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森の祈りと二人の気持ち

 《鳥の王》との戦いから数日、アーロは傷を癒すために休息を取っていた。

 胸や肩に受けた深い傷は、戦いを終えて集落へたどり着いた際にエリーから与えられた《王樹の実》を食べることでほぼ塞がった。

 しかし、傷を塞いでも流れ出した血が戻ってくるわけでもなく、しばらくは激しい運動を控えるとして休養を取っていたのだ。

 余談だが、妖精三匹組は宴の次の日には《古王樹》への報告をしてくる、と去っていった。

 また、幸いなことに寝床の問題はマヤに相談することで解決した。今は住人のいない樹の空き家を融通してくれたのだ。

 しかも空いているから、と一人につき樹一本だ。そのため最近はウェインとお隣さん状態である。


 そんなこんなで、ウェインと対火噴き鳥用の罠について意見を出し合ったり、長耳族の子供たちの面倒を見たり、ちょっとした雑用などを任されているのだが、その間エリーとは朝夕に様子を見に来るとき以外は顔を合わせておらず、出かけると言って一日顔を見ないこともあった。

 集落周辺は今までの滞在期間で既に案内をあらかた行っている。さらに養生のため遠出しないとなれば、案内役であるエリーの仕事ではないのかもしれない。

 毎日べったりとくっつく必要はない。それは頭では理解しているが、何とも言えない気分になるアーロであった。

 しかし、そんなことを何の気なしにウェインへと相談すれば、「僕からは答えられない」と言及を避けられてしまう。


「マヤさんがそのうち族長になるから、仲のいい年頃の子たちは手伝ってるみたいだよ。ま、それ以外にもあの子もいろいろと忙しいんじゃない?」


 仕事だとすれば、休養という名目でだらだらと過ごしているアーロとしては何も言えない。

 そんな折だ。


「アーロ。一緒に森へ行かないか?」


 エリーからのお誘いがあった。



  ◆◆◆◆◆



 エリーをはじめとする長耳族の面々が向かったのは、数日前に《鳥の王》との戦闘により焼けてしまった森だ。

 まだ若い《王樹》があった場所だが、今は広範囲にわたり炭化した木々や大地が痛々しい様相を晒している。

 そこへ長耳族は老若男女を問わず大勢が、大きな籠を担いでやってきていた。

 既に火はおさまっているが、こんな場所へなにを目的として来るのか。


「ここにな、樹の苗を植えるんだ」


 エリーもまた、背負ってきた籠を降ろしてアーロに説明を始めた。


「火噴き鳥の炎によって森が焼けてしまった、そんな場所もいつかは草が生え、樹が育ち、また森へと戻る。その手助けをするのも私たちの役目だ」

「なるほど、森を再生するための植樹か」


 アーロも担がせられていた籠を地面へ降ろし、一息ついた。その籠にはいくらかの土と、根ごと掘り出した小さな樹が入っている。

 体力は回復しつつあるとはいえ、樹の苗を担いで何時間も歩くという重労働に体が悲鳴を上げていた。

 籠を下ろした長耳族たちは、めいめい木製のショベルや石製の鍬を使って、徐々に地面を掘り返していく。

 アーロもエリーが担いできた籠に入っている道具を受け取り、同じように地面へと突き立てた。


「辛くなったら代わるからな」


 怪我を慮ってエリーは言うが、そこは男の意地として出来る限りは力仕事をやろうとアーロは決めていた。

 周囲に散らばった長耳族たちも親しい間柄なのか男女のペアで作業を行っている者たちが多く、そのほとんどは男手が穴を掘っていたこともある。また仕事として若手の役割なのだろうか、何度か顔を合わせたこともある若い衆たちも植樹に参加していた。

 少し離れたところにはウェインとマヤの姿もあり、楽し気に会話しながら同様に作業を行っている。


「……最近、忙しいみたいだな」


 黙々と作業をするわけにもいかず、自然と思っていたことが口に出る。

 言ってしまってから、アーロはしまったと後悔した。これでは己が構ってもらえずに寂しがっている子供のようでないか、と思ったからだ。


「うむ。すまないな。マヤの話は聞いているだろうが、いろいろと手伝っているんだ」


 族長が代替わりするというのも、では明日からすぐに代わる、というわけにもいかない。

 近隣の集落への連絡や、他の部族の長達への根回しも必要だ。自然と森を出歩くことが多くなり、マヤと親しい間柄のエリーは護衛としてついて回っているのだという。

 それを聞き、アーロは恥ずかしくなった。エリーは自分の仕事をちゃんとしているのに、自分は何を言っているのか。穴があったら入りたいくらいである。今まさに掘っている穴に埋めてもらおうかとも本気で考えた。


