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幕間:長耳族生態調査報告書


 長耳族生態調査報告書

   異世界調査団所属 特務技官 ウェイン・ムラクモ著



 本報告書は、森林世界エールバニアにて行った数十日間の実地調査から判明、推測される長耳族の生態や文化風習等を記すものである。小官の所感や推測を多分に含むため注意されたし。

 より正確で詳細な調査を行うため、研究者並びに駐在外交官の派遣を切に望む。



・長耳族

 森林世界エールバニアの種族。

 森と共に生きる穏やかな種であり、争いを好まず取引や交渉を用いて問題を解決することが多い。

 妖精と呼ばれる生物との共生関係を築いており、妖精を仲介することにより森の動植物との相互互助的な交流関係を構築している(妖精については別頁『妖精』を参照されたし)。

 特筆すべきは呼称にもなっている長い耳である。真偽は定かではないが、共生関係にある妖精と比べて先が長く尖っているという意味で付けられている呼称とのこと。その長耳の可動域は広く、猫のように周囲の音を拾うためによく動く。

 小官の推測であるが、森の中で生活するにあたり、外敵である鳥類の接近を察知するための感覚器官として耳、聴覚が発達した進化形態と思われる。


 ――後略。


・衣

 植物性の繊維を織り込んだ衣服を普段着として着用することが多い。

 染め物や細工などは特に施されておらず簡素なものだが、木々の間や枝葉に紛れて視認を難しくする効果があるためこのような自然の素材を利用しているものと推測される。

 祭事などでは蜘蛛や芋虫の出す糸を紡いで作られた白くゆったりとした服装を着用する。こちらは普段着とは反対に色鮮やかに染められたり、花飾りや羽飾りなどを着けて色とりどりの細工を凝らす。

 布地が貴重ということもあり、着用する衣服で格式やその者の力を示す文化があり、集落の中で上の者ほど布地の面積が多く色鮮やかな服装を身に纏うことが多い。

 アガレアの繊維産業にも強い関心を示しており、友好の証として持参した織物への注目度は高い。製品の新たな消費先として輸出が可能かと思われる。


 ――後略。


・食

 付近の森から採集する木の実や果物、野菜などを中心とした採集社会である。驚くべきことにその食料生産のほぼ全てを森の恵みに頼っており、食料確保のために狩りをしたり畜産を行うという概念が無い。

 その菜食中心の食性のためか肥満体質の者はおらず、総じて瘦せ型である。硬いものを噛むことが少ないからか顎も発達せず、アガレアの我々からすると小顔でほっそりとした印象を受ける。この体重が軽いというのは樹上に駆け上ったりぶら下がったりする際に有利に働くため、理にかなっているともいえる。

 動物性の肉食については手に入ることが少ないため肉はご馳走の扱いである。森の動物の遺骸から分けてもらうほか、打倒した鳥類の肉を好んで食す。鳥肉を食すことは天敵を排除し勝利したという安心感を種族全体で共有する一種の儀式とも捉えることが出来る。


 ――後略。


・住

 長耳族の集落は《王樹》と呼ばれる巨大な樹木の根元に形成されることが多い(《王樹》については別頁『王樹』を参照されたし)。

 二百人から三百人規模の集落がまるまる覆われるほどの巨大な《王樹》はその枝葉を広げることで上空からの鳥類の襲来を防いでいる。聞き込みによれば葉から出る特殊な匂いが鳥類に忌避される成分を含んでいるとのこと。小官が嗅いだところ、匂いとしてはミントやハーブの香りに近く、鳥にとって何らかの刺激になることは可能性としてあると思われる。

 長耳族は上空を《王樹》の枝葉に守られつつ、《王樹》自身や周囲に生えた大きな樹の幹をくり抜いて住居とする。妖精を介して樹と対話が可能な長耳族は樹を生かしたまま住居とすることが可能なため、住み続けるうちに樹はさらに大きく成長していく。

 住居は集落全体の共有物であり、一家族により一戸の家が割り当てられるほか、数人が共同生活を行う例も少なくはない。


 ――後略。


・文化風習

 長耳族はその社会形態、職務体制を部族ごとに分割しており、衣食住と守衛をそれぞれ担う四部族で形成されている。

 部族に分かれていると言っても固まるようなことはなく、すべての集落にそれぞれの部族が偏りなく配分されている。親が異なる部族の場合は、子自身がどちらの部族に帰属するかを宣言することで割り当てられる仕事が変化するようである。

