2ー1
そろそろ、異世界ヤンデレのほう、載せられそうかも!
「「はふぅ……」」
ノールたちと分かれ、ウルちゃんを肩に乗せた俺はエガースの家へと向かっている途中、俺とウルちゃんのため息が重なる。原因は言わずもがな。
「なあ、ウルちゃんウルちゃん。どうしてここに来たと思う?」
「姫様と同じように黒の魔力を辿ってきたか……本当に偶然か、ですね。……前者ならば私は黒を恨みます」
「俺かぁ……俺が引きつけたのかぁ。……ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、気のせいだよな。……うん。気のせい気のせい」
あいつらが呼んだとか……。まさかね。
話す、というよりはお互いに愚痴をこぼして歩いている。だけど長い間会っていなかったとはいえ、いちいち全部を言葉に表さなくたって伝わるほどに互いのことを知っている。
「「はぁ……」」
再び、お互いのため息が重なったときにはエガースの家の目の前まで来ていた。
「なあ、エガース。知ってるか?」
ノックもせずにドアを開けながら話しかけるが、返事がない。ってか、エガースがここにいない。
…………。
「なあ、ウルちゃん。エガースはもうダメだ。……まあ、普通にエガースとあいつは仲が良かったから別に問題ないか」
「そうですね……。私か黒、姫様でしたら……はぁ」
目の前に広がる光景……テーブルの上に食べかけの食事がおいてある。昼飯にしては料理が冷めきっている。朝早くからここに来たのかよ。
「ウルちゃん、どうする?」
「……行くしかないですね」
「ノールたちがどんなことをやるのかも気になるし、しょうがないってことで」
足に鉛がついたようでものすごく行きたくない雰囲気を2人して醸し出しながらも来た道を戻り、ギルドへと向かう。
「あ、俺ってギルドの人ってか、冒険者に結構嫌われてるや」
「……何をやったのですか?」
「ロアール、この国で結構人気あって、大衆の面前で小突いた程度なんだけどね。それも加えるとなると……俺、帰る」
「ダメですよ。私だって行きたくないのですから。ですが、主人たちのことを見に行かなくては」
もうヤダー。帰るー。と、声を大にして叫びたい。恥ずかしさで死にたくなるからやらないけれど。早く歩こうがゆっくり歩こうが、時間的な問題で結局は辿り着いてしまう。……そう、目の前にギルドの入り口があるのだ。そんでもって、その扉を開ける前からわかるほどに騒がしいのが伝わってくる。
「人ごみ、嫌なんだけど」
「諦めましょう」
諦めて何も考えずに戸を開けて入るが、誰も見向きしない。全員の視線が中央へと向けられている。
中央にある丸テーブルに獣人の男性――なんか冒険者の憧れとか来る途中で立ち話が聞こえてきた、アドミゴがいた。ただの犬っころのクセして偉そうな態度で座っているな。
その隣にはエガースが並んで座っており、対面にはおそらく冒険者の知らないおっさんが座っている。
「もっと広いとこでやれよ……」
「本当にそうですね」
グチグチいいながらノールたちを探すけど……すぐ見つけられるかなぁ……あ、いた。
冒険者のおっそんが何か話してエガースたちが首を横に振り、うなだれてどこか行き、空いた席にロアールが座り、その後ろにノールとエフィーが立つ。
「ウルちゃん、何話すのか音拾って」
「分かりました」
返事をして俺の耳――骨のある位置に手を触れさせる。
『お? ロアールたちじゃないか。どうしたんだ?』
『エガース、知り合いなのか?』
『ああ、……ちょっとな』
歯切れが悪くなったが、俺のことは話さなかったようだ。偉いぞ、エガース。あとで覚えていたら何かしてあげよう。まあ、歯切れが悪くなければ完璧だったのに。訝しむようにして見られてるじゃないか。
『それで、君たちは僕にどんな面白いことを提供してくれるのかな? そして何が望みだい?』
うっざ! 言い回しウッザ! 首締めて捻り潰してぇ……! ノドつぶして一生話ができないようにするだけでもいいが、身振りもウザイ。ウルちゃんも同じ気持ちなのか、肩がプルプルと震えている気がする。見えないから雰囲気を感じ取ってるから絶対ではないが、自信はある。
『黒がどこにいるか……とか?』
ロアールゥゥゥゥゥウウ!?
ちょっ! えっ!? 本当に? え? え? ウソでしょ? ウソだよね? ねぇ、誰かウソって言ってよ!?