「そうか、頑張ってるんだな」


 返す言葉も、そうとしか言えない。


「いろいろと動いているが、マヤから頼まれたからな。……ふむ。寂しかったか?」

「んっ。おう」


 図星の指摘にアーロが思わず言葉に詰まれば、エリーは言質を得たとばかりにやにやと笑みを浮かべた。


「そうか……! まったくしようのないやつだな。寂しいならそうと言ってくれればいいのにっ」

「……」


 嬉しそうに言うエリーに対し、アーロは黙したまま穴掘り作業に専念した。

 己の子供っぽい部分を見透かされたことに対する、無言の抵抗だ。


「ふふ。そんなに拗ねるな。私とて朝夕に時間を作って顔を見せているだろう」

「……そーだな」

「まぁそれでも足らんというのなら、よ、夜にでも、わ、私の部屋で話そうではないか」

「……ふーん」

「なぁ、おいっ。ちゃんと聞いているのか。アーロ」

「おう」

「……私だって」


 いまいち反応の鈍いアーロに対してエリーは近づき、さも道具を受け取りますよ、といった体でその手を重ねた。それはもう自然な感じで。


「……私だって、寂しかったんだぞ」


 アーロがはっとして顔を見れば、赤くなったエリーは目を伏せ、その長耳はぶんぶんと元気よく動いていた。


「寂しくないわけ、ないじゃないか。私もアーロと同じ気持ちだ」

「エリー……」

「アーロ……」


 手を取り合ったままいい雰囲気になる二人だが、残念なことに今は真昼間で、しかも周囲にたくさんの人がいる。

 どちらともなく、名残惜しそうに手が離れた。


「んんっ。なんだか暑いなっ?」


 エリーは照れくさそうにしつつ、真っ赤な顔を手で扇いでいた。

 そして、暑いから少し胸元へ風を送りますよ、といった自然な動作で首元を広げて見せた。

 ちらりと覗く真っ白な肌よりも、アーロは鮮やかな紅色に眼を奪われた。

 エリーがぺろりとめくる首元には、アーロが贈った真紅のスカーフが巻かれていたのだ。今までは服の下に隠されて見えなかったが、今日、初めてエリーはスカーフを身に着ける決意をしたのだった。


