父と子供たち
「いたた……。アーロ君、肩を揉んでくれますか」
大きな天幕のなか、トマスは肩を回すと顔をしかめてアーロを手招きした。
「大丈夫ですか? 無理をするから……」
「いやぁ、やはり歳には勝てませんね」
朗らかに笑うトマスの顔は、返り血も拭われて部屋に踏み込んだ時とはうって変わって穏やかだった。その肩を労うようにアーロは揉む。
時刻は夜半を過ぎた頃である。アーロとトマスは、牧場の片隅に立てられた大きな天幕のなかで夜を明かしていた。
天幕は数人が入れる大きなもので、複数ある簡易ベッドにはニーナの他、無事な少女と傷の治療を施された少女、そして眼帯少女のフェミが寝かされていた。
大きな天幕も少女たちの傷の治療も、どれもが教会の采配によるものである。二人と共にやって来た教会の文官たちが、今ごろは牧場主の屋敷を家捜ししていることだろう。
今回のことの顛末はこうだ。
牧場主の夫婦には、脱税や婦女暴行に強制労働、養子縁組契約違反の容疑がかかっていた。
牧場の作業人数を偽り人頭税を納めないこと。貧民街から子供を連れ去り無理矢理の労役を強いていること、さらに孤児院の子供たちを養子として引き取り劣悪な環境で働かせていることなどだ。
どれも巧妙に隠された悪徳な手口だったようだが、なかでも孤児院、その背後の教会との養子縁組契約違反の罪が大きかった。
アガラニアの民、とりわけ教会の関係者は嘘をつかない。約束や契約にもその原則は適用されるため、契約違反は教会の教義において有罪、異端である。
面子を潰された教会はその威信をかけて証拠の立証に尽力し、教会の持つ恐るべき情報収集能力により状況証拠はすぐに揃った。だが万年人手不足の教会において、こういった事件への対応を行う部署、異端審問官は常に仕事が山積みである。
世の中、異端や悪が多すぎるのだ。
自然、重要度の低い案件は後回しにされてしまう。脱税する牧場主よりも、麻薬組織への潜入・壊滅や犯罪者の追跡の方が重要視されるのは、残念だが仕方がないと言える。
しかしそれに異を唱えたのが、元異端審問官にして教会の司祭を務めるトマスだ。
件の牧場は、孤児院の愛しい娘であるニーナを養子に出した場所だ。そこの主が婦女暴行や強制労働を行っていると聞けば、口を出さずにはいられない。
速やかに実動部隊を送り、神との約束を踏みにじる背信者どもを狩り出せ。そして孤児院の子供、神の娘たる少女たちを一刻も早く救出しろと詰め寄ったのだ。
しかし、教会側もそうしたいのはやまやまだ。だが実動部隊である異端審問官の手が空かないことには踏み込めない。
教会に属する者の多くは心優しく信心深い文官であり、争い事とは無縁の者である。教会側がいくら証拠が揃い罪に問えるとしても、反抗されれば危険だ。抵抗を抑えられる相応の武力を用意するまで待って欲しいと突っぱねたのだ。
そんなことを悠長に待ってられん、もういい儂がやる。
怒りに燃えるトマスがそう言い出すのも、やはり仕方がないと言えるだろう。
暇していたアーロに手伝いを頼み、危ないからやめてくれ、歳を考えろとすがりつく教会の者たちを振り払い、馬車を飛ばして牧場へと辿り着いたのが今日の夜のことである。
結果として、トマスの判断は効を奏した。少女たちは怪我こそ負いつつも保護され、反抗が予想されていたごろつきら三名は正当防衛により処理され、負傷し部屋の隅で震えていた牧場主の旦那と、呑気にも部屋で寝こけていた婦人は逮捕された。
後を追ってきた教会の文官たちが用意した天幕にて待機させられるうちに、文官たちは家宅捜索と証拠の確証を行っているのだ。
「いやぁ。私の肩を痛めるくらいで子供たちが助かるならば、安いものですよ」
元一級異端審問官、トマス・アマデウス。
現役引退後もなにかと荒事に首を突っ込む彼は、異端審問官の制服である黒い革のスーツに身を包み、その脇には鈍く光るメイスと、涙型の大盾が立て掛けられている。