『……君、本当に黒が今どこにいるのか知っているのかい?』
エガースも隣で頭抱えているし、アイツは目ぇ輝かせるし。ウルちゃんも俺の肩で固まっている。
周りにいる冒険者たちもざわめき始めるし……。
『やっぱり教えない』
そ、そうだよね。ロアールは約束破ったりしないもんな。でも、寿命が縮んだと思う。割と切実に。たぶん、俺がいるのに気がついて言ったんだろうなぁ……いままでの練習の意趣返しか? そうなのか? んん?
『……それで、君たちはどんな面白いことを教えてくれて、何を欲しいのだい?』
あー、殴りてぇ。すっごい殴りてぇ。
まだ気づいてないから、一撃で沈められるよ、うん。代償としてこの国から追い出されるかもだけど。
『話すのは初代女王陛下に会った場所。代価に私たち3人と戦って、どれほどの実力があるかを見て欲しい』
『姫様に会ったの? どこで?』
目の色が変わったな……あいつ、どこにいるのか知らないのか。……俺も知らないけど。
『引き受けないと話さない』
『引き受ける! 引き受けるから姫様のこと話して!』
『……たまたま、エガースの家に行った時にいた』
『エガース!? どうして話してくれないのさ!』
『来たけどすぐに帰ったからだよ! 肩を揺さぶるな!』
食いつきようにロアールが引いているように見えるが……明らかに引いてるな、あれは。まあ、しょうがないといえばしょうがない。エガースの家と教えられるとすぐに体の向きを変え、両手を肩においてガックンガックン揺さぶっている。……普通の人だったら首、吹っ飛んでるぞ。
『さて、行こうか』
『……お前、後で覚えてろよ』
満足したのか、パッと手を離してロアールたちに立ち上がるよう促す。席に座ってゴホゴホ咳き込みながら犬っころを睨んでいるが、見事にスルーされている。
『いつも使ってる広い平原があるから、そこでいい?』
『大丈夫大丈夫』
『こっち』
うまくロアールが戦えるようにこじつけたな。さて、俺たちも後をついて行きますか。ウルちゃんを肩から移動させてズボンのポケットに頭だけ出すようにして入れる。
「ウルちゃん、俺たちも行こうか」
「ええ、そうしましょう」
「それでさ、気づいたんだけど」
「何にです?」
「エガースが今の俺を見て気づかなかったんなら、あの犬っころも気づかないんじゃない? って。ウルちゃんも同様に」
「……なるほど。どのみち、いつかはバレるのですし、たとえ少しの間だとしても試してみる価値はありますね」
気づかれないようにしながらロアールたちよりも先にギルドから出る。いつも使ってるって言っていたから場所は間違えないだろう。先に平原行って待ってるか。
「……んぁ」
「どうかしましたか?」
「ロアールが転移で行っちゃった」
「お疲れ様です。私たちも転移で行きますか?」
「察知されてバレそうだから魔力強化で走ってく」
「魔力強化も察知されますよ?」
「うげぇ……面倒。普通に走るしかないのか……」
着く頃には始まっちゃってるかな……。それとも、待っててくれたりしないかな?
「ほら、黒! もっと速く走りなさい!」
「……あとで覚えてろ」
いつの間にポケットから抜け出して俺の肩に登って来たのやら。耳元で他人事のようにあまり心のこもっていない応援をしてくれる。面白いといった感情が伝わってくるほど俺が走って困ってるのを見るのが楽しいか。
「エガース」
「ん? ……って、黒。そんなに疲れてどうしたんだ?」
「うっせ……はぁはぁ……、ほっとけ……はぁはぁ。……あと、黒言うな……」
俺の普段の行いが良かったのだろう。まだ始まっていなかった。まあ、ついたと同時に俺は地面に体を投げ出したんだけどね! エガースに声をかけたのはウルちゃん。だけどエガースはウルちゃんが誰だかわかっていない模様。……あれ? ウルちゃんとエガース、まだ話したことなかったっけ?
別にいっか。そんなどうでも……細かいことなんて。
姿をわざわざ見せなくても、エガースなら分かってくれるよ。きっと。
「まったく。転移するなら俺も連れてってほしかった」
「く……優はギルドから出ていったじゃないか」
黒って言いかけたの、なんとか飲み込んだな。39点の赤点にしておこう。3回やらかすと、何かが待ってるはず。
細かいところの詰めあいが終わったのか、数メートル離れて向かい合う。どの程度実力がついたか見てもらうためか、1対1でやるようだ。そりゃそうか。
ロアールからいくようで、ノールとエフィーは俺たちのいるところまで下がってくる。
「ねぇ、優」
「無理」
なんとなく、聞いてこようとした内容が分かったので話を聞く前に答えてみる。これで間違えていたら恥ずかしくて穴掘りそう。あ、意味深なほうじゃないよ?
