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湖の食事会と昔話

「焼肉パーティをしようよ!」


 次の日、朝っぱらからうきうきしているウェインの提案で、アーロたちは長耳族の集落から三時間ほど歩いた先にある、巨大な湖を訪れていた。

 昨日仕留めた火噴き鳥の幼体は、羽や爪などはせいぜいアクセサリーにするくらいしか使い道がなかった。しかし幼体と言っても巨大な鳥が二体である。もも肉や胸肉はたっぷりと取れた。

 罠を使用して捕った獲物なので、もちろん権利はすべてウェインにある。しかし彼は食べきれないから、と肉を長耳族の戦士たちに渡し、たいそう喜ばれていた。

 そして残っている肉で焼肉パーティを催そうというのだ。

 長耳族に合わせて果物や木の実中心の食生活を送り塩気や脂といったものに飢えていたアーロは、この提案に一も二もなく賛同した。


 焼肉パーティーの会場に湖が選ばれたのは、二つの理由がある。

 一つ目は、単純に長耳族の集落周辺で火を使うことを避けたためだ。下手をしても森林火災にはならないだろうが、石を組んでのかまどでは地面を焼き焦がし、地中にある木の根も熱で傷つける恐れがある。

 広場を間借りしている立場の丸耳族が、そのようなことを大っぴらに行うわけにはいかない、と配慮してのことだ。


 二つ目は、湖自体が目的である。

 森を進むと不意に現れる巨大な湖は、長耳族にとって大きな意味を持つ。

 湖と森の境界線にはまばらに樹が生えているが、少し離れれば樹がほとんど生えていない、湖の周囲には見渡す限りの草原が広がっている。湖の向こう岸も同じく草原が広がっていることがうっすらと確認できるが、それは視線を遮る樹木が無いからだ。

 森と共に生きる長耳族にとっては、樹木のない土地は生活圏と呼べない。上空からの視線を遮る枝葉がなければ鳥に見つかり、襲われる危険性がぐっと高まるからだ。

 澄んだ水をたたえる湖も、草花が揺れる大草原も、長耳族には世界の果てと同義であった。

 そんな湖を案内するため、この場所が選ばれたのだ。


「あまり森から離れるなよ。危ないからな」


 そう注意を促すのは、長耳族の守衛の一族の戦士【貫く者】の異名を持つエリーである。

 肉を焼いて食べるために湖へ行くと言われ、さんざん渋ったのは彼女だ。だが案内役として同行しないわけにもいかない。

 彼女は不機嫌なのか鳥を警戒しているのか、朝からずっと険しい表情をしていた。


「エリー、そんな怖い顔しないの。鳥が来たらすぐ森に逃げればいいんだから」


 お姉さん風にたしなめるのは、マガ長老の娘で食料採集を担う一族のマヤである。彼女はウェインの案内役を務めており、またエリーとも同居人ということで仲が良い。

 陽光がきらきらと煌き、水面を揺らす風が頬を撫でる。丸耳族と長耳族の四人、ささやかな宴であった。

 アーロは辺りの石を組み、簡易のかまどを作る。平ぺったい大きな石を探し、湖の水で洗ってかまどの火を受けるように置く。焼き網がないため平らな石で代用しようというのだ。

 マヤが木切れや灌木を集めてきて、かまどに積んで火を起こしていく。使っているのは、火噴き鳥の爪を打ち合わせる火打ち石のようなものだ。

 かまどを組んで火を起こす間に、ウェインは自前の釣り具で湖の魚を数匹釣り上げていた。

 要領よく動く三人を眺めつつ、エリーは見張りとして上空を警戒していた。

 それぞれが役割をこなし、やがて火が起こされ、準備が整った。


「じゃじゃーん。肉でございますっ!」


 嬉し気に自分の袋鞄から葉に包まれた肉塊を取り出し、掲げるウェイン。

 昨日から置いてある肉にしては水気があり、張りも照りもあるその肉を見て、アーロは鞄をしげしげと観察した。


「収納鞄か、またいい物を持ってるな」

「へへっ、いいでしょ。高かったんだ」


 収納鞄、または収納袋とは闘装の一種で、その名の通り内部の容積を越えて収納することが可能な物の総称だ。

 食料品のみを入れることが可能な[食神の胃袋]や、装備品のみが入る[武神の鎧櫃]、容量は少ないが何でも入る[商売神の小物入れ]などが代表的である。

 通常の鞄より容量があることはもちろん、重宝されるのはその中に入れた物はこの世界とは異なる空間に置かれ、外からの干渉を一切受け付けなくなることだ。その中身は神の園の保管庫に一時的に収められるとも、時間の流れが違う異空間に飛ばされるとも言われるが、真偽は定かではない。