「お、それ」

「どうだ? 変じゃないか?」

「似合うぞ。もっと外に出せばいいんじゃないか」

「そっ、れは、ちょっと、まだ恥ずかしい……な」


 とにかく、贈り物はお披露目をされた。それだけでもアーロは嬉しかった。

 そんな二人の様子を、他の長耳族の者たちもにこにこと眺めているようだった。

 なんとなく気恥ずかしくなり、己の作業に戻るアーロとエリー。それから一時間ほどさらに穴を掘り進め、ようやく運んできた樹を根元まで埋められる深さになった。


「よし、それくらいでいいだろう」

「あぁ、やっとか。鉄器をくれ鉄器を」


 硬い地面には石や、かつて生えていたであろう樹の根がごろごろとあり、深く穴を掘るのには苦労をした。

 しかも道具が石器や木器である。長耳族は相当に気の長い種族だなとアーロは皮肉気に思った。

 穴を掘るのは重労働だが、埋めるのは一瞬である。穴の中に樹の苗を降ろし、周囲にの穴を埋めていく。最後に土を被せて盛れば、完成である。


「よっと、埋めるのは楽だな。こんな感じか?」

「うむ。後は自らの力で根を張り、大きく育つだろう」


 ショベルを放り出し、アーロはやっと終わりか、と流れ出る汗をぬぐった。怪我人にはなかなかの重労働であった。

 他の皆はどうかと周囲を見回せば、同様に樹の苗を埋められている者が大半のようだ。

 だが不思議なことに、植樹を終えた者たちは一様に樹の根元へ手をあて、何かを祈るかのように眼を瞑っていた。


「エリー、彼らは何をしているんだ?」

「あぁ。あれは植樹の最後の、そうだな、お、おまじないのようなものだ。人の願いを込めるんだ」

「願い?」

「あぁ。この樹が健やかに育ちますように。この森が命を育みますように、という願いだ」


 アーロには説明されても、いまいちピンとこなかった。

 だが他の者が一心に祈っている姿を見ると、長耳族としての重要な儀式のようなものか、と判断した。


「アーロも、願ってくれるか?」

「あぁいいぜ。お安い御用だ」


 祈るのは得意だ、と軽く了承すれば、エリーは眉根を上げて真面目な表情になる。


「お安くないぞ。真面目にやって欲しい。大事なことなんだ」

「お、おう。分かった」


 どうやら、この儀式はエリーにとっても相当に重要なことのようだ。

 真面目に頼むぞ、と樹の根元へと手を当てる姿にならい、アーロも膝をついて土に手を押し当てた。

 自然、二人は寄り添うような格好になりながら、眼を瞑る。


「この樹が健やかに育ちますように……。この森が命を育みますように……」


 エリーが一心につぶやく言葉をアーロも反芻する。

 やるからには、真剣だ。手を当てたところから流れ込めとばかりに、本気で思いを込める。


「む。ん?」


 すると、体のうちから何かが溢れ、手を伝って樹に吸い込まれていく。


「私とアーロの、あ、……の証が……もにょもにょ」


 隣でエリーが聞き取れないほどの声量で何かを言っているが、声をかけることもできない。

 何、とは表現のできない、力のようなもの。それが自らの内側から生まれ出でて、樹へと宿る。アーロが今までに経験したことのない、不思議な感覚であった。

 しばらくして、その不思議な感覚は徐々に小さくなり、無くなってしまう。体から力が吸い取られたような余韻があり、少しだけだるさを感じる。アーロは思わずふぅと息を吐いた。


「なぁ、なんか変な感覚がしたぞ」

「どうだ? どんな感じだ?」

「なんとも表しにくいが、力が抜けるような感じがした。なんだこれは?」


 問われて感じたままに答えれば、エリーはぱっと笑顔を浮かべ、「そうかっ!」と弾んだ声を出した。


「これは《願いの樹》だ。二人の願いが通じていれば、森は祝福を授ける。今回は願いが受け入れられた。この森の一員として、アーロも認められたということだ!」


 やった! と喜びをあらわにするエリーに対して、アーロは説明の意味を頭の中で何度も繰り返していた。

 二人が願う。想いが同じならば、森は二人を森に生きるものの一員として、認めて祝福を授ける。

 森は大いなる存在。そして植える樹はその想いの証明だろうか。

 つまり。


「結婚式、のようなもの、か?」


 アーロは呆然と呟いた。

 そしてはしゃぐエリーを見て、おそらくおおよその見解としては当たりだろうと直感した。


「エリー」

「ん、どうした?」

「前にも行ったが、何かやるときは、事前に説明してくれ……」

「あ。そうだったな。すまない!」


 そう謝りつつもにこにこと笑うエリーは、本当に嬉しそうにしていた。



  ◆◆◆◆◆



 長耳族の一行やアーロたちが植樹を終えて集落へと帰ってきた時には、日は傾き森は茜色に染まっていた。

 本日はそこそこの遠出と重労働で汗をかいたため、集落近くにある小川で水でも浴びようかとアーロが思っていると、エリーが寄ってきてそっと耳打ちをした。


「今日の夜、時間をもらえるか?」


 アーロとしても、今日のことを含めていろいろと話したいことがあったので、快く承諾した。

 幸いにも、今は長耳族の樹の家を間借りしている。夜に少々話すくらいは迷惑にもならないだろう。

 その時はそう思って快諾したアーロだったが。


「まずくないか。いや、むしろいいのか?」


 時刻は既に夜である。アーロは割り当てられた部屋の中、蕾灯ライトバルブの照らし出す薄暗い室内をうろうろと歩き回っていた。

 年頃の娘が、夜に男の家を尋ねるという。

 長耳族の文化を知らないため、それが普通のことなのかどうかはいまいち判断がつかなかった。ウェインに相談しようにも、これはやばいのでは? と思い至ったのがすでに夜だ。今家を空ければ、エリーがやって来てすれ違いになってしまうかもしれない。


