過去話:野戦陣地の死闘
怪物の群れを跳ね返した野戦陣地も、剣刃虎によって突破されようとしていた。
巨体を誇る剣刃虎が勢いよくぶつかれば丸太の壁や杭は弾け飛び、無惨にも破壊されてしまう。
兵士によって幾度か放たれた大弩も、邪魔だとばかりに押し倒されて沈黙している。
今や負傷者を運んでいた者たちは野戦陣地の奥へと怪我人を詰め込み、弓や槍を手に必死の抵抗を試みている状態である。本来ならば野戦陣地ではなく北方砦へと逃げる予定が、襲い来る剣刃虎を見て逃げ込んだ先で追いつかれ、出ることができなくなってしまったのだ。
野戦陣地内の段差や入り組んだ構造を利用して、戦士たちは四方から矢を射かけ、時に接近して槍を突き込んだ。
しかし矢のほとんどは払い落とされ、槍も深く刺さることはない。唯一痛手を与えたのは腹に潜り込んで傷口に槍を叩き込んだ冒険者の一撃だが、冒険者はその後剣刃虎により入念に切り刻まれた。
退却する部隊は今や陣地の奥へと逃げ込み、丸太の壁や杭を動かして道を塞ぎ、逃げる機会を窺っていたのだ。
丸太にかじりついて引き倒し、丸太杭と壁を忌々しそうに破壊する剣刃虎へ、やっと追いついた『夜明けの鐘』の面々が躍りかかる。
「おらぁッ!」
燐光を全身に纏ったアーロが手にするのは、走りがけに調達した騎士が使う馬上槍だ。
戦場に転がっている遺体から失敬した品をしっかりと抱え込み、剣刃虎へ向けて一直線に突進する。
陣地の破壊に気を取られていた剣刃虎は知覚が遅れ、背を向けていたところに馬上槍の一撃を食らわせることができた。
後ろ足の付け根へ食い込み、いくらか肉をえぐりとった槍を手放し、アーロは布袋からずるりと片手用の戦鎚と涙型の盾を取りだし、構える。
《ガァァァッ!》
怒りと苛立ちをもって振るわれる前肢と刃のような爪をかわし、その後ろ脚へと戦鎚を降り下ろす。
硬質な爪を砕き、恐らくは骨を砕いた一撃に、剣刃虎は再び叫び声をあげた。
アーロの狙いは脚だ。脚を潰して機動力を奪い、追われないようにしてすり潰す算段である。
「副団長っ! 無茶しすぎだぜ!」
懐に入り込んで戦うアーロの背を追うのはガズーである。
彼は長弓があまり役にたたないと分かり、腰の小剣二本を引き抜いて躍りかかった。
舞うような体捌きで二度三度と剣が閃く。傷口を的確に狙ったその剣閃は確実に傷を広げ、剣刃虎へ痛手を与えていく。
「二人とも、危ないですぞっ!」
調子よく攻撃を避けつつ攻めている二人の手助けにまわるのはグロウズである。
彼は振るわれる剣刃虎の前肢を大盾で受け止める。今度は一人だが、後ろに押されつつも押し止めることができた。
首もとの深々とした刀傷、今もびしゃびしゃと血を滴らせる腹部の斬り傷のほか大小様々な傷。流された血は剣刃虎の動きを鈍らせ、着実に力を奪っているのだ。
「発射ーっ!」
そして力もなく回避行動も拙いリズは近接戦闘を諦め、皆の援護に回っていた。
剛力を誇るグロウズが引き上げて設置し直した大弩を操作し、動きの止まった剣刃虎へ太矢を放ったのだ。
打ち出された太矢はドッと鈍い音を立てて剣刃虎の体に突き刺さり、その胴部に深く埋まった。
《グガァァッ!》
苦悶の声を上げて身をよじり、なおも暴れる剣刃虎。振るう体に合わせて首や腹部の傷から血潮が飛ぶ。
盾で抑え込んでいたグロウズは上部から突き刺された剣のような牙にたまらず手を引く。