「……まだ、何も聞いていないじゃない」
「なんとなく、だけど……ロアールならあの犬っころ相手にいいとこまでいくか聞きたかったんでしょ?」
「……そうだけど」
「無理だね。犬っころは魔力こそ少なく、魔力強化も全身に廻らせれば紙っぺら同然。無い方が意識しない分動けるからマイナスにしかならない。慣れているなら別だけど、問題はそこじゃない」
寝っ転がったままロアールたちの方を指差す。
「ノールたちも見るのと見ないのとじゃ全然違ってくる。人の試合を見るのもいい経験だ。目見開いて何も見逃すなよ。あの犬っころは獣人なのだし、接近戦が主だ。武器を使うやつもそれなりにいるけど、体運びとかは見ていて損はない。できるかどうかは……やる気しだいだな」
格好は締まらないが、いいことは言っている……はず。
それが伝わったのか、真剣な目をロアールたちの方へと向けているのが視界の端に見えている。ロアールが腰を低くして構えるが、あの犬っころは無防備に立ったままでいる。ただのバカならそれに突っ込んで行って、カウンターもらってハイ終わり。なのだがな。ロアール、それにノールとエフィーも無防備そうに見えて隙がないことに気づいているだろう。だからロアールも無闇に突っ込んで行かない。
「実力を見て欲しいなら、君からおいで」
あの犬っころが何を話してもウザったらしくて殴りたくなるのは俺だけだろうか? いや、俺の顔の近くにいるウルちゃんも俺と同じ気持ちのようだ。少し離れたところに立ってるエガースは違うようだが。
「…………やっ!」
小さな声とともにロアールは真正面から突っ込んでいく。それを見た犬っころは残念そうにため息をつきながらカウンターを放つけども……油断しすぎだな。
「――うおっ!?」
ロアールは直撃ではないが、カウンターを右腕にもらいながらも犬っころの顔目掛けて蹴りを放つ。……っち! ウザったい声を出しながらも避けやがって。無様にくらって転げ回ればいいものを。
ウルちゃんも同じようでダンッと音を立てて土を思いっきり踏みしめている。
「まさか捨て身覚悟とは思わなかったよ」
「…………」
余裕そうな態度を取っているが、先ほどよりも警戒されている。格上相手に同じては2度通じることは無いしから、ロアールもこれからどうするのやら。足と左手に偏らせて魔力強化しているようだけど……あのロアールが魔力を察知されていない。なんてことを考えているわけないと思うが、何をしてくれるのだろうか。
犬っころもさらに警戒心を高めているし。
そこでロアールが不敵に微笑んだ。
そして――。
「――あ、あそこに黒が」
「え? どこ!?」
犬っころの後ろを指差し、誰にでもわかるような嘘をつく。
それにコントか! と全力で頭を殴りながら突っ込みたくなるほど見事にハマる犬っころは体ごと後ろを向く。当然、そこには草原が広がっており、誰もいない。
「どこにもいな――」
「…………っち」
戦っていたことを完全に忘れて油断したところにすぐさま近寄って行き、限界まで魔力強化を施した左手をグーの形にし、顔目掛けてパンチを放つが――背をロアールに向けたままその攻撃を避ける。
「うぐっ!」
それに戸惑って無防備になったロアールは、腹に軽い感じで蹴りを入れられ、呻き声を上げながら10メートルほど吹っ飛ばされる。
偶然なのか、手と足に施していた魔力強化を解き、腹に施して蹴りを受けたため、すぐに立ち上がる。呻き声を上げたことからわかるように、完全には防ぎきれず、口の端から血が垂れているのが見える。
「まだ続けるかい?」
「当然」
手の甲で血を拭い、口の中に溜まっていた血を吐き出し、口の端を吊り上げて笑みを浮かべる。……男らしいっす、ロアールさん!