 とにかく、食物は腐らず、武具は経年劣化が起きず、商品は衝撃などで割れなくなる。

 市場に出回る品のほとんどは人造闘装であるが、尽きぬ需要のため値段は恐ろしく高く、アーロが今日も身に着けている人造闘装[鉛の腕甲]とは比べるべくもない。

 ウェインの持つ鞄が何なのかは定かではないが、収納鞄の類を持つということはよほどの実力者か、裕福な者かだ。


「さて、それでは肉は豪快に焼きます! 味付けは塩と香草!」

「おぉー!」

「いいですね! ごちそうです!」


 肉塊を焼くことは丸耳族にも長耳族にもごちそうだ。

 アーロもマヤ喜びの声を上げる。エリーは黙ったままだったが、それでも頬を緩めていた。


 火噴き鳥の肉はほどよく脂がのり、焼き網替わりの平たい石で焼けばじゅうじゅうと美味しそうな音といい匂いを発して食べられる準備を始めていく。ウェインが釣り上げた魚も同じく火に掛けられる。

 食材に十分に火が通ったところで、楽しい楽しいパーティの始まりである。久々に浴びる枝葉越しでない太陽の光に気分を良くし、アーロもウェインも肉をもりもりと食べた。

 あてはさっぱりとした野草やみずみずしい野菜に果物、ウェインが収納鞄から取り出した堅パンなどだ。

 火噴き鳥の肉はまさに鶏肉のような味わいだが、野生を生き抜いた動物特有の味の締まりがある。また脂肪分と筋肉がいい具合に混ざり合っており、幼体のためかはたまた主食にしている果実のためか、不思議な柔らかさと甘さがあるのだ。塩と香草で濃い目に味付けされた肉を堅パンと一緒に頬張れば、大満足の食べごたえである。ついでにじゅわりと染み出た肉汁はパンが吸って逃がさない。肉とパンの黄金の組み合わせであった。

 湖で釣れた魚も見たことのない淡水魚であった。こちらも塩焼きにしたが、淡泊な味わいは肉の合間に食べるのによく、ガツンとした肉の味に慣れた舌には良いアクセントとなって受け入れられた。

