は、この世界の物とまったく違う。それをやり取りすることで、どちらの世界にとってもよい効果を生むだろう」

「なるほど。こちらの利点は薬効の高い植物とかだな」

「それは人にとってのものじゃな。我らにとっても利は別にある。おぬしも神秘を宿す樹を受け取ったじゃろうに」

「あぁ。土産にもらったな。あれは良いものなのか?」

「もちろんじゃとも! 友好使節団とかなんとかの奴らも数本持ってきての。教会本部や各地に植えておるのじゃ。あるだけで神秘を産出する植物じゃよ! しかも、世界同士が繋がったことで奴の世界から神秘が少しずつ流れ込んでおる! 笑いが止まらんわ!」


 ふぁーはっは! と止めるつもりもなく大笑いするアガレア。

 ジュースのコップを持ったちびっ子が脚をばたつかせて喜んでいるようにしか見えないが、野暮な突っ込みはしない。アーロは空気が読める男なのだ。


「ふふふ、おぬしも肌で感じたじゃろう。森林世界はこことは全く違い、ただの森にさえ神秘が漂っておる。あの堅物はあんなにじゃぶじゃぶと神秘を使えるのに、それを有効活用できとらんな。我なんぞ、ただでさえ少ない量をやりくりしておるというのに……」


 くそ、ブルジョアめ。とアガレアは悔しそうに唇を噛む。


「神秘ってのは、世界によって扱える量が違うのか? いや、そもそも量という概念が分からんが……。ほれ。ジュースのおかわりだ」

「ありがとなのじゃ。左様、扱える神秘の量は神と世界によって違っておる。我はまだ新参ゆえ、なかなか神秘の量が少なくてな。故にこの世界の大地にも空気にも神秘は満ちず、物や人に込めるに留まっておるのじゃ」

「……それが奇跡や、闘装か」

「そうじゃ。あとは神が貸し与える力じゃ。おぬしはなかなか物分かりが良いの。どれ」


 アガレアはアーロを褒めると、不意にその腕を取る。小さな手に握られた右腕からは、ほろほろと淡い燐光が零れ出した。

 それを観察し、アガレアはふぅむ。ほほぅ。なるほどのぅ等と納得したようにして手を離す。


 人に籠められた神秘。神からの贈り物(ギフト)。アーロの扱う《守りの力ガーディアンブレイバー》もその類である。

 かつてその身から取り上げられ、再度沸き上がった神秘の力。

 それを見透かされたことでアーロはなんとなく居心地が悪くなる。もともと賜り物だが、返せと言われるとやはり寂しいものがある。

 誰かを守るため、必要な力なのだ。


 だが危惧に反し、アガレアは再度きゃらきゃらと快活に笑う。


「そんな顔をするでない! 取り上げようなどと思ってはおらんわ」

「……てっきり言われるかと」

「おぬしがいらんなら貰うがな。それは我の与えた力ではない。好きに使うがよい」


 アガレアは神秘の力を返せではなく、貰うと言った。アーロはそのことに首を傾げる。


「違うものなのか?」

「そうじゃ。どうやら見たところ、エールバニアの加護を得ておるな。あの堅物によほど気に入られたか、ただの気まぐれか。とにかくそれは我が与え、取り上げた力とは別物じゃ。元の力は返さんぞ。我は嘘つきは嫌いじゃからな」


 じと眼で睨み、咎めるような口調だ。

 かつてアーロが愛娘たるルナに対して嘘をついた際、取り上げたのが元の力なのだろう。

 あの時の声の主はいくつかいたようだが、最終的な決断をしたのがこの世界の神たるアガレアなのだろうか。


 そして、違う力と言われればそれも納得できた。

 かつての力は白銀の光。全身からあふれ出す燐光だ。しかし森林世界で得たのは両腕に纏う淡い燐光のみ。振るう感覚は同じだが、力の質は別のような気がしていた。


「ふむ。今のおぬしの力は種のようなものじゃ。どう育つかもどう振るうかも持ち主次第。これからも研鑽けんさんに励むがよい」

「は……。ありがとうございます」

「はっは! そうかしこまるでない! さて、話が逸れたの。おぬしの功績を讃え、褒美を取らそう! 異世界との外交を取り持ち、この世界で神秘を生み出す礎を築いたのはあっぱれじゃ!」