 男女の地位としては平等だが、やはり男は住と守衛の部族に帰属する者が多く、女は衣食の生産を担う種族に帰属する者が多い。

 また、長きを生きる《王樹》などと遥か昔から取引や交渉を行ってきたことが言い伝えに残されており、古い言葉と呼ばれる特殊な言語が残されている。地名や挨拶、《王樹》や《火噴き鳥》などの生物の固有名詞などにその名残が見られるため、かなり昔から長耳族の生活形式や文化は変化していないことが推測される。民族学者、言語学者の先生方による高度な研究と歴史解明を望む。

 特筆事項として、アガレアの空想の産物で同じように耳が長い種族の呼称である『エルフ』という単語は、長耳族の古い言葉で『美しく愛しい君』という愛の告白を指す言葉と酷似している。

 また、好意を直接的に口に出すことは少ない文化であり、贈り物やその色、言葉では暗喩などの間接的な表現によって伝えることが多い。前述の『エルフ』という言葉を始め、贈り物は特に親密な好意、婚姻を乞うことに類似する行為であり、交流の暁には文化、言語の差異を周知徹底すべきであると進言するものである。


 ――後略。


・生態

 長耳族の生態の多くはいまだ謎に包まれており、さらなる調査が必要とされる。

 小官の主観となるが、彼らは種族的に争いを好まず、森に棲む生き物全体との緩やかな共生関係を結んでおり、またその中心として機能するべく折衝や取引を積極的に行っているように見受けられる。しかし彼ら自身に森を支配するなどという概念はなく、あくまで森を守り、種を守るという行動理念に則った行動のように思われる。

 この生物としては一種保守的とも取れる行動理念はどのように形成されたのか、謎は深まるばかりである。


 ――後略。


 生殖の方法は独特で、想いを同じくする二人が《願いの樹》と呼ばれる特殊な樹木へと祈りを捧げることで子を成すと言われている。長耳族に神聖視されているこの樹木は接ぎ木によって増やされるものである。植樹を行う際に二人が願いを込めることにより、体内から力(物体の持つ力。マナ、氣、神秘などと呼称されるもの)が分け与えられ、樹が数年かけて成長した暁に大きな実をつけ、その実の中で胎児が成長する。十分に成長した実はもぎ取られて暗所にて数日保管されたのち、切り開いて胎児を取り出すのだという。この摘出方法は実例を確認してはいないため、伝聞情報による記載となることを注意されたし。

 胎児は集落全体の子とされ、親の元で保護教育されるが、何らかの理由により育児が困難な場合でも集落の他の者が世話を行うような風習が形成されている。


 小官が体感するに、樹に与える力というものは非常に表現のしにくいものである。しかし新たな命を作り出すという行為には他ならないため、何らかの神の御業、科学的に証明のできない神秘の力が働いていることは間違いがないと思われる。

 この長耳族の卵生とも胎生ともつかない、いわば植生とも言うべき生殖方法は、想いの通じる相手であれば年齢、性別、種族、血縁関係に関わらず生殖が可能であるという。この他種族、生殖方法の違う種との子を成すことが可能ということは、異世界との交流に当たっては大きな後押しとなる可能性を秘めている。

 今後のさらなる調査を切に願うほか、既に小官と同僚一名が経験した植生樹木の経過観察を――。


 そこまで読んで、アーロはウェインが書いたという長耳族に関する報告書を投げ捨てた。


「ウェインッ! これはどういうことだぁっ!」


 慌てて真偽のほど、そして詳細を聞き出すため、アーロは調査団の小屋にいるであろう同僚の元へと駆けていくのであった。

雑感

 異世界出張で嫁探し! の前に子づくり! 

 エリーが願いの樹でもごもごと口ごもったこと、また森林世界に残って欲しいといったことは、実はこういうことでした。

 結婚式などの文化は長耳族にはありません。子供も、大体は集落全体の子供として育てられます。

 通常ならば子が育つのは数年後なので物語には関わってくるのか、お楽しみに。


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200ブックマークや1万アクセスを越えました! ありがとうございます。

これからも更新頑張ります。

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