1ー4
危うく、載せずに寝そうだった…
今日はなんだかからだが重いんよね
まあ、物語スタート!
「これを使うとね、何人でも気配を消すことが出来る……ごめんなさい。見え貼りました。実際は三人までです」
取り出したもの。
それは某リンゴ社の携帯電話だ。
「…………」
ロアールはアゴに手を当てて黙り込んでしまった。
「ロアール? どうし──うおっ!」
慌てて後ろに飛ぶと、先程まで立っていた場所──それもスマートフォンがあった位置から火があがる。
「まったく。危ないなぁ、ロアール。これ、結構大事なものだから壊さないで欲しいのだけれど?」
それにしてもまずいな。先程の攻撃でロアールの足元に二人を置いてきちゃったし。というか、二人が気絶しているのにどうして終わらないのかな?
「それで、さ。二人も気絶しちゃっているけど、この模擬戦は終わらないの?」
話している間も火の玉、氷の玉。さらには足元から火柱とか俺を狙ってくるけど、それを避けながら提案してみる。この服しかないから破れたりしたら困る。
「…………」
やっと攻撃してこなくなった。
「俺らの降参。無理ゲーでしょ、これ。人質二人取られている上に、三対一って」
両手を挙げて手をヒラヒラと振る。
「ノールとエフィーを起こしたいけど、いい?」
ロアールは頷いて構えを解いてくれた。
「ありがと」
気絶している二人のもとに氷や土、火などで作られた剣や槍、矢などの形をしたものが刺さっているところを避けて歩いていく。
それにしても、どうして二人が気絶しているのに終わらないのだろうか。そこだけがどうしても気になる。……あの生徒会長が一枚噛んでいる気がするのは俺の早とちりだろうか?
まあ、今ここで考えていても答えが出るわけでもないし。まずは二人を起こすために近くに向かっているけれど……だいぶ遠くまで離れたな。いくら弾幕ゲーになったとはいえ大きく避けすぎたか? 素人感を出すためにあえて大きく避けたのだけれど……。
二人のところまで後十メートルあたりまで近づいたところで横に飛ぶ。
先程まで立っていた場所から先の尖っている氷柱が俺を刺そうと突き上げてきた。飛んで着地したら休まずに今度は四方向から俺を刺そうと伸びてくる。それをうまくかわして足場にしながら後ろに飛ぶ。飛んでいるところを狙って伸びてきた氷柱は体をひねってかわして着地する。
「えっと……俺、降参したよね?」
ロアールに目を向けてみると、驚いた顔をしていた。
えっと……あれ? 今の、ロアールが仕掛けてきた……よね?
それにしても、少し焦った。攻撃してこないと思っていたから反応が少しだけ遅れたよ。やっぱり未熟だからか、それでも避けることが出来たのは幸いだった。大切な服なのに、端のほうに切れ目が入っちゃったし。
そこでやっと二人の目が覚める。
「……ん、んん。あれ? ここって……どうなっているの?」
「……は、はぅっ。こ、ここって草原だったはずじゃ……」
そして気絶から目が覚めた二人が見て驚くのもしょうがない。気絶する前までは日向ぼっこをしながら寝るのが最高なほどいい条件だった草原が今では火に焼かれ、土が盛り上がり、魔法で作られた剣や槍、矢などが刺さっており、さらにはさきほどの氷柱なんかも残ったままである。これを一言で表すと…………地獄絵図?
「さてさて二人とも。これは夢だ。もう一度寝て起きたら全て元通り。だからお休み、ね?」
慌てて二人のところへ走っていく。今度は邪魔されなかった。
「そっか……これは夢……。なら寝て起きたら元通りに…………ならないわよ!」
ノールって勉強は出来るけど他はアホの子、って思っていた……。ちょっと、上方修正しとかなきゃ。
「ですよねー。……ま、いいか。ノール、降参って言って。降参って」
「え? こ、降参?」
ノールが俺の言ったとおりに降参、と言うとみんなの体が光り始める。
そして眩しさに目を閉じてしばらくしてから開くと、あの講堂みたいな場所に立っていた。
……なんだか無駄に疲れた気がする。それにしても、周りにいる生徒たちが俺たちに注目しているのは何故? 俺、何かやらかした?