 アガレアはびしっとアーロを指さし、元気に宣言した。


「頑張ったポイントをやろう! サービスして六ポイントじゃ!」

「いらねぇ」

「なぜじゃー!」


 思い切りのけ反って驚くアガレア。しかしアーロは動じない。そればかりか冷めた眼で神たる少女を見つめていた。


「なんだ、その何ちゃらポイントって」

「頑張ったポイントじゃ」

「そうだ、そのよく分からんもの」

「頑張ったポイントじゃ!」

「……その、頑張ったポイント、とやらは何なんだ?」


 問われたアガレアは、ふんと腕を組む。なぜだか自慢げである。


「世界の発展に貢献した者に与えられるポイントじゃ! 集めるとよいことがあるのじゃよ! ちなみにおぬしは既に十ポイントを持っておるので、今は十六ポイントじゃな」

「さらっと加算するなよ」

「いらんと言っても付与するのじゃ! 次は頑張って二十ポイントを目指すのじゃよ!」


 だめだ話が通じねぇとアーロは頭を抱える。

 やはり神というのは自由だ。こちらの都合などほとんどお構いなしに喋りたい事を喋り、やりたいことをする。

 そして、結局ポイントは謎のままだ。


「ふはは。何を嫌がることもないじゃろ。褒美もちゃんと与えよう。おぬし、何やら悩んでおるな?」

「う、む。まぁ、そうだな」

「ほう、やはりな。何を悩むことがある。おぬしは我に誓ったではないか。探究の心に従うと、未知を解き明かす冒険を行うと」


 アガレアは鷹揚に立ち上がり、その両腕を大きく広げた。

 アーロの左眼が微かな熱を発し、少女の姿の背後に羽衣の女神の姿を幻視する。

 少女は笑い、女神は微笑む。どちらも自信に溢れた強気な笑みだ。


「何を迷うことがある。その心のままに生きよ。どうせ一度きりの短い生じゃ、出来る限りあがいてみせよ」


 腕を差し出すアガレアの体が再度輝きを発する。

 中庭は金色の神秘に包まれ、アーロの左眼から白い炎が立ち昇る。発される熱と痛みに、しかし彼は今度は堪えた。


「おぬしの前に目指す異世界ものは広がっておるではないか。何が邪魔をする? 違う道を歩む者は引き込め。昔の想いは糧にして生きよ。残される者にはついて来させよ。すべてをおぬしの思い通りにせよ。それが出来ぬなら、おぬしは弱虫じゃ。狭い世界に閉じこもり老いて死ね。挑戦せぬ者に勝利は無い。さて、おぬしはどちらじゃ?」


 アガレアの金色の眼は、不思議な煌きを孕んでいた。心の奥底を見通す眼。

 そして続けざまに放たれる言葉。風のように噴きつける神威。並みの者ならば膝をつき頭を垂れるだろう。

 しかしアーロは跪くことはなく、ベンチから立ち上がり一歩、脚を踏み出した。


「俺は……」

「そうじゃ、望め! 野望を持て! 渇望せよ! 他人に主導権を渡すでない! おぬしが手にするのはおぬしの未来じゃ!」

「……くっ!」


 さらに強まる神秘の光。もう一歩を踏み出そうとしたアーロの脚が止まり、姿勢が崩れる。

 膝立ちになり堪えるアーロの頬を、アガレアの差し出した手が両側から優しく包む。


「さて、望みを聞こう。愛しい我が子よ。おぬしが望むものはなんじゃ?」


 アーロは己の首元のスカーフに触れ、さらに神威に揺れる白銀の指輪を手にする。


「俺が望むのは……生きた証。俺が、皆が、この世界に確かに生きたという証拠。それを残す。そのために生きる」


 愛しい者。そして想いの通じた者。皆が確かに存在し、この世界に生きたという証。

 次の世代に残るもの。土地や村でもいい。想いや家庭でもいい。新たな命でもいい。次へと繋げるもの。それを求め、手に入れるために生きる。それが己の、存在の証明。

 つい先日、ルナの前でアーロはそう誓った。


「よかろう。ならばその願い、果たすまでは止まるでない。歩み続ける限り、我は助力を約束しよう」


 慈しむように微笑むアガレアの掌から、金色の光が流れ込む。

 それはアーロの頬を伝い左眼へ。また口元を通り首へ。


 瞳から立ち昇る白い炎は収束し、左眼は金色の光を内包した。


 首元の赤いスカーフからは新緑の光が漏れ出し、背が高く尖った耳を持つ女性の姿を形作り、その手を跪くアーロの肩へと置く。


 白銀の指輪からは静かな銀色の光が漏れ、白銀に輝く女性の姿を形作り、アーロの左手をきゅっと握る。

 さらに緋色の光が少女のような姿を作り、白銀の女性とアーロの握られた左手に手をそっと重ねた。


「これは──!」

「……素晴らしい(エクセレント)。おぬしは確かに愛されておる。この者たちの想い、ゆめゆめ忘れぬようにな」


 流れ込む神秘が止むと、アーロに寄り添った女性たちの姿は光となって四散していく。

 ──無茶をするなよ。無事にな。

 ──びびってんじゃないわよ。

 ──大丈夫。ずっと一緒だよ。

 そんな声が聞こえた気がした。

 神との邂逅の時とは違う、様々な感情がないまぜになり、アーロの両眼から涙が溢れた。


「……ありがとう。みんな」

「ふむ。アーロよ。よい誓いであったぞ」

「……は!」

 