老年に入るトマスはこの重量級の武具を持って家に突入し、廊下にて出くわしたごろつき二名をぶちのめし、ベッドのある部屋に連れられていくはずだった傷だらけの少女を保護したのだ。
ちなみに、ごろつきは盾で殴りつけられ、メイスで頭部をかち割られるか元の容貌がわからないほどに顔面を叩き潰されていた。
悪には、子供を害する者には一切容赦しない。それが元とはいえ異端審問官たるトマスの心情である。
今回の作戦では、牧場主の家には一階からトマスが、二階の窓からはアーロが突入した。
文官たちが辺りを囲んでいるとはいえ、基本的には荒事とは縁遠い者たちである。進退極まった者が武器を持って暴れれば相当な被害が予想された。
退路を断って逃走を封じるため、また籠城して人質を取られることを避けるため、二面作戦となったのだ。
トマスは自分が二階から突入してあいつら全員殺すと息巻いていたが、さすがにアーロが止めた。矍鑠としているとはいえ、トマスも歳が歳である。それでも無茶を通す司祭にアーロはため息をついたものだ。
「はぁ。蜂蜜茶でも淹れますね」
「ありがとうございます。コーヒーもいいのですが、蜂蜜茶は体が暖まりますからねぇ」
豪勢なことに天幕には携帯炉の魔術具が備えられており、それを使いポットに湯を沸かし、これまた備品だという蜂蜜茶を淹れるアーロ。
コップに注ぎトマスへ差し出せば、ありがとうと受け取りゆっくりと口をつけた。
「うむ、美味しいですね」
「よかったです。あいつらも飲むかな」
アーロはポットとコップを手に、少女たちが横たわるベッドへと向かう。
鞭で打たれ痛め付けられた少女は、治療を受けてから穏やかに寝息を立てている。無事だった少女も安心したのか同様に寝入っていた。
だがニーナとフェミは眠れないのか、近づく足音を耳にしてごそごそと布団のなかで寝返りを打った。
「近づいてもいいか?」
念のため、アーロは声をかけた。
牧場主の旦那、そしてごろつきの男に痛い目に遭わされたばかりである。同じく男性である自分が近づいても良いかと確認したのだ。
「はい……平気です」
「……」
ニーナは答え、フェミも否定はしなかった。
「蜂蜜茶だ。飲むか?」
アーロがもつ二つのコップを掲げれば、少女たちは半身だけ起き上がり、頷いた。
「ほれ。熱いから気を付けろよ」
「ありがとうございます。……ありがとうございます」
「わたしも……ありがとう。本当に」
少女たちからのお礼は二度あった。
茶のことだけではなく、助けられたことにだろう。
「アーロ兄さんと司祭様がいなかったら、私たち……」
「いや、もっと早く助けに来れなくて、すまなかったな」
礼を言いつつも現場を思い出したのか、ニーナは自らの身を抱いて震え出した。その肩にそっと手を置き、詫びるアーロ。
事実、間一髪であった。あと少しでも遅ければ、ニーナは汚されるか自らの舌を噛みきっていただろうし、傷つけられた少女たちは治療が遅れれば大事だっただろう。
「いいんです。助けに来てくれたから……」
コップを両手で持ち、静かに口をつけるニーナ。
片眼の眼帯少女のフェミはと言えば、蜂蜜茶を美味しそうに飲みつつちらちらとアーロを見ていた。
「アーロさん……は、神殿騎士様ですか?」
「まさか。俺はあのじいさんの手伝いだよ」
警戒させないよう、わざと砕けた口調で答えるアーロ。
君は? と視線で問えば、眼帯の少女は小さな声でフェミです、と自己紹介をした。
神殿騎士とは、教会の有する騎士団である。
異端審問官が教会の暗部だとすれば、教会の栄光を一身に受けるのが神殿騎士である。
彼らは少数だが、厳しい修行の果てに得た強靭な肉体と気高き信仰心を持つ精鋭、教会最大の武力である。教会の関係者であり、強い男と見て、フェミは騎士ではないかと推測したのだ。
「そうなんですか。強かったので、騎士様かと……」
フェミはごろつきの男に人質に取られた際、うっすらとだが意識を取り戻していた。そして放り投げられ、トマスに受け止められた時も周囲をよく見ていたのだ。