自由を取り戻した剣刃虎はめったやたらに腕を振り、後ろ足で周囲の壁や設備を弾き飛ばした。
途端の猛攻をアーロは避けきれず前肢に撥ね飛ばされ、ガズーは振るわれた尻尾の刃を小剣で受け止めるが力負けして弾かれる。ぶっ飛んだ壁の残骸が大弩を直撃し、リズは間一髪大地へと身を投げてかわした。
「げほっ。 みんな生きてるか!」
「なんとか! 奴めまだ動くかよ!」
「化物ですな!」
「ちょー危なかったんですけど!」
撥ね飛ばされたアーロが起き上がり、血へどを吐きながら仲間の安否を確認すると、わりかし元気そうな様子が返ってくる。しかし今は無事を喜び合う暇すらも惜しい。
猛る剣刃虎は傷を負いつつもいまだ健在で、傷から血飛沫を上げながらも見境なく破壊を撒き散らしているのだ。その体へあと何本大弩の太矢を撃ち込めば倒れるのか、見当もつかない。
それでも、戦わないわけにはいかない。
負傷者を逃がし、この剣刃虎を退けねば怪物の群れに呑まれて全滅だ。
アーロは再度涙型の盾と戦鎚を構えて突貫する。
憎き獲物がやって来たかと迎え撃つ剣刃虎。
叩きつけられる太い前肢と爪をかわし、アーロはその胴の傷へと戦鎚を打ち込むべく大地を踏みしめ──。
──ずるり、と脚が滑った。
「まじか、よ!」
剣刃虎が狙ったわけではないだろうが、ぬかるんだ大地と地面に撒き散らされた血糊によるものだ。散々暴れた際にこぼれ落ち地面に吸い込まれた血が、ここぞというところで脚を捉えたのだ。
体勢を崩すアーロ。敵の懐で脚を伸ばしきるという致命的な隙。
その僅かな隙を、漆黒の虎は逃しはしなかった。降り下ろしたとは反対の腕をアーロに向けて叩きつけたのだ。
己に迫る剣のような爪。それを見て、アーロは死を覚悟した。涙型の盾を構えるが今の不安定な姿勢では堪えきれないだろう。
だが。
「副団長ぉぉ!」
グロウズが巨体に似合わぬ速さで突っ込んできた。
彼は戦鎚を放り捨て、両手で構えた大盾を爪へとぶち当てる。
踏みしめる場所に注意して脚をとられるようなへまもせず、グロウズの剛力で剣刃虎の前肢と爪の軌道を剃らす。爪とかち合った盾が火花を散らし、アーロの身を守った。
しかし、そこまでだった。
盾に防がれた剣刃虎はその姿勢を低くして、お返しとばかりに頭からグロウズへとぶち当たる。
「ぬぉぉっ!」
剣刃虎の額に生えた剣角を、グロウズは再度反らすことができなかった。
真正面から突き込まれた剣のような角はグロウズの大盾を貫き、巨体がさらに押し込まれその腹に突き刺さる。
「ぐっ……がはっ!」
一瞬の拮抗の後、グロウズは血を吐く。
彼はそのまま剣刃虎の力に耐えきることができず、大盾ごと剣角を押し込まれて弾き飛ばされた。
「グロォウズッ!」
「熊さん!」
仲間が倒れた場面を見たガズーとリズがすぐさま反応する。ガズーは小剣二本を手に剣刃虎の気を引くように飛びかかり、リズは五体を放り出して倒れたグロウズに走り寄って助け起こした。
そしてグロウズが身を呈して稼いだ時間に、アーロは体勢を立て直す。
「やるぞ副団長!」
「わかってる!」
剣刃虎へと躍りかかり、顔、腕、胴を問わず恐るべき速さで斬りつけるガズー。
アーロも全身から燐光を撒き散らしながら戦鎚を叩きつける。渾身の力で何度も何度も。