 金色の女神。神眼世界を統べる者。

 アガレアは我が子を慈しむような笑みを浮かべ、厳かに褒め称えた。

 神威をおさめて少女へと戻ったアガレアは頬から手を離し、ベンチへと腰かける。

 アーロはしばらく動かず、その左眼と首元と肩、左手の暖かな熱を感じていた。


「びびってちゃだめだ。そうだよな」

「うむ。迷い子を導くことができたようじゃな」

「そうですね……。やるべきことが、分かりました」

「ふはは。背負うものは時に荷物となるが、必ず力を与えてくれるのじゃよ」


 アガレアは明るく笑い、しかし達観したような事を言って頷いた。


「これからも尽力するがよい。さぁ、まずは我にオレンジジュースのおかわりを作るのじゃ!」

「……はいはい」

「はいは一回じゃ」


 途端に威厳の無くなる神を眼にして、アーロはやれやれと立ち上がる。

 司教イグナティに頼まれた通り、オレンジの味見をしなければいけない。まだ絞るばかりで味わってはいないのだ。


 その後アーロはしばらく大聖堂の庭園にてアガレアと共にオレンジを絞り、食べ、お茶会を楽しんだ。



 ◆◆◆◆◆



 神眼世界を統べる者。一級神アガレアとの邂逅を終えたアーロは、司教イグナティを尋ねた。

 といっても大聖堂に入るわけではなく、敷地内にいるシスターを捕まえて司教へ言伝を頼んだのだ。

 しばし待てば司教イグナティは現れ、アーロの膝に着いた土汚れを眼にすると嬉しそうに笑った。


「うむ。うむ。どうじゃ、アーロ君。オレンジの味は?」

「美味しかったですよ。今が食べごろです」

「そうかそうか。さっそく収穫し、皆に配るとするかのう。ありがとうよ」

「いえいえ。味見をしただけですからね。これくらい、いつでもやりますよ」

「それはありがたいの! 異世界を旅する者に味のお墨付きを貰えたとなれば、箔が付くじゃろう。何か礼をせねばならんな」

「あぁ。実は私からもお願いがあるのですが……」

「ふむ。できる限り叶えよう」

「ええ。では──」


 アーロの願いに対し、司教イグナティは当初こそ首を傾げていたが、理由を話せば大きく頷き、任せておけと了承した。


「ご無理を言ってすみません」

「なんの、この程度。ちと資金と時間が必要じゃが、構わんかの?」

「もちろんです。品は家か【第三十六区教会】へ届けていただければ」

「あいわかった。手配しておこう。代金は引き換えで構わんよ。さて、今日の帰りは家まで送ろう」

「お手間をかけます」


 司教イグナティが人を呼び止め何事かを言付けると、直ちに馬車が用意された。

 大聖堂から出る馬車を司教が直々に見送るとなると乗っている者は何者だ、と噂になるとのことで、司教イグナティとは大聖堂の前で別れる。

 簡単に別れの祈りを捧げる二人。そして去り際に、ぽつりと司教イグナティは尋ねた。


「アーロ君。迷いは晴れたかの?」

「えぇ。自分の心のままに、精一杯生きようと思います」


 その返答を聞き、司教イグナティは大きく頷く。


「うむ。神はいつでも君を見守っておる。精進しなさい」

「……ありがとうございました。では」

「うむ。次の仕事でも期待しておるぞ」


 アーロは感謝を捧げ、大聖堂を辞した。

 その顔は一遍の迷いもなく、雲一つない青空のように晴れやかであった。

 

一級神アガレアと茶飲み友達になりました。

 アーロの神格が3上がります。


【真実を見通す眼】が変化します。

 アーロは【真眼】を獲得しました。


守りの力ガーディアンブレイバー》が成長します。

 出力が1アーロ上がります。

 《繋ぎ手の力(ココロコネクト)》の効果が付与されます。

 心を通じ合わせた相手が多い程、力は強くなります。


登場人物紹介

アーロ・アマデウス 25歳

 森林世界での功績を讃えるため、神に呼ばれた男。

 いろいろ悩んだり迷ったりしていたが、吹っ切れたようだ。

 頑張ったポイントの持ち点は16ポイント。

 次のご褒美をもらうためにはあと4ポイント必要なのじゃ。


アガレア

 一級神。神の眼から作られたとされる神眼世界を統べる者。

 のじゃロリのちびっ子。女神の姿になると羽衣のせいで15禁。

 基本的には世界の生物を慈しみ背中を押す慈母神である。

 エールバニアにはお返しとして、家庭菜園の本と紅茶の淹れ方の教本を渡してあげた。

 嘘つきは嫌いだが、行動で示す者は好き。



雑感

 1アーロの単位は「アーロ1人分の《守りの力ガーディアンブレイバー》の力」です。単純出力は今までの2倍です。

 さらに《繋ぎ手の力(ココロコネクト)》でボーナスが掛かります。やったね。

 

 アガレアの神とも茶飲み友達になったアーロ。

 悩みもいろいろと吹っ切れて、これからも頑張ってくれそうですね。

 神たちのフランクな口調、決して間違いではないのですよ。

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200ブックマークや1万アクセスを越えました! ありがとうございます。

これからも更新頑張ります。

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