世界の話とお褒めの言葉
「どうだね、君から見てこの庭園は?」
男はアーロと並んで歩きながら、自慢するように庭園を見回した。
当初の威厳は少しだけなりを潜め、口数が多くなっている。本当はおしゃべり好きな男なのかもしれない。
そして庭園の感想を求められるが、アーロはあまり建築に詳しい方ではない。しかし、素直に美しいと思った。
そのことを伝えると、男は嬉しそうにうむうむと頷く。
自らの手塩にかけた庭園を自慢するために呼んだのだろうか。それならば、なんのために? とアーロは内心首を傾げる。
「わかってはいるが、褒められるというのは悪い気はせんな。しかし、君が宮殿に足を踏み入れたときから観察はしていたんだが、君はあまり驚いていないな?」
「あぁ。そりゃ驚いてはいますが、予想していないわけではなかったですよ」
「ふむ。どんな予想か教えてもらってもいいかな?」
「おおざっぱですし、推測の域を出ないものばかりですが……」
説明のために少しだけ考えをまとめ、アーロは話し出した。
「まず、この森の支配者は長耳族ではない。別にいると考えてはいました」
「ほう。それは何故だね?」
「転移門の位置です。他の世界についても調査をした記録があるのですが、転移門は例外なくその世界において重要な立ち位置にある種族の栄えている場所へと繋がっている、という結果が出ています」
「ふむ、私も他の世界のことは知らないが、興味深いな」
「まだ調査段階ですがね。そうだという前提ならば、転移門からは長耳族の集落はあまりに遠い。なので、他に重要な立ち位置にある種族がいる、と考えました」
「なるほど。森全体が重要な立ち位置にある種族、いわゆる共同生存圏ということは考えなかったのかね?」
アーロの話り口に、男はいろいろと感想を言い疑問を投げかける。
その様子はとても楽しそうだった。神は下々の者との会話に飢えているのだろうか。
「その可能性も考えました。森全体が私たちの世界でいう街や国家といった扱いなのではないか、と。今はその説を推したいですね」
「それでも、長耳族は支配者ではないと?」
「えぇ。支配者は別です。森の植物、《王樹》がそうではないかとも思いましたが、その長たる《古王樹》でも神、偉大なる者、支配者ではなかった」
「あれは、ただの樹齢の高い植物だな。取引が好きで面倒見がいいが。どこまでいっても樹だよ」
「直接聞きましたが、神ではないとちゃんと答えてくれましたよ。だとしたら、選択肢は絞られます」
「ほう? 推測でよいので、聞かせてもらえるかな?」
予想ですが、と前置きをして、アーロは腕を広げて周囲を指し示す。
「この世界の支配者、神に連なる種族は妖精です。本当は、妖精たちによる高度な社会が形成されていると考えていました」
「高度な、か。ふむ、なぜ君はそう推測したのかね?」
「疑問を持ったのは妖精たちの態度というか、動作からです。この世界に来た当初に妖精たちと会話をしましたが、手を挙げて意見を発したんですよ」
「……続けてくれ」
「手を挙げて己の意見を発する。私たちの世界でも同様のことを行いますが、これは秩序立った世界の証、そして高度な教育を受けた証です」
意見があります、それを言いますよ、という意思表示は理知的な生物同士の意思疎通においてはじめて行われる。
本能のままに行動する者では、そうはいかない。
「当初は長耳族の社会構造を真似しているのかと思いましたが、長耳族の集落には学校などの基礎的な教育機関はなく、議論が必要な程の民主的な社会は形成されていませんでした」
「だから別に、教育を施すような場所と、円熟した社会がどこかにあると考えたわけだね?」
「その通りです。そして、妖精王により社会は統治されていると考えていました」
「ふふ。妖精王か。あながち間違いではないが、妖精たちの長が王だという考えに至った理由を聞こうか」
男は少しだけ笑い、続きを促す。
森林世界を統べる者、神はこの宮殿にて妖精に囲まれて生活を送っている。そこだけをみれば、妖精の王という表現も間違ってはいないのだろう。