「……最後まで生き残った二チームを発表します」
壇上の方に目を向けると…………そう、生徒会長がいた。名前……名前は……憶えてないからいいか。
「一位、ロアール・フラスキー、ミュンヘン・スノーバル、シュヴァル・ヴァルト。…………二位、ノール・ディスニー、エフィー・フューラ」
パラパラと拍手が起こる。
二位を発表するときに間があったのは気のせいだと思いたい。二人も気にしないと思う……と言うよりは、それどころではない、と言ったほうが正しいか。
二位の発表を聞いて二人は向かい合い、お互いの頬をつねっている。ただ何もせずに立っていただけで二位なんて、この学校は緩いな。
それに、二人は最後のほうなんて気絶していただけだし。
「──日々上を目指し、頑張りましょう」
ん? ノールたちを見て考え事をしていたら話が終わっちゃった。
そして周りにいた生徒たちがノールたちを遠巻きに見ながら講堂を出て行く。
「ねえ、みんな出て行くけど、終わったの?」
「……私たちも行くわよ」
ノールとエフィーの左頬が赤くなっているけれど、触れないで置いたほうがいいよね? けど、頬が赤い理由をほとんどの生徒や先生が知っているから意味ないけど。
「それで、この後も授業。てことあるの?」
「そんなわけないじゃない。みんな家に帰るのよ。この模擬戦が終わった後は一月ほど休みになるのよ」
………………え?
緩すぎじゃない?
「勘違いしないように言っておくけど、この休みは使い魔とのコミュニケーションをとったりするためだからね?」
顔に出ていたのか説明されるけど……納得は出来るかな? 微妙なところだ。
けど、この学校の方針がこうならば諦めるしかないか。俺の一言でどうこうなるわけでもないし。……そういえば俺っていま、使い魔だったっけ。
まあ、今回に限ってこれはありがたい。二人をたっぷりとしごくとしますかな。
……ノールとエフィーが寒さからか、体を震わせているが、なにかあったのだろうか?
「さて、休みの間にやってもらうことだけれども」
「は、はいっ!」
今、ノールの部屋でエフィーがペンと紙を持ち、俺の話を聞き逃すまいとやる気に満ちた目で見ている。
ノールもベッドに座って俺の話を聞く体勢だ。
「さて、この休みの間に何をして欲しいか言いたいけどそのまえに、易しいほうと厳しいほう。どっちがいい?」
「……や、易しいのと厳しいの、ですか?」
「そう、易しいほうと厳しいほう。易しいほうはもう、優しく。かすり傷があればすぐに手当てをし、疲れたといえばすぐさま休憩に。反対に厳しいほうはケガをしようが疲れたと言おうが無理やり立たせて続けさせる。…………どっちがいい?」
「…………」
エフィーはしばらく俯いて考えていたがその顔を上げて。
「厳しいほうでお願いします」
今までのオドオドしたような口調でなく、はっきりとそう言ってきた。
「どうして厳しいほうを選んだのか、聞いてもいい?」
「……えっと、み、みんなに追いつくためにはが……頑張らなきゃ、と思って。……そ、その、あの……」
「そっか、それじゃあこれから言うことをちゃんとやってもらわないと、ね」
先程の質問、正直に言えば答えはどちらでもよかった。しいて言うならば、後に聞いた理由のほうが大事だ。その理由が本当にくだらないと思ったら止めていたかもしれないけど。後はエフィーの頑張りがどれくらいか、かな? ……まあ、易しいほうを選んでいたらもう少し対応は違っていたかもしれないけど。
「優、ちゃんと加減は分かっているわよね?」
今まで黙って聞いていたノールが入ってきたので……からかうか。
「そっか。エフィーから加減した分をノールが頑張ってくれるのか。やったね! すぐに強くなれるよ、ノール」
いい笑顔をノールに向けながら言うと。
「だ、大丈夫よ。わ、私なら優の練習なんか軽くこなしてみせりゅんだから!」
冷や汗をかき、途中でセリフを噛みながらも、わざわざ立ち上がって胸をそらしながら宣言するノールを見て俺は──。
「さてエフィー。この夏にやっておいて欲しいことだけれど」
──なかったことにした。
「ちょ、それはひどい──」
「体力作りだね」
「「──っえ?」」
羽ペンを構えて一言も聞き逃さない。という意志を見せていたエフィーと、スルーしたことに対して何か言っていたノールが固まる。
「だからさ、体力作りだよ」
「……あ、あの。魔法のほうの練習じゃ?」
「それも勿論やってもらうよ? 俺の説明のしかたが下手だったかな……。ま、いいか。後、ノールにも似たようなことをやってもらうから別々に説明するのも非効率的だし、一緒に聞いて憶えておいて」
「わ、分かったわ」
ノールが頷いたのを見て、俺はにやけてしまったが幸いなことに二人には見られていない。こんな顔を見られたら絶対に引かれちゃうよ。向こうでもよく、止めたほうがいいと注意されていたし。