窓から逃げようとする男に、立ちはだかるアーロ。振るわれた短剣をやすやすと受け止め、一撃で攻勢をかけて、男の息の根を止めた。
自分では逆立ちしても敵わないであろうごろつきを簡単に倒してしまう姿に、フェミは不思議な高揚感を覚えていた。
「まぁ、俺はそこそこ強いくらいだが、それでも君たちを助けられてよかったよ」
「いえ……。格好よかったです、すごく」
フェミも蜂蜜茶のコップで口元を隠し、小さな声でもにょもにょと感想を口にする。
アーロとしては武具が無かろうとあの程度のごろつきなど敵ではないのだが、それでも褒められて満更でもなかった。
返答に困っていると、司祭トマスが助け船のためにか寄ってきて、手にした鈴をちりんと鳴らしてみせた。
「二人とも、あまりアーロ君を誉めると調子に乗るのでそれくらいに。もう夜も遅い。お茶を飲んだら寝なさい。ここは朝まで見張っているから安心だよ」
その言葉に、少女二人は安心したように嬉し涙をこぼした。
夜中になっても寝付けなかったのは、眼を閉じて闇に横たわることに恐怖を感じていたことも理由としてあるのだ。
大人が見張っているから、守っているから安心しなさい。そんな言葉があるだけで、少女たちの心は救われた。
「ぐすっ。お父さん……司祭様、ありがとうございます」
「ありがとうございます。ありがとうございますっ」
「礼を言われるほどではありません。むしろ、遅くなってしまい申し訳ありません」
司祭トマスはニーナにとって父ともいえる信頼できる存在。
そしてフェミにとっては自らを抱き止め、治療を指示してくれた恩人である。
泣きながらも感謝を口にする少女二人にトマスは困ったように笑い、手にした鈴を再度ちりんと鳴らした。
「──戦い疲れた戦士よ、働き疲れた民草よ、宵に響くこの鐘の音を聴け。太陽も眠る休息の時間である。眼を閉じて安息に身を委ねよ」
トマスが詠うのは、教会でよく詠まれる祝詞の一つ、『安息の鐘』だ。
本来ならば宵の口に鳴らされる鐘に合わせて詠まれるが、それができない場合はこのように携帯した鈴を鳴らして詠うのだ。
「──これは安息の鐘。神からの称賛であり、労をねぎらう声である。この音に乗せて、隣で戦い、働く者たちへ感謝を詠おう。そしてまた、我々が夢幻の世界から目覚め、明日の新たな困難へ立ち向かう勇気を与えたまえ」
朗々と詠い終えれば、トマスはちりんと最後に鈴を鳴らし、「さ、お茶を飲んだら寝なさい」と立ち去った。
「ニーナ、今のなに?」
「教会の祝詞だよ。おやすみなさいの言葉」
「ふぅん。はじめて聞いた。なんか……安心するね」
小声で話す少女たちを背に、アーロもベッドを離れた。
そして天幕の中頃で簡易の椅子に座り、にこやかにコップを傾けるトマスの向かいに陣取る。
「アーロ君もお疲れさまでした。さらに申し訳ないですが、もう少しだけ働いてもらいますよ。朝になったら馬車ですぐ孤児院へ帰りましょう」
「いえ、この程度平気です。明日の御者もやれますよ」
「羨ましいですね……。私なんてもう瞼も重いですし肩も痛いですよ」
「司祭がメイスなんて振り回すからですよ……」
そんなことを話しながら、アーロは自分のためにコーヒーを淹れた。蜂蜜茶は体が暖まるが、眠気を誘うのだ。
「教会の文官に治療術師が居たので治療を頼んでは?」
「いえ、私なんかより少女たちの治療が優先です。傷でも残ったら大変だ」
「まぁ、そうですね」
教会の関係者のなかには、有事に備えた治療術師や医療の心得のある者らがいた。彼らは休憩を挟みつつ、傷ついた少女たちの怪我の治療を行っているのだ。
話しながら、ふとアーロは己の左手へと視線をやった。
その手のひらには真一文字に浅い切り傷がはしっている。ごろつきの短剣を受け止めた際の傷だろう。
腕に纏わせた燐光により威力を激減させたが、それでも抑えきれず傷を負ったのだ。
「……全員、殺すことはなかったかもしれません」
ぐっと手を握りながらアーロがぽつりとこぼすのは、ごろつきたちのことだ。