「単純です。こちらは呼称ですよ。長耳族や妖精は王政のない社会のはずなのに、森全体で王という単語が頻出する。これは世界自体に大いなる存在として男系の王政に似た体制を敷く支配者がいたことの証です」
長耳族の社会形態は、長老や族長といった長を指導者とする部族社会だ。権限は分散され、複数の者が管理している。妖精などは各自お気楽に暮らしているだけのようで、社会制度などとは程遠い生活を送っている。
だが《王樹》や《鳥の王》など、存在しないはずの社会形態の長である《王》という単語は存在する。
種族の中での力が強いもの、ということを指しての王であるが、それでも不自然であった。
「なるほどな。単語や文化からそこまでの推測を行うとは……君は素晴らしい! 残念ながら妖精の社会形態は皆が平等に分け合うことを目指していてな、私も妖精に囲まれてはいるが、厳密に言えば王ではない。それだけが惜しいな!」
男はアーロの推理を聞き、手を叩いて褒め称えた。
「ここで理知的で論理的な会話をすることはなかなか珍しくてな! みな、私を神として崇めるため議論などは発生しないのだよ。いや、久々に面白い!」
そしてびしっとアーロを指さし、宣言する。
「頑張ったポイントを五ポイントやろう!」
「いりません」
何故だ! と驚きのけ反る男はとりあえず置いておく。
この男はたびたびアーロの理解の範疇を越えたことを言うので本音なのか冗談なのかわかりかねるのだった。
「まぁ、観察や推測は身に沁みついた癖のようなものです。それよりどれくらい合っているのか教えてもらっても?」
「……いいだろう。答え合わせだ。さっきも言ったが素晴らしいよ。ほとんど的を得ていると言ってもいい」
のけ反りを止め、それでも男は嬉しそうに答え合わせを始める。
知能が高くなっているとはいえ、妖精は基本的に頭が弱く底抜けに明るい。意見の議論などは起きにくく、やはりこの男は論理的な会話を行うのが楽しいのだろう。
「君が通ってきた転移門の付近にあるのは、この宮殿。一帯の森を支配する種族は妖精だ。箱庭の管理者たる私は、まず森を、そして妖精を創造した」
男は庭園を歩き、足を止めて綺麗に整備された庭を覗き込む。大人の腰ほどの高さに作られた壇の上に生えた樹や広がる大地はミニチュアのようであり、どういう原理か川や湖には水が流れ、森には妖精と思われる小さな光の玉がいくつも明滅していた。
「だが、力の入れ方を間違えたようだった。妖精は生まれの場所にして住処たるこの宮殿を離れれば離れるほど力は弱まり、他の生き物に狙われる弱弱しい存在になってしまったのだ。植物や動物が妖精と意思疎通を可能とするようにしたり、餌として狙われにくいように他の食物を豊かにしたりと手は加えたが、なかなかうまくいかなかった」
男は庭園の中で明滅する光の玉を愛おしそうに見つめると、さらに歩みを進めて今度は比較的大きな樹の生えた壇へと移動する。
「私はそういった経験を活かし、次に長耳という種族を造ったのだ。他の動植物と助け合い、森に適応して生きる者たち。長耳との共生関係を築くことで、妖精はより安全に、より森中に広がって生きることができた。今のところは、この世界はうまく回っていると言えるだろう」
驚くべきことに、男が覗き込むミニチュアの樹の周辺には、小指の先ほどの人型がちょこまかとせわしなく動きまわっていた。
耳が長い意匠のその人型は、長耳族を指すのだろうか。
ここまでくれば、さすがのアーロでも気が付いた。
「この壇、いやこの庭園全体が──」
「そうだ。やはり君は察しが良いな。私たちが眼にしている庭園こそ、この世界の縮図だよ。こちらを見たまえ」
男について歩きやや離れた壇へと移動すれば、そこには噴水と流れ落ちる水が溜められる湖のような地形の庭園があった。
湖から少し離れた場所には草原が広がっており、反対側の森はなぜか焼けたように木々が炭化した土地が広がっていた。