やや下半身に多く魔力強化を施し、最初と同じように真正面から突っ込んでいく。犬っころもカウンターを放つが、先ほどとは違い、余裕を持ってではなくギリギリで避けていた。いまのがマグレじゃなく、狙ってやったものだとしたら……犬っころが手を抜いて油断していたのもあるが、伸びたな、と思う。
あの犬っころめ。言動とかウザったくて殴りたくなるが、あんな単純なものに引っかかるとか。その犬耳、引っこ抜いてやろうか。犬っころが油断するとか偉くなったもんだな。
「あー、ウルちゃんウルちゃん」
「どうしたのですか?」
「いまさらだけど多種族と人族がまた仲悪いって聞いたけど、犬っころが受け入れられてるのはなんで?」
「あの犬っころを拾ったときのこと、覚えていますか?」
「んー、まだギリギリだけど覚えてるよ」
ところどころ、穴がある気がするけど……重要な部分はたぶん忘れていないはず。
「犬っころは獣人の国を追い出されていますからね。国に属していません。そのうえ、伝説のパーティーにいた中で犬っころだけが居場所、顔、名前を知られていますし……あんなのでもなんとか自分の国に引き入れたい。もしくは純粋に冒険者として尊敬しているのでしょうね。あんなのに」
「そういえば、もう1人の知識欲魔人は?」
いまにも犬っころを攻撃して、ロアールの邪魔をしそうだったので話題を変えることにした。さっきまでのヒットアンドアウェイ……でいいんだよな。一撃離脱ではなく、接近したまま打ち込んだり躱したりしている。
俺たちのパーティーには欲求魔人が2人、いた。
1人はあの犬っころで、楽しいことを追い求めている。
もう1人は知識を欲している。パーティーを組む前は普通で、俺とウルちゃん同様に常識がある方だったのだが、俺たちのおかげで人が変わったように知識を追い求めている。前のつまらなそうな顔をしているよりは、楽しそうに知識を追い求める方がいいと思っているから後悔も反省もしてないけどね。
……それのせいで多くの人に迷惑をかけたかもしれないけど、致し方ないよね!
「黒、そろそろ終わりそうです」
「ん。あと、そろそろ黒じゃなくて優で統一してくれ」
「分かりました。…………結局バレるのに無駄なことを」
「聞こえてるからなー」
「なんのことでしょうか、ユウ」
くだらない会話をしているうちに、ロアールとの組手が終わったようだ。途中から全然見てなかった……。目を向けてみると、ロアールの腕を後ろに回して関節決めた格好でいる。
「Bランクの下ぐらいかな? 相性がよかったらBランクの上もいけそうだね」
「ん、分かった」
2人で話をしながらこちらに向かってくる。今の強さの基準がどれくらいかわからないから、何となくであの時は言ったつもりだが、あまりハズレていなかったようだ。
「おや? 子どもがこんなところで何をしているんだい?」
――あ?
……いやいや、落ち着け俺。冷静になって考えてみたら、俺に気づいていないってことじゃないか。そうだよ。落ち着いて俺は冷静に――。
――犬っころの顔面に蹴りを放った。
何もかもが完璧なほど見事に決まった。犬っころも反応していたようだが、防ぐことも避けることもできなかったようで、3メートルほど吹っ飛び、ゴロゴロと地面を転がっている。
ウルちゃんはよくやったと俺を見上げてくる。ノールたちは何が起こったのかよく分かっていないからか、呆然としている。
「い、痛いっ! なんでいきなり蹴られたの!?」
「……っち。死ねばよかったのに」
「続けて罵倒!? 扱い酷くない!?」
頭が混乱しているからか、ウザったい話し方でなく素がでてきている。これはこれでウザったいのだが。
「ちょ、……ちょっと優!? いきなり何してるのよ!」
ようやく状況に理解が追いついたのか、ノールに肩を掴まれてガックンガックン揺さぶられる。アクロバティックな動きをしていたから三半規管はだいぶ鍛えられているはずなのに、気持ち悪くなってきた。
ロアールがノールを落ち着かせてくれなかったら、ノールに向けて胃の中をブチまけていたことだろう。
「それよりも、優。どうしてあんな簡単に攻撃を当てられたの? さっき、頑張ってみたけど、防がれてうまく当たらなかったのに」
「意識の隙間に入り込まれたんだよ」
俺が説明しようと口を開いたとき、犬っころにセリフを取られた。
汚れた土を払いながらこちらにやってくるが、鼻から血が出ていてダサい。エガースに教えられてから鼻血が出ていることに気づいて拭っている。
「意識の隙間、ですか?」
「そう。だけど、口で説明するのは難しいんだよね。その子なら詳しく教えてくれそうだけど」
また、ウザったい話し方しやがって。犬っころのくせに。犬っころのくせに。
「まだ、教えるまでに至っていないよ。つーか、こんなもんは自然と身につくものだ。理論的に説明したとしても、バカが何年訓練積もうとできないよ。それより、ノールとエフィーの組手が残ってるけど?」
「ああ、そうだったね。どっちから始める?」
「あ、つ、次は私で」
自信なさげに手を上げるエフィー。だが、その目はやる気に満ちていた。
いいぞ、エフィー! そのまま殺っても俺が責任取ってやる!
アドバイスなどあったら教えていただけると有難いです!