いくら無法者で、牧場主たちの蛮行を見て見ぬ振りをして、さらには少女へ害を加えようとしたとしても、きちんと捕まえて裁きを受けさせればよかったのではないか。
自分も傷ついた少女が人質に取られたことに激昂し、手心など一切加えずに首をへし折ったので後の祭りだが、アーロは少しだけ物思いをしていた。
「いえいえ、やつらからは濃厚な嘘をついた臭いがしました。人を騙して悪事を働く者は、生かしておいても誰の特にもなりませんよ」
だが、トマスはあっけらかんとした口調で言う。何を言っているのだ、とその表情が語っていた。
「あなたも子供を持つ身なので分かるでしょう。どんな理由であれ、大人が子供を害することがあってはなりません。私たちは、守り育てる側なのです」
諭すような言い方には、トマスの厳しさと優しさが込められていた。
それを聞きアーロの戸惑いは消えた。もしも自分がルナを預ける側だとしたら、嘘つきや害する意思を持った者には絶対に任せないし、近寄らせない。もしもそんな輩がいれば、徹底的に排除するだろう。
一秒で怒り、二秒で殺す。
「そうですね。納得しました」
「はっは。あのような臭いにおいを放つ嘘つきどもを撲滅してこそ、平和で安心な世界が作れるのですよ。誇りましょう。今日我々はまた一つ善行を積んだのです」
におい。トマスはよくそう表現する。
自称だが、彼は善行と悪行のにおいを嗅ぎとる鼻を持っているのだ。
悪行を行うものは臭いが強く、潔白であればあるほど果物のような匂いがする。さらに、相手が嘘をついた際はよりいっそう臭くなるのだという。
アーロがごろつきの男へと質問して、トマスが首を振ったのも、その言葉が嘘であるということを確かめたのである。
ボルザの眼やアーロの纏う燐光と同じ類いの神秘の力であり、トマスがかつて悪事を暴く異端審問官として活躍した要因でもある。
「あの牧場主の夫婦もなかなかに臭かったのですが。ニーナ君が喜ぶのでまずは様子を見ればいいか、と調査を依頼しつつ養子縁組を行いました。それがこんなことになっているとは……」
お試し生活期間中も特に怪しい点がなかったので、油断してしまいました。とトマスは肩を落とす。
「……司祭様。その臭いはまだ、俺からもしますか?」
そう言ってアーロはじっと、己の手を見つめる。その握り締めた両手からは、ほろほろと淡い燐光が零れ落ちる。
かつて、アーロは過去に一度だけ嘘をついた。決して誰かを傷つけるための嘘ではなく、相手の心情を慮っての嘘であった。
だが、嘘は嘘だ。神はアーロへ罰を与えた。そしてトマスもまた嘘をついたことを見抜き、厳しく叱責をした。
一般人ならばともかく教会の関係者、しかも己の孤児院で育てた者が嘘をつくことは教会の司祭として、また父として看過できないことであったのだ。
嘘をついたことで神から受ける罰は、庇護の消失だ。アーロの持つ神秘の力は取り上げられ、二度とその身に沸き上がることはなかった。そしてまた、その魂は死後、神の御元へ導かれることはない。
だがしばらく前。森林世界にて誰かを守るために拳を振り上げたとき、一部ではあるが失われたはずの神秘がその身に戻ったのだ。
「俺は、許されたのでしょうか……」
懺悔をするように項垂れ、拳を握り締めるアーロ。
トマスは何も言わずその様子をじっと見て、しばらくしてから口を開いた。
「アーロ君……。確かに君はかつて間違いを犯し、罰を受けました。ですが、あの時の嘘は優しく、そしてまた残酷なものです。君の行いは善行とも悪行ともつかない、極めて曖昧なものでした」
トマスは立ち上がり、アーロの肩へその大きな手を優しく置いた。
教会で説法を説くように、また親が子に教えるように、静かに語りかける。
「異世界へと赴き、君は変わりました。以前ならば悪を殺すことには一片たりとも迷わなかったでしょう。違う世界や文化を眼にしたことによる、心の変化があったのでしょうか。その変化はこの世界にのみ生きる者には絶対に経験できないものでしょう。言わば、君は生まれ変わったのです」
アーロは顔を上げ、育ての親である司祭の顔を見た。