 アーロもウェインもマヤも肉や魚をたらふく腹に入れ、エリーは堅パンの硬さに驚きながらも、果物や野菜と一緒にして美味しそうに食べていた。


 やがて持ち込んだ食料はほぼすべて無くなり、食後の休憩と称して自由時間がとられる。

 満腹になれば、人は動きが鈍る。森歩きをするには少しだけ腹を落ち着かせた方が良いのだ。

 休憩時間にウェインはそこらの石を拾って湖で石切り遊びをはじめ、マヤも教わりながら平たい石を見つけては水面に投げつけて遊んでいる。

 そんな仲のよさげな二人の様子を、エリーは木陰に座り込みぼんやりと眺めていた。


「よう。食欲がないのか?」


 アーロがそう言って声をかけるが、エリーはうん、としおらしく頷くのみだ。

 どうしたものか、と隣に腰かけ、残っていた果物をエリーに手渡す。

 エリーはそれを受け取りながら、小さくありがとうとつぶやいた。

 二人揃って遊ぶウェインとマヤを眺めていると、やがてエリーはぽつりと話しだす。


「アーロ、すまない。私は嘘をついた」

「どうした、急に?」

「マヤから、丸耳族の生き方についていろいろと聞いたんだ。そこで、嘘をつく奴は信用されないと聞いた」

「あぁ、まぁな。異世界の文化ってやつだ。気にしないでいい」


 もしも同じ世界の者、アガラニアの民が嘘をついたならば烈火の如く怒るか、あるいは失望するかもしれない。

 しかし、ここは異世界。世界が違えば文化も違う。アーロに自らの価値観を押し付けるつもりはなかった。


「私な、肉が好きっていったけど。実は苦手なんだ」

「なんだ、そんなこと気にしてたのか」

「あの宴の時は、なんだか舞い上がっていたみたいだ。嫌われたくないと思ってつい嘘をついた。嫌な女だな、私は」


 そう言って、エリーは膝を抱えて小さくなってしまう。


「肉が苦手だから、今日はずっと不機嫌なのか?」


 アーロは、からかいながら話を聞くことに決めた。

 こういったしんみりとした空気は苦手なのだ。


「そうじゃない、たぶん私は、嘘をついたことでアーロに嫌われることが怖いんだと思う。朝からずっと気になっていた」

「別に気にしてない。この世界に来て、価値観が変わったよ。自分のいた世界だけが正しいわけじゃない、いろんな文化があるんだって」

「……だが、アーロにとっては嘘が悪いことなのは、変わらないだろう?」

「そうだな。たとえ価値感が変わっても、嘘は良くない。そういう風に教えられてきたし、できる限り守ろうとしてきた。今更それを曲げようとも思わん」


 嘘をつかないこと、自分に正直に、心の赴くままに生きること。

 そうやってアーロは幼いころから厳しく教えられ、それを良しとして今まで生きてきた。もはやそれは、自らの命題だ。変わることはおそらく無いだろう。

 そんなことをエリーに話した。全てが伝わったわけではないが、それでも何かは伝わったはずだ。


「自分に正直に、か。アーロ、私の話も聞いてくれるか?」

「ああ、ちょうど食後の休憩時間だからな」

「ありがとう」


 それからエリーは、ぽつりぽつりと昔話を始めた。

 長耳族の守衛の一族の戦士の男と、衣服の生産を担う一族の女。エリーの親はそんな二人らしい。

 小さなころは父から槍を教わり、母が糸を紡ぐのを手伝いながら育ったという。

 だがあるとき、集落の外に糸の採取に出ている一行が巨大な火噴き鳥に襲われた。一緒に行動していた守衛の戦士数名が重傷を負いながらもなんとか撃退したが、被害は甚大。何人もの長耳族が怪我により命を落とすこととなった。

 その中に、エリーの母親もいた。母は、火噴き鳥の吐く炎に焼かれ、焼け焦げた姿になって家に戻ってきたのだ。


「私は母を失う悲しみに泣いたが、父は愛する者を守れなかった怒りに泣いた。その時の父親の眼は忘れられない。怒りと憎しみと悲しみが混ざって、どろどろになって燃えているようだったよ」


 妻を失ったその日から、父親は変わった。

 エリーは戦闘訓練で厳しく扱かれ、戦う術を身に着けさせられた。自分の娘がせめてその身を守れるようにか、逃げていった火噴き鳥にいつか復讐をさせるためか、その心は今となっては分からない。

 同年代の子供たちが趣味をもって遊んだり、初々しい恋愛を経験している最中、エリーが行っていたのは槍の訓練だ。さらに父親や守衛を担う戦士たちについて回り、森の中での戦い方を叩きこまれた。


「あの時は辛かった。同年代の友達がきらきらと輝いて見えた。同じ年頃なのに、私だけは汗を流して槍を振るい、血と泥にまみれて鳥と戦っていた」


 だが、鳥を倒すことで得られるものもあった。肉だ。大部分はとどめを刺した者が権利を持つが、鳥との戦闘は共同作業だ。成果は皆で分ける。父親も憎しみからか火噴き鳥とは危険を顧みず戦い、結果として功績を上げては肉を持ち帰った。

 長耳族にとって火噴き鳥の肉は勝利の味だ。己が生き残り、また同族の危険を減らした証である。取引によって手に入れる獣の肉とは扱いが違い、大々的に宴が催され、その際の主食となるのだ。

 そのころのエリーは肉が大好きだった。辛い訓練や戦いの際のご褒美だったからだ。ちょうど成長期だったエリーは、父親と自らが得た肉を定期的に食べたことで他の長耳族よりも背が高く、筋肉も骨格もよく成長した。


「今となっては、父親には感謝している。身を護る術を教えてくれたお陰で、何度も危機を脱して、今日も生きているからな」


 だが、そんな父親も死んだ。母親が命を落とす原因になった巨大な火噴き鳥が再度集落を襲い、その戦いで命を落としたのだ。


「見たこともないくらい巨大な火噴き鳥だった。守衛の一族の戦士たちは決死の覚悟で突っ込み、痛手を与えながらも死んでいったよ」


 《鳥の王》と称された巨大な火噴き鳥にとどめを刺したのは、エリーだ。

 傷ついた戦士たちが捨て身で突っ込んだとき、火噴き鳥はあたりに炎をまき散らした。吐瀉物を吐き出し、飛び上がりながら爪を打ち付けて着火。火噴き鳥がさらに飛び上がろうとしたところを、エリーが樹の上から強襲し、その槍を火噴き鳥の体へと突き立てたのだ。

 《鳥の王》を仕留めたことで、エリーは【貫く者】の異名を得たのだという。


「火噴き鳥を倒した後、燃え尽きかけた父を見つけたよ。あの肉の焼け焦げる臭いを嗅いでしまってからだ。炎が恐ろしくなり、あれだけ好きだった肉が食べられなくなってしまった」