「ここが、君らがあの黒い火噴き鳥と対峙した場所だ。妖精や長耳に植物のほか、世界には生物が満ちねばならん。特に栄える種族には特に天敵を用意し、均衡を図るのだよ。今の長耳族にとっては鳥がそうだ」
黒い火噴き鳥と初めて対峙した場所は大規模に燃えたようだ。まぁあの火勢では当然か、とアーロは納得する。
さらにそういえば湖の先はどうなっているのかと視線を巡らせば、いつ飛んで来たのかお仕着せを来た妖精たちが視線を遮り、湖の奥の方を見えないようにしていた。
「可愛い服の妖精さんよ。奥が見えないんだが」
「おっと、そこから先は君にとっての未知の世界だ。ネタバレは面白くないので、見ない方が良い。なに、いつかたどり着くこともできるだろう」
ねたばれとは何か、そしていつかということは何故か。
いろいろと疑念はあったが、未知の物を先に見てしまうのは確かに興ざめだと思い、アーロは視線をふいと逸らす。
そして視線を逸らした先には、ひと際大きな枯れかけた樹があった。
「お、これは《古王樹》か」
「そうだ、私が長らく面倒を見ている樹でな。どれ……」
男は無造作に《古王樹》へ近寄ると、生えかけていた葉っぱ──ただでさえ少ない──をぶちりとちぎり取り、口に含んだ。
「うむ、この苦みと爽やかさ。やはり茶に相応しいな」
もぐもぐと葉を食み、満足そうに眼を細める男。
アーロはふと、あの《古王樹》が枯れかけの原因はこの男にあるのではないか? と邪推したが、この世界の神のやることだ。口には出さなかった。
「む……。少し元気が無いな。葉を取り過ぎたか? おい、如雨露をくれ」
男も《古王樹》の枯れ具合は気になるようで、妖精から如雨露を受け取ると湖の水をすくい、森に振りかけた。
ざぁっと地面が濡れ、森の木々の上には小さな虹がかかる。森にとっては恵みの雨だろう。
「何だか物凄く神らしいことをしているようですね。天候まで管理を?」
「ふっふ。いかに美しい庭でも手入れと水やりをせねば荒れてしまう。普段は世話妖精たちに手伝ってもらっているが、私も面倒は見ているのだよ」
水が降り注いだ《古王樹》の付近では、小指の爪の先ほどの動物たちが姿を現して水浴びをしていた。
さらに雨に誘われてか、《古王樹》の樹の洞から一匹の百足が姿を現す。
これはもしかしてあの大百足か、とアーロが興味深そうに眺めていると、男は百足を摘まみ上げてアーロの前に差し出した。
「見ろ」
「うおっ。気色悪っ」
「そう言うな。《古王樹》の守護虫、大百足だ。両腕を斬られ食われた恨みがあるならば殺したまえ。なに、この大きさなら簡単だろう」
「む……」
アーロは一瞬だけ悩んだが、男が摘まみ上げた大百足を受け取り、そっと《古王樹》の元へ戻した。
大百足は地に足がつくとそそくさと逃げるように樹の洞へと入り込み、再度顔をのぞかせることはなかった。
「よいのか?」
「えぇ。特に恨みはありませんよ。腕も生えた」
そもそも住処に入り込んだ外敵は自分であるし、腕も《古王樹》との取引を受けることで再生した。
アーロとしては特に恨みという気持ちも無ければ、小さな虫をいじめて楽しむ趣味もなかった。
「ふむ。無欲な者よな。あれほどの格上を倒し食らえば己の神格を上げるかもしれぬのに逃がすとは」
「いや。百足を食うのはちょっと……神格?」
「知らんのか? その者に宿る神秘の力の多さ、力の格だ。食物などから日々少しづつ体に溜め込むほか、神格が上の者の身を食らうことで神秘を大量に体へ取り入れるのだよ」
またもや知らぬ単語にアーロが首を傾げると、男は今度は説明をしてくれる。
何が違うのかは分からないが、男の情報開示には何らかの線引きがあるようだった。
「君は《古王樹》の実を食らい、さらにあの黒い火噴き鳥や《鳥の王》を食らい、いくらかの神秘を取り入れたようだな。体がよく動き、より頑強に作り替えられたような感覚があったはずだ」
「あぁ……なんとなく。あれが神格が上がったってことですか?」
「いかにも。生命としての格、進化の度合が上がるということだからな」
男の説明を聞いてもにわかには信じがたいが、実体験を伴ったあの感覚を思えば、そういうものかとアーロは納得するしかない。