「俺たちはなんだ? え、そういう関係か? 今から始まるのは夜の異文化交流会か?」


 考えはまとまらず、時間が過ぎるのが異様に早く感じ、また遅くも感じた。

 アーロが見やる部屋の壁際には、ふかふかの毛皮が敷かれている。もともとは数人で住むことを想定されているのか、敷かれた毛皮は大きく、部屋自体も広い。


 どうする。いや、そもそも話というのはなんだ。落ち着け。

 そんな思考がぐるぐるとまわり、アーロは毛皮へと飛び込んだ。

 何枚も重ねて敷かれたそれは想像以上に柔らかかく、ぼふっと沈み込んだ。


 ここで夜の異文化交流会が開催されるのか? これも異世界調査団の仕事の内か? もしかして報告義務があるのか?

 そんなふざけた思考が頭から離れず、アーロは悶えた。


「……何をやってるんだ?」


 家へとやってきたエリーは、そんなアーロの様子を見て不思議そうに首を傾げた。

 長耳族にノックや呼びかけという文化はないようで、気が付いたら上がり込んで悶える姿を見られたのだ。


「……なんでもない。まぁ、座ってくれ」

「ああ。夜分にすまないな」


 咎められたことで落ち着きを取り戻したアーロは、エリーと向かい合って椅子に座っていた。

 エリーも昼間に汗をかいたので着替えたのだろうか、白を基調とするゆったりとした服に着替えており、さらに首元には真紅のスカーフが巻かれていた。

 白い服と白い肌に紅色がよく映え、エリーの新緑を思わせる緑色の髪とも不思議と調和している。


「な、なんだ? そんなに見るな……」


 じろじろと観察しすぎたのか、エリーは照れくさそうに首元を手で隠した。


「見るくらいいいじゃないか、似合うぞ」

「もうっ。そんなに褒めても何もないぞ。でも、ありがとう」

 