しかし、剣刃虎の体力は尽きることがなく、二人の防御を考えない攻勢にも全く怯むことがなかった。
がっぎ、と刃のような尾と噛み合い、ガズーの小剣が防がれる。
「くそったれぇ!」
そして、剣刃虎の太い前肢が戦鎚を掴む。
「こ、のぉ!」
今度動きが止まったのは、ガズーとアーロだ。
剣刃虎は押さえ込んだガズーに対して、その大口を開けて食らいついた。
「がぁぁっ!」
「ガズー!」
剣のような牙が肩に食い込み、ガズーは絶叫を上げる。
牙を突き立てた剣刃虎はそのまま首をぶおんと振るい、ガズーを投げ飛ばす。
痛みに悶えて受け身も取ることが出来ず、ガズーは野戦陣地の壁に叩きつけられ、ずるずると崩れ落ちた。
《グルアァッ!》
剣刃虎はまた、頭を振るった勢いのまま抑えていたアーロを視線で捉え、太い前肢を連続して繰り出す。
一撃目は、燐光を纏った戦鎚で弾いた。
二撃目を堪えきれず、弾き飛ばされて泥に埋まる戦鎚。
三撃目を盾で受けるも、腕の勢いを受け流すことが出来ず、勢いに押されて倒れるアーロ。
尻もちをついたその身に四撃目が振るわれるかに思えた瞬間、アーロの眼の前に小さな影が飛び込んできた。
「伏せて!」
「くッ!」
灼炎の魔術師リズが滑り込み、その手にした杖を掲げる。
「『猛る炎よ』! 燃えろぉっ!」
杖の魔術紋が光を発し、その杖の先から剣刃虎に向けて炎が噴きつけられた。
視界いっぱいに迫る炎を前に、剣刃虎は顔を押さえて後ずさった。それでも火勢を弱めず炎を噴きつけるリズ。
「アーロさんっ! 逃げて!」
「すまんっ!」
額に脂汗を浮かべて懇願するリズへ従い、アーロは立ち上がり窮地を脱する。
しかし炎の噴射も長くは続かないだろう。炎術は扱う炎が大きいほど使用者の力を消耗する。火炎瓶へ着火した際の火花や鞭に這わせる炎と、勢いよく吹き出す炎はその消耗も比ではない。
「ぐぅぅぅあぁぁぁっ!」
唸るように声を発し、絞り出すようにして杖から炎を噴きつけるリズ。
かかる負荷に耐え切れず杖にヒビが入り、やがて砕け散った。たちまち火勢は弱まり、リズはふらりと身を折る。
「あ、うそ……」
「リズ! 下がれ!」
《グルルル……》
剣刃虎は、顔面を焼かれながらもリズを睨み付けていた。髭や剣角は熱と炎に焼かれていたが、その鼻や口といった粘膜は前足により炎を防いでいたのだ。
その巨体をぐらりと揺らめかせながらも、体ごとぶつかってリズを跳ね飛ばす。
小柄なリズは木の葉のように宙を舞い、ガズーと同じように陣地の壁へと叩きつけられ、動くことはなかった。
勝てるのか……。
剣刃虎と相対するアーロの脳裏に、弱気な考えが浮かぶ。
仲間たちは蹴散らされた。己も何度も窮地に陥った。だが敵は、いまだ弱る様子を見せていない。
今すぐガズーを助け起こし、グロウズに肩を貸し、リズを回収して逃げればよいのではないか。
そんな考えが浮かび、すぐに散らす。逃げる意味があれば逃げたが、今の状況では逃げてどこに行くのか。
ちらりと視線を巡らせば、グロウズが血を吐きながらも立ち上がり、ガズーの元へ脚を踏み出すのが見えた。
ガズーも意識を取り戻したのか、穴をあけた肩を押さえてもがいている。
リズは動きはしないが、「う、あ……」という呻き声が聞こえた。死んではいない。
仲間は生きている。それさえ分かれば十分である。
アーロは背負った布袋に手を突っ込み、ずるりと引き出す。