「この二週間、毎日走ってもらうよ。一日も休まずに。手を抜いてゆっくり走っても意味ないと思うから、全力に近い形で走って、本当にもうダメってなったら止まらずに歩いてね。急に止まったりすると体に悪いから。それで二時間ぐらい走ったら休憩を入れていいから」
休憩が二時間に一回と言ったら、二人の後ろに雷が落ちたようなエフェクトが見えた。
けれど、そこは気にしないで続ける。
「後、走る前には準備運動をすること。それをしないと体を壊すから。それと、最初の三日くらいは体を慣らすこともあるから軽くでもいいけど、後々泣くことになるのは自分だって覚えておいてね。エフィーと一緒にいれないから、後は自分で調整して頑張ってね」
「……が、頑張ります!」
やる気があってなによりだ。
付け焼刃にしかならないけれど、何もしないよりはマシかもしれないし。
「次は魔法についてだね」
……この二人、分かりやすいほど顔や態度にでるな。
魔法、と言っただけなのに。
「……模擬戦のときにやったこと、憶えている?」
「は、はい。憶えています」
「私も憶えているけど……まさか」
「ノールの言ったそのまさか、だよ。太陽が出ている間はずっと走って、夜になったら今度は寝るまでずっとアレをやっていて欲しい。……ちゃんと違うこともやってもらうよ?」
同じことをずっと、と言われた二人の落ち込みようは酷かったが、新しいこともやってもらう、の部分でまた、やる気が溢れて見える。
「まあ、違うことと言ってもやることはアレの応用だけどね」
「「えー……」」
「はい、そこの二人。残念そうにしないの。何事も基礎が大事だから」
そこで一旦区切り、二人が『どうしたの?』みたいな顔をしながら俺を見たのを確認して。
「基礎が出来るようになったらちゃんとした魔法も教えるから。それに基礎が出来ればちゃんとした魔法なんてすぐに出来るから、ね」
「「先生、疑ってごめんなさい」」
二人とも俺に頭を下げて謝ってくるけど……。
「あのさ、俺って一応は使い魔なわけよ。だから命令さえすれば基礎を飛ばすことも出来るけど?」
「そう言われたらそうだけど……私たちは知識だけあるけどそれを使うとなるとまた別の話しだし……。主と使い魔である前に、先生と生徒の間柄だと思うの」
「いや、それ逆だから」
「生徒と先生の間柄?」
「それを逆にしても意味ないでしょ……。先生と生徒である前に、主と使い魔の間柄だよ」
「そんなのはどうでもいいのよ」
ノールから言い始めたことなのに。
「……ノールちゃんの言った通り、私たちは教わる立場ですし。…………それに」
エフィーまでノールと同じ考えなのか……。
ん? それに。と言った後は顔を赤くして俯いたまま話さないけどどうしたのだろうか?
「エフィー。それに、の続きは?」
「い、いえ! なんでもないです!」
エフィーの顔を覗き込むようにして聞くと、目が合ったエフィーは顔を真っ赤にしながら頭をすごい勢い
で横に振って否定してきた。そして、ベッドに座っているノールが面白くなさそうな顔をしているけれど。
「ま、言いたくないのなら無理に聞かないよ」
エフィーから目を逸らすと、ホッとしたような顔をしたノールと目が合った。
「……な、なによ」
「え? なにが?」
「な、なんでもないわ」
……女の子はよく分からん。また、エフィーのほうを見てみるとふてくされているし。
「……続けるけど、模擬戦のときにやったアレ、慣れたら数を増やしたり、形を変えたりすることもやってみて。後は、指先じゃなく離れた場所にだすのもいいね。こんなもんかな?」
だいぶ時間かかっちゃったと思うけど、いいのかな? もし迎えとか来ていたら待たせていると思うけれど……俺には関係ないか。
練習は地味なものばかりだけど、2人はちゃんとやってくれると思うし、大丈夫か。
「一つだけ、ヒントみたいなのを言っておくよ」
二人は終わったと思っていたのか、って言うか終わったんだけど。
エフィーは片付けを終えてすでに扉のほうに向かっており、ノールもエフィーに連れ添っている。
「魔力は血と似て非なるもの。体を血と同じように循環している。だけど自分の意思で魔力は動かせる」
キョトンとしていたが、慌ててテーブルに紙を置き、俺の言ったことをメモしていく。
「この休みが充実したものになることを祈っているよ」
書き終えたエフィーに笑顔を向けながら一言。
頬を赤らめている理由は分からないけど、練習を始めてからが楽しみだ。
「優! 終わったなら行くわよ!」
「はいはい」
ノールに手を引かれながら部屋から出る。俺の後ろに頬を膨らませたエフィーもついて出てくる。
「それじゃ、休み明けを楽しみにしているよ」
「は、はい! 頑張ります!」
ノールに一言かけてから、部屋に鍵をかけて先に歩いて行ってしまっているノールの後を追う。
期末が近づいてくる。
そんなことに面倒だなと感じる今日この頃
ま、そんなことはどうでもいいか
誤字脱字、文がおかしいなどあったら教えてください
ってことでまた次回〜




