あーん
「佐藤はあーんやらなかったの?」
「ん(もう経験済み)」
「そうなん?」
「ん(ちなみにわりとディープなやつをね)」
「何それ気になる」
あーんして欲しいと田中さんが。
「魂胆が読めたよ」
「うぐっ?」
「やれやれ」
「べ、別に君のお弁当のおかずを合法的にいただきたいなんて思ってないもん」
「ほほー」
まぁ卵焼きはあげよう。
「はい、あーん」
「あーん、はぐ」
「あらら」
「おいひー! 次は唐揚げ!」
「ダメです」
次は木村さん。
「木村さん、あんまり甘やかさないの」
「うるせ。ほら田中、唐揚げやるよ」
「わーい!」
「あらら」
「うっ、これレモンかけてる?」
「おう、苦手だったか?」
「田中さん好き嫌いはダメだよ」
今度は田中さんがやる番。
「田中さんは既に完食してるから、僕のおかずで」
「オッケー!」
「やれやれ」
「じゃあ、あーん!」
「あーん、もぐ」
「どう?」
「十倍美味しくなったよ」
「本当? じゃあ私も私にやってみる!」
「変わらないと思うよ」
下校中もあーんした。
「はい、あーん」
「あーん」
女子中学生の声。
「あの人たち付き合ってるのかな?」
「凄い熱々じゃん」
「ね! でも女の人、背は凄く小さくない?」
「本当。もしかして男の人ロリコ」
僕らは気恥ずかしくなった。納得のいかない評価もされたし。
「止めようか」
「えー」
「あらら」
「私、恋人にこんなことしないもん」
「そうなの?」
「うん。だって」
「だって?」
「特別な人にしかしないから。恋人はほら、星の数ほどいるから!」
「え?」
「とっても大事な人ってこと。代わりはいないの」
(木村さんにもしてるし、友達とかかな?)
「大好きな人だよ」
「そうなんだ」
「う、うん」
「どしたの?」
「ごめん。恥ずかしいこと言って顔が熱く、わっ、も~! こっち見ないで!」
「あらら」
糖分多目かわかりませんが。