その両腕には、駆け出しの頃より慣れ親しんだ装備。人造闘装[鉛の腕甲]が装着されていた。
鈍い銀色の輝きに、はっきりと視覚できる白銀の燐光が伝う。仲間を守るため、《守りの力》は猛っていた。
アーロは拳を握り、[鉛の腕甲]をガツンと打ち合わせ、敵を睨む。その全身からゆらりと炎のように燐光が立ち昇る。
彼の眼には、たしかに見えていた。
荒い息を吐いてぐるぐると呻る剣刃虎。そのさらに先、野戦陣地の残骸の上に立つ人影が。
白銀の鎧に身を包み、背の丈ほどもある大剣を背負い、威風堂々と立つ戦士の姿が。
びびってんじゃないわよ。そう言わんばかりにアーロを見つめる瞳が。
「行くぜ!」
地を蹴り、彼は駆けた。目指すは剣刃虎の懐。
真一文字に切り裂かれた腹の傷に拳を叩き込み、《守りの力》で体をぶち抜く。
瓦礫の上の人影、セレーナもまた大剣を構えて剣刃虎へと駆ける。
「おぉぉぉっ!」
「はぁぁぁっ!」
《グガァァァッ!》
アーロも、剣刃虎の背後から襲い掛かるセレーナも吠えた。
対する剣刃虎も、ひと際大きな叫び声を上げて迎え撃つ。三者ともに、後先を考えない全力の一撃だ。
突進した剣刃虎の剣角が突き出され、アーロは滑り込むように体を投げ出して間一髪で躱す。
そのまま地を蹴り、四つ脚で立つ剣刃虎の体の下に潜り込むアーロ。彼は上体を跳ね上げ、両腕に纏わせた燐光ごと剣刃虎の腹の傷へと拳を叩きこむ。
[鉛の腕甲]に収束した燐光は一瞬の後、剣刃虎の腹部で破壊を撒き散らし、大穴を穿った。
セレーナもまた、剣刃虎の背後から雄叫びを上げて飛びかかり、その背中に大剣を深く突き立てる。
大剣は外皮を貫き根本付近までその体に埋まり、切っ先は剣刃虎の胸から突き出し、アーロの頬をかすめていた。
《グル……》
剣刃虎はアーロの放った拳、《守りの力》の衝撃に押されるようにして、一歩、二歩と後退する。
そして、紅い四つ眼でアーロを睨み、首を巡らして背中に生えた剣に掴まるセレーナを睨む。
やがて一唸りすると、巨体をどうと横に倒した。
「あっ、ぶねぇ」
アーロは冷や汗をたらし、そう呟いた。
剣刃虎の角をぎりぎりでかわしたこともそうだが、差し込まれたセレーナの大剣は、下手をすると己の頭や胴に突き刺さっていたのだ。無理もない。
「計画通りね! みんな無事!?」
「いや、俺の頬掠ってるんだけど」
自信満々で駆け寄ってくるセレーナに対して、アーロは半眼になった顔を向ける。
剣刃虎に対して背後から、セレーナは現れた。
野戦陣地の中へと入り込んだ【夜明けの鐘】は、攻撃と足止めを行う役割と、砦に押し込められた者たちを助け出す役割に分かれたのだ。
アーロや他の団員達は剣刃虎に追いつき、攻勢をかけて引きつけ、あわよくば撃破を行う。
野戦陣地の奥へと押し込められた負傷者たちの所へは指揮を執っていたセレーナが向かい、団員が足止めしている内に砦へ脱出しろと発破をかけたのだ。
負傷者を連れてのろのろと進むところを剣刃虎に襲われることを警戒していた退却部隊は、今ごろ野戦陣地を抜け出し北方砦へと退却を行っているだろう。
負傷者たちを逃がしたので役割を果たしたセレーナは、剣刃虎と死闘を繰り広げていた【夜明けの鐘】の加勢に回り、今まさに挟撃を行う形で危機を救ったのだ。
「グロウズもガズーもリズもやられてる。俺らも退却するぞ」