龍の血を飲んだ者は不死となる、人魚の肉を食えば不老長寿の力を手に入れる、眉唾物か英雄譚で語られるような内容だが、アガレアでもそういった噂は尽きることがなかった。
「神秘、というくらいだから、神が関係しているんだろうな。頑張ったことに対する神様からのご褒美ですか?」
「鋭い質問だ。神秘を高めた生物はより強く、より賢く進化する。世界を運営し、そういった強い生物を生み出すことこそ、私たちの望みなのだよ」
「なぜ……と聞いても教えてもらえるので?」
「さて、な。推測してみたらどうだ?」
男はくつくつと笑う。
子供が悪戯を企んだ時のような表情。相手の反応を見るのが楽しくて仕方がないといった顔だ。
「こういった頭脳労働は得意じゃないんだが……」
「ならばヒントをやろう。人や妖精、動物に限らず、全ての存在は他者と競い合うものだ。君たちの成り立ちを考えれば、理由などすぐにわかるだろう」
アーロはううむと腕を組み頭を捻った。
先ほどこの森林世界の神たる男は、妖精や長耳、他の生物を創ったと話していた。つまり、この世界の親だと言える。
子は親を模倣する。それは娘を持つアーロには分かりやすかった。ならば、他者と争い競い合うことは、親から受け継いだものなのではないか。
「全ての存在は、他者と競い合う。それはつまり、あんたたち神も例外ではない……か?」
神とてそれは例外ではなく、むしろ争いや競争こそ神の模倣たる世界の生物に備わった宿命なのではないか。
つまりは、数多ある異世界の神同士では何らかの争い、競争を行っているのではないか。
すべては推測だ。男からの助言をもとに思いついた考えに過ぎない。だがそれでも、導き出した答えを聞いた男は、驚いたように口を開けていた。
「──素晴らしい。本当に素晴らしいよ君は。よかろう、答え合わせだ」
男は嬉しそうに腕を広げ、世界の真理を語る。
「これからする話は、君たちの人生には全く関係が無いということを念頭に置いてくれ。すべては世界が終わった後、神同士の間で行われることだ」
「それは、神々の意に沿うように生きるなと、そういうことですか?」
「もちろんだ。神々のコントロールを離れてこそ、生命は時に思いもよらない変化をもたらす。私たちはそれを期待しているのだからね。さて、私は君の導き出した考えの通り、神々は世界の運営にあたり一つの目的を持っている。全ての世界が終焉を迎えた時、どれだけ世界が栄えたかということをお互いに競い合うことになっているのだよ」
「どれだけ栄えたか? そんなもの、どうやって測る」
「決まっているだろう。戦いだ」
男は今までの爽やかで無害そうな雰囲気から一転、獰猛な笑みを浮かべる。
「より強きもの、より賢きものを生み出すことが出来た世界こそ、栄えたということだ。世界のすべての生物は万全、最適な状態で神に記憶され、戦いの際には尖兵となって呼び出され、異世界の兵と戦うのだ」
朗々と、歌うように男は言葉を紡ぐ。その身はいつか来る戦いの興奮を待ちきれないとでもいうかのように震えている。
穏やかな様子から急変した男の異様な雰囲気に、アーロは息を呑んだ。
「私の世界は自然が一番ということで、特にこれといった干渉はせず運営しているのだがね。君たちの世界はどうだ? 神話の時代から受け継がれてきたようなものはあるのか?」
問われ、アーロの頭の片隅にはある昔話が浮かんだ。アガレアの神話だ。
世界創造の際、一級神アガレアに生み出された二級、三級の神々は己の役目を終えた後、来るべき終末戦争に備え戦装束を身に着けて葬される。
来るべき終末戦争。その神話自体が、本当のことなのだとしたら。
「ある……。古代から人は、神の先兵として馳せ参じるために己を鍛え、死する時には戦装束を身に着ける──!」
「やはりそうか! そうしてより強い者が生まれるようにコントロールするのも良いのかもしれんな! 手段や干渉の度合は様々だが、すべての生き物は競争し、己を高め、より高みへと己を押し上げることが宿命づけられているのだよ」