 自らを戦いに駆り出していた父親がいなくなり、その後エリーはぼんやりと日々を過ごすようになった。母親に次いで父親の命を奪った火噴き鳥は既にその手で殺しているため、積極的に戦う必要性を感じなかったのだ。

 もちろん乞われれば守衛の一族としての責務を果たしたし、火噴き鳥が襲来すればその力を存分に発揮した。だが、余暇を重視するようになり、特に幼い頃に母親の手伝いをしていた裁縫や染め物に改めて手を出すようになった。


「集落の者にはすっかり戦士だと認識されていたから、何を今更と言われたりもした。だが、もともと私は戦いが好きというわけでもない。服でも縫っていた方が性に合っているよ」


 幼いころから槍を持ち、体格も良く力も強かった。戦士たちに交じって戦うことで言葉遣いは荒くなり、可愛らしさとは無縁だった。

 最近になって可愛らしいこと、おとなしいことや手先の細かい作業に楽しさを覚えたが、集落の皆はそういう目でエリーを見ていなかった。


「今だって本当は、可愛らしくありたい。口調だって女っぽいのを練習してるんだ。でもみんなは私に戦士であることを求めて、私もそれに応えている。集落同士は密接に結びついているから、どこへ行っても扱いは同じだ」


 集落同士が助け合い支え合う社会は、人や情報も深く結びついている。他の土地へ行こうにも、森から離れては生きられない。かといって誰にも頼らない隠遁生活は難しいのだろう。

 森に閉じられた、狭い世界。アーロはなんとなく、そう感じた。

 世界はどこまでも未知が広がっているのに、長耳族は森に縛られている。今見ている湖も、長耳族にとっては世界の果てだ。


「変わりたいけど、変われない。本当にやりたいことは戦うことじゃないのに、私は自分にも嘘をついてるんだ」


 私は嘘つきな奴だ、と力なく言い、膝を抱えて座り、完全に顔を埋めてしまうエリー。

 アーロはただその肩にそっと手を置いた。


「己の心に従う。俺はそう誓ってこの世界に来たんだ。誓ったのは少しだけ前だが、異世界に来て俺の考えや価値観は変わったよ。エリーだって今からでも遅くない」

「己の心に、従う……」


 エリーは顔を少しだけ上げ、アーロを見ていた。

 しゅんと垂れていた長耳が、心なしか立ち上がる。


「そうだ。自分の生き方を決めるのは自分だ。自由に生きていいんだ」


 アーロはうつむいていたエリーの顔を覗き込み、眼と眼を合わせた。

 奇しくも、お互いが初めて会った際と同じような構図である。


「皆が言うからなんだ。そんなもん気にするな。自分の心に正直に生きればいい。それでも居心地が悪いなら、アガラニアに来いよ」


 さしずめ駐在外交官か、駐在大使って感じだな。と笑うアーロ。

 エリーもふっと笑い、肩に置かれた手をそっと取り、握った。


「なぁ、アーロ。知ってるよな? 『美しく愛しい君(エルゥフ)』って言葉の意味」

「あぁ。それは、まぁ、文化の差異だな」

「贈り物もそうか。いけないぞ、あんな素敵な物を贈られたら、どんな長耳の娘もたちまち夢中になるだろう」

「すまん。贈り物文化の意味も知らなかったからな」

「長耳族では婚約の意味なんだぞ? 知らぬで通せば女の面子は台無しだ」

「知らなかったで済ませるつもりはない。エリーをアガラニアに来ないかと誘ったのも、そうなってもいいと思ってるからだ」

「そうか……。つまり、アーロは、私に好意があって、ふ、夫婦になってもいいと思ってるんだな、そうか」


 もごもごと口ごもりながら、エリーはアーロの眼をしっかりと見つめ、問うた。


「アーロ。私のこと、好きか?」


「あぁ、好きだよ」


 間髪入れずに答えるアーロ。もちろん本心であった。

 最初は長耳族だから、という理由で惹かれていた。だが接するうちに、エリーという個人の内面に惹かれていた。もっと話したい、もっと知りたいと思わせる魅力のある女性だったからだ。