アーロは気を取り直して状況を端的に伝える。
グロウズは盾を放り出してガズーの元へたどり着き、肩を貸しながらその身を助け起こしたところだ。
リズも意識を取り戻したのか、よろよろと脚を引きずりながら二人の元へ歩いて来ようとしている。
グロウズは腹部、ガズーは肩に重症を負い、リズも全身を強く打ち口の端から血を垂らしている。アーロも動けてはいたが、全身打撲と重症だ。
ここらで砦へ退却することが賢明だろうと思われた。
「みんなよくやったわね! 北方砦へ逃げるわよ!」
「へへ。その言葉、待ってましたぁ」
「……げほっ」
「いたたた……」
グロウズは無理やり笑ってみせるが、肩を貸したとは反対の手で腹の傷を押さえている。
ガズーはこくりと頷くが、肩を牙で貫かれた傷は相当に深いのだろう。咳き込みつつ支えられて脚を進める。
リズも脚を引きずり顔をしかめている。ひどいのは傷よりも、ありったけの力を込めて魔術を発動した代償の精神疲労だろう。
「手ひどくやられたな。すぐ砦で治療術師に診てもらうぞ」
「大丈夫?」
そうして、グロウズとガズーにはアーロが、リズにはセレーナが肩を貸そうとして近づいた時だ。
《グルル……》
──倒れたはずの剣刃虎が、立ち上がっていた。
「団長ぉっ!」
「後ろだっ!」
「そんなっ!」
身体を大剣で貫かれながら、その腹から内臓や血を零れさせながらも起き上がった剣刃虎にいち早く気が付いたのは、顔を向けていたグロウズ、ガズー、リズの三名だ。
逆を向いていたアーロとセレーナは、一瞬だけ知覚が遅れた。
騙し討ち。
死んでいなかった。知恵の回る剣刃虎は自ら倒れただけで、不意打ちの隙を窺っていたのだ。
剣刃虎を倒したところで負傷した団員達へ走り寄ろうとしていた時だ。アーロとセレーナと剣刃虎、三者の距離は無いに等しい。
《グルアァァァッ!》
傷をものともせず突進した剣刃虎は、その額に生えた剣角をアーロへと突き下ろした。
同時に、剣刃虎はその長くしなやかな尾刃をセレーナへと振るう。
「うおぉぉおぉっ!」
咄嗟に体全体に燐光を纏わせたアーロは、[鉛の腕甲]を装着した両腕を交差して構え、その剣角を受け止めた。
だが、セレーナは丸腰であった。いつも手にする大剣は今まさに、剣刃虎の背を貫きその体に突き刺さっている。
「あっ──」
剣刃虎の尾刃が──セレーナの肩から腹にかけて振り抜かれる。
身に纏う鎧は易々と斬り裂かれ、一瞬の後、尾刃の軌跡に沿って血が噴き出した。
振り返った体勢のまま脚がもつれ、がくりと崩れ落ちるセレーナ。
その様子を、アーロは剣刃虎の剣角を受け止めながら眼にしていた。
「ッ! セレーナァァァァァッ!」
否、眼にしていただけではない。
叫んだアーロの体から、白銀の燐光がいっそう強く吹き出す。
《守りの力》は仲間の危機に反応し、これ以上ない程に輝きを増す。交差したアーロの腕に這う燐光が寄り集まり、[鉛の腕甲]を覆う。
アーロは眼前の虎、紅い四つ眼を不気味にぎらつかせる剣刃虎を睨む。
「邪、魔、だぁぁァァァッ!」
身を、腕を覆う燐光はさらに輝きを発し、質量を持ってアーロの腕から伸びた。
二本の光の剣。
[鉛の腕甲]にまとわれ、交差した腕に生じたその剣をアーロは振り抜き、押さえていた剣刃虎の角を何の抵抗もなく斬り飛ばし、その身を四つに断った。