男は好敵手の予感か、戦への武者震いか、声を弾ませた。
だが、話し終えればふっと体の力を抜き、何でもないというように笑ってみせる。その表情は先ほどまでの獰猛な笑みはなく、穏やかな中年男性のそれだ。
「……とまぁ、神は神でいろいろと目的があってやっていることがあるのだ。君たちが生きているうち、さらに死んだ後程度は何の関係もないことだがね。世界の終わりとは、その世界の全ての生き物が死に絶え、何もなくなった後の話だ」
気にしても何の意味もない、好きに生きろ、と男は手を振って笑う。
そうは言われても男から話を聞いてしまった手前、アーロの今後の思考には何らかの影響を与えるだろうと思われた。
「さて、神秘や神格の話だったかな。世界や神の事情は置いておいて、強くなればなるほどできることは増え、危険は減るだろう。力はあって困ることはない。今後も精進したまえ」
「はぁ。何とも話の規模が大きすぎて実感が沸かないが……」
「ははは。難しく考えず、そういうものだと思えばよい」
朗らかに笑う男はこの話はもう終わり、とでも言うように歩き出す。
手に持っていた如雨露は控えた妖精が受け取り、庭園のどこかへと飛んでいった。
「そうそう。君には一つ、感謝しなければならないことがあるのだ。ここがどこだか分かるかね?」
やがて男は庭園を進み、ある壇の前で立ち止まった。
しばしの物思いから引き戻されたアーロは、庭園の一角を見やる。
先ほどの湖の付近のように焼け焦げた地面と、炭となった樹の成れの果てがそびえ立っていた。
「ここは、火噴き鳥と最後に戦った場所……か」
「そうだ。《鳥の王》はともかく、あの黒い火噴き鳥には頭を悩ませていたのだ。奴はな、私が創り出したものではない、この世界の異分子なのだよ」
「黒い火噴き鳥が、異分子?」
「私の管理を受け付けない、奇妙な生き物だ。何が原因かは分からないが、消してくれて感謝しているよ」
「いや、礼を言われるほどのことでは。奴とは偶然戦い、たまたま勝っただけです」
「そう謙遜するな。頑張ったポイントをさらに五ポイントやろう」
「いりません」
何故だ、と男は不機嫌そうに腕を組み、息を吐く。
「……私から見ても、あれは生物としては異常だ。破壊を撒き散らし他者を害することが目的のようにも感じた。無いとは思うが、他の世界からの介入という線も考えられる」
「生物としての不自然さは、俺も感じていました。生存本能よりも闘争本能が勝っているというか。ただ、戦士としての気高さのようなものも感じましたね」
「興味深いな。黒い火噴き鳥のほかにも、同様と思われる生き物がこの世界の各地で発生している。ある次期を境に急に現れており、何かしらの意図を感じるな」
顎を撫でながら考え込む男を目にし、さらに世界の各地で発生しているということを聞き、アーロはエリーのことが心配になった。
あの娘のことだ。同族を守るためならばどんな敵でも果敢に戦おうとするだろう。
「なにか、抑える手はあるのですか?」
つい、アーロは聞いてしまった。
これから世界を去る身だとしても、残した者や知り合った者たちへの心配は別だ。
目の前にいるのは神。何かしらの対応があると聞ければひとまずは安心できる。
だが、男はきっぱりと口にした。
「わからん。……そんな顔をするな。まだ、分からんだけだ。君が消した黒い火噴き鳥を解析しているところでな。時が経てば何かしらの情報は手に入れられるだろう」
気落ちするアーロへ、男は笑う。
その様子に悲壮感や焦りはなく、むしろ楽し気ですらあった。
「ふふ、何か気になることでもあるのか? それとも、誰か傷ついては困る者がいるのか?」
「それは……いるが……」
「そうか、君は嘘がつけないのだな。話が早くて助かるよ」
嘘をつくわけにもいかず、ぽつりと零す。
それを聞いた男はアーロへ近づき、その肩をがっしりと掴み、内緒話をするかのように小声で話し出す。
「長耳の娘とずいぶんと仲良くしているみたいだな。アーロ君?」