 改めてアーロの口からその答えを聞いて、エリーは照れくさそうにしていた。赤くなった長耳がくりくりと動き、非常に分かりやすい。


「ありがとう。でも私は、好きって感情が分からないんだ」


 そういった返しが来るとは予想していなかったアーロは戸惑う。その後はお互いの気持ちを確かめ合って……という流れを想定していたのだ。

男ってやつは単純である。


「アーロの気持ちは嬉しい。私は今まで好きだと言われたり、贈り物をされたりした経験がなかったから、余計にな」


 いつしかエリーは顔を上げ、アーロをまっすぐ見つめていた。その長耳はしゃきんと上を向き、しっかりと立っている。


「森のように受け入れる、相手が求めればそれに応えるのだ。最初はそう思っていた。しかし考えが変わったぞ。重要なのは私がどうしたいかだ」


 熱意を込めて語るエリー。その手はぎゅっと握りしめられている。

 アーロは気押されて、おう、と相槌を打つのみだった。


「私は好きというのが分からない。男女の色恋は経験がないんだ。だけど、アーロのことは気になって仕方がない。この気持ちを整理する時間が欲しい」

「おぉ。そうやって素直に言われると照れるな。まだしばらくは世話になるつもりだ。ゆっくり考えてくれ」


 あなたの気持ちは分かった。嬉しい、ありがとう。だが少し考える時間が欲しい。

 これが、贈り物をしたことに対するエリーなりの返事ということだろう。

 お互いの勘違いから始まったような二人の関係だが、いわばそれは種が撒かれただけだ。その想いの種は育まれ、芽吹き、成長していた。

 二人の気持ちは通じていた。そのことを確認できただけでもアーロは嬉しかった。片方はまだ見定める段階だが、そこは急がなくてもじきに結果が出るだろう。

 先ほどは冗談めかして言ったが、アガラニアにエリーが来ることも悪くないように思えた。もしくは、調査団に引き入れて一緒にさまざまな世界を冒険するのだ。きっと楽しいだろう。


「待たせてしまうが、よろしくな」

「こちらこそよろしくな。その間、もっといろんなところを案内してくれ」


 固く手を握る二人。その様子は同僚か恋人か。まぁ、どちらでもよかった。

 育つ環境、文化が全く違う異世界の二人でも、心は通じ合えるのだ。


「しかし、アーロはウェインみたいに他の長耳に声をかけたりしてないよな?」

「いや、ないな。というか何をやってるんだウェイン……」

「うーむ、心配だ。アーロはすぐに贈り物をするからな。大蜘蛛の糸も自分の分を押し付けるし、さっきの果物だってそうだ。これでは養ってやると伝えているのと同じだぞ」

「皆で分け合えばいいんじゃないか、と思うけどな。あ、贈り物と言えば、渡したスカーフ身に着けてる所を見てないんだが」

「あぁあれか。毎日寝る前に眺めているぞ。その時以外は大事に保管してある」

「いやいや、使おうぜ。眺めてたら身に着けてすらいねぇじゃんか」

「だって、もったいなくて……」

「無くならないから気にしすぎだろ。今度着けて見せてくれよ」

「えっ、それは、身に着けて私にはいい人がいるということを皆に知らしめろと? そ、それはちょっと早いんじゃないか?」

「うーん。それじゃあやめとくか」

「やめるのか? 嫌なのか?」

「うわこれ面倒な流れだ」


 打てば響く、とはこのことだろう。

 二人はそんな掛け合いをウェイン達が戻ってくるまで続けていた。



 そうして、湖での焼肉パーティからの帰り道、アーロとエリーは肩を並べて飽きることもなく話しながら歩いていた。

 数歩後ろにはウェインとマヤが続く。


「マヤさん、なんかアーロもエリーもすごくうれしそうなんだけど」

「うふふ。良いですね。というかウェインさんも分かってるくせに」

「あー、やっぱりそうかぁ。良いねぇ」

「お前ら聞いてただろ。遊んでるふりしやがって」

「あははー。何か難しそうな話してたから、つい」

「な! 聞いていたのか? マヤ! 集落のみんなには内緒だぞ」

「うふふ」

「マヤさんはいともいいえとも言ってないな。諦めろ、エリー」

「そんな、うぅ」


 四人は誰もが笑顔で、上機嫌だった。

 だが、残念ながら楽しい出来事は長くは続かないのだ。

 

 森の中で出くわしたある生き物の姿を見て、アーロとエリーは己の武器を構え、ウェインは収納鞄から素早くクロスボウを取り出し、マヤは小さく悲鳴を上げた。


《クコ……クコココ》


 黒く、巨大な火噴き鳥。

 一行の前に現れたのは、影の如き黒い羽を持つ巨大な鳥であった。


〈みんなで焼肉パーティ〉イベントをこなしました。

 好感度が1上がりました。


〈エリーの昔話〉イベントをこなしました。

 好感度が3上がりました。


エリーと気持ちを確かめ合いました。

 好感度が[興味]から[親密]に上がります。

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これからも更新頑張ります。

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