 とても似合っていた。だがアーロの少ない語彙力では、それを伝えることが出来ないのが悔しかった。

 恥じらいつつもはにかむエリーだが、話があるというのは本当らしく、顔を赤らめて長耳を振りながらもきりっとした表情を作る。

 その様子から、どうやら艶っぽい話ではないだろうとアーロは安堵した。少しだけ落胆したが。


「まずは、これを受け取ってほしい」


 エリーが懐から取り出したのは、木箱だ。いつか言っていた、アーロの贈り物へ対するお返しだろうか。

 お土産として真紅のスカーフを贈った際の箱と同じような大きさだが、まるきり同じというわけではない。木の香りが強いため、おそらくは作りたてである。

 開けてもいいか? と視線で問うと、エリーは緊張しながらも大きく頷く。


「これは……!」


 箱の中には、赤いスカーフが入っていた。

 アーロは手に取って広げる。飾り模様などはないが、赤一色に染められた布で作られている、何とも言えぬ温かみを感じる作りだ。


「贈り物、あの時のお返しだ。私が織って、染めたんだぞ」

「自作か。すごいじゃないか。いつの間に?」

「仕事の合間を縫って時間を作ったり、夜中にだな。おかげで最近は寝るのが遅くなってしまった」


 えっへんと胸を張るエリー。その長耳も誇らしげに上を向いていた。


「材料はアーロと二人で取ってきた大蜘蛛の糸だ。使わないからってくれたやつだな。それを森で取れる実をこした染料で色を出したんだ。赤色の意味は、そのぅ」


 途端に照れくさそうに口ごもるエリーだが、赤色の意味は言われなくともおおよその意味はアーロとて分かっていた。


「『お前に惚れてるぜ。赤い血潮が脈打つ胸の高鳴り、あるいは炎のような情熱的な感情』だったか?」

「なっ! 知ってるのか!」

「あぁ知ってる。しかも衣服を贈るのは『守ってやる』。『身に着けて好きだという奴がいると周りに知らしめろ』とかか?」

「むぁー! 声に出して言うな恥ずかしい!」


 椅子の上でエリーは顔を隠し、身悶えした。

 長耳族の文化ではこういった感情は秘めて伝えることがほとんどであるので、あえて言葉にされると物凄く照れるのだ。

 反面、どちらかというと感情は口に出して伝える文化で育ったアーロは、そういったことは自然と口にできた。


「つ、つけて見せてくれ」

「いいけど、見れるのか?」

「恥ずかしいが、こっそり見るっ!」


 やれやれとアーロは苦笑し、エリー作だというスカーフを首元へ巻いた。

 やがて、いいぞと声をかければ、エリーは真っ赤になった顔を手で隠しながら指の間を開けてちらりと様子を盗み見た。

 そのままの姿勢で固まり、覗く口はあわあわとわなないていた。


「どうだ? いい感じか? 自分じゃ分からんな」

「……いい。すごく、素敵だ」


 派手すぎない自然な色合いの赤は、アーロの銀髪によく合っているのだろう。

 そして何より、自らが想いを込めて紡いだ糸と布、自分の想いよ色に溶けろと染めた赤、それらが形となって想い人の身に着けられているということに、エリーは心が震えているようだった。


「あぁ、似合っている。誰かを想うというのは、こんなに素晴らしいことだったんだな」

「大げさだな。でも、ありがとな。同じ色でお揃いだな?」

「そ、そうだな。お揃いということは、い、一緒に着けるということか? 外で、皆に見えるように?」


 当たり前だろ。と思うアーロだったが、恥ずかしがりなエリーとしてはその場面が刺激的過ぎたのだろう。


「むむ、それは嬉しい。じゃなくて、恥ずかしい。皆が見てるぞ、いや、そんな……」

「エリー、おーい。大丈夫か?」


 エリーは場面を想像したのかあたふたと慌てたように頭を抱える。おそらくは妄想によって脳が過剰な反応を起こしたのだろう。

 大丈夫かとアーロが顔を寄せれば、何を勘違いしたのかエリーの方から体を寄せて密着してきた。


「あぁ、アーロ……」


 エリーは熱に浮かされたように呟き、潤んだ瞳でアーロを見上げた。何かを待ちわびるかのようにその唇は薄く開かれている。


「アーロ、私の愛しい人(ラ・エルゥナ)……」

「おい、エリー。近いって。落ち着け」


 平静な顔をしつつも、アーロの頭の中では激しい議論がなされていた。

 これは行けるのか? 行っていいのか? 勝算はあるのか? いや、贈り物を見ろ。赤色だ。よし、行ける。

 思考は加速し脳髄を駆け巡り、脳内ではラッパを構えた天使が隊列を組み、兵士の突撃を告げる合図を吹きならしている。

 アーロはエリーの肩をそっと抱きつつ覚悟を決めた。


「エリー。実は俺からも話したいことがあるんだ」

「……うむ。私も、お返しをして終わりではない」


 エリーは体を預けながらも、緊張した面持ちで告げる。やはりそうか、とアーロの期待は否応にも高まる。


「たぶん、私たちは同じことを考えているだろうな。せーので言わないか?」


 ふふっと悪戯を思いついたように笑い、エリーは提案する。

 二人の気持ちが通じていることを微塵も疑っていないその笑顔は、薄暗い部屋の中でも輝いて見えた。

 そして、アーロも同じ気持ちである。提案を快諾しないわけはない。


「いいぞ。じゃぁ――」

「せーの――」


 そう、二人の想いは一つ――。


「エリー。好きだ。アガレアに来てくれ。一緒に異世界を冒険しよう」

「アーロ。好きだ。エールバニアに残って、私と一緒に暮らしてほしい」


「ん?」

「え?」


 ――ではなかった。微妙に違っていた。

〈願いの樹〉イベントをこなしました。

 好感度が2上がりました。


〈エリーの気持ちと贈り物〉イベントをこなしました。

 好感度が3上がりました。


エリーと気持ちを伝え合いました?

 [エリーのスカーフ]を手にいれました。

 好感度が[親密]から[愛情]に上がります。



《願いの樹》

 長耳族が森の繁栄を願って植える樹。

 恋愛成就、無病息災、家内安全、心願成就などの願いを込めて植えられる。

 祈る二人の気持ちが通じているならば、森はその願いを聞き入れる。

 アーロとエリーの祈りは「この樹が健やかに育ちますように。この森が命を育みますように」である。


雑感

 長耳族には文化的に結婚とかいう概念がありません。

 いつも自然と一緒にいるパートナーや、二人のつがいという関係性です。

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これからも更新頑張ります。

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