その表情は叱るのでもなく、考えを押し付けるのでもなく、ただ見守るように微笑んでいた。
「今のアーロ君からは、何のにおいも感じられません。もしかしたら、私が感知できる範囲、この世界の理から外れたのかもしれませんね。そして君が生まれ変わったのならば、また新たなことを学び、成長し、いつか親を越えていかなければいけません」
「司祭様……」
「大いに迷い悩みなさい。そして行き詰まったなら、誰かに助けを求めなさい。私も出来る限りの助力をしますし、みな、君から受けた恩を返そうとするでしょう」
親が子にするように、トマスはその大きな手でアーロの頭をくしゃりと撫でた。
「神はいつでも君を見守っています。それは監視ではなく、慈愛の眼です。気にせず、君の心のままに生きなさい」
「……ありがとうございます。楽に、なりました」
「いいのですよ。懺悔を聞くのは神父の仕事。そして子を導くのは親の務めです。さぁ、まだ夜は長いですよ。アーロ君が異世界で見聞きしたことを聞かせてください」
トマスは優しく微笑み、アーロの向かいに座り直す。
皆が寝静まる天幕のなか、夜明けの鐘を鳴らす時刻まで、親子二人は語り合った。
◆◆◆◆◆
調査の結果、牧場主の夫婦は真っ黒であった。家からは脱税の証拠である改竄された書類が多数見つかり、さらに領地を治める代官への賄賂などの証拠も見つかった。
少女たちの証言により婦女暴行や強制労働、養子縁組契約違反なども確証され、牧場主の夫婦は夜明けとともに正式に逮捕された。
法の裁きを受け、罪を償うために力尽きるまで鉱山で働くか、辺境の開拓地で危険な開墾作業に従事することになるだろう。
トマスとアーロの活躍により、子供たちを害する悪は倒されたのだ。
保護された少女二人は元の孤児院への不信感があるとして一時的に教会本部預かりとなり、後程遠方の別の孤児院や修道院へと預けられることとなった。
ニーナは元通りアマデウス救済院へ戻り、貧民街出身で行き場のないフェミは一度トマスが預かるということで、同じくアマデウス救済院へと連れられていった。
「ただいま。みんな!」
「おかえりー!」
「ニーナねぇが帰ってきた!」
祝い送り出したとはいえ、孤児院のなかで年長者として姉と慕われていたニーナの帰還に子供たちは喜んだ。
「よ、よろしくお願いしますっ。フェミ、です」
「始めましてー!」
「フェミねえ! フェミねぇだ!」
「眼帯かっこいいー!」
それだけではなく、フェミという姉が一人増えたのだ。緊張しながらも挨拶をするフェミへ、さっそく子供たちが群がっていく。
自分よりも小さな子供の世話は慣れていないのか、すれたような物言いはなりを潜め、年相応の活発な雰囲気で話すフェミは、すぐに孤児院で受け入れられるだろう。
「平和ですねぇ……」
「えぇ。やはり子供は笑っている方がいいですね」
子供たちの賑やかな様子を眺めながら、トマスはしみじみと呟き、その肩を労るように揉むアーロも頷いて同意した。
悪は滅び、少女は救われた。
そしてアマデウス救済院には、今日も笑顔が溢れている。
登場人物紹介
ニーナ 12歳
豚に襲われそうだったところをアーロとトマスに救われる。
助けに来てくれたトマス父さんLOVE。
初恋のアーロ兄さんLOVE。
フェミ 12歳前後
貧民街出身の眼帯少女。
右眼の眼帯は怪我による傷跡を隠すもの。
頼れるナイスミドルなトマスさんLOVE。
強くてカッコいいアーロさんLOVE。
トマス・アマデウス 62歳
第三十六区教会を任される司祭にして、アマデウス救済院の父。
元一級異端審問官で、漆黒の革スーツに身を包みメイスとカイトシールドをぶん回すパワフルおじいちゃん。
雑感
面談の際
「あなたはニーナを愛し育てると誓えますか?」
「もちろん! (あと数年はな……!)」
「ふぅむ(臭いですが、嘘は言っていないようですねぇ)」
牧場主の旦那はクズ野郎でしたが、ニーナを可愛がる気持ちは本当だったため、トマス司祭は騙されてしまいました